Mobileye(モービルアイ)と自動運転(2023年最新版)

チップ開発&自動運転タクシー事業も



モービルアイのアムノン・シャシュアCEO=出典:インテル

ADAS(先進運転支援システム)市場を席巻し、自動運転分野でも年々存在感を高めているイスラエル企業のMobileye(モービルアイ)。特にインテルの子会社となってから自動運転分野における取り組みを加速しており、サプライヤーとしての地位を固めつつもモビリティプロバイダーとして新たな道を歩み始めている印象だ。

この記事では2023年時点の情報をもとに、モービルアイの歴史を年代順になぞり、今後の展望に迫ってみる。







■モービルアイの概要

モービルアイは単眼カメラを主体としたADASソリューションの開発・製品化で知られるADASサプライヤーだ。多くの自動車メーカーのADAS技術を水面下で支えており、これまでに25を超えるOEMと手を結び、6,000万台以上の車両にモービルアイのソリューションが採用されているという。

ADAS開発企業として揺るぎない地位を誇る同社は、近年自動運転開発にも積極的で、高性能チップをはじめとしたソリューションの提供にとどまらず、有力な自動運転開発プレイヤーとして存在感を高めている。

なお、年表上2004年から10年余りの空白ができるが、その間はADASサプライヤーとしての成長期間となる。自動運転開発に向け本格始動した2016年以後に重点を置き、同社の取り組みを紹介していく。

■1999年:モービルアイ創業
アムノン・シャシュア氏=出典:Intelプレスリリース

モービルアイ創業者のアムノン・シャシュア氏はエルサレムのヘブライ大学でコンピューターサイエンスを教えており、自動車に関するプレゼン中に「2台のカメラで車両を識別できるか」といった質問を受けた。その際、シャシュア氏は「1台のカメラで実行できる」と回答し、これをきっかけに1台のカメラでビジョンシステムを構築するコンセプトが生まれた。

このコンセプトをもとに、1台のカメラとプロセッサ上のソフトウェアアルゴリズムを組み合わせて車両を検出するビジョンシステムをベースに、交通事故防止に寄与するソリューション開発に向け1999年に創業したのがモービルアイだ。

以後、長きに渡って単眼カメラを活用したADAS開発・製品化を進め、徐々に自動運転分野への進出を図っていくことになる。

■2004年:最初のシステムオンチップを開発

モービルアイは2004年、同社初のシステムオンチップ(SoC)を発表した。現在につながるデバイス「EyeQ」シリーズの第1世代の誕生だ。第1世代では、前方衝突警告やレーンデパーチャーワーニング、インテリジェントハイビームコントロール、交通標識認識などの機能を備えている。

2005年にはチップの開発や製造でSTマイクロエレクトロニクスとパートナーシップを結び、開発力と製品化に向けた取り組みを加速しており、2008年に本格的な量産化を開始している。

なお、第2世代のEyeQ2では、カメラのみでアダプティブクルーズコントロールや渋滞時走行支援機能なども可能にしたほか、EyeQ3は衝突被害軽減ブレーキなどレベル2技術を実装可能なものとしている。

第4世代のEyeQ4はレベル3に対応しており、中国EVメーカーのNIOが2018年に量産化を開始した「ES8」に初採用された。20を超えるドライバー支援機能を搭載し、ファームウェアはOTA(無線アップデート)により常に進化し、最新の状態を保つことができるという。

最新のEyeQ5はレベル4~5の自動運転に対応しており、BMWが2021年中に発売予定のレベル3EV「iNEXT」に搭載されるほか、中国吉利汽車(Geely)の高級車ブランドLynk & Coの新モデルにも採用されることが発表されている。

■2016年:マッピングテクノロジー「REM」をリリース

モービルアイは2016年、自動運転車向けのマップを生成する技術「REM(Road Experience Management)」を発表した。車載カメラの映像をクラウドに収集・蓄積する技術を核とし、世界全体に渡るスケーラブルなマップを作製・更新することを可能にする。

REMテクノロジーを搭載した車両は、走行中にカメラが取得したデータを匿名化して自動的に収集し、REMが関連情報をタグ付きのデータポイントに分類し、低帯域幅で小さなデータパケットによってクラウドに送信する。クラウドでは、各車両から送られたデータを集約・整理し、道路インフラのアウトラインを独自アルゴリズムで定義する仕組みだ。

