全文掲載:これがBOSCHがCES 2019で語った未来のモビリティ戦略だ 自動運転・AI・電動化・コネクテッド化…

ボッシュ北米法人のマイク・マンスエッティ社長



出典:ボッシュプレスリリース

2019年1月8日開幕の米ラスベガスにおける家電見本市「CES 2019」。ドイツの自動車部品大手のボッシュの展示の目玉は、自動運転化やネットワーク化、電動化の最新ソリューションを搭載したシャトル車両のコンセプト車両だ。

ボッシュは将来的に、予約やシェアリング、駐車、充電サービスなどのネットワーク化サービスを提供することを目指しており、今回発表するコンセプト車両と合わせて、ボッシュが考える自動車の未来の姿も発信する。


ボッシュ北米法人のマイク・マンスエッティ社長が1月7日に行った講演からは、こうしたボッシュの取り組みに対する熱意が感じられる。下記に全文を公開する。

■IoT “like a Bosch”とは、いったい何?

マルクス・ハイン(以下ハイン):ご来場の皆さま、おはようございます。お越しいただき、ありがとうございます。

マイク・マンスエッティ(以下マンスエッティ):私からもお礼申し上げます。 ここCESにおいて7回目となる私たちの記者会見で、これほど多くの席が埋まっているのを見るのは嬉しいことです。

ハイン:まったくです。ベガスの人たちは、7がラッキーナンバーであることに気付いているのかもしれません。


マンスエッティ:7がラッキーナンバーならば、ボッシュのCES出展7回目を記念して今晩ルーレットでもやりに行きましょうか!“ボッシュらしく”大当たりを狙えそうですね。

ハイン:たぶん、最後には“ボッシュらしくない”一文無しになってしまいそうですが…

「ボッシュらしい」と言えば、皆さんが先ほどご覧になったビデオについて話しましょう。実は、このビデオが、同じ名前の新しいIoTイメージキャンペーンの世界初公開となります。私たちは、それをCESで発表できることにとても興奮しています。なぜなら、IoT界の中心であるCESでの記者会見以上に発表に適した場所はないからです。それでもこのビデオについて疑問に思う方がいるかと思います。IoT “like a Bosch”とは、いったい何でしょうか?


本当に簡単なことです。最近、多くの企業が、自らをIoTのリーダー、そしてエキスパートと位置付けようと努めています。それには十分な理由があります。IoTの市場規模は、来年には前年比35%増の2,500億ドルに達する見通しです。そして2025年には、世界中に550億個のIoTデバイスが存在し、IoTへの投資額は15兆ドル近くになると見積もられています。

それでも、よく見れば分かるように、すべてのIoT企業が平等に創られているわけではありません。今回のキャンペーンで打ち出している「Like a Bosch」とは、私たちを際立たせるもの、他社とは異なる私たちのやり方を指しています。そのひとつは、私たちの技術革新がもたらす価値を重視している点です。結局のところ、私たちがソリューションの中心に据えるのは、テクノロジーではなく人間です。私たちが開発するすべてのソリューションの裏側には、「これによって誰の生活がどのように良くなるのか?」という問いがあります。これは私たちにとって、ソリューションを開発するにあたり「あると良いもの(nice-to-have)」ではなく、絶対になくてはならないものです。

ここCESでは、モビリティおよびホームという2つの主要分野について、まさにこの問いに対する最新の技術的な回答をいくつか展示しています。それらの詳細については、この後ご説明いたします。

マンスエッティ:「Like a Bosch」とは、お客様、コミュニティー、および環境に対する責任感であり、これが私たちの技術革新の原動力です。さらにボッシュは、お客様のデータを慎重に扱い、その使われ方をお客様自身が完全に管理できるようにすることへの確固たる決意をもっています。

本質的に、「Like a Bosch」とは、IoT関連事業においてボッシュのスローガンである「Invented for life」の精神をどのように実現するかを表しています。私たちは、人びとがネットワーク化された世界の中でもっと気楽に、効率的に、安全に暮らせるようにしたいのです。

しかし、これを実現するための最大のハードルは何でしょうか?私たちは、世界中の人々にこれを問いかけました。では見てみましょう…

まとめてみると、人々は、安心と安全を感じたい、環境への影響を最小限に抑えたい、もっと時間が欲しい、ストレスを減らしたいと思っているようです。これらは、私たちのソリューションがもたらす主なメリットです。私たちのソリューションには、IoTについてのボッシュ独自の視点が反映されています。

