CASE時代のサービス、自動車OEM・ベンチャーの事例を解説!今後の展開例も

移動サービスの派生形は無限?



コネクテッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化の波が押し寄せている自動車業界。いわゆる「CASE」時代の到来だ。さまざまな技術が開発から実用化段階に達し始め、多くの業種を巻き込みながら社会実装が推し進められている。


その一方で、移動のサービス化を意味するMaaS(Mobility as a Service)の浸透も著しい。さまざまな移動サービスを連携・統合し、効率的で利便性に溢れたモビリティ社会を形成していく。

こうしたCASEやMaaSの実用化局面で重要視されるのが「サービス」だ。この記事では、現在と未来のモビリティサービスに焦点を当て、その進化に迫っていく。

■自動車業界で「サービス」の展開の重要度が上がりつつある

自動車業界は、自動車本体を製造し販売するハード主体の業種だ。およそ1世紀に渡り製造業の代表格に君臨してきた、押しも押されもせぬ産業だ。

しかし近年、第3次産業革命、とりわけコンピュータやICTといったデジタル革命の波が業界に押し寄せ、自動車も徐々に「機械」から「コンピュータ」へのシフトが進み始めた。


自動運転やコネクテッド技術などは、その成果物と言える。自動車の構造的なデジタル化・電子化の波は、一つひとつの操作をソフトウェア制御に変え、自動化への道を切り開いたのだ。

一方、自動車の過度な普及が都市部を中心に慢性的な渋滞を引き起こすなど環境負荷への注目も高まり、各種交通課題に加え排出ガスによる環境汚染などもクローズアップされるようになった。

こうした技術面や社会面を背景に自動車業界は変革の道をたどっていくことになる。その道筋の大流がCASEやMaaSだ。電動化により自動車そのものの環境負荷を低減させるとともに、効率的かつ効果的な道路交通の形成に向けモビリティサービスへシフトしていく動きが世界的な潮流となった。

新たな移動サービスとして電動キックボードなどさまざまなハードが開発されるとともに、シェアリングサービスに代表されるようにモビリティのサービス化が活発化し、MaaSという概念も定着し始めた。これが現在の段階だ。

自動運転技術が確立されていく今後は、無人化技術によるビジネス性の向上がよりサービス化を加速させていくものと思われる。移動サービスそのものの充実とともに、飲食や観光など移動の目的となるさまざまな業種と密接に結び付き、「移動×ABC」といった新たなサービスを次々と生み出していくのだ。

以下、すでに展開されているサービスや、今後展開されることが予想されるサービス例などを紹介していく。

■既に展開されているサービス事例
カーシェア

モビリティサービスの代表格の1つ「カーシェア」。自家用車の「所有」から「利用」へのシフトを進めるサービスとして市場の拡大を続けている。

従来、パーク24グループやオリックス自動車といった事業者が主体となってサービスを展開していたが、近年はトヨタ日産ホンダといった自動車メーカー各社も本格的に事業参入し、全国にサービス網を拡大しつつある。

形態としては、モビリティサービスの中でも歴史の古いレンタカーに近いが、15分単位の利用を可能にするなど、より生活に身近なサービスとなっている。

貸し借り可能な拠点となるステーションの増加とともに、他のステーションへの返却や乗り捨て(ワンウェイ)サービスなどが実現すれば利用者はまだまだ増加する。利用者の増加がカーシェア車両やステーションの増加につながり、さらなる好循環を生んでいくことが予想される。

また、派生形としてIDOM CaaS Technologyの「GO2GO」やDeNA SOMPO Mobilityの「Anyca」など、CtoCの個人間カーシェアサービスも人気を集めているようだ。

シェアサービス向けプラットフォームサービス

今後、カーシェアのようにさまざまなモビリティのシェアリングサービスが本格的に社会実装されていくことが予想される。不特定多数を対象とした営利事業をはじめ、社用車のシェアリングなど多用途化も進みそうだ。

