トヨタの自動運転特許、10年で3%→5%の微増にとどまる

研究開発分野に変化、50%超がCASE関連



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

自動車メーカー各社が自動運転移動サービスを見据えた取り組みを加速している。トヨタもついにお台場エリアで実証に着手するようだ。

トヨタの自動運転開発がどのレベルまで進んでいるかは謎の部分が多いが、水面下で進められている研究開発は業界随一と言える。その根拠の1つが「特許」だ。世界の名だたる自動車メーカーの中でも、トヨタの特許登録件数はトップクラスを誇る。


その中身も、従来の自動車関連からCASE(C=コネクテッド、A=自動運転、S=シェアリング・サービス、E=電動化)関連の技術にシフトしているようだが、技術分野ごとの特許比率はどのような割合となっているのだろうか。

詳しくは後述するが、自動運転分野の特許比率は10年で3%から5%への微増にとどまっている。ほかの技術分野の比率を含め、解説していこう。

■トヨタの知的財産

登録特許の50%超がCASE関連に

トヨタは未来のモビリティ社会実現に向け、施策と連動した知的財産活動を実施している。例えば、電動車や電池の開発といったカーボンニュートラル、コネクテッド技術、自動運転技術に係る「ソフトウェアとコネクテッド」などの領域に重点的にリソーセスを振り分け知的財産権を取得・活用し、競争力強化に努めている。

こうした活動は日本にとどまらない。米国や欧州、中国の研究開発拠点に知財機能を設け、研究開発と知財活動を有機的・組織的に連携させてグローバルに技術開発をサポートしている。


トヨタの「統合報告書2023」によると、トヨタは国内外で年間約1万4,000件の特許を出願しており、約1万1,000件の特許を登録している。2022年では、日本や米国などにおいて自動車メーカーのなかで最も多い登録特許件数を誇るという。

▼統合報告書2023(※該当ページはP96)
https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/library/annual/2023_001_integrated_jp.pdf

技術分野別の登録特許の比率は、2012年は電動車14%、電池7%、自動運転3%、コネクテッド1%、 その他車両技術(エンジンやボディ、シャシーなど)75%だったが、2022年には電池19%、電動車18%、コネクテッド9%、自動運転5%、その他車両技術49%と割合が変化した。

2012年はエンジンやボディなど従来の機械的な領域が75%を占めていたが、2022年にはCASE領域に関する知財が過半となる51%に達したのだ。この10年で研究開発領域が大きく変わっていることがよく分かる。


ただ、電動車・電池関連が21%から37%、コネクテッドが1%から9%と大きく比率を伸ばす一方、自動運転は3%から5%と微増にとどまっている。ある意味、今のトヨタを象徴するかのような数字だ。

2022年の特許登録件数はトヨタが国内首位

次に、特許庁が発行する特許・実用新案情報を網羅した特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」などを見ていく。

特許行政年次報告書2023年版によると、2022年の特許登録件数はトヨタ自動車が4,559件でトップとなっている。前年は3,389件で、三菱電機に次ぐ2位だ。なお、出願件数は2022年6,101件、2021年5,628件となっている。

参考までに、本田技研工業は2022年の登録2,364件で全体の6位、日産自動車は636件で45位となっている。サプライヤーでは、デンソーが2,919件で4位、日立Astemoが770件で30位、矢崎総業が682件で38位となっている。

自動運転関連も当然トヨタが最多

J-PlatPatで公知年別(各案件が公知された年別)に「自動運転」で検索すると、2024年132件、2023年805件、2022年995件、2021年885件がヒットした(全てが自動車分野における自動運転ではないことを注記しておく)。

このうち、トヨタ自動車は2024年40件、2023年210件、2022年220件、2021年147件がヒットした。4年間の計2,817件中、約2割に当たる617件がトヨタ自動車だ。自動車分野に限れば、間違いなくこの比率は高まる。