出典:ボッシュプレスリリース
■長年の実績を持つボッシュのIoT

ハイン:まさにそうですね。これまでの数年間で、ボッシュは、製造業の企業から世界有数のIoT企業へと成長しました。世界で40万人を超えるボッシュの全従業員のうち、27,000人がソフトウェアエンジニアで、その中の20%近くがIoTに特化したエンジニアです。私たちは、あらゆる領域の技術的専門知識を有しています。ハードウェアと製造に関する130年以上の経験に加え、現在では、IoTに必要な3つの要素であるセンサー、ソフトウェア、サービスのすべてにおけるリーディングプロバイダーです。

たとえば、ボッシュのミドルウェアであるBosch IoT Suiteは、今や850万個のセンサー、デバイス、機械をユーザーや企業アプリケーションとつないでいます。この数は昨年から40%近くも増えています。その中には400万台の自動車にが含まれていて、コネクテッドカーとOTA(Over-the-Air)アップデートを可能にしているのが、私たちのソフトウェア プラットフォームです。また、ボッシュが所有するIoTクラウドは、モビリティやスマートシティ、農業といったさまざまな分野の270件以上のIoTプロジェクトをホストしています。

シリコンバレーがデジタル世界をつなぐとすれば、ボッシュは現実世界をつなぐと言えます。しかし、それだけではありません。私達は、最も根本的なレベルでのIoTも可能にします。

マンスエッティ:そのとおりです。私たちは、マイクロエレクトロメカニカルセンサー(MEMS)の世界有数の生産者です。1995年以来、ボッシュは、100億個以上のMEMSを生産してきました。半導体は極めて急速に成長している市場です。昨年の全世界の売上高は、およそ4,500億ドルに達しました。なにしろ最近の自動車は、半導体がなくては走りません。こうしたセンサーは、車両が減速、加速、または横滑りしているのかといった、ハンドリングに関する重要な情報を車両に提供します。横滑り防止装置ESC(エレクトロニック スタビリティ コントロール)がこの情報を利用し、乗用車やトラックだけではなく、二輪車についても進路を安全に維持し、車線内にとどめます。

さらに、IoTの主要技術であるセンサーの応用範囲は、自動車分野をはるかに超えて広がっています。ボッシュのMEMSセンサーは、全世界のスマートフォンの半分以上に搭載されているほか、数百万のフィットネス・トラッカーやスマートホームデバイスにも使われています。

MEMSセンサーのさらなる可能性を開くために、私たちは、カリフォルニアに本拠を置くSiTime社と共同で次世代のMEMSタイミングテクノロジーを開発しています。安定した信頼できるMEMSタイミングデバイスは、次世代のエレクトロニクスをうまく作動させるために必要とされ、5G通信の高速化やIoTデバイス用バッテリーの長寿命化、ドライバー アシスタンス システムの信頼性向上などを可能にします。

ハイン:IoTは、テクノロジーの最先端領域のひとつである人工知能も開拓します。私たちは、このテクノロジーに大きな可能性を見いだしています。たとえば、AIにより世界中の交通事故死者数を減少させる、工場のエネルギーコストを削減する、農業をもっと環境に優しいものにする、私たち自身と生活空間の安全、安心、健康を維持する。私たちは、AIがこうしたソリューションの鍵になると信じています。

私たちが、AI研究の最前線にいるのはそのためです。私たちのAI研究センターは、ドイツのシュトゥットガルトの本社に近いレニンゲン、インドのバンガロール、ペンシルベニア州のピッツバーグ、およびシリコンバレーのサニーベールの4つの拠点で、170人のエキスパートを雇用しています。私たちは、AIのエキスパートを少なくとも400人まで増やすことを計画しています。私たちの狙いは、10年以内にすべてのボッシュ製品が、AIを組み込まれているか、AIを用いて生産または開発されるようになっていることです。

マンスエッティ:たとえば、私たちは現在、AIをカメラベースの火災検知に応用しています。ここでは、セキュリティカメラが、画像解析を用いて数秒以内に火災を識別します。これは、従来の火災検知システムや煙検知システムよりもはるかに速やかに火災を検知することができます。従来のシステムでは、多くの場合、熱や煙がシステムのセンサーに到達するまでに貴重な数分間が失われていました。まさに、「Invented for life」を表すテクノロジーの良い例です。

私たちは、AIの分野でもパートナーシップに積極的です。たとえば、ピッツバーグに本拠を置くAstrobotic Technology社と提携して、早ければ今年の5月に実験的センサー技術を国際宇宙ステーション(ISS)に送ります。ISS上では、機械学習を利用して機械から出る騒音を解析する予定です。目標は、修理や交換を必要とする箇所がないかを故障の前に識別することです。

次に、コネクテッドモビリティとスマートホームの分野で、私たちが展示している具体的な技術革新のいくつかを見ていきましょう。

出典:ボッシュプレスリリース
■コネクテッドモビリティ – Move “like a Bosch”