こうした際に必須となるのがプラットフォームだ。展開したいサービス形態に合わせ柔軟に設定可能な基盤があれば、特定エリアにおいて事業化を検討する企業も新規参入・導入が容易となる。

こうしたプラットフォームサービスはさまざまな機能を付加可能であり、汎用性も高めやすい。プラットフォーム提供者としてモビリティサービス分野で活躍する企業は今後も増加していくものと思われる。

カーシェア事業を手掛けているアース・カーはプラットフォームシステム開発事業にも本格着手し、複数の事業者が運営するカーシェアサービスを1つのポータルサービスとして提供する「earthcar」をリリースしている。予約管理装置や予約管理方法・プログラムにおいて特許も取得したようだ。

ゼンリン子会社のWill Smartはカーシェアに必要な機能をオールインワンパッケージ化したプラットフォーム「Will-MoBi(ウィルモビ)」、コネクテッド関連事業を手掛けるスマートバリューはフレキシブルに運用可能なプラットフォーム「Kuruma Base」をそれぞれ提供している。

【参考】カーシェア向けプラットフォームについては「【最新版】カーシェアのシステム提供&プラットフォーム開発企業まとめ」も参照。

駐車場シェア

シェアリングサービスはモビリティにとどまらず、駐車場などにも及んでいる。時間貸しの駐車場はそもそもシェアサービスではあるが、空き地などのスペースも含め貸したい側と借りたい側を柔軟にマッチングさせる点が特徴だ。

駐車場予約アプリの運営を手掛けるakippaは15分単位からの利用が可能で、2021年8月時点で累計230万人のユーザーが登録しているという。

MaaSアプリ

さまざまな移動サービスを結び付けるマルチモーダルサービスの核となるのがMaaSアプリだ。MaaSプラットフォームによって構築された各システム・サービスをスマートフォンなどで手軽に利用できるようにしたもので、ユーザビリティや付加機能によるユーザーエクスペリエンスの向上などが重要視される。

MaaSアプリの基本機能として、さまざまなモビリティを交えた経路を所要時間や運賃、乗換数などに応じて検索可能な機能をはじめ、各モビリティの予約や決済機能を備えることでサービスが高度化し、利便性が大幅に増す。

さらに、各エリアの飲食店や小売、観光などの情報やサービスと結び付けることで地域経済との相乗効果を発揮したり、医療などと連携し地域課題の解決に結び付けたりする取り組みにも高い期待が寄せられている。

MaaSアプリも、純粋な移動サービスアプリに留まらずこうした需要を満たす仕様に進化を遂げていく必要がありそうだ。

現在、国の取り組みのもと国内各地の自治体が社会実装を進めているほか、トヨタの「my route(マイルート)」やJR西日本の「setowa」、小田急電鉄の「EMot(エモット)」、WILLERの「WILLERS」、東京急行電鉄などによる「Izuko」など、民間主体のサービスも盛んにサービス展開を始めている。

また、インターネットサービスの企画・開発などを手掛けるアイリッジや交通ソフトウェア開発を手掛けるREAのように、MaaSアプリの開発や企画に力を注ぐ企業も続々と登場している。

MaaS×医療サービス

MaaSにさまざまな業種を連携させて地域課題の解決を図る取り組みの代表例として「MaaS×医療」が挙げられる。

ヘルスケア事業を手掛けるフィリップス・ジャパンは、看護師が患者宅を訪問し医師がオンラインで診療するモバイルクリニック実証事業を長野県伊那市で行っている。患者は病院に出向くことなく受診することが可能となり、医師は訪問診療のために要していた移動時間を有効活用することが可能になる。

スマートフォンアプリによる配車予約ルート最適化技術などを活用して効率よく巡回できるシステムを検証するほか、将来的には患者データを病院や診療所、調剤薬局、自治体などが共有できるシステムを確立し、予防から診断、ホームケアに至るまで、健康増進につながる仕組みを地域全体で充実させていく方針としている。

