「自動運転系」と呼ばれる各社は具体的に何やっているのか?

ティアフォーやSBドライブなど8社をピックアップ

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技術の社会実装に向け、過熱し続ける自動運転業界。新規参入も後を絶たず、さまざまな最新技術やサービスに関するトピックが飛び交っている。

中には、今まで耳にしたことのない技術が盛りだくさんで、各社が実際に何を開発しているのか?――を理解しにくいケースも多々あるように感じる。

そこで今回は、自動運転業界のど真ん中にいる企業に焦点を当てて各社の取り組みを解説しつつ、今一わかりにくい自動運転の謎に迫ってみよう。

■ティアフォー:自動運転の基本OSを開発

ティアフォーは、自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」の開発・普及を目指す国内スタートアップで、ソフトウェア開発を主力としている。

オートウェアは、パソコンで言うところのOS(オペレーティングシステム)で、自動運転システムを構成するさまざまなソフトウェアを統括するソフトウェアとなる。

このオートウェアはオープンソースのソフトウェアとして公開しており、自動運転開発企業はコストを抑えながら効率的にシステム開発を進めることが可能になる。2018年12月には、オートウェアの業界標準化を目指す国際業界団体「The Autoware Foundation(AWF)」の設立を発表している。

OSのオープンソース化の効果は、スマートフォン向けのOS「Android」を例に挙げるとわかりやすい。オープンソース化することで各種アプリを開発しやすい環境を提供し、多くの開発企業が乗っかる構図だ。その結果としてAndroid上で活用できるさまざまなサービスが誕生し、業界におけるシェアを伸ばすとともにOSとしてより優れたサービスを提供する環境を構築できるのだ。

ティアフォーの加藤真平会長は、自動運転ラボの過去の取材で「単にオープンソースソフトウェアであるだけではシェア拡大は難しく、Androidでいう主要アプリ(Google MapsやGMailなど)のようにオートウェアも遠隔運転や地図配信といったサービスを紐づけていかないといけない」と話している。

自動運転に必要とされる機能をはじめ、将来的に求められる機能なども踏まえた拡張性や汎用性の高いOS開発が求められているのだ。

なお、同社はこのほかにもモビリティサービス用ウェブプラットフォーム「Web.Auto(ウェブ・ドット・オート)」の提供や、自動運転技術を集約した量産型のシステムユニット「AIパイロット」の提供なども行っている。

AIパイロットは、低速自動運転車の構築に必要となるセンサー(LiDAR、カメラ、IMU、GPSなど)やコンピュータデバイス、各種ハードウェア及びソフトウェアをすべて一体化した製品で、オートウェアがインストールされたコンピュータデバイスと接続することで、短期間で自動運転車を構築することが可能になる。

【参考】ティアフォーについては「ティアフォーの自動運転戦略まとめ Autowareとは?」も参照。加藤氏のインタビューについては「オープンソース「歴史上必ず勝る」…自動運転OSの第一人者・ティアフォー加藤真平氏」も参照。

■ZMP:製品化・パッケージ化した商品を提供

国内ロボットベンチャーとして名高いZMP。自動運転車両プラットフォーム「RoboCar」をはじめ、物流支援ロボット「CarriRo」シリーズの製品販売などが目立つが、その根底にあるのはソフトウェア開発力とロボット工学だ。同社が開発したソフトウェアを組み込み、物理的に製品化・パッケージ化した商品を提供しているのが特徴だ。

RoboCarは、市販車両にプログラムによって走行制御が可能なシステムを組み込んだ自動運転開発向けの車両プラットフォームだ。車両プラットフォームというと正体があいまいになるが、いわば車両そのものだ。

コンピューター制御ができる機能と開発環境を組み込んだ実車により、システムの動作検証をはじめセンサーやデバイスの開発、通信、新たなモビリティサービスの検証など、さまざまな実証実験に役立てることができる。

ステレオカメラなどのセンサー類も製品化しているが、これはソニー製の高感度CMOSイメージセンサーを活用してユニット化したものだ。CMOSそのものを開発しているわけではなく、既製品を自動運転用途に特化した新たなハードウェアに改造しているのだ。RoboCar同様、従来の自動車そのものを開発・製造するのではなく、自前のソフトウェア開発力やロボット工学を付加価値として、自動運転の開発に向けた新たな製品を生み出しているのだ。

なお、RoboCarシリーズに自動運転アルゴリズムの実行環境として搭載されている自動運転用のソフトウェアプラットフォーム「IZAC(アイザック)」の提供も行っており、アイザックが持つ制御アルゴリズムをさまざまな車両へ応用することで、自前の車両やロボットなどを自動化することもできるという。