ハイン:まずはモビリティを見てみましょう。世界中で、「出発地点から目的地まで移動」する方法が根本的なレベルで変化しています。ボッシュでは、できる限りAccident-free(交通事故のない)、Stress-free(ストレスのない)、Emission-free(排出ガスのない)モビリティのビジョンへ向けて取り組んでいます。同時に、それを誰でも利用できる低価格なものにしたいと考えています。これを実現するために、私たちは、自動車分野における技術革新のリーダーシップを生かして、未来のモビリティのための最先端テクノロジーとビジネスモデルを開発しています。

私たちは、人々が将来どのように移動したいのかを街角で尋ねました。

これが人々の望んでいることです。それについての私たちの見解をお話ししましょう。想像してください。今から数年後です。あなたは市街地へ買い物に出かけたいと思っています。そこで、スマートフォンを取り出し、シャトルを呼ぶアプリを起動します。ボタンを押すと、シャトルの予約と運賃の支払いが完了します。数分後、シャトルがドアの外にやって来ます。

別のボタンを押すと、車両のロックが解除され、あなたは車内に乗り込みます。乗客はあなただけですが、自動音声があなたの名前を呼んで出迎え、所要時間を伝えます。Eメールをチェックしたりニュースを読む時間は十分にあります。

シャトルは電気自動車のため、最高速度でも極めて静かです。路上には多くの車両がいますが、それらの多くは同じようなシャトルです。どこにも渋滞はありません。なぜなら、すべての車両が、車両同士やインフラとの間で常に通信を行い、それによって交通の流れが規則正しく維持されるからです。

あなたは知らないうちに目的地に到着しています。車両は、ショッピングセンターの入口前の降車場であなたを降ろします。あなたは下車してからスマートフォンの別のボタンを押し、車両を駐車場まで自走させます。車両は、あなたから再び呼ばれるまで駐車場で待機します。

数年前なら、市街地の交通の中を同じように移動しようとすれば、あなたは疲れ果て、イライラして、おそらく予定より遅れたでしょう。しかし現在では、買い物に向かうシャトルの中で、くつろいで今日のニュースを読んでいます。

マンスエッティ:このシナリオは、未来の話に思われるかもしれませんが、実はすぐそこまで来ています。米国、欧州、および中国だけでも、早ければ2020年に約100万台のオンデマンドシャトルバスが走っていると予測されています。2025年には、その数は250万台に増加する見込みです。しかも、そうした車両の多くは、完全電気駆動かつ完全自動運転になるでしょう。この新しい種類の輸送手段は、多くのメリットをもたらすでしょう。あらゆる年齢の都市生活者が、拡大した移動の自由を享受するだけではありません。シャトルによりエコロジカルフットプリントは削減され、すべての道路利用者にとって移動はより安全なものとなり、改善された交通の流れは、すべての人にメリットをもたらすでしょう。

このような相乗り型自動運転都市シャトルの実現に必要なテクノロジーの大半を、ボッシュはすでに保有しています。私たちは、そうしたシャトルを将来市街地で走らせることに取り組んでいます。さらに、シャトルを完全に電気駆動にして、インターネットに完全に接続させることを目指しています。それを証明するため、この種のモビリティの予想される姿を実際のコンセプトシャトルとして私たちのブースに展示しています。

このコンセプトシャトルのあらゆる部分には、コンパクトで高効率で低価格の電動パワートレインeAxleから、自動運転のための360度サラウンドセンサー、V2X(Vehicle-to-everything:車とモノ・インフラの接続)のための通信コントロールユニット、最先端のビークルコンピューターに至るまでの既存のボッシュのソリューションが含まれています。

また、私たちがパーフェクトリーキーレスと呼ぶシステムも搭載しています。CTA(全米民生技術協会)はCESの主催団体で、ショーの開催に先立ち、多くの製品カテゴリーにおいてイノベーションアワードを発表)から表彰されたこのテクノロジーは、スマートフォンのボタンを押すだけで、車両へのアクセス許可を取得したり与えたりすることができます。私たちのシステムでは、各自のスマートフォン上でデジタル指紋認証を使ってユーザー認証を行います。これは、すでに市販されているキーレスエントリーシステムと比べ、セキュリティ面で大きな利点があります。今回のCESでは、フォード マスタングを使ったパーフェクトリーキーレスの個別デモも行っています。ぜひご自身でお試しください。

出典:ボッシュプレスリリース
■モビリティサービスの重要性

ハイン:しかし、このビジョンを実現させるには、高度なハードウェアとシステムを開発するだけでは不十分です。未来の移動に関しては、サービスがモビリティの中心的要素となるでしょう。その市場規模は、世界全体で毎年25%以上増加し、2022年には1,400億ユーロへ成長すると予測されています。ボッシュは、デジタルモビリティサービスの重要性を確信し、その開発と販売を専門とする組織を立ち上げました。