なお、本田技研工業は178件、日産自動車は26件、デンソーは266件となっている。このほか、マツダやSUBARU、スズキ、日野いすゞ、メルセデス・ベンツなどの自動車メーカーをはじめ、ウーブン・プラネット・ホールディングスやソフトバンク、パナソニック、日立製作所、ソニーセミコンダクタソリューションズなどもヒットしている。中には、Apollo Intelligent Connectivity(Beijing)Technologyや浙江吉利汽車研究院、北京図森智途科技といった中国勢の名もみられる。

ドライバー×自動運転関連の特許も

2024年に公知日を迎えたトヨタの特許をいくつか紹介する。

「操舵制御装置、操舵制御方法、および操舵制御用コンピュータプログラム」(出願番号:特願2022-131888)は、自動運転中にドライバーが状況を十分認識していない方向に向けたドライバーの操舵操作を抑制できる操舵制御装置に関する技術だ。

ドライバーの視線方向を検出し、車両の操舵が自動制御される自動運転中における視線方向と操舵方向の一致度合いに合わせて反力を調整するものだ。

「走行制御装置、走行制御方法、および走行制御用コンピュータプログラム」(特願2022-131816)は、自動運転中に車両の操作装置が操作された場合、ドライバーの操作量に応じて車両を加速させても急加速を抑制することができる走行制御装置に関する技術だ。

「制御装置、方法およびプログラム」(特願2023-219838)は、第1ドライバーの運転操作と第2ドライバーの運転操作の干渉を抑制する技術だ。

ドライバーAによる遠隔運転または乗車運転で走行している第1状態から、ドライバーBによる遠隔運転または乗車運転で車両を走行させる第2状態へ運転を引き継ぐ場合の手法に関する内容だ。

ドライバーが同乗する自動運転を意識したようなものが目立つ印象だ。自動運転レベル3に関するものか、あるいはレベル4実証などにおけるものなのかは不明だ。

場合によっては運転支援に相当するレベル2関連かもしれないが、他の出願では「運転支援」という表現をしっかり用いているため、レベル3以上である可能性が高い。

こうした技術がいつどのようなタイミングで生かされるのか、今後の動向に注目したい。

世界でも日本系企業が大活躍

特許庁が2021年に発行したレポート「令和2年度特許出願技術動向調査 結果概要 MaaS(Mobility as a Service)~自動運転関連技術からの分析~」も興味深い。

2014~2018年に出願された特許文献と2017~2019年に発行された非特許文献を対象に、日本、米国、欧州(独除く)、独国、中国、韓国に出願されたデータを調査したものだ。

技術範囲は、車載センサー、ダイナミックマップ、通信技術、認識技術、予測技術、判断技術、操作技術、AI(人工知能)、Human Machine Interface、運行設計領域、緊急事態対応、運行管理、遠隔監視、遠隔操作、運転支援システム、走行形態、自動運転制御装置、自動化レベル、シーン・場所(自動運転)、課題(自動運転)と多岐に及ぶ。

自動運転関連技術の出願件数は計5万3,394件で、出願人国籍・地域別では日本国籍の2万0,008件が最多となり、全体の37.5%を占めた。

技術区分別では車載センサーが最も多い3万8,783件で、このうちの約4割を日本国籍が占めている。以下、認識技術(3万1,130件)、判断技術(2万8,001件)、運転支援システム(2万2,533件)、HMI(2万1,666件)、自動運転制御装置(1万9,028件)と続く。

世界レベルでもトヨタが牽引

出願人別では、トヨタ自動車が4,247件で堂々の1位にランクインしている。2位は米フォードで3位がデンソー、以下本田技研工業、独ボッシュ、韓国HYUNDAI、米GM、日産自動車、独BMW、三菱電機となっている。

出典:特許庁資料

国際的にも日本勢が検討しており、この日本勢をトヨタがけん引していることがよく分かるデータだ。

【参考】自動運転関連の特許については「自動運転特許出願、日本2万超!2014〜18年、米中抜き世界最多」も参照。

■自動運転分野におけるトヨタの取り組み

自家用車はレベル2+搭載車種をラインアップ

自家用車関連では、トヨタは自動運転レベル2+相当の技術として、「Toyota Teammate/Lexus Teammate Advanced Drive(アドバンストドライブ)」を複数車種に搭載している。