【参考】ZMPについては「ZMPの自動運転戦略まとめ 技術や製品、サービスは?」も参照。ZMPの取り組みについては「自動運転ベンチャーのZMP、RoboCar Mini EV Busの実証実験を実施」も参照。

■SBドライブ:導入・運用コンサルやモビリティサービスの開発

ソフトバンクグループ内の自動運転関連ベンチャーであるSBドライブは、自動運転技術の導入や運用に関するコンサルティングをはじめ、旅客物流に関するモビリティサービスの開発・運営を手掛けている。

現在の主力業務は、仏Navya(ナビヤ)製の自動運転シャトルバス「NAVYA ARMA」を活用した移動サービスの実現を目指す取り組みと、遠隔運行監視システム「Dispatcher(ディスパッチャー)」の導入促進などだ。

ディスパッチャーは、ドライバーの代わりにバスの運行状態を遠隔監視するシステム。同社が開発したものだが、システム開発を手掛けるシステナがソフトウェア開発支援を行っており、システムのどこからどこまでを自社開発したかは定かではない。

確かに言えることは、SBドライブはソフトウェア開発が主体ではなく、自動運転技術の社会実装を推し進めるサービスの展開や提案などが主力ということだ。自動運転社会に必要とされるシステムやサービスを企画し、世の中に提案・運営していく企業ということだ。

参考までに、同社は千葉市美浜区の公道で実施される自律走行バスの実証実験において、NAVYA ARMAの提供と道路のデータ収集やルート設定などの技術面における走行準備、及び関係者との調整を担っている。また、上士幌MaaSプロジェクトの実証実験では、実証実験の企画と運行管理プラットフォームの提供を担っている。

■NIVIDIA:強みの画像処理能力でセンサー処理に貢献

米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)は、半導体やAI技術を駆使したGPU製品の開発・販売を主力としているが、近年は自動運転開発に向けたAIプラットフォームなども手掛けている。

まず「半導体開発」というものが理解を困難にしている。半導体は一定の電気的性質を備えた物質を指すが、トランジスタやダイオードをはじめ、これらを組み合わせた集積回路(IC)を指す場合が多く、このIC基盤を開発しているのだ。IC基盤はコンピューターが介在するさまざまな製品に組み込まれており、自動車にも多くのIC基盤が用いられている。

パソコンにおいて中心的な処理装置であるCPU・プロセッサも半導体製品で、米インテルや英アームなどが有名だ。同様に、画像処理に特化した演算装置GPU開発を中心に業績を上げてきたのがNVIDIAで、この画像処理能力が自動運転分野におけるセンサー処理に役立っているのだ。

同社はさらに、自動運転開発を支援するハードウェアプラットフォーム「NVIDIA DRIVE AGX」も開発し、プラットフォーム内で活用できるさまざまなソフトウェアの開発も手掛けている。AI開発にも力を入れており、GPUに特化した業態からソフトウェア分野への本格進出を進めている。

自動運転開発を進める配車サービス大手の中国Didi Chuxing(滴滴出行)がNVIDIA DRIVEを使って自動運転レベル4の推論に取り組むことが発表されるなど、GPUという製品のみならず、自動運転プラットフォーマーとしての地位も築き始めてた印象だ。

■モービルアイ:EyeQの能力向上で自動運転OSなどをサポート

米インテル傘下のイスラエル企業モービルアイは、独自の半導体技術・ソフトウェアを組み込んだADAS(先進運転支援システム)製品の製造・販売を主力とするティア2サプライヤーだ。

ADAS製品に組み込まれるシステム・オン・チップ(SoC)デバイス「EyeQ」を中心に業績を伸ばしてきたが、ADASからより高度な自動運転システムへ対応すべくEyeQの能力向上を図っており、自動運転OSなどをサポートする役割を担う。

近年はセンシング技術とマッピング技術、自動車に制御命令を下す判断技術に関する研究開発を手掛けており、カメラやLiDARなど各種センサーのデータを融合するセンサーフュージョン技術や高精細マップの作製、ディープラーニングを用いた強化学習アルゴリズムの研究などを進めているようだ。

このほか、フォルクスワーゲン(VW)などとの合弁企業で進めている自動運転タクシー開発のプロジェクトなども順調な様子で、かつてのADAS製品を販売するサプライヤーから、次のステージに上りつつあるようだ。

