自動運転、2022年は世界で「レベル4」の法整備加速

レベル4法整備でドイツに続く日本 米中の動向は?



ドライバーレス走行を実現する自動運転レベル4を取り巻く環境が整備されつつある。国内では、警察庁がレベル4を想定した新たな道路交通法改正案を策定し、2022年度中にも運行許可制度を創設する構えだ。


海外でも、レベル4に対応した道交法を改正済みのドイツに追随する動きが2022年度に相次ぐ可能性が高い。実証が先行する米国・中国を含め、各国におけるレベル4実用化に向けた動きを解説していく。

■米国の動向
各州が独自に走行ルールを策定

米国では、自動車の技術基準など基礎的な要件を国(連邦法)が定める一方、道路交通ルールは各州(州法)に委ねられている。自動運転に関する国としての定めがないため、現段階では自動運転車の公道走行ルールも各州が独自に策定している。

最先端技術の早期導入や企業誘致などの意味合いも込め、アリゾナ州やカリフォルニア州などは早い段階で積極的に自動運転実証を受け入れ始めた。


アリゾナ州は、緩めの規制でテック企業の誘致を推し進めた結果、自動運転開発におけるパイオニア的存在の米Waymoをはじめ、配車サービス大手のUber Technologies、GM Cruise、インテル傘下のMobileyeなどが実際に同州で実証に着手している。

Waymoは2018年に世界初となる自動運転タクシーの商用サービス「Waymo One」を同州フェニックスで開始するなど、大きな成果を上げている。

一方、カリフォルニア州は一定の規制のもと個別の申請に対し走行ライセンスを付与し、手動介入や衝突回数などの報告義務を課す形式を採っている。報告されたレポートや走行実績は原則公開し、情報共有とともに透明化を図っている印象だ。

シリコンバレーが位置していることもあり、有力なスタートアップをはじめ世界各地から開発企業が集まる自動運転実証の聖地と化している。2021年12月時点で52社が要セーフティドライバーの公道実証ライセンスを取得しており、このうち7社はドライバーレスのライセンスも取得している。


足踏みする連邦議会もそろそろ?

このように、自動運転に前向きな州に開発企業が集まり、商用化に向けた取り組みを進めている状況だが、それ故に弊害も生じている。各州における走行ルールのばらつきだ。

各州で走行ルールが統一されていなければ、州をまたぐ運行に支障が生じる。開発サイドにおいても個別の州に合わせた申請やセッティングなどを行わなければならず、効率的ではない。

そこで連邦議会も一定のルール策定に動いており、2017年に自動運転車の安全確保に関する連邦法案「SELF DRIVE Act」が下院で可決された。上院では、これに変更を加えた「AV START Act」が審議されたが、可決には至っていない。

米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が安全確保と市場促進に向けたガイドラインを適時発表しているものの、統一ルールの策定に足踏みする状況が続いている。中国など他国の取り組みが大きく加速する中、国際競争の観点からも待ったなしの情勢となっており、自動車大国としての威信をかけた国家としての動きがそろそろ本格化しそうだ。

【参考】米国の自動運転事情については「アメリカの自動運転最新事情(2021年最新版)」も参照。

■中国の動向
政府の方針のもと直轄市などが独自の走行ルールを策定

日経新聞によると、中国公安省が2021年3月に道路交通安全法の改正案を公表したようだ。保安員の乗車義務付けや損害賠償責任など、自動運転に関する条文が盛り込まれたとしている。

現時点では、中国も米国同様、政府の方針のもと省や直轄市などが開発企業に対し個別に走行ライセンスを付与する方式を採用している。

各市などが用意した閉鎖空間におけるテストコースで自動運転システムの性能を試験し、クリアすれば各市が定めた走行ルール・走行エリア内で公道走行を行うことができる仕組みだ。有力都市がテストコースの開設を競うなど、中国内においても何らかの競争原理が働いている印象が強い。

北京市は、2020年末までに総延長約700キロに及ぶ道路200本を公道実証に開放しており、開発企業14社計87台に走行ライセンスを付与している。

ドライバーレスの公道実証も202年12月の百度(バイドゥ)を皮切りに許可を開始しており、2021年5月には配送ロボットの開発を手掛けるNeolixもライセンスを取得している。

同年7月には、総距離143キロに及ぶ市内の高速道路区間も公道実証に開放する計画が明かされるなど、走行可能エリアを順次拡大している。

同年11月には、百度が商用運行許可を取得したことを発表した。指定エリア内で有料の自動運転タクシーの商用展開が可能になったようだ。

国家権力が強大な中国では、国の意向次第で法整備もスムーズに行われる。国としてどのタイミングでゴーサインを出すのか、要注目だ。

【参考】中国の自動運転事情については「北京、上海、深セン・・・中国の自動運転タクシー最新事情まとめ」も参照。

■ドイツの動向
世界に先駆けてレベル4自動運転法成立

ドイツは2017年にレベル3に対応した道路交通法の改正をいち早く行うなど、法整備面での先進的な取り組みが際立っている。レベル4に対応した法案も2021年5月に世界に先駆けて連邦議会が可決しており、今後世界の開発企業が同国に集中する可能性が考えられる。