こうして作製されたマップデータは、AVマップ「Mobileye Roadbook」にまとめられ、グローバルなマップデータとして自動運転車のローカリゼーションなどに活用される。

搭載車両が増加するほど世界におけるマップデータのカバー率が向上し、更新頻度も上がる。REMを活用したグローバルマップ作製プロジェクトには、米GMをはじめ独フォルクスワーゲン、独BMW、日産などが次々と参画し、現在ではADAS用カメラを搭載した数百万台規模の車両が日々自動でマップデータを収集しているようだ。

なお、REMを道路の舗装状態監視や都市計画調査などに役立てるデータサービスなども展開している。

■2016年7月:BMW、インテルと自動運転開発連合結成

モービルアイと米半導体大手のインテル、独BMWは2016年7月、自動運転車の開発・実用化に向け提携すると発表した。その後、開発グループには自動車部品大手の米デルファイやカナダのマグナ、フィアット・クライスラー・オートモーティブ(FCA、現ステランティス)などが加わるなど、一大連合となっている。

当初は2021年に自動運転を実用化する計画を打ち出していたが、続報がないため水面下で開発が続いているのか途切れたのかは定かではない。ただ、この提携は、モービルアイがADASサプライヤーから自動運転開発パートナーへの道をたどる第一歩となったほか、ここでのインテルとの提携が後の買収につながった可能性があり、その意味で非常に興味深い開発連合と言える。

■2017年3月:インテル傘下へ、買収額は約153億ドル
出典:Intelプレスリリース

インテルは2017年3月、モービルアイを買収すると発表した。その額は約153億ドル(約1兆7500億円)と言われている。同年8月の発表では、モービルアイの発行済み普通株式の約84%を取得したとしている。

モービルアイは2014年にニューヨーク証券取引所への上場を果たしているが、これに伴い同年中に上場を廃止している。

モービルアイのコンピュータービジョンにおける専門知識がインテルの高性能コンピューティングとコネクテッド技術の専門知識を補完し、クラウドから自動車までの自動運転ソリューションを作製できるようになるとしている。両社の既存のテクノロジーをベースに自動車メーカーやティア1サプライヤー、半導体パートナーとの顧客関係を強化し、高度な運転支援や自動運転技術の開発を促進していく方針だ。

なお、インテルは2020年5月までにイスラエルのMaaSプラットフォーマー・Moovit(モービット)の買収も発表している。こちらも約9億ドル(約960億円)の巨額買収となっている。インテル・モービルアイの自動運転技術をモービットのプラットフォームに載せ、世界で自動運転タクシーなどの移動サービスを展開していく戦略だ。

【参考】インテルによるMoovit買収については「IntelのMoovit買収、自動運転タクシーの世界展開の布石か!?」も参照。

■2020年7月:アジア圏における自動運転タクシーの展開計画を発表

モービルアイは2020年7月、日本や台湾、ASEAN各国におけるロボタクシーソリューションの提供に向け、移動サービスや移動ソリューション開発を手掛ける日本企業、WILLERとパートナーシップを結んだことを発表した。

モービルアイが自動運転車両を提供し、WILLERが地元の市場や規制、ユーザーの好みに合わせてサービスを実証していく。2021年にも日本の公道で自動運転タクシーの実証実験を開始し、2023年のサービス実用化を目指す方針だ。

モビリティプロバイダーとしてのアジア戦略において、WILLERがパートナーに選ばれた格好だが、WILLERも独自にシンガポールなどで自動運転サービス実装に向けた先進的な取り組みを進めている1社だ。今後、両社のコラボレーションがどのように進展していくか要注目だ。

【参考】WILLERとのパートナーシップについては「WILLERとMobileye、自動運転タクシー「日本第1号」候補に!?」も参照。

■2020年9月:ドバイでの自動運転MaaSの計画を発表

モービルアイは2020年9月、アラブ首長国連邦を拠点とする複合企業Al Habtoor Groupとドバイで自動運転モビリティサービスの展開に向け戦略的コラボレーションを行うと発表した。

REMを活用した道路舗装状態監視などのデータサービスをはじめ、2021年半ばには自動運転車の実証を開始し、その後2022年に遠隔操作技術などを用いた自動運転によるMaaS実証を行い、2023年のサービスインを目指す計画だ。