■TRI-AD:自動運転ソフトウェアを開発するための「ツール」を開発

トヨタの自動運転ソフトウェア開発を担う子会社として、トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)が東京にオフィスを構えている。

アメリカのTRIが自動運転を含むAI(人工知能)の基礎研究に重きを置いているのに比べ、TRI-ADは自動運転ソフトウェアを開発するための「ツール」や「プラットフォーム」の開発に力を入れているという印象だ。

TRI-ADの創業メンバーで最高執行責任者(COO)を務める虫上広志氏も以前、自動運転ラボのインタビューに対し、「高精度マップに関しても、マップ自体の作成ではなく、『地図を自動生成するツール』の開発を担っています」と語っている。

インタビューをした2019年8月時点では、新たに入社した技術者の約半分は外国籍であることも明かされた。エンジニアをその時点の400人規模から1000人規模まで増やす計画も前に進めている。

【参考】関連記事としては「応募の嵐を生む、トヨタ自動運転子会社TRI-ADのオフィス哲学」も参照。

Waymo:自動運転システムを開発、無人タクシーを商用サービス化

自動運転タクシーの商用サービス実現で名を馳せる米ウェイモは、ざっくりと言えば自動運転システムを開発するソフトウェア企業だ。

グーグル内で高度な技術を持つエンジニアらが立ち上げた自動運転プロジェクトを発端に分社化され、一時は実験車両の開発も手掛けていたが、近年は市販車両にセンサーなどを取り付けて自動運転化する方式で実用化している。

「グーグルショーファー」と呼ばれる自動運転システムの開発が主体で、このシステムが各種センサーの情報を解析し、車両に命令を下す仕組みだ。

市販車両を自動運転化する工場の建設を進めており、自ら手掛ける自動運転タクシーサービスの拡大のほか、自動運転化した車両の販売を見据えている可能性もありそうだ。

また、2019年3月には自社開発したLiDARセンサーを同業種以外に提供する発表を行うなど、ハードウェア開発も行っている。

企業グループであるグーグルとして考慮すると、見据えている先にはもっと大きな世界戦略を描いている可能性が高く、同社の一挙手一投足に注目が集まる。

百度:自動運転ソフトウェアのオープンソース化プロジェクト「アポロ計画」を主導

中国ネット検索最大手と言えば「百度」(バイドゥ)だ。この百度は近年、自動運転ソフトウェアをオープンソース化する「Project Apollo(アポロ計画)」を主導し、業界でその存在感を急速に増している。

アポロ計画は2017年4月に発表され、2018年7月に正式始動した。現在では中国の大手自動車メーカーはもちろんのこと、日本のトヨタやホンダ、アメリカのフォードやエヌビディア、ドイツのBMWやボッシュなど、自動運転領域に力を入れる企業が既に多く参加している。

こうした中からアポロの自動運転ソフトウェアを将来採用する自動車メーカーも出てくるはずだ。本命はもちろん中国の自動車メーカー大手だと思われるが、ティアフォーが開発を主導する「Autoware」などへのライバル意識をむき出しにして「世界戦」を挑んでくるはずだ。

また、自動運転ソフトウェアのオープンソース化プロジェクトだけに留まらず、自動運転ファンドとして「アポロファンド」を立ち上げていることにも注目したい。同領域に関する技術開発を手掛けるスタートアップやベンチャーを支援していこうというもので、百度が将来有望な企業の囲い込みを進めているという見方もできる。

【参考】関連記事としては「中国・百度(baidu)の自動運転戦略まとめ アポロ計画を推進」も参照。

■【まとめ】見知らぬ専門用語が飛び交う=新しい時代の幕開けを象徴

自動運転の開発においては、ソフトウェアやプラットフォーム、AIといった目に見えない技術・製品が次々と現れていること、また自動運転やコンピューターを構成する要素そのものの複雑性などが主な要因となり、開発の実態を理解しにくいケースが多々あるようだ。

また、企業の公式サイトにおける説明も専門用語が並び、理解が及ばないケースも目立つ。海外企業の場合は言語の壁もあり、余計理解が遠のく。一般を対象とせず、一定レベルの専門知識を有する企業を対象としたB2Bタイプが多いことも要因の一つだが、専門性の高いエンジニア集団と一般との常識レベルの格差は非常に大きいと痛感する。

新しい社会が創造される際は、当然のように新しい技術や考え方、モノなどが次々と誕生し、徐々に世の中に広がっていく。聞き覚えのない言葉が次々と世に出始め、理解が及びにくい現在は、この新しい社会が幕を開け始めたことを象徴している。

いずれ自然に理解が進むはずだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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