改正法には、用語の定義や自動運転車両が備えるべき技術要件、走行許可に関する要件、走行に携わるものの義務、データ処理の在り方、自動運転機能の試験などの各項目が盛り込まれている。一部メディアによると、同年7月に施行されたようだ。

自動運転シャトルラストワンマイル輸送といった特定分野に限定してレベル4による公道走行を許可する内容で、技術要件を満たした自動運転車両に対し連邦自動車庁が運行許可を付与し、その上で各州法に基づく所管当局から許可を得る必要がある。

自動運転に必要とされるデータの保存や収集に関するルールも厳密に規定されており、個人情報に関わらないデータを交通安全や自動運転の研究開発などを目的に利用する際のルールなども設けている。

ドイツでは、自動運転シャトルを開発する仏EasyMileなどがすでに実証を進めているほか、Mobileyeなども同国内でのサービスインを目指す取り組みを進めており、こうした動きは2022年により活発化するものと思われる。

また、レベル3においても、ダイムラー(メルセデス・ベンツ)が同レベルを実現する「DRIVE PILOT」の実装を2022年中に行う予定としており、自家用車における自動運転も本格化しそうだ。

【参考】ドイツの自動運転法については「ドイツの「自動運転法」を徹底解説 データは13項目保存を義務化」も参照。

■日本の動向
2022年通常国会に改正道交法案提出か

日本では、第2次内閣を発足したばかりの岸田文雄首相が2021年11月、記者会見の中で自動運転移動サービスに言及し、申請に基づいてサービスを認める新たな制度を創設し、次期国会への関連法案提出を検討すると表明した。

これを受け、警察庁は同年12月、レベル4を可能にする改正道路交通法の原案を発表したようだ。移動サービスなどへの導入を主目的に特定のルートで遠隔監視のみのドライバーレス走行を実現する運びだ。

経済産業省、及び国土交通省所管のもと自動運転技術の社会実装に向け議論を進める自動走行ビジネス検討会の方針によると、2021年度以降にレベル4実現・普及に向けた次期プロジェクトを立ち上げることとしており、2022年度には廃線跡などの限定エリアにおいて遠隔監視のみのレベル4自動運転サービスの本格実証・実用化に着手する予定としている。2025年度までに40カ所以上でサービス展開する目標を掲げている。

こうしたロードマップを円滑に実行に移すため、許可制度や運行方法、責任の所在などを明確にルール化するものと思われる。

案では、運行を行う事業者が都道府県公安委員会に申請し、有事の際の対応などを盛り込んだ運行計画などを審査した上で個別に許可を出すようだ。保安基準への適合性や違反行為に対する行政処分なども盛り込まれている。

ドライバーレスを可能にするレベル4は、従来ドライバーが担っていた運転操作などを自動運転システムが代替する一方、事故の際の救護義務など、現行の道路交通法においてドライバーに課せられた義務のすべてには対応できない。このため、有事の際の代替措置などについてしっかり規定する必要がある。

【参考】日本の自動運転事情については「自動運転、2022年度の国の到達目標・取り組み内容は?」も参照。

廃線跡地などで先行実施の公算大

国内では現在、福井県永平寺町の廃線跡地で遠隔操作・監視システムによるドライバーレスのレベル3移動サービスが行われている。保安員が乗車しているものの、1人の遠隔監視者が3台の車両を監視・操作可能という。異常を察知した際やシステムから要請があった際は、遠隔監視者が即時対応・操作する。

レベル4では、この即時対応・操作が不要となる。安全上必要に応じて遠隔監視を行うのみで、有事の際は、自動運転車両が自ら安全な場所に停車するなど、走行を完結させなければならない。

難易度が上がるため、永平寺町のような廃線跡地や自動運転専用レーンなどで先行実施される可能性が高そうだ。また、公道走行が可能となる場合、BOLDLYやマクニカらが茨城県境町で取り組んでいる事例のように、実質レベル2で運行実績を重ねているケースが有力となりそうだ。

空港などの制限地域におけるレベル4も

このほか、空港制限区域内など公道以外におけるレベル4実装に向けた取り組みも進められている。空港では、2025年までにレベル4を導入する目標を掲げており、2021年度にレベル4相当の技術導入に向けた実証を開始したほか、レベル3についても導入空港の拡大を図るともに、自動運転車両の走行データをレベル4導入に向けた検討に活用する方向で事業が進められている。

広大な商業施設の敷地内や大学キャンパス内など、道路交通法が適用されないエリアにおけるレベル4の実装も加速する可能性が高そうだ。

【参考】空港におけるレベル4の取り組みについては「空港での「自動運転レベル4」導入、目標時期は「2025年」」も参照。

■【まとめ】着々と整備進む自動運転環境

海外ではこのほか、フランスでも2022年9月から公道における自動運転走行が解禁される見込みという。各国とも着実に自動運転実用化に向けた動きを進めており、2022年から数年内にサービスインするエリアは格段に増加する見込みだ。

日本もドイツ同様法律面ではトップクラスに位置している。実証環境を早期整備し、民間の開発を促しながら安全かつ効率的な次世代モビリティの実用化をどんどん推し進めてほしい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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