私たちの現在の製品ポートフォリオは、走行ルートの状況をドライバーにリアルタイムで伝える路面状況サービスから、フリート車両の整備時間や故障を最小限に抑えるのに役立つ予知保全、自動バレーパーキング、車両の能力を向上させてセキュリティを確保するOTA(Over-the-Air)ソフトウェアアップデートまで、あらゆるものを取り揃えています。

特に注目に値するのが、電気自動車向けに新たに開発した充電のためのコンビニエンスチャージングサービスです。このサービスは、航続距離に関する情報をリアルタイムに提供し、充電を提案します。これがあれば、未来の相乗り型電動シャトルの充電が、今日、従来の車を給油するのと同じくらい簡単になるでしょう。

私たちが提供するサービスの例として、今年買収したアメリカの企業SPLTによって提供されているウェブベースのライドシェアサービスがあります。このサービスは、企業の従業員同士でライドシェアができるようになるプラットフォームです。従業員だけでなく、他の顧客層へもこのサービスを提供することを検討しています。例えば、SPLTは先日ミシガン州政府から農村地域のお年寄りにライドシェアサービスを提供する実証実験の助成金を支給されました。

それと、ボッシュとMojio社とのパートナーシップから生まれた最初のサービスについて発表いたします。同社は、コネクテッドカー向けのクラウドプラットフォームとソフトウェアソリューションを提供しています。私たちの高度な衝突検知アルゴリズムと緊急通報サービスにMojioのクラウドプラットフォームサービスを組み合わせることで、車両が直接クラウドに接続され、事故の際に救急隊員がより早く現場に到着できるようになるでしょう。さらに、このソリューションは、どのような種類の車両にも展開することができます。

もちろん、今後、私たちが展示しているようなシャトルが実現可能になる前に、まだ乗り越えるべきひとつの最後の課題があります。それは、複雑な都市環境に対応する自動運転テクノロジーです。実は、私たちは、この課題もほぼ克服できるところまできています。私たちは、2020年代のうちに市街地におけるドライバーレス車両の走行を実現させるためにダイムラー社と提携しています。2019年の後半早々には、カリフォルニア州サンノゼの特定のルートにおいて、自動運転車両を用いたオンデマンド ライドシェアサービスの実証実験を計画しています。このプロジェクトの実地試験により、市街地での交通の流れと交通安全の改善に一歩近づくでしょう。

マンスエッティ:それと同時に、この分野におけるパートナーシップと協働の価値を示すことにもなります。私たちの専門知識を集結させることで、モビリティに真の革命をもたらすことができるでしょう。 このことは、ボッシュが伝統的な自動車メーカーや、テスラ、Rivian(リビアン)、Byton(バイトン)といった新興メーカー、さらにはサービスプロバイダーや市政府などのまったく新しい顧客とどのように協働するかにも当てはまります。莫大なビジネスチャンスをつかむために、ボッシュは、シリコンバレーに専用の部門を設立しました。この新しい部門を通じて、世界中の新しいモビリティプレイヤーとの協業を強化していきます。

同じくパートナーシップの話題として、ボッシュは先日、イギリスに本拠を置くCeres Power(セレス・パワー)社と将来有望なパートナーシップを結びました。同社は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)テクノロジーの開発における有力企業です。私たちは、ネットワーク化された分散型の低エミッション電源の基礎となる次世代燃料電池の利用を共同で探究しています。車両充電ステーションなどの大規模施設での利用も、この次世代燃料電池の活用方法のひとつです。それ以外にも、商業ビルや産業用途、データセンターへの電源供給に利用できるでしょう。IoTには、安定的なエネルギー供給が不可欠です。安定性を促進しながらエネルギーシステム全体のCO2削減に貢献するうえで、燃料電池が重要な役割を果たすことは間違いありません。たとえば、米国のデータセンターは、米国全土の電気使用量の約2%を占めており(出典:米国エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所)、将来、燃料電池がデータセンターを電力網から完全に切り離すことを可能にするかもしれません。

(編注:記事の方向性上、ホームIoTの内容はカットしています)

■【まとめ】ボッシュは今まさに従来の姿から脱皮しようとしている

以上がボッシュ北米法人のマイク・マンスエッティ社長の講演内容だ。日本のデンソーと自動車部品分野で激しい開発・営業競争を繰り広げてきたボッシュは、IoTやAI、コネクテッド技術などの面を強化する動きをみせ、モビリティ業界において一層存在感を高めていく可能性が大きいと言えるだろう。


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