近年、右肩上がりで成長を続けるカーシェアリング事業。タイムズ24などの大手が全国展開を進める中、トヨタや日産などの自動車メーカーも本格参入を果たすなど、業界のボルテージは上がる一方だ。
また、全国展開を目指すタイプ以外にも、自治体主導による住民向けのサービスや観光地型サービスなど、狭い領域でのカーシェア事業も続々と立ち上がるなど、効率的な新たな移動手段として注目が高まっている。
大小さまざまなカーシェア事業が各地で普及を始める中、それぞれのプラットフォームはどのように開発されているのか。今回はカーシェアプラットフォームに焦点を当て、開発を担う事業者を紹介していく。
記事の目次
■アースカー:自社ブランドでの参入可能に
カーシェア事業を自ら運営する株式会社アース・カー。その根底にあるのは、プラットフォームシステムの開発技術だ。
同社は2009年、金融事業などを手掛けるISホールディングスのカーシェアリング事業部門として法人化され、2011年にフランチャイズ方式によるカーシェアサービス「アースカー」を開始。「ステーション設置希望登録」サービスや「マナー評価」サービス、「交替運転手登録」サービス、「キャンセル待ち登録」サービスなど次々とサービスを拡充し、2014年には当時業界初となる入会金・月額基本料金0円の会員コースなども設けた。
2017年には駐車場シェアリングサービス「特P(とくぴー)」、2018年にはライダーにバイクの練習スペースを貸し出す新サービス「特Pバイク練習場」などもスタートしている。
そして2019年2月、カーシェアサービスをフルリニューアルし、自社ブランドでカーシェア事業に参入できるプラットフォームの提供を開始した。
新たに開発したプラットフォームは、創業時から約10年にわたるカーシェアリング運営経験で得たノウハウを反映したもので、参加企業の会社名やサービス名などで独自にサービス運営することができ、フランチャイズ本部など事業者を多く抱えるような企業の参加も可能となっている。
プラットフォームサービスでは、給油カード一体型のキーボックスなど車両に設置する車載機システムや予約を受け付けるサービスサイト、決済システム、集客ツール、ウェブ集客やコールセンターなどの運営サポートもまとめて提供するなど、カーシェアリング事業運営に必要な仕組み全てをワンストップかつ低コストで提供している。随時アップデートも図っていく構え。
導入費用は、イニシャル部分が車載機1台3万9800円、キーボックス1台2万2800円で、ランニングコストとなるデータ通信・システム利用料が1台月額1万円となっている。このほか、初期設定費用や月額手数料などが発生するようだ。オプションで、開業に向けた研修や各種申請書類の作成サポートなども行っている。
将来的には、社用車を多く抱える企業などへカーシェアの仕組みをクローズ化して提供し、休日など社用車を社員と共同利用し、社用車経費の軽減を図るなどクルマの利用を最適化する提案も視野に入れているという。
なお、駐車場シェアサービスでも、直営駐車場や自社顧客の駐車場を一括で登録・管理できるようにする「特Pプラットフォーム」サービスも提供している。
【参考】アースカーのプラットフォームサービスについては「自社名でカーシェア事業に即参入可能…アースカー、プラットフォーム制に刷新へ」も参照。
自社名でカーシェア事業に即参入可能…アースカー、プラットフォーム制に刷新へ 予約受付や決済も楽々 https://t.co/MSAVTMZk2X @jidountenlab #カーシェア #MaaS #プラットフォーム
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 15, 2019
■Will Smart:「Will-MoBi」を2019年10月にリリース
ゼンリン子会社で、デジタルサイネージを活用したソリューション事業やモビリティシステム事業などを手掛ける株式会社Will Smartは2019年5月、カーシェアプラットフォーム「Will-MoBi」を2019年10月にリリースすると発表した。
「Will-MoBi」は、車両の予約から解錠などの車両の利用をICカードやスマートフォンで完結するサービスパッケージで、同社が導入からその後のサポートまでを一貫して行う。