■2021年4月:自動運転システム「MobileyeDrive」の概要発表

モービルアイは2021年4月、自動運転配送車両の開発を手掛ける米Udelvとのパートナーシップを発表するとともに、EyeQ5に基づく最新の自動運転システム「MobileyeDrive」の概要を公表した。

MobileyeDriveはレベル4を可能にするフルスタックの自動運転システムで、13台のカメラをはじめ、3つの長距離LiDAR、6つの短距離LiDAR、6基のミリ波レーダーを搭載している。カメラによる認識システムとLiDAR・レーダーによる認識システムがそれぞれエンドツーエンドの自動運転機能をサポートすることで、極めて冗長性の高いセンシングを実現している。

UdelvはこのMobileyeDriveをベースに独自の遠隔操作システムや配送管理システムを統合し、2023年に商用化、そして2028年までに3万5000台以上のトランスポーターを生産する予定としている。

■2021年2月:Transdevとパートナーシップ

モービルアイは2021年2月、スマートモビリティ開発を手掛けるTransdev Autonomous Transport System(Transdev ATS)、商用車やモビリティソリューション開発を手掛けるLohr Groupと自動運転シャトルの実用化に向けパートナーシップを結んだと発表した。

モービルアイの自動運転システムを、Lohr GroupのEVシャトル「i-Cristal」に統合し、Transdevのモビリティサービスネットワークに乗せて欧州をはじめとする世界中の公共交通サービスに導入していく計画だ。

まずフランスとイスラエルで公道実証を進め、2022年までに生産に向けた技術設計を行い、その後2023年までに公共交通網に自動運転i-Cristalシャトルを配備する予定としている。

なお、モービルアイはフランスのパリで公共交通を運営するRATP(パリ交通公団)とも自動運転技術の導入に向け提携を結んでいる。

■2021年5月:トヨタのADAS開発ベンダーに選定
出典:Intelプレスリリース

モービルアイは2021年5月、トヨタの複数のプラットフォーム向けのADAS開発ベンダーに独自動車部品大手ZFとともに選ばれたことを発表した。

EyeQ4を実装し、ZFのレーダー技術と統合された高度なカメラ技術をトヨタの主要なADASプラットフォームに提供していく内容だ。デンソーなど国内部品メーカーを中心に採用するトヨタとしては異例とも言える。

なお、モービルアイは2020年7月にも米フォードとの提携を強化し、製品ラインナップ全体において最先端ADASを提供していくことを発表している。フォードのADASのベースをモービルアイ製品に置き換えていくようだ。

また、2020年9月には、中国の吉利汽車(Geely)の高級車ブランドLynk & Coの新モデルにモービルアイの最新ADAS「Mobileye SuperVision」が搭載されることも発表されている。Mobileye SuperVisionは、360度の視界を確保するサラウンドカメラやナビゲーションテクノロジーなどを備えており、レベル2プラスに相当するハンズオフ運転を可能にするという。

既存のADAS分野においてもなお存在感を高めている印象だ。

▼モービルアイと ZF の予防安全技術がトヨタに採用
https://newsroom.intel.co.jp/news/zf-mobileye-safety-technology-toyota/

■2021年9月:ドイツで2022年から自動運転タクシーの開始を発表
出典:Intel公式サイト

2021年9月にドイツで開催されたモーターショー「IAA MOBILITY 2021」にて、モービルアイはドイツ・ミュンヘンで2022年より自動運転タクシーサービスを開始することを発表した。このサービスは、ドイツでレンタカー事業を展開するSixt SEとパートナーシップを組んで展開されるという。

発表されている計画では、2022年のサービス開始直後はミュンヘンの街で小規模に乗客を募り、試験的な運用を行っていく。その後、規制当局の承認を得てから商業運用に移行し、サービスを拡大する予定だという。

インテルとモービルアイは、いずれはこのサービスをドイツ全土に拡大し、10年後には他の欧州諸国でも同様の展開を行なっていく意向だ。

■2021年12月:インテルがモービルアイを2022年内に上場させると発表

インテルは、自動運転事業部門であるモービルアイをスピンオフし、2022年内のどこかのタイミングでモービルアイの上場を計画していることを明らかにした。

このモービルアイの上場による新たな資金調達で、インテルは車載用チップの領域にさらに投資ができるようになる、と複数のアナリストが分析している。

■2021年12月:丸紅がモービルアイ、Moovit社と業務提携を締結

大手商社の丸紅は2021年12月、日本国内でのモビリティ関連ビジネス市場開拓を目的として、モービルアイとMoovitと業務提携に関する基本合意書を締結した。Moovitは公共交通機関のシステム事業の開発や展開を行うインテルの子会社だ。

