自動運転、社会受容性を高めるアプローチ一覧(2024年最新版)

未知を既知へ、社会的意義も強調



Google系Waymoが展開している自動運転タクシー=出典:Waymo公式ブログ

実用化の波が押し寄せている自動運転技術。日本国内でも認知度は高まり、実際に目にした人や乗ったことがある人も珍しくなくなってきた。

技術は日々進歩しており、実用化のフェーズに達しつつあるモデルや取り組みも出始めている。技術面では、今後1~2年で一定水準に達し、無人走行を実現する例が続々と出てくるものと思われる。


一方、実用化において技術以外にも重要な要素がある。社会受容性だ。技術が高まっても、それを受け入れてくれる事業者や利用者がいなければサービスもビジネスも成り立たない。

一般人をはじめ、自治体関係者や交通事業者などの社会受容性を高めるにはどうすればよいのか。そのアプローチについて考えてみよう。

■自動運転の社会受容性

社会受容性は徐々に向上?

イードが自動運転に関心がある人を対象に2023年11月に実施したアンケート調査では、自動運転技術の普及に賛成と回答した人は80.7%に上った。

自動運転車の安全性に対する信頼に関する設問に対しては、「とても信頼できる」3.3%、「まあまあ信頼できる」42.7%、「なんともいえない」32%、「あまり信頼できない」20%、「まったく信頼できない」2%となっている。


自動運転車の乗車経験については「ある」が44.7%と高い。関心がある人が対象のため肯定的な人の割合が高めになっているものと推察されるが、それでも安全性に対する信頼度は50%未満となっている。

一方、パーク24が2023年8~9月に会員を対象に実施したアンケート調査では、完全自動運転車に「乗りたい」と回答した人は各世代とも60%前後となっている。

「乗りたくない」理由としては、「自分で運転するのが好き」が61%で最も高く、「誤作動が怖い」59%、「事故・トラブルの際の責任の所在が分からない」34%、「緊急時などの判断は自分で行いたい」26%、「ハッキングによる遠隔操作などの可能性がある」17%と続いている。

出典:パーク24プレスリリース

第一生命経済研究所が2019年、2020年にそれぞれ実施した自動車・自動運転に関するアンケート調査によると、自動運転に対する不安内容は「車が安全に作動するかどうか」が79.2%(2019年)→76.4%(2020年)、「事故が起きた際の責任問題やトラブル対処・保障」が55.5%→50.5%、「車の購入に関する費用が上がること」が45.5%→44.4%など、わずかではあるものの徐々に不安が解消されている様子がわかる。


コンシューマーがイメージする自動運転車が、自家用車における自動運転化か、あるいはサービスカーにおける自動運転化かで回答の傾向は変わりそうだが、全体としては自動運転車に対する社会受容性は徐々に向上しているものと思われる。

【参考】パーク24のアンケート調査については「完全自動運転車に乗らない理由、「運転が好き」61%で首位」も参照。

自動運転は未知の存在?

自動運転車に対する不安は、やはり大半が安全性に関する懸念だ。その背景には、「未知の技術」に対する漠然とした不安が多く含まれている印象が強い。

当たり前の話だが、予備知識がなければ自動運転がどのような仕組みで行われているのかはわからない。クルマは命に関わるものであるため、理解が及ばないものに身を預けることに不安を覚えるのは当然と言える。

また、仕組みを理解しても、機械・コンピュータの特性上、故障やエラーを100%回避できるわけではなく、こうした際に手動運転ならまだしもコンピュータに身を委ねることを不安に思う気持ちも理解できる。技術的に未達であることも加わり、漠然と自動運転車を不安に感じるのだ。

こうした感じ方は正当である一方、身近な存在として認知することや正しい知識を身に着けることで改善可能な面も多く残されている。社会受容性の向上を図ることは、まず「知ってもらう」ことが第一歩であり、そこから理解を深めてもらうことが肝要なのだ。

社会受容性が低いとどうなる?

中には、「社会受容性が低くても別にいいじゃないか」といった声が出てくるかもしれない。社会受容性が低いということは、言葉の通り社会に受け入れられないということだ。

実際に手動運転より自動運転の方が安全でも、多くの人に受け入れられなければ販売もサービスも停滞し、最終的に開発はストップする。自動運転の未来が潰えるのだ。

「受け入れられないものが潰えるのは世の摂理」と言われそうだが、ドライバー不足問題や高齢者の移動問題、交通安全向上など、社会課題の解決に資する技術だからこそ社会全体で大事に育てていく必要がある。

開発過渡期においては、技術水準などがまだまだ未熟であるため受容性が停滞することがあるが、こうした場面を乗り越え、技術が高度化した自動運転社会を迎えるためにも、今から社会受容性向上を図っていかなければならないのだ。

