オリンピック×自動運転、延期でどうなる?公表済み予定まとめ

トヨタYUIプロジェクトや公道実証は?





新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、東京2020オリンピック・パラリンピック(以下東京2020大会)の延期が事実上決定した。延期後の日程は今後詰めることになるが、「2020年以降、2021年夏よりは遅くならない時点に変更する」旨が合意されており、1年程度の延期となる公算が高い。







五輪史上初となる延期措置は、大会の主人公である出場予定選手の調整をはじめ、会場の手配や観覧予定者、ボランティアの調整、選手村の運用、各国際大会との調整など悩みの種は多く、経済への影響も宿泊業やツアー業、警備業、交通関連産業などを中心に計り知れないものとなる。

関連イベントもその行く末に大きく左右されており、聖火リレーをはじめ各地で計画が進められていた事業もその余波を受け、延期や中止を余儀なくされているケースが多い。

自動運転関連では、東京2020大会内で活躍する自動運転車や、大会に合わせる形で実施される実証実験などが予定されており、今後の動向が気になるところだ。

今回は、新型コロナウイルス、そして東京2020大会の延期が自動運転関連事業に及ぼす影響について探ってみよう。

■自動車業界における新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスの影響は、当然東京2020大会の延期に留まらない。自動車関連のイベントでは、2020年3月開催予定だったスイスのジュネーブモーターショーが中止に追い込まれたほか、4月開催予定の中国・北京モーターショーや米・ニューヨークモーターショー(ニューヨーク国際オートショー)もすでに延期を決定している。

BMWとイタリアのホテルが主催するクラシックカーの一大イベント「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ」も延期を決定したようだ。

国内では、2月開催予定の東北モーターショーと3月開催予定の大阪モーターサイクルショーがそれぞれ中止となったほか、モータースポーツ関連のイベントも中止や延期が相次いでいる。

生産現場でも国内外で工場の稼働停止が相次いでおり、予断を許さぬ状況が続いている。

■2020年夏頃×自動運転関連事業
ワールドワイドパートナーのトヨタ、五輪会場で最先端技術を活用

オリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナーを務めるトヨタは、大会専用開発車両を含む電動車などを総動員し、従来の車両供給の枠を超えたモビリティソリューションの提供を行うとしている。

具体的には、燃料電池車(FCV)「MIRAI」や「プリウスPHV」、ハイブリッド車などをはじめ、東京2020専用車の「APM」や東京2020専用仕様の「e-Palette(イーパレット)」、「TOYOTA Concept-愛i」といった電気自動車(EV)など約3700台を提供し、会場間の移動や会場内の移動、選手村内の移動をサポートする予定だ。

自動運転レベル4相当の技術を搭載したイーパレットは、選手村に十数台導入され、選手村内の巡回バスとして大会関係者や選手の移動をサポートする。各車両にオペレーターが搭乗し、自動運転による運行をモニタリングするとともに、各車両の運行状況を統合的に管理するシステムも提供するとしている。

TOYOTA Concept-愛iは、オリンピック聖火リレーの隊列車両やマラソン競技などの先導車として数台導入するほか、大会期間中にMEGAWEB及びお台場・豊洲周辺の公道で体験試乗を実施する予定だ。

また、大会ではコミュニケーション機能や遠隔操作機能などを備えた各種ロボットが、来場者のサポートや競技支援などを行う。自律走行や運営スタッフの追従走行を行いながら槍やハンマーなどの投てき物の回収・運搬を行うフィールド競技サポートロボット(FSR)も登場する。

【参考】オリンピックに導入予定のトヨタ車両については「「トヨタ×オリンピック」!登場する自動運転技術や低速EV、ロボットまとめ」も参照。

自動運転モビリティLQを体験~トヨタYUIプロジェクトTOURS 2020~

トヨタは、AIエージェント「YUI」を搭載した自動運転モビリティ「LQ」を活用し、東京2020大会を含む2020年6~9月の期間、お台場・豊洲周辺で未来の移動体験を行うイベントを実施する予定だ。

「TOYOTA Concept-愛i」で表現した未来の愛車体験コンセプトを忠実に実現した自動運転車で、米国でAIや自動運転・ロボティクスなどの研究開発を行うToyota Research Institute(TRI)と共同開発したAIエージェント「YUI」を搭載している。

