仏ルノー、一般車の自動運転化「棚上げ」決定 無人バス開発に注力

中国WeRideとの協業も発表



フランスの多国籍自動車メーカーであるルノーグループが、公共交通機関向けにレベル4自動運転バスを間もなくリリースする。同社は自動運転戦略について、今後数年間は乗用車と公共交通機関のニーズを切り分けてアプローチすることを決定したと2024年5月22日までに発表した。


ルノーは地方で高まる低炭素モビリティのニーズに対応していくために、公共交通機関の自動化が重要である考えている。乗用車については、自動運転開発よりもADAS(先進運転支援システム)の技術力アップを優先し、安全性と快適性をさらに向上させていく構えだという。

ルノーの乗用車での自動運転化は実質的に「棚上げ」となり、お披露目はかなり先のことになりそうだ。

■公共交通機関の自動化を優先

ルノーグループは技術革新について、できるだけ多くの人々に共有され、経済的に利用可能で、実際に役立ってこそ意味があるという原則に基づき、現実的なビジョンを明らかにした上で、自動運転開発に対する今後の考え方を発表した。

同社が開発した技術はさまざまなタイプの車両や用途に適応しており、より効果的な運転支援・委任機能を提供することが可能になっている。


ルノーは公共交通機関において、持続可能で自律的なモビリティ開発における真のプレーヤーとなることを目指している。そのために、パートナー企業による自動化ソリューションなどのサポートを受け、自動運転ミニバスのプラットフォームを開発している。

また個人向け乗用車については、同社のほとんどのモデルでトップレベルのADASを実現している。自動運転レベルは「2」もしくは「2+」となっている。しかし現在の規制やユーザーニーズ、複雑な技術にかかるコストを考慮すると、乗用車の自動化を目指して機能をさらに技術開発するということは当面ないようだ。

ADASにとどまるレベル2と、条件付きではあるが自動運転と言えるレベル3の技術の差は大きく、レベル3以上の乗用車の開発を目指すのは現状では現実的でないと判断したという。

【参考】関連記事としては「自動運転、レベル2とレベル3の違いは?(2024年最新版)」も参照。


■開発コストは無人化のメリットで相殺

ルノーの主戦場である欧州では、400以上の主要都市が徐々に低排出ガス地帯になる一方で、市民の移動手段を確保しないといけないという問題があるという。ルノーは公共交通機関に自動運転を取り入れることの利点を確信しており、地方自治体のニーズに最適に適応するため、数年にわたり試験を行ってきた。

2023年に発表された「Mach 2 project」では、2026年からフランスのシャトールー・メトロポールの公共交通ネットワークに電動の自動運転ミニバスを導入する予定になっている。この自動運転ミニバスは24時間365日安全に運行可能で、コストや環境面において電車やバスといった既存の移動手段を効率的に補完するものになるという。

自動運転化することで発生するコストは、車内オペレーターが不在になることで相殺することができるようだ。なお車両は、簡単な遠隔管理システムにより運用される予定だ。


■WeRideと協業し、レベル4車両を開発

出典:ルノープレスリリース

今回の発表と同時に、ルノーはレベル4の自動運転開発に特化している中国WeRideとの協業を発表した。レベル4の自動運転車の大規模な商業展開に向けて協力していくという。

なおルノー・日産自動車・三菱自動車工業が設立したオープンイノベーションを支援する企業ベンチャーキャピタル(VC)ファンド「アライアンス・ベンチャーズ」が、2018年にWeRideに3,000万ドル(当時のレートで約34億円)を出資したという経緯がある。

当時は駆け出しのスタートアップであったWeRideだが、その後、世界でもトップレベルの技術を誇る企業となった。すでに300台のミニバスを含む700台以上の自動運転車をアジアや北米、中東で2,800万キロ以上走行させたという実績がある。

2024年5月26日〜6月9日には全仏オープンテニスにおいて、ルノーはWeRideと共同で自動運転シャトルを初披露する。試合会場のローラン・ギャロス・スタジアムと駐車場などを結ぶルートで試験運行を行うという。

■「一本化」は今後トレンドに?

Google系の自動運転開発企業である米Waymoは、これまで進めてきた自動運転トラックの開発を一時停止し、自動運転タクシーによる配車サービス事業に注力することを2023年7月に発表している。

今回のルノーの乗用車より公共交通機関の自動化を優先するという決断は、功を奏すのだろうか。WeRideとの今後の取り組みにも期待が集まる。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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