提供サービスの基盤は韓国のDIGIPARTS社から提供を受けており、すでに韓国内外で約3万台の導入実績を誇る。この基盤をベースに日本仕様に改良し、2019年2月からエネクスオート株式会社で実証実験を行うなど、本格展開に向けた準備を進めている。
【参考】Will-MoBiについては「Will Smart、カーシェアサービスの基盤システム「Will-MoBi」をリリースへ」も参照。
IoTベンチャーのWill Smart、カーシェア基盤システムをリリースへ 2019年10月予定 https://t.co/Ppkf6TeBka @jidountenlab #カーシェア #IoT #リリース
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) May 28, 2019
■ユーピーアール:自社事業でのノウハウ提供
パレット・物流機器の取り扱いやIoT事業などを手掛けるユーピーアール株式会社。2004年に着手したカーシェアリング事業関連では、システム開発や事業運営委託、システムレンタル、コンサルティングなど幅広いサービスを展開している。
システム開発では、同社のカーシェアリングシステムをベースに専用のカーシェアリングシステムを構築することが可能で、誰でも会員になれるオープン型や、対象を特定したクローズ型、借りたステーションに返却する従来のラウンドトリップ型、借りたステーションとは別のステーションに返却できる乗り捨て可能なワンウェイ型など、要望に沿ったシステムを利用することができる。
運営委託では、自主運営で積み重ねてきた多くの運営データや、自治体や自動車メーカーから請け負い実施した実証実験におけるマネジメント業務など、豊富な経験とノウハウを生かして売り上げアップをはじめ目的に沿った結果を実現する。
システムレンタルでは、幅広い車種に搭載可能なカーシェアリング専用の車載機や、その車載機と通信を行うための通信サーバー、会員管理・車両管理・予約管理・決済が可能なWebシステムをセットで提供する。料金設定などは自由に変更可能で、セキュリティ対策などもしっかりと行われているようだ。
これまでに、自主事業として筑波大学構内のカーシェア「カーシェア・つくば」や山口県内の「RENOFAカーシェアリング」を運営しているほか、トヨタ自動車らが展開する超小型電気自動車(EV)を利用したシェアリングサービス「Ha:mo RIDE」における豊田市や萩市での運営委託、三井不動産リアルティ株式会社が展開するカーシェアリング事業「careco」やネッツトヨタ瀬戸内が展開するカーシェアリングサービスなどへのシステムレンタルを担うなど、豊富な実績を誇っている。
自治体や観光地など、一定の範囲でサービスを提供する小規模のカーシェア事業導入などにうってつけかもしれない。
■NEC:複数のシェアサービスの展開可能
日本電気株式会社(NEC)も2017年からシェアリングサービス向けのプラットフォームを提供している。カーシェアはもちろん、サイクルシェアや宅配ロッカー、会議室シェア、人材シェア、体験シェアなど、目的に応じた利用が可能だ。
特徴として、まず複数のシェアサービスを展開できる点が挙げられる。モノ・ヒト・スペース・コトなど異なるサービス対象を、個人や法人、団体など個々の会員向けに提供でき、サービスごとに違う管理項目や料金体系などをすばやく設定でき、迅速な事業の立ち上げを可能にしている。
また、最新技術に対応した柔軟な拡張性を備えており、たとえば設備や施設など現地に設置されたIoT機器との通信管理機能や、顔認証・マイナンバー認証による利用者の認証機能も実現可能できる。将来的には、マッチングの最適化や需要予測などAI活用にも対応するという。
このほか、各種サービスの「シェアリング管理」は会員のIDのみで運用するため、サービスを他社に委託した場合でも委託先と会員IDのみを授受することにより、個人情報が漏えいしにくく、利用者にとっても一度の会員登録でいくつものシェアリングサービスを横断的に利用可能になるようだ。
■日米電子:安全な貸し出しとセキュリティ対策