一方、茨城県つくば市では、筑波大学が顔認証システムなどを活用し、病院に向かうバス乗降時に病院受付や診療費会計処理を行うサービスなどについて実証を行った。

医療・福祉分野に課題を抱える自治体は多く、今後もさまざまな取り組みが各地で実施されそうだ。

【参考】MaaS×医療については「自動運転・MaaSは「医療」にも貢献する」も参照。

MaaS×不動産サービス

MaaSと不動産を結び付ける取り組みも国内外で注目を集めている。自家用車がなくとも自由な移動を確保することで生活の質を上げる取り組みだ。

国内では、三井不動産がMaaS Globalとの提携のもと「Whim」の本格導入に向けた取り組みを加速しているほか、日鉄興和不動産も自社開発マンションの住人を対象としたMaaS「FRECRU(フリクル)」の実証実験に着手している。

居住する場所によって移動は大きく左右されるため、MaaSと不動産の相性は高そうだ。エリア開発を手掛けるディベロッパーなども今後三井不動産同様の取り組みを推進していく可能性が考えられ、要注目だ。

【参考】MaaS×不動産については「注目度が急上昇!「MaaS×不動産」最新のビジネス事例まとめ」も参照。

サブスクリプションサービス

自動車の販売やMaaSにおいて、サブスクリプションサービスの導入に注目が集まっている。自動車の販売では、従来のリース契約の派生としてサブスクリプションを導入する動きが世界的に高まっており、各種税金や車検、任意保険料までコミコミの月定額制サービスが人気を集めている。

トヨタのサブスク「KINTO ONE」は、契約から一定期間経過後に新たなクルマ・プランに乗り換え可能なサービス「のりかえGO」を展開している。一方、ホンダは最短1カ月で乗り換え・返却ができる「Honda マンスリーオーナー」で新たな層へのアプローチを進めているほか、スバルは中古車を安価にサブスクできる「スバスク」を開始した。

MaaSにおけるサブスクはMaaSの高度化に直結する重要な要素となる。各モビリティ、あるいは複数のモビリティを月定額で提供することにより、利用者は実質乗り放題のような形でさまざまなモビリティを利用可能になる。

先駆けはフィンランドのMaaS Globalが展開する「Whim(ウィム)」で、乗り放題となるモビリティの種類などによって複数のプランを用意している。日本でも三井不動産と提携して「不動産×MaaS」の実証を進めており、カーシェア、サイクルシェア、バス、タクシーを定額利用可能な取り組みも行っている。

単体のモビリティとしては、WILLERが月額5,000円で一定エリア内を乗り放題とするオンデマンド乗り合い交通サービス「mobi(モビ)」を開始している。

ライドシェアサービス

一般ドライバーが自家用車でタクシーのような移動サービスを提供するライドシェア。日本では原則禁止されているが、交通過疎地における公共の福祉の確保など一定要件を満たすことで運行が可能になる。

利益目的ではないため民間主導ではなく自治体主導の取り組みがベースとなるが、兵庫県養父市のように導入を図る取り組みは徐々に増加しており、MaaSに組み込む動きも出始めている。

一方、無償ライドシェアは規制対象外のため、同一方向の目的地を目指す利用者が乗り合う形のライドシェアは可能だ。相乗りマッチングサービス「notteco(ノッテコ)」は、ガソリン代などの実費を同乗者が負担するコストシェア方式でサービスを提供している。

オンデマンド交通サービス

需要に応じてリアルタイムに運行ルートやスケジュールを可変させ、効率的かつ柔軟な移動サービスを提供するデマンド交通。近年、スマートフォンやAIの活用によって大幅な進化を遂げ、スタンダードなサービスへと昇華を果たしつつある印象だ。

バスのような乗り合いサービスとタクシーのようなルーティングを可能にしており、路線バスが成り立たない地方などで自治体自らがコミュニティバスなどの形で導入する取り組みが進んでいる。