高速道路や自動車専用道路の本線上の運転において、ドライバー監視のもと車載システムが適切に認知や判断、操作を支援し、車線や車間維持、分岐、車線変更、追い越しなどを行いながら運転を支援する。システム作動時、ドライバーはハンドルから手を離すことができるとされる。

アドバンストドライブは新型MIRAIとレクサスの新型LSに搭載されている。また、時速40キロまでの渋滞時に限ったアドバンストドライブ(渋滞時支援)もパッケージ化されており、2023年8月時点で新型アルファード、ヴェルファイア、ヴォクシー、ノア、クラウン CROSSOVERに搭載可能となっている。

条件付きで自動運転を可能にするレベル3については、今のところ正式な発表はされていない。新型クラウン各シリーズへの搭載も見送られているため、レクサス車か次の新型MIRAI、新BEVなどに期待したいところだ。

【参考】アドバンストドライブ(渋滞時支援)については「トヨタの新型ノア・ヴォクシー、自動運転はできる?」も参照。

e-Palette活用に向けた取り組みが前進

自動運転サービス関連では、自動運転専用の多目的モビリティ「e-Palette(イー・パレット)」実用化に向けた取り組みが加速傾向にある。

東京オリンピック・パラリンピックの選手村で送迎用に導入されたほか、東京臨海副都心や愛知県豊田市における実証でも用いられている。

また、技術説明会「Toyota Technical Workshop」の中では、「移動コンビニ仕様」のe-Paletteも紹介されている。移動サービス用途として、また多目的な用途としてそのポテンシャルを探る取り組みが大きく広がっていきそうだ。

【参考】コンビニ仕様のe-Paletteについては「トヨタ、コンビニ事業参入か 自動運転シャトル活用を示唆」も参照。

お台場でレベル4サービス実証にも着手

2024年夏ごろ、東京都内のお台場エリアで自動運転サービスの実証を開始することも報じられた。出資先の米May Mobilityの技術の活用や、ソフトバンクとの合弁MONET Technologiesの関わりなどが報じられている。

トヨタがどのように関わるのか、またトヨタの技術がどれほど用いられるのかなどは不明で、公式発表を待ちたい。

【参考】お台場での取り組みについては「やはりトヨタが大本命!ついに「自動運転レベル4」、お台場で展開か」も参照。

Woven City始動で実用化が一気に加速

静岡県裾野市で建設中の実証都市Woven Cityも2024年に第1期工事が終了し、2025年にオープンする予定だ。同所では、異業種企業を交えさまざまな観点からモビリティの可能性を追求する取り組みが行われる。

自動運転モビリティの実証もいろいろと行われるものと思われ、実用化に向けた取り組みが一気に加速する可能性が高い。Woven Cityの動向にも要注目だ。

海外パートナーとの取り組みにも注目

海外では、米May MobilityやAurora Innovation、中国Pony.aiなど、パートナー関係にある企業が着々と自動運転サービス化に向けた取り組みを前進している。

将来、こうした企業とどのように事業展開していくかも気になるところだ。他社製システムをe-Paletteに搭載したり、日本進出を後押ししたり、あるいはトヨタが主体的に関わる形で海外サービスに乗り出したり……とさまざまな展開が考えられる。

中国では、トヨタの現地法人とPony.aiなどが自動運転タクシー量産化に向け合弁を立ち上げている。今後の動向に要注目だ。

【参考】中国での取り組みについては「トヨタ、中国で自動運転タクシーを本格量産へ Pony.aiと合弁設立」も参照。

■【まとめ】研究開発成果が今後続々と社会実装される?

トヨタの研究開発の中心は、従来仕様の自動車からCASE関連に大きくシフトしていることが分かった。自動運転は2025年ごろ、BEV関連は2026年ごろに実用化に向けた取り組みが表面化し、モビリティカンパニーに向けた事業展開もさらに加速していくものと思われる。

水面下で開発されているさまざまな技術がどのような形で社会に実装されていくのか、引き続き注目したい。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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