■社会受容性向上に向けたアプローチ

運行の様子を見てもらう

出典:三田市プレスリリース

まずは「見てもらう」ことが大事だ。実際に自動運転車が走行しているところを目の当たりにすることで、自動運転車の存在をしっかりと認識してもらうのだ。

中には、自動運転技術はまだまだ先の未来の技術で、半ば「架空の存在」と思っている人もいる。すでに実用化域に達していることを知らないのだ。

実証中でも構わないので、まずは目にする機会を増加させれば、未知の存在だった自動運転車が徐々に既知のものへと変わっていく。その存在そのものが肯定されるのだ。

例えば、Waymoが自動運転タクシーを運営している米アリゾナ州フェニックスやカリフォルニア州サンフランシスコでは、自動運転車に対する認知度は相当高いはずだ。

その上で、技術水準や交通問題などを背景に好き嫌いが分かれ、一部反対運動まで起こっているが、裏を返せばそれだけ認知度が高まっている証左と言える。

その上で、反対派の主張の中で正当性のあるものを課題に据え、地道に改善を図っていくことで技術やサービス水準が向上し、社会受容性は高まっていくものと思われる。

なお、兵庫県三田市で行われた自動運転バス実証における沿道住民対象のアンケート調査では、実際に自動運転バスが走行することで、自動運転への安心度が「わからない」から「安心と感じた」「同程度と感じた」に移行する傾向があるとしている。

実際に目の当たりにすることで、「自動運転車は敬遠すべき特別なものではない」と感じたのではないだろうか。

【参考】三田市における調査については「自動運転バス、目撃後は「不安感じる人」が減る現象!実証で確認」も参照。

一度試乗してもらう

実際に自動運転車に試乗してもらい、コンピュータによる運転を体験してもらうことも重要だ。見るだけでは、自動運転車の乗り心地や安全性は客観的な評価に留まり、本質に触れることはできない。

しかし、一度乗車すれば自動運転車は身近な存在へと一気に変わる。乗り心地の良し悪しをはじめ、ドライバー不在の運転がどのようなものかを知ることができるのだ。

基本的にはセーフティドライバーがシートに座っているか、あるいは保安員が常駐しているため「自動運転感」は薄いかもしれないが、特段不安を感じない人が多いのが事実だ。いざ乗ってみると、意外と「こんなものか」といった感じで、人間による運転との差異を感じない場合が多い。安心感が生まれるのだ。

もちろん、Waymoの自動運転タクシーのような無人自動運転車に初めて1人で乗る場合は不安と緊張が半端ないかもしれないが、無人走行を実現しているモデルの自律走行能力は極めて高く、むしろ自動運転車に対する信頼性が生まれるかもしれない。

乗り心地や安心感の感じ方は人それぞれで、自動運転システムや走行するシチュエーションによっては不安を感じることもあるだろう。開発事業者にとってはこうしたマイナスの声が重要で、これらのデータをしっかりと収集することで技術の改善を図っていくことができる。

まずは知り、そして体験してもらうことが社会受容性を向上させる一番の手段であり、また課題解決に資する生の声を集めることができるのだ。

自動運転開発事業者は、サービスインに至るまでの前段階で必ず乗車を伴う実証を複数回行っている。乗車体験を通じた生の声を集め課題抽出やサービスの質の向上を図ることが主目的だが、こうした取り組みを通じて社会受容性も徐々に上がっているものと思われる。

自動運転の仕組みを知ってもらう

自動運転の仕組みを知ってもらうことも社会受容性向上に資するものと思われる。コンピュータやAI(人工知能)が自動でクルマを動かしている……と言う漠然とした知識では、何がどうなって自動でクルマを動かせるのかわからず、AIなどに対し一度不安を感じればそれを拭う手立てが乏しくなる。

しかし、上っ面の知識であれその仕組みを少しでも知ることができれば、納得と理解が深まるはずだ。

自動運転車は、カメラやLiDARなどのセンサーが車両周囲の状況を映し出し、その映像の中から歩行者や他のクルマなどのオブジェクトをAIが識別する。このAIが識別したオブジェクトをもとに、自動車をどのように動かせば安全なのかを別のAIが判断し、車両に制御命令を下す。

自動運転車は、この処理をリアルタイムで行いながら走行しているのだ。これらセンサーやAIの働きは、人間が車両を運転する際の「目で見て脳で判断する」作業と一緒だ。こうした仕組みを理解すれば、「なんだ。AIも人間と同じことをやっているのか」……と腑に落ちるケースも多いのではないだろうか。

AIそのものの働きは漠然としたままかもしれないが、自動運転の仕組みを知ることでモヤモヤが晴れ、納得度が高まるのだ。また、こうした基本的な仕組みに加え、高精度3次元地図や路側インフラとの協調などで精度を高めていることを知ってもらえば、より納得度は高まるものと思われる。

さらに、万が一の際にはシステムが自動で安全な場所まで走行して停車する……といったリスクを最小化するシステムなどを備えていることも合わせて知ってもらいたいポイントだ。

機械・コンピュータである限り自動運転車も故障・エラーを起こすことはあるが、冗長性を高めたシステム構成でできるだけ緊急事態を防ぎ、フェールセーフもしっかり機能するという点は、社会受容性を向上させるうえで大きなポイントになるものと思われる。