AIによる効率的なルート生成やスケジューリング、スマートフォンによる利便性の向上が著しく、地域の実態に合わせ柔軟に導入可能なため評価が高まっているようだ。

グリーンスローモビリティを活用したサービス

時速20キロ未満の低速で公道を走ることができる電動車を活用した小さな移動サービス「グリーンスローモビリティ」。環境負荷が少なく、狭い道路も走行可能なため、定路線やシャトルサービスをはじめ、デマンド交通やレンタカーなどさまざまなサービスへの導入が進んでいる。

環境省の2021年度グリーンスローモビリティ導入促進事業において補助対象となるグリーンスローモビリティの車両には、モビリティワークスの電動カートやエナジーシステムサービスジャパンのリチウムイオン電池搭載カート、シンクトゥギャザーの低速電動ミニバス、ヤマハ発動機の電動ゴルフカー、タジマモーターコーポレーションの多目的小型電動モビリティが登録された。

設計にもよるが、こうした低速モビリティは自動運転との相性が高く社会実装しやすいため、シェアサービスや定路線、観光地周遊など、今後さまざまな場面で活躍する姿を見られそうだ。

【参考】グリーンスローモビリティについては「グリーンスローモビリティとは?いち早い自動運転化に期待感」も参照。

コネクテッドサービス

車載通信機を搭載した車両から収集した車両データや交通データなどを活用したり、通信機能によってさまざまなサービスをドライバーなどの乗員に提供したりするコネクテッドサービスも普及が大きく進んでいる。

現在普及が進んでいるのは自動車メーカーを主体としたサービスで、車両のメンテナンス情報の可視化や走行状況の可視化、通信機能を活用した遠隔操作といったサービスが浸透し始めている。損害保険会社によるテレマティクス保険もコネクテッドサービスの代表格だ。

商用車向けでは、車両の走行状況の把握や安全運転管理、運行レポートの作成、最適配車・運行計画の策定などを行うことができる運行管理システムの導入も進んでいる。

また、プローブ情報をビッグデータ化し、渋滞や事故の抑制といった交通課題の解決に結び付けていく取り組みも進んでいる。

通信機能を活用したこうしたサービス・システムは、自動運転化が進む将来は必須のものとなる。また、自動運転車の乗員向けのエンターテインメントサービスなど、乗車体験をより良いものに変えていく各種サービスも続々と登場しそうだ。

キッチンカー出店場所のマッチングサービス

新型コロナウイルスの影響で、移動販売車への注目が高まっている。各個店での密を避けることが狙いだが、立地に捉われることなくさまざまな場所で営業することが可能で、新たな小売形態の1つとして導入を検討する動きが活発化しつつあるのだ。

移動販売の代表格はキッチンカーで、季節や曜日、時間帯、天気などその時々の状況に合わせて需要を見定め、営業場所を選定する。一方、地域においても、こうしたキッチンカーを誘致することで住民サービスを高めることができ、移動販売車向けのスペースを確保する動きも出始めているようだ。

こうした空きスペースと、出店を考えている事業者を結ぶマッチングサービスもすでに商用化されている。デジタルデベロップメントサービスなどを手掛けるドキドキグルーヴワークスは、フードトラックマッチングサービス「Qme(キューミー)」を展開している。

また、モビリティを活用した空地活用事業などに取り組むMellowは、フードトラックの開業パッケージやサブスクリプションサービスなどとともに、大都市圏を中心に350以上のランチスペースを網羅したフードトラック・プラットフォームサービスを提供している。

車中泊モビリティサービス

空前のキャンプブームとともに人気を博しているのが車中泊だ。自家用車を活用した車中泊をはじめ、キャンピングカーを活用した本格的な車中泊までさまざまだ。

キャンピングカーのレンタル事業などを手掛けるキャンピングカー株式会社と車中泊スポットやキャンピングカーのシェアサービスを展開するCarstayは、車中泊モビリティサービスプラットフォームの構築を進めている。

