自動運転が実現すると、自家用車における移動時間の使い方が大きく変わると言われている。オーナーは運転操作から解放され、車内における移動時間を自由に過ごすことができるからだ。自由な空間と化す自動運転車での生活時間も長くなり、クルマがより身近なパートナーになるかもしれない。
そして自動運転車をパートナーとして考えた場合、スマートスピーカーのような機能が備わるとより便利なものになる。乗る人に合わせた情報が提供してくれるからだ。まさに自動運転車をパーソナライズ化・パートナー化するのが車載スマートスピーカーであると言える。
では車載スマートスピーカーがどのようなデータを教えてくれれば、移動時間がより有効なものになるのか。一考してみよう。
記事の目次
■その日のニュースをざっとおさらい
毎朝、新聞やインターネットなどでその日のニュースをチェックする人は少なくない。少しでも時間を節約しようと朝食時に新聞を広げたり、通勤電車の中でスマートフォンとにらめっこしたりする人は意外と多いのではないか。
マイカー通勤の場合は基本的にスマートフォンを閲覧することができないが、自動運転車であれば各メディアと連携してニュースデータを収集し、ディスプレイや音声で逐一提供してくれる。
朝の通勤時間帯には前日のニュースやその日のトピックまとめ、夜の退勤時間帯にはその日のニュースや翌日のトピックまとめといった具合で、最新の情報を取りまとめておさらいすることも可能だ。
■趣味やビジネストピックも
自動運転車はニュースだけでなく、オーナーの趣味嗜好や職種などに応じた特定のトピックも提供してくれる。自ら登録したチャンネルをはじめ、事前に入力したオーナーのデータや行動データなどをもとにオーナーが欲する情報をAIが自動判別し、提案してくれる。
例えば、証券マンの場合は金融や経済情報を、猫好きの主婦の場合は猫情報を、体を動かすことが好きな人には体験可能なスポーツ情報、自動運転が好きな人には自動運転ラボを……といった具合に、オーナーが求める情報を提供・提案してくれるのだ。
スマートフォンのニュースアプリ「SmartNews(スマートニュース)」の自動運転バージョンのようなもので、カテゴライズされたさまざまなニュース・トピックが膨大なデータとして扱われ、欲しい情報を選別しやすくなる。
毎日ルーティンのようにスマートフォンなどで収集しているカテゴリ情報も、自動運転車であれば移動時間を活用して受動的に収集することが可能になるのだ。
■天気予報を教えてくれる
自動運転車は、天気予報についても教えてくれる。現地はもちろん、移動先の予報も知らせてくれる。移動に用いられるクルマだからこそ移動先の天気情報は有用で、移動にかかる所要時間なども考慮に入れた情報を提示することが可能だ。
なお、自動運転車は天気にまつわるデータの収集にも有効活用することができる。全国各地を走行する自動運転車両がその地の気温や天候情報などを観測・収集して共有することで、リアルタイムな観測データが出来上がる。各地の桜などの開花情報や積雪情報なども共有できそうだ。
トヨタとウェザーニュースは2019年11月、気象データとコネクテッドカーから得られる車両データを活用して気象観測・予測の精度向上などを目指す共同研究の一環として、ワイパーの稼働状況と気象データから道路やその周辺の状況を把握する実証実験を東京都、大阪府、愛知県の3都府県で開始した。
各車両にさまざまなセンサーを取り付けることで天候や花粉、PM2.5などのリアルタイムデータを広域的に収集することができる。自動運転車に限らずコネクテッド化された車両であればこういった取り組みは可能で、今後気象事業者や研究機関などとの連携が進む可能性も高い。
こうしたデータも収集・分析した後にフィードバックされ、各オーナーに有益な情報がもたらされるのだ。
【参考】自動運転車によるデータ収集については「桜前線も計測!”データ収集装置”としての自動運転タクシー(深掘り!自動運転×データ 第2回)」も参照。
■位置情報に紐付いたお得な情報
自車位置を測定しながら走行する自動運転車にとって、「位置情報」は欠かせない存在となる。この位置情報と各地の観光や商業施設を紐づけることで、自動運転車が走行する地域のお得な情報をリアルタイムで発信することができる。
移動を伴う自動運転車ならではの情報として、各種情報が広告として扱われる可能性もありそうだ。観光地の旬な話題(PR)をはじめ、飲食店のデジタルクーポン、複数の観光施設や店舗などを結び付けたデジタルクーポンなどその地域ならではの情報をリアルタイムで提供できるのだ。
現在、タクシー業界を中心にデジタルサイネージが普及し、新たな広告媒体として注目が高まっているが、自動運転が一般車両まで浸透した際、その情報発信力は莫大なものになる。
新たなメディア媒体となる自動運転車を活用した新メディアが次々と誕生し、新たな地域広告媒体として活躍する可能性は十分考えられそうだ。
【参考】デジタルサイネージについては「1000億円規模へ!デジタルサイネージ広告、最大市場は”交通” タクシーや自動運転車でさらに」も参照。
■オーナーの消費行動から買い物を提案
キャッシュレス決済の普及も著しく、スマートフォン一つで決済できる店が急増している。こうした決済データは決済サービス会社やスマートフォンなどで蓄積することが可能だが、こうしたデータを自動運転車に活用することも考えられる。
例えば、日常的・定期的に購入している日用品の決済情報から推測し、「トイレットペーパーがまもなく切れる可能性はありませんか?」「購入可能な最寄り店舗はA店です」――などとパーソナライズ化された提案してくれれば、買い忘れを防止することができる。
また、定期的に牛乳と食パンを購入している場合、「A店では250円、B店では280円で購入可能です」――など、店舗の販売情報と紐づけて提案することも可能になりそうだ。
もちろん、オーナー個人のプライバシーに関わる情報のため決済情報などの提供は任意となる。特定の商品・サービスのみ提案してくれるような機能も可能だろう。
■移動時間でできることを提案
自動運転車は、目的地までの所要時間を限りなく正確に算出することが可能になる。一定速度でぶれることなく走行し、信号機や渋滞情報など交通にまつわるリアルタイムデータを解析しながら走行するからだ。
こうした移動時間とオーナーの趣味嗜好データをもとに、移動時間内で完結する各種サービスなどを提案する機能も実装できそうだ。
アニメやドラマ、映画の視聴、ゲームといったエンターテインメントサービスをはじめ、ビジネススキルを上げる講座や習い事などの講座も提供可能だ。通信教育関連企業と提携し、移動する通信教育媒体としての活用方法もできそうだ。
■【まとめ】生活空間として新たな可能性秘める自動運転車
運転操作から解放された車内は、「自宅(自室)」としての性質と「メディア」としての性質を備えながら「移動」することが可能になる新たな空間となる。今まで自宅で行っていたことやパソコン・スマートフォンで行っていたことなどを、移動しながら行うことが可能になるのだ。
こうした新たな空間を有効活用するには、さまざまな情報・データが欠かせない。AIや各種センサーを備えた自動運転車は、時にデータ収集係として、時にコンシェルジュとして多くの場面で活躍する。生活空間として新たな可能性を秘めた自動運転車。有効活用を巡る研究もまだまだ飛躍しそうだ。
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