この提携により、丸紅グループが保有しているノウハウやネットワークやモービルアイの先進的なADASシステム、Moovit社のMaaSプラットフォームを活用して、日本国内でMaaS関連サービスの社会実装を目指すという。

具体的には、モービルアイがADASとして提供している製品「MOBILEYE 8 CONNECT」を活用し、収集されるデータの各種分析を行う。そのデータをもとに、物流事業者向けの自動運転関連サービスの推進に取り組む予定だ。

▼モービルアイ社およびMoovit社とのモビリティ関連サービスに関する業務提携について
https://www.marubeni.com/jp/news/2021/release/00105.html

■2022年10月:IPO申請を公式に発表

2022年10月、インテルはMobileyeのIPO(新規株式公開)を申請したことを公式に発表した。上場後のティッカーシンボルは「MBLY」となる予定で、上場時期は2022年末から2023年初頭になる可能性が高いとされている。

上場時の時価総額は300億〜500億ドルになるという観測が強い。市場から調達した資金で自動運転開発をさらにスピードアップするものとみられている。

■2022年10月26日:Mobileyeが「普通の上場」を果たす
出典:Mobileye/Nasdaq

Mobileyeは2022年10月26日に米国市場で上場を果たした。注目されたのは、これまでの多くの自動運転関連ベンチャーが選んできた「SPAC上場」ではなく、「普通の上場」をしたということだ。上場日の終値の時価総額は230億ドル(約3兆4,000億円)だった。

Mobileyeの決算は、2022年第3四半期は売上高が前年同期比38%増、第4四半期は前年同期比59%増となっており、好調な数字にも支えられて上場後の株価は堅調に推移する状況となった。

【参考】関連記事としては「自動運転企業Mobileye、売上高38%増の619億円!Q3決算を発表」も参照。

■【まとめ】自動運転モビリティプロバイダーとして新たな道へ

ADASサプライヤーとして世界に名を知らしめたモービルアイは、2016年ごろを転機に自動運転分野への本格進出を開始したようだ。インテルのもと、自動運転開発に向けOEMと新たなパートナーシップを結ぶほか、モビリティサービス事業者とも積極的に手を結び、自動運転サービスを手掛けるモビリティプロバイダーとして新たな道を歩もうとしている。

日本をはじめとするアジア諸国、ドバイ、欧州など世界を舞台に自動運転サービス実用化に向けた取り組みを着実に前進させており、今後数年以内に一気に花を咲かせる可能性が高い。

明確な世界戦略のもと、どのような花を咲かせるのか。まずは各地で始まる実証の様子に注目したい。

▼Mobileye公式サイト
https://www.mobileye.com/

■関連FAQ
    Mobileyeはいつ創業した?

    創業したのは1999年。創業者はエルサレムのヘブライ大学教授のアムノン・シャシュア氏。創業から20年以上が経った現在も、同社の第一線で活躍している。

    MobileyeがIntelに買収されたのはいつ?

    2017年3月にインテルがモービルアイを買収すると発表し、同年8月にMobileyeの株式の84%を取得したことが明らかになっている。

    Mobileyeの事業は?

    システムオンチップ(SoC)の開発や自動運転車向けのマップを生成する技術の開発、自動運転システムの開発などを手掛けているが、最近では「サービス」の展開も模索している。自動運転タクシーなどで移動サービスを展開する計画を立てており、日本でもサービス実用化を目指すという。

    日本における自動運転タクシーの展開計画の内容は?

    日本の高速バス大手であるWILLERをタッグを組み、Mobileyeが自動運転車両を提供する形でサービスの実用化を目指していくようだ。

    Mobileyeは上場している?

    過去に上場していた。2014年にニューヨーク証券取引所に上場したが、インテルに買収され、上場廃止となっている。しかし現在、新たにMobileyeの上場計画が持ち上がっている。IntelはすでにIPOを申請していることを公式発表している。

(初稿公開日:2021年7月16日/最終更新日:2023年2月9日)

【参考】関連記事としては「自動運転タクシーのフロンティア「Waymo」の年表」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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