嗜好性の強いジャンルのモビリティは、その嗜好性に合わせた形でサービス化・ビジネス化を図ることができる好例と言えそうだ。

【参考】車中泊モビリティサービスについては「Carstay社とキャンピングカー社、「車中泊モビリティサービスプラットフォーム」構築へ」も参照。

座れる椅子タイプの自動運転サービス

電動車いすなど、誰もが利用可能な自動運転パーソナルモビリティのサービス化が始まりつつある。自動運転機能を搭載した電動車いすの開発を手掛けるWHILLは、空港や病院などにおける実用実証を積極的に展開しており、羽田空港などでの導入が進んでいる。

ロボット開発を手掛けるZMPも歩行速モビリティ「RakuRo(ラクロ)」を製品化し、販売を始めている。モビリティ制御技術の開発に取り組むAZAPAエンジニアリングも小型低速自動運転モビリティを開発し、2023年にも販売開始する予定としている。

■今後展開される可能性があるサービス
パーソナルモビリティの「待機ステーション」の提供サービス

電動キックボードをはじめとしたパーソナルモビリティや超小型モビリティなどの社会実装が本格化すると、各モビリティがシェアサービスとして新たな移動サービスを担うことになる。

単体の移動サービス向け、あるいはMaaSプラットフォームに組み込まれていくことが予想されるが、こうしたソフトウェアとともに必要となるのが各モビリティの待機場所や乗降ステーションだ。

乗り捨て可能なワンウェイ方式のモビリティなども登場しそうだが、海外のキックボードシェアなどの事例を見ると、歩道のど真ん中など場所を選ばない悪質な乗り捨てや私有地への乗り捨てといった問題が指摘されており、やはり一定の拠点・設備が必要となりそうだ。

こうした状況を見据えたサービスとして、待機ステーションを提供するサービスが考えられる。交通結節点として有用な場所を選定し、さまざまなパーソナルモビリティの待機場所として活用できるステーションを提供するのだ。乗降ステーションとしても機能することで利用者の利便性は大きく増す。

モビリティ事業者ごとにステーションを設置するのがスタンダードだが、待機ステーションをあらかじめ設置することでシェアモビリティ誘致につなげることもできるかもしれない。

自動運転移動販売車のマッチングサービス

すでに実用化されているサービス事例としてキッチンカーのマッチングサービスを先に挙げたが、自動運転時代には小売全般が無人販売を行う自動運転移動販売車が流行する可能性も考えられる。自動運転技術とともに無人販売技術の実用化がカギとなるが、実現すれば低コストで効果的な販売が可能となる。

こうしたサービスの発展系として、複数の販売車両を駐車可能なフリースペースの設置などが考えられるが、さらなる発展系として、プラットフォームに登録された出動可能な販売車の中から、相乗効果を見込める業種を選択・集約して出店させるマッチングサービスがあると面白そうだ。

バラエティ豊かな業種を集結させたり、同業種を一堂に集めたりすることでより大きな集客・販促効果を得られる可能性がある。こうした出店者の選択をAIが自動で行い、マッチングしてフリースペースで販売させる仕組みだ。

【参考】自動運転移動販売車については「「店舗群」が自ら移動!自動運転車で「次世代小売」、カギはDX」も参照。

空飛ぶクルマによる旅行ツアー提案サービス

21世紀のエアモビリティとして注目が高まる空飛ぶクルマ。数年後には本格的な実用化が始まる見込みで、物流や人の移動に大きな変革をもたらす可能性がある。

初期段階においては、河川上や海上など安全面を考慮した運用となりそうだが、経験を重ね徐々に飛行形態やサービスの幅を広げていくこととなる。

空の交通網が整備され、ある程度自由な移動が可能になれば、提供可能なサービスとして旅行やツアーが登場するかもしれない。乗降スペースさえあれば、比較的自由に最短距離で移動しながら観光名所などをめぐることが可能になる。ヘリコプターの周遊サービスとツアーを織り交ぜたようなサービスで、空の旅を満喫することができそうだ。

