自動運転車に実証実験・テスト走行が必須な理由 実用化に向けて回避すべき危険・リスクは?

どんなことが検証・調査される?

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自動運転車の実証実験が各地で散見されるようになり、無人による自動運転の実用化も徐々に現実味を帯びてきた。実用化に向けては、サーキットのような専用空間での走行試験や公道での実証実験などが必須となっているが、これはなぜか。

「人命に関わる以上、机上のシミュレーションを事前に現実の場で検証することは当たり前」という声が聞こえてきそうだが、従来の一般車両に比べ自動運転車の実証実験は絶対に欠かすことのできないものとなっている。

今回はその理由について掘り下げてみる。

■自動運転車が回避すべきリスクとは?

システムが運転を担う自動運転車が最も注意しなければならないのは、言うまでもなく交通事故である。不注意や過信、技術不足などによって事故を起こすヒトに代わってシステムが運転を担うということは、相応の高い安全性能が必然となる。

交通事故のリスク

歩行者や他の走行車両、障害物、道路標識、道路の形状などを迅速かつ正確に検知・解析し操作することが最低条件となる。その上で、降雨や降雪のような悪天候時の対策や、他の走行車両の挙動予測など応用能力を高め、もらい事故など不測の事態に備えたシステム構築も必要だ。

ハッキングなどのリスク

自動運転は車両単体で自己完結するものではなく、地図や事故、他の車両などの情報を基地局や他の自動運転車など外部からリアルタイムで入手する必要があるほか、自動運転バスなど遠隔操作によって運行させるケースも考えられる。このとき、情報を受発信する基地局や自動運転車がハッキングされたらどうなるか。一度のサイバー攻撃で広範な被害が出る可能性もあるため、セキュリティ対策も万全を期す必要がある。

故障のリスク

機械やコンピューターに付きものの故障。100%壊れない機械は存在しないが、99%では許されない。どこまで100%に近付けられるか、また万一の際に起動する予備システムの搭載や手動運転への切り替えなど、バックアップの面も備えておかなければならないだろう。

■実証実験・テスト走行で調べることは?

実証実験では、センサー類やAIなどシステム類の検証はもちろん、通信状況やインフラとの協調性、社会受容性など多岐にわたる調査が行われる。自動運転車を作るメーカーや国・自治体など、実験主体により調査内容は変わるが、国内では共同体制で臨むケースが多い。

センサーやAI(人工知能)の検証

通常の乗用車におけるエンジンやタイヤの検証などと同様、シミュレートしたとおりの性能結果が得られるか、また想定外の事象にはどのようなものがあるかなどを検証する。研究所やサーキットなどと異なり、公道は場所や季節、時間などさまざまな要件により刻々と姿を変える。また、一般車両混在下での実験であれば不測の事態も起こり得る。実用化するための生きた成果は、よりリアルな環境でしか得られないのだ。

通信精度や通信速度の検証

自動運転車はコネクテッド化し、膨大な量の情報を送受信しながら走行するため、携帯電話などと同様通信が途切れることがあっては安全性能に影響する可能性が高い。衛星通信含め、トンネル走行時の通信状況や基地局側における停電時のバックアップ体制、万が一通信が途切れた際にどのような影響が出て、どのような走行が可能かなど、多方面での検証が必要になる。

交通インフラとの協調性の調査

自動運転の到来に合わせ、道路などのインフラも変革を要することになる。自動運転レベル4(高度運転自動化)相当では限られた区域で実証実験を行っており、センサーが何をどこまで検知・解析できるかを調査すると同時に、どのようなマーカーや標識があればセンサーが検知しやすくなるかを調査している。

どのような道路環境が備われば自動運転車が走行しやすいかという観点からも実証実験は必要であり、自動運転レベル5(完全運転自動化)を見据えると、将来的に自動運転車とインフラの協調は欠かせないものになっていく。

【参考】自動運転レベルの定義については「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説|自動運転ラボ 」も参照。

自動運転車に対する社会受容性の調査

自動運転車を待望する声が聞こえる一方で、事故が起きた際の責任の所在やサイバー攻撃、自動運転車と一般車両の混在などを不安視し、反対する声も依然多い。人間の手を離れ機械任せで動く自動車に漠然と不安を覚える人も多いものと思われる。

こうした住民らに自動運転車を実際に体感してもらい、反応をうかがうことも非常に重要で、乗車後に印象がどのように変わったか、また気付いた点などを挙げてもらうことで社会受容性の向上に役立てることができる。