イベントでは、YUIとのコミュニケーションをはじめ自動運転レベル4相当の自動運転や無人自動バレーパーキングシステム、AR-HUD体験ドライブなど、未来の移動を体験することができる予定だ。

【参考】LQについては「トヨタ「LQ」を徹底解説!自動運転時代の愛車に」も参照。

自工会加盟メーカー10社が共同で公道実証

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」の取り組みの一環として、東京臨海部において実証実験を実施するために必要な交通インフラの検討や整備が進められている。

臨海副都心地域や羽田空港地域においては、高精度3次元地図情報やITS 無線路側機による信号灯火色情報を提供する環境整備、羽田空港と臨海副都心を結ぶ首都高速道路においては、ETC2.0路側無線装置によって各種情報を自動運転車に提供する環境構築、羽田空港においては、公共交通システム用の磁気マーカーや公共車両優先システム(PTPS)、仮設バス停、バス専用レーンなどの整備がそれぞれ進められている。

これらの設備を活用した実証に国内外の28 機関が参画し、実交通環境下で国際的にオープンな産学官連携の公道実証実験を行うこととしている。実証は2019年10 月から2020年度末までの期間に随時行うほか、自動運転に対する社会的受容性の醸成に向け東京2020に先立つ2020年7 月に、日本自動車工業会の協力のもと、自動運転車を体験できる試乗イベントなどの開催を計画しているようだ。

日本自動車工業会の発表では、自工会加盟10社(スズキ、SUBARU、ダイハツ、トヨタ、日産、日野、本田技研、マツダ、三菱、ヤマハ発動機)が参加し、約80台規模の自動運転実証を行うとしている。

具体的には、2020年7月6~12日までの7日間にわたり、自動運転レベル2〜4相当の車両を活用し、羽田空港地域でバスをモデルケースとした実証やデモ、羽田空港から臨海副都心・都心部において、高速道路でのインフラ連携の実証やデモ、臨海副都心地域において、交通量の多い混合交通の公道における自動運転や緊急停止、多様なタイプの自動運転車両による実証・デモをそれぞれ行うとしている。

2020年夏めどに自動運転タクシーのサービス実証に着手

ティアフォーとJapanTaxi、損害保険ジャパン日本興亜、KDDI、アイサンテクノロジーの5社は2019年11月、自動運転タクシーの事業化に向け協業を始めることを発表した。トヨタのユニバーサルデザイン仕様の「JPN TAXI」に自動運転システムを導入し、配車アプリや地図データ、サポートセンターを含むサービス実証実験を共同で進めていく。

当面の活動として、最大10台の自動運転タクシーを開発し、東京都内で2020年夏頃のサービス実証に向けた準備を進めていく計画を発表している。具体的な日程や走行ルートなどは未確定だが、計画通りであれば、当初予定の東京2020大会の前後になる見込みだ。

【参考】自動運転タクシーに関する取り組みについては「トヨタ製「JPN TAXI」を自動運転化!ティアフォーやJapanTaxi、無人タクシー実証を実施へ」も参照。

■東京2020大会延期の影響

東京2020大会の延期は、各事業にどのような影響を及ぼすのか。五輪会場におけるトヨタの取り組みが延期となるのは必然的だが、YUIプロジェクトはどうだろうか。仮に、同プロジェクトが東京2020大会との連動を意識した仕掛けとなっていれば、同様に延期せざるを得ないことになる。

また、多くの一般参加者の来場を想定したものであれば、情勢を踏まえ早期に延期を決断する可能性もありそうだ。

自工会による公道実証は、実証そのものは計画通り行われる可能性が高いが、一般参加型のコンテンツなど、一部が中止されることも考えられる。

ティアフォーらの自動運転タクシーの実証も、一般参加者を搭乗させる場合は非常に神経を使うことになる。一部の実証を制限するか、あるいは細心の注意を払ったうえで実施する形になりそうだ。

いずれの事業体も2020年3月26日時点で各事業に対する措置の公式アナウンスは発表されていない。五輪延期が正式決定した今まさに対応に追われているところだろう。

自動運転技術に関する純粋な実証実験は、本来であれば五輪の延期や新型コロナウイルス感染症の影響をそれほど受けず、予定通り実施できるものと思われる。ただ、不特定多数の参加・来場を見込む参加型の実証の場合、国内の情勢を踏まえ一考する必要があり、判断が問われることになりそうだ。