自動運転車を活用した移動ホテル

車中泊モビリティサービスの発展・応用形のようなイメージで、自動運転車を活用した移動可能なホテルの実用化も考えられる。

寝台列車に自由な移動とパーソナルな移動を組み合わせたようなサービスで、利用者はホテル仕様の車内を個室として利用しながら目的地に赴き、長距離の観光や出張などを行うことが可能になる。就寝時間を移動に充てることで時間を有効活用することができるのが特徴だ。

こうしたコンセプトは自動車メーカーからすでに発表されており、スウェーデンのボルボ・カーズが車内をベッドルームやオフィス空間として利用できるコンセプトモデル「360c」を2018年に発表している。

自動運転車を活用したオフィスなども

トラックやトレーラータイプの自動運転車を活用すれば、提供可能なサービスの幅は広がる。移動可能なオフィススペース、カラオケ、喫茶など、アイデア次第でさまざまなサービスを実現できそうだ。

自動運転車ではないが、ダイハツ工業とNTTドコモ、青山社中は2021年、軽トラックに搭載可能なワーケーション用オフィスの実証実験を開始した。荷台部分をオフィス仕様に改良した軽トラックの貸し出しサービスの実証だ。

こうしたアイデアを自動運転で実現することで汎用性や応用性が増し、将来的なビジネスにつながっていくものと思われる。荷台部分をモジュール化し、手軽に乗せ換え可能にすれば、さまざまな用途に対応した自動運転サービスを提供することもできる。

従来の移動や交通の概念を覆す自動運転は、既成概念にとらわれない発想が新たなビジネスチャンスを生み出すのだ。

【参考】ダイハツ工業などの取り組みについては「軽トラの後ろが極少オフィス!自動運転時代にサービス発展性大」も参照。

タクシーサービスの進化

さまざまな新モビリティの搭乗が予想される中、タクシー業界もサービス向上に向け改革に臨んでいる。

全国ハイヤー・タクシー連合会は2016年、全11項目で構成する「タクシー業界において今後新たに取り組む事項について」と題したアクションプランを発表した。
事前確定料金や定額タクシー運賃、変動迎車料金(ダイナミックプライシング)、相乗りタクシー、初乗り運賃の引き下げを行う初乗り距離短縮運賃などの案が盛り込まれている。

2019年には、追加項目として「MaaS(Mobility as a Service)への積極的参画」「自動運転技術の活用方策の検討」「キャッシュレス決済の導入促進」などを掲げ、新時代に適応したタクシーサービスの実現・提供を目指している。

国土交通省もこうした提案に対し、一括定額運賃入や変動迎車料金、タクシー相乗りの導入に向けて2021年にパブリックコメントを募集するなど、前向きに取り組んでいる。

新型コロナウイルスの影響で当初予定より遅れているものの、徐々に規制緩和が進んでいく見込みだ。

【参考】タクシーサービスの進化については「タクシー2.0時代、20の革新 自動運転やMaaSも視野」も参照。

■【まとめ】「移動」という絶対的需要をどのように活用するか

人間の社会活動の多くは移動を伴う。移動には絶対的な需要があるのだ。このため、考えられるサービスを羅列すると収拾がつかなくなるほど可能性は大きく広がっている。

1つの例がMONETコンソーシアムだ。モビリティイノベーションを実現する場としてMONET Technologiesが2019年に立ち上げた同事業体には、建設や小売、卸売、宿泊、医療、教育、不動産、電気など業種を超えた674社が加盟している(2021年10月8日時点)。

移動そのもののサービス化はもちろんのこと、移動と何を結び付ければ新たな需要を喚起できるのか、社会にはどのようなサービスが求められているかなど、さまざまな観点から「移動」を見直すことで、新たな発想が生まれるかもしれない。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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