あなたはどう思う?完全自動運転「できない派」「できる派」の主張を比較

実現のカギは「技術」「法律」「社会受容性」?



一定条件下でハンドルやアクセルなどの制御を自動化する「自動運転レベル3」の法整備が整い、自動車メーカー各社がレベル3対応車種の開発・市場化を進めている。


また、海外ではより高度なレベル4移動サービスの実用実証が進められており、国内でも2020年中に運行が始まる予定となっている。

社会実装がじわりじわりと始まった自動運転だが、目指すべき最終形は限定条件が付かない完全自動運転「レベル5」だ。どのような場所(道路)、どのような状況においても自動運転システムが自動車を制御してくれる夢のクルマだ。

ただこのレベル5の実現にあたっては、世間でも開発者の中でも「できる派」と「できない派」に分かれることがある。両者の主張の根拠はどのようなものだろうか。

■そもそも自動運転とは?レベル5とは?

自動運転は、車両に備えられたカメラやLiDAR(ライダー)、赤外線レーダーなどの各種センサーが検知した周囲の状況をAI(人工知能)が解析し、ハンドルやアクセル、ブレーキなどの制御命令を下すことで成立する。


自動運転の段階はアメリカの自動車技術会(SAE)が基準をレベル0〜5の6段階で策定している。

レベル3は「条件付き運転自動化」のことで、システムから要請があった際は速やかにドライバーが運転を行わなければならない。レベル4は「高度運転自動化」のことで、一定条件下でドライバーを必要としない。

今回の記事のテーマであるレベル5は、どのような状況下でも自動運転が可能な段階だ。

【参考】自動運転レベルの定義については「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説」も参照。ちなみにレベル1〜2はADAS(先進運転支援システム)、レベル0は運転支援なしの段階となる。


■「できない派」の主張と、それに対する「できる派」の反論
法律的にできない?

こうした主張は、現時点の話としては真っ当な主張だ。日本においても、現在の道路交通法や道路運送車両法は自動運転レベル5を認める内容となっていない。

ただ、日本では自動運転レベル3が今年4月に解禁されており、「できる派」からはいずれはレベル4〜5も解禁されるようになっていくはず、という声をよく聞く。

「法律的にできない」という主張は時間軸を現時点に置くと正しいが、未来において考えるのであれば誤った主張と考えられそうだ。(もちろん、法的に永遠にレベル4〜5が解禁されない可能性もゼロではないが…)

【参考】関連記事としては「ついに幕開け!自動運転、解禁日は「4月1日」」も参照。

技術的にできない?

完全自動運転について、技術的に難しいと主張する声もある。

レベル5は「どのような状況下でも自動運転が可能な段階」だ。そのため、悪天候であっても、どのような街であっても、人間のように安全に走行をこなさなければならない。こうしたことがAIでは難しいのでは、という主張だ。

悪天候については、まだ答えは完全には出ていない。ただこうしたハードルをクリアしようと実証実験に取り組んでいる企業もある。自動運転タクシーの営業走行を世界で初めて開始したGoogle系Waymoは、ハリケーン来襲を求めてマイアミに実証エリアを拡げたようだ。

「できる派」側からは、こうした実証を積み重ねればいずれ悪天候でもAIによる完全自動運転が可能になるという声が聞かれる。

「どのような街であっても」という点については、自動運転向け地図の「ダイナミックマップ」の整備が待たれる。現在、地図大手が着々と世界各国のデータ整備を進めており、いずれは完全に整備されるときが来る。

【参考】関連記事としては「自動運転AIを強化中のWaymo、ハリケーン来襲求めマイアミへ」も参照。

通信速度的にできない?

自動運転車は膨大はクラウド側やインフラ側とさまざまな情報を通信しながら走行する。そのため、大容量の通信に耐えられ、しかもリアルタイム性を確保できなければ、完全自動運転は実現できない、という主張がある。

この意見があるのも当然だが、次世代通信規格「5G」の実用化、そしてそれに続く6Gの実用化がいずれ進めば、こうした通信のハードルはクリアできるはずだ。

社会受容性的にできない?