【参考】自動運転の仕組みについては「自動運転の仕組みは2種類!「非人間型」と「人間型」」も参照。

自動運転技術の現状を知ってもらう

前述した自動運転の仕組みとともに知ってもらいたいのが、現状の技術水準だ。各社のシステムには当然ばらつきがあるが、現状日本ではどのような段階にあるのか。また、先行する海外はどのような水準に達しているのかなどを知ることで、理解度が深まる。

国内では、自動運転技術が実用化域に達し始めているとはいえ、まだまだ苦手な面も多く残されており、多くは実質レベル2、つまりセーフティドライバーが常時監視している状態で走行している。

走行上問題が発生しなければドライバーは介入せず、事実上自動運転となるが、このドライバーによる手動介入の頻度が現状の自動運転技術の水準を物語ることになる。よほどイレギュラーなことが起こらない限り介入を要しない水準に達すればレベル4の道が開ける…と言った具合だ。

自動運転バスの実証が盛んに行われている日本は、今まさにこの過渡期にある。一部の自動運転システムがレベル4水準に達し始めた段階で、無人運行・無人サービスが花を咲かせ始めた。

とはいえ、多くの自動運転システムはまだ課題を多く抱えている。例えば、駐車車両をかわすのが苦手だったり、右折が苦手だったり、低速走行限定だったり…などだ。

こうした現状とともに近未来の姿を提示することができれば、「現状はこの水準だが、近い将来この水準まで達する」と知ってもらうことができ、現状の水準に対しても理解・納得度が深まる。

少し前までできなかったこと、今現在できること、近い将来できること、それ以後の課題(レベル5など)といった具合で技術水準の変遷を示すことができれば、未来に対する希望も膨らんでくるのではないだろうか。

出典:国土交通省

メリットを知ってもらう

自動運転車実用化によるメリットを知ってもらうことも、社会受容性向上に直結する。道路交通法を順守する自動運転車は、基本的に交通違反を犯すことなく、安全を第一に走行する。極端な例だが、道路上の全ての車両が自動運転化されれば、交通事故の9割以上は減少する可能性がある。

また、近年顕著となっているドライバー不足を解決する有力な手段としても注目が集まっている。バスやタクシー、物流など、多くの場面で不足するドライバーを無人化技術で代替することで、各サービスを継続することができる。

高額なイニシャルコストは徐々に下がることが予想され、将来的には人件費にかかるランニングコストを低減することも可能となり、地方公共交通の維持にも一役買うだろう。また、周囲の車両と協調した走行や、自動運転バスの普及により交通渋滞軽減効果にも期待が寄せられている。

どういったところにメリットを感じるかは人それぞれだが、社会的メリットは社会受容性に直結する要素となる。こうした点をしっかりピーアールすることも大事だろう。

【参考】関連記事としては「自動運転の「メリット・利点」一覧」も参照。

安全性などを数字で示す

前述したメリットなどをより具体化するため、根拠とともに数字で示すことも重要だ。まだデータが揃わないところだが、自動運転車の導入により実際に交通事故はどれほど減少するか、また現在各業界のドライバー不足はどれほどの状況なのか。自動運転車導入により、運用コストは近々でどれほどに上り、将来的にはどこまで下げることができるのか……など提示するのだ。

多くはシミュレーションベースの試算となるが、Waymoなどの先行事例のデータを流用するのも手だ。数字で示すことで理解度が深まることは間違いないだろう。

活用方法を考えてもらう

自動運転車の実用化により、どのようなサービスが可能となるかを広く考えてもらう「巻き込み型」も手だ。バスやラストマイル配送など従来のサービスに加え、移動するホテルや無人パトロールなど、アイデア次第でさまざまな活用が考えられる。

こうした活用方法を考える際、思考上意図せずとも自動運転に対し肯定的になるのだ。自動運転を肯定しないと活用策を見出すことはできないため、自然に自動運転に対しプラスの感情を持つのだ。

こうした巻き込み型の手法も面白そうだ。

【参考】自動運転サービスについては「自動運転とサービス」も参照。

■【まとめ】10年間で認知度は大きく向上、今後は体験のフェーズへ

まず、未知を既知に変えていくことが第一歩だ。自動運転に限らず、未知であるがため無条件にそれを遠ざけようとする行動・心理は珍しいものではない。まず認知してもらうことが重要となる。

その上で、自動運転の仕組みや現状の技術水準、将来に向けたロードマップなどを知ってもらい、理解や納得度を深めていく。メリットなどは、できるだけ根拠・数字を交えて説得力を増す必要がありそうだ。

10年前に比べれば、自動運転車の認知度が大きく向上していることは間違いない。今後は、体験などを通じて安全性や利便性を実感してもらい、実用化の意義・メリットを理解・納得してもらうフェーズだ。

技術の向上とともに社会受容性も向上し、健全な自動運転社会を迎えられることを望みたい。

【参考】関連記事としては「自動運転とは?レベル別の開発状況・業界動向まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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