■五輪延期を好機に変える逆転の発想

五輪の延期をはじめ自粛を余儀なくされる現在の環境は、経済や社会生活に暗い影を落としている。とは言え、落ち込んでばかりもいられない。言葉は悪いかもしれないが、これをチャンスに変えていく思考も必要となる。

例えば、自動運転は現在進行形で日進月歩の進化を遂げている開発領域であり、延期される1年のスパンによって大幅な進化を遂げる可能性がある。制度面でも何らかの進展があるかもしれない。

五輪を目標の一つに据える企業においては、これを好機と捉える柔軟な思考が生きてくるはずだ。

ZMP:総理との約束で五輪までに自動運転を実現

自動運転開発ベンチャーとして自動運転車をはじめ一人乗りロボットや物流支援ロボット、宅配ロボットなど事業領域を拡大し続けるZMPは、東京都が実施する「自動運転技術を活用したビジネスモデル構築に関するプロジェクト」に採択され、日の丸交通らとともに自動運転タクシーの開発やMaaS構築などを進めている。

同社の谷口恒社長は2015年11月に安倍首相と話す機会があり、「2020年のオリンピックを目指して自動運転を進めます」と宣言したという。

この約束を心に期し、宣言を実現するために開発と実証を重ねてきた谷口社長は、公道走行が解禁されないレベル4の実用化に向け空港の制限区域に着目するなど試行を重ねている。

こうした状況において、1年の延期は好機ととらえることができる。実証を積む期間が1年増えたことにより、新たな可能性を見出すことができるかもしれない。同社の今後1年の動向に要注目だ。

【参考】ZMPの取り組みについては「「五輪までに自動運転実現」 ZMP社長を突き動かす総理との約束」も参照。

CARTIVATOR&SkyDrive:聖火点灯デモを独自目標に

空飛ぶクルマの開発を手掛ける有志団体CARTIVATOR と、実用化に向け設立したSkyDriveは、独自目標として東京2020大会の開会式における聖火点灯デモを掲げていた。

現在この目標は公式サイトのマイルストーンには載っていないが、大会の1年延期によってその目標をさらに追いやすい形となったはずだ。

同社は2019年12月に有人飛行試験を開始するなど着実にステップアップを図っており、2020年7~8月にはデモフライトを実施する予定だ。技術力を大きく表舞台に披露する絶好の機会であり、社会受容性をはじめとした機運もいっそう高まる可能性がある。

空飛ぶクルマの実用化は、いわば国策でもある。国を挙げて取り組んでいる東京オリンピックという大舞台で、和製空飛ぶクルマの活躍をぜひみてみたいものだ。

【参考】SkyDriveの取り組みについては「ついに「空飛ぶクルマ」に人が乗った!SkyDriveが有人試験スタート」も参照。

■【まとめ】自動運転開発は粛々と 医療分野への自動運転技術の応用にも期待

新型コロナウイルスの世界的流行を早期に食い止めなければならない観点と、相反する経済や生活への影響も最小限にとどめなければならない観点が世論としてぶつかり合っているのが歯がゆい状況だが、現実問題として多くの人が一堂に会する大型イベントは今しばらく延期や中止の措置が取られることになるだろう。

社会や経済全体が停滞するような重い空気が流れているが、ただ沈黙していても何も始まらない。通常の自動運転技術の開発や実証はこのような状況下でも可能な部分は多い。粛々と研究開発を進めるのみだ。

また、世界では自動運転技術やMaaS(Mobility as a Service)を医療分野に活用する研究も進められている。医療現場がパンク状態となっている現在においては門前払いを食らってしかるべき話だが、ウイルス収束への道が開けてきた段階で、自動運転ロボットの医療分野における研究を本格化し、実証に着手するタイミングとしては悪くないものと思われる。

細心の注意を払っていても医療関係者が感染してしまうほど感染力が強いウイルスに対し、無人で走行可能な自動運転技術が役立つ場面が必ずあるはずだ。東京2020大会に延期とは無関係だが、将来を見据えた研究開発に期待したい。

【参考】医療分野における自動運転技術の活用については「自動運転・MaaSは「医療」にも貢献する」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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