多くの人々が完全自動運転を受容しないだろう、という見方も少なからずある。自動運転は自分の命をシステム・AIに預けるような仕組みだ。確かに怖さを感じる人もいる。

ただもし自動運転の事故率が手動運転の事故率を下回ったらどうだろう。数字的にそれが立証されれば、自動運転に対する人々の信頼度は高まっていくはずだ。(また同時に、自動運転車であっても事故を起こすことはあるという認識を持ってもらうことも必要である)

しかし、ただ単に数字を示すだけでは社会受容性は高まらない。人々に自動運転を少しずつ体験してもらうといったキャンペーンの実施なども、必要になっていく。

■トヨタTRIのギル・プラットCEOの発言から考える

トヨタのAI技術の研究・開発拠点「TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)」のギル・プラットCEOは、開発中の自動運転技術「ガーディアン」についてCES 2019で説明した際、以下のような発言をしている。

(レベル5は)すばらしい目標であり、私たちもいつかは達成できるかもしれない。しかし、自動運転システムが抱える技術的・社会学的な難しさを甘く考えてはいけない。例えば、絶え間なく変わる環境において、人間のドライバーと同等、もしくはより優れた運転をするうえで必要な社会順応性をどのようにシステムに教えるのか。いつ歩行者が道を渡るか、また交差点の信号が青の際、警察官が止まれのサインを出した場合に警察官が指示していることをどのようにシステムに教えるのか。また、自動運転車両でも発生が避けられない事故や死傷を社会が受け入れるには、相当な長い時間がかかることも気にとめなくてはならない。自動車業界もIT業界にも、こうした質問に完全に答えられる人はいないと思う

出典:CES 2019 トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)ギル・プラットCEOスピーチ参考抄訳(https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/26085185.html

【参考】ギル・プラット氏の発言については「全文掲載:トヨタがCES 2019で述べた自動運転戦略の哲学とは?」も参照。

AIに関する問題と社会受容性に関する問題を指摘している。(誤解のないように補足すると、プラット氏はレベル5実現の課題を提示しただけであり、実現に向け積極的に研究を進める開発者だ)

ディープラーニングなどで驚異的な進化を遂げるAIだが、現状、判断能力を超えるような場面に直面した際、人間のように柔軟な思考で状況を把握し、臨機応変に対処することが可能なのかといった課題を内在している。

例えば、信号が青の際、ある警察官は「ゴー」の指示を出し、偽警察官が「ストップ」の指示を出していたら、AIはどのように判断するのか。

また、オーストラリア領のクリスマス島などでは、産卵時期を迎えたカニが一斉に海を目掛けて進行し、道路を赤く染める光景が見られるが、道路上に敷き詰められたかのように群れを成すカニに対し、AIはどのような判断を下すのか。

人間のドライバーであっても混乱する場面だが、人間であれば警察官の格好をした両者と会話するなど状況に応じて判断材料を入手することができる。カニに遭遇した際は素直に走行を諦め、記念写真を撮るかもしれない。ともかく、AIはこうした課題も解決しなければならないのだ。

偽警察官は置いておいても、現実の道路交通環境は複雑な場面が多い。倫理観が問われる「トロッコ問題」に直面する可能性もあるだろう。把握しきれない数の想定外をすべて想定内にすることが求められるのだ。

■【まとめ】技術革新が常識を変える

フランスの小説家ジュール・ヴェルヌの名言に「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」というものがある。この言葉に習えば、レベル5は実現できるものとなる。100年前に暮らしていた人々にスマートフォンの技術を紹介した場合、果たしてどれだけの人が未来の技術を信じるだろうか。

過去、いくつもの発明が社会にイノベーションをもたらしてきた事実を考慮すれば、レベル5の実現は決して不可能なものではないはずだ。現段階で課題が山積していても、突破口が見出されるのだ。

開発者の皆さまにはぜひ可能性を信じていただき、空想が現実となった未来の交通社会を形作ってもらいたいと思う。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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