■実証実験で使われるセンサーは?
カメラやLiDARミリ波レーダーなど

自動運転車の「目」の役割を担うセンサーは、カメラ、LiDAR(ライダー)、ミリ波レーダーに大きく大別され、それぞれ個性がある。例えばカメラは、人の目に近い形で物体を認識でき、複眼化することで距離計測も可能となるが夜間や悪天候時の検出能力は低下する。一方、電波を用いるミリ波レーダーは光源や天候の影響を受けずに検出特性を維持できるが、物体の詳細な識別には向かない。それぞれが改良段階にあるが、メリット・デメリットを踏まえ複数種類を併せ持つ試験車両も多い。

ルート走行に適したMIセンサー

路線バスのように決まったルートを走行するケースでは、道路にあらかじめ埋設した磁気マーカーを読み取るMIセンサーなどの実証実験も行われている。

■自動運転の実証実験は実施状況は?
内閣府:安倍首相肝いりのSIP事業で

内閣府が中心となって推進している戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)においては、大規模実証実験のテーマにダイナミックマップ、HMI(Human Machine Interface)、情報セキュリティ、歩行者事故低減、次世代都市交通の5課題が挙げられており、静的な3D地図データの差分更新・自動図化に関する研究開発や、歩車間通信技術(V2P)と歩行者高精度測位・行動予測技術による相互注意喚起機能の有効性評価などの研究が予定されている。

また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、2019年秋から自動運転レベル4の自動運転バスを東京臨海副都心から羽田地区にかけて一般道と首都高で走らせる予定で、大きな注目を集める実証実験になりそうだ。

国土交通省:道の駅などを拠点にすることを模索

国土交通省は、中山間地域における人流・物流の確保のため道の駅などを拠点とした自動運転サービスの実証実験に取り組んでおり、2017年度に計13カ所で住民のモニター乗車や移動サービス、道路構造の要件の検証、配送実験、磁気マーカーによる走行性能の検証などを行った。2018年度はビジネスモデルの構築などを目指し、5、6カ所で1〜2カ月程度の長期実証実験を予定している。

東京都:2018年度に実証実験関連予算を初計上

東京都は2018年度予算に約8400万円の自動運転関連予算を確保して、自動運転の実証実験をサポートすることを発表している。支援するのは、日の丸交通株式会社と自動運転技術ベンチャーの株式会社ZMPによる自動運転タクシーのサービス実証と、神奈川中央交通株式会社がソフトバンクグループのSBドライブ株式会社と取り組む多摩ニュータウンでの自動運転バス運行実験だ。

大阪府:健康寿命を伸ばすために自動運転技術を活用

大阪府は高齢者が多く住む府内の河内長野市で、民間会社と連携した自動運転の実証実験を2019年から実施する。大阪府での自動運転の実証事業としては初の取り組みとなる。将来的には自動運転バスなどの導入によって交通の便が悪い地域に住む高齢者の外出機会を拡大させ、健康寿命を伸ばすことにつなげたい考えだ。

ZMP:福島県浪江町などでRoboCarを活用して実施

自動運転ベンチャーのZMPは福島県浪江町などで自動運転車RoboCarの実証実験などを実施。RoboCarは大手企業の拠点間シャトルサービスに関する実証実験でも活用されている。2018年8月からは自動運転タクシーの実証実験を日の丸交通と共に実施。

SBドライブ:自動運転バス導入に向けて実証実験重ねる

ソフトバンクグループのSBドライブも、自動運転車の実証実験を積極的に行っている。福島第一原発などさまざまな特定エリアで自動運転EV(電気自動車)バスの実証実験などを既に実施しており、2018年5月には小田急電鉄と神奈川中央交通の両社と協定を結び、慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスでの実証実験実施も決定している。

ティアフォー:オープンソースの自動運転OSで実証実験支える

名古屋大学発のティアフォーが開発する自動運転ソフトウェア「Autoware」はオープンソースの自動運転向けの基本OSで、愛知県で実施された自動運転レベル4(高度運転自動化)の実証実験で活用されて、注目を集めるなどした。同社のAutowareはさまざまな企業が実証実験に活用しており、世界的にも高い注目を集めている。

フィールドオート:埼玉工業大学で培った実証実験のノウハウ

埼玉工業大学発のフィールドオートは、これまでに大学で実施してきた自動運転の実証実験に関するノウハウを柱に、自治体や企業の実証実験を支援する事業を展開する。埼玉工業大では既に大学周辺で自動運転の実証実験を行っている。

■完全無人の自動運転車が走行できる社会にむけて

国の方針では、2020年までに限定地域における自動運転レベル4(高度運転自動化)の移動サービス、2025年をめどに一般乗用車の高速道路におけるレベル4の走行と一般道におけるレベル2(部分運転自動化)の走行、高速道路におけるトラックのレベル4の物流サービスの実現を官民一体となって目指すこととしている。

目標達成に向けて実証実験もより加速していくものと思われ、大学などの研究機関のいっそうの参画や地方自治体の地域活性化策の一端としての動きなども活発化するものと思われる。

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