コンピュータ関連の開発などを手掛ける日米電子株式会社も、インフラソリューション事業の中でカーシェアリングシステムを提供している。
サービスでは、専用車載機を新規開発・製造し、D-NAS(リアルタイムGPS動態管理システム)と組み合わせて車両へ設置するほか、堅牢なビークルバス規格「CANインターフェイス」にも対応しており、車両情報の取得やドアの開閉管理などによる安全な貸し出しとセキュリティ対策を実施する。
車両システムはFOMA通信で自由に更新が可能な設計で、カーナビを制御し、ユーザーインターフェイスとしての活用やメッセージ表示、音声案内なども可能だ。事業の進展に伴い、当初の装置構成から複数の装置を統合したコストダウン型ユニットを設計開発している。
■日本ユニシス:「日産 e-シェアモビ」へシステム提供
クラウドやアウトソーシングなどのサービスビジネスをはじめ各種システムサーアビスを展開する日本ユニシスもプラットフォームサービスを手掛けており、日産自動車のカーシェアリングサービス「日産 e-シェアモビ」へモビリティサービスプラットフォーム「smart oasis for Carsharing」を提供している。
同社のカーシェアリング向けシステムサービスは、EVの利活用形態として注目されるシェアリングサービスに、同社の強みであるITによる車両管理や運行情報管理、データ分析技術といった技術を生かしたもの。EV・小型EVを含めた多様な車両・車種に対応可能な汎用性の高い車載機を採用することで、これまで利活用の促進が課題となっていた小型EVを用いたカーシェアサービスを可能にしたほか、目的地までの最適な移動手段や最適な充電場所を提示し、その移動手段・充電場所へのスムーズな利用誘導なども提供している。
また、マルチテナント方式(複数事業者による共同利用方式)でシステムサービスを提供することで、複数事業者の車両を融通し合うこと(カーシェアローミング)や、従来のラウンドトリップ型サービスに加えて、直前車両取り置き方式による車両貸出と複数ステーションでの車両返却に対応しているため、自由に乗り降り可能なワンウェイ型サービスも実現することが可能だ。
「smart oasis® for Carsharing」は日産のほか、JR東日本グループのJR東日本レンタリースが2019年2月から開始するカーシェアリング型レンタカーサービス「駅レンタカー・セルフ」の実証実験にも提供されている。
なお、同社はMaaS(Mobility as a Service)にも力を入れており、滋賀県大津市と京阪バスが取り組む実証実験などにも参加している。MaaSプラットフォームの開発・提供も見据えているようだ。
【参考】日産のカーシェア事業については「日産、カーシェアで福島復興を支援 元避難指示地域に拠点続々」も参照。日本ユニシスの取り組みについては「大津市&京阪バス&日本ユニシス、MaaS実用化の推進で合意 自動運転バスの運行も視野?」も参照。
日産自動車、カーシェアで福島復興を支援 元避難指示地域に3拠点目開設 予約・利用から返却・決済まで無人でOK https://t.co/DsAaQrNOXf @jidountenlab #日産 #カーシェア #福島
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 21, 2019
■日立製作所:「チョイモビ ヨコハマ」でプラットフォーム開発
横浜市と日産が2013年に開始した超小型EV「日産ニューモビリティコンセプト」を活用したワンウェイ型大規模カーシェアリング「チョイモビ ヨコハマ」において、日立製作所が車両の貸出やメンテナンスの管理、駐車場のリアルタイム管理などを行うことができるクラウド型のITプラットフォームを開発・提供している。
「チョイモビ ヨコハマ」は2014年、公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「2014年度グッドデザイン賞」を受賞
【参考】「チョイモビ ヨコハマ」などワンウェイ方式については「カーシェアで「乗り捨て」は可能? トヨタ自動車や日産も実証実験」も参照。
【最前線】「車庫数」の壁、カーシェアで「乗り捨て」は可能? トヨタ自動車や日産も実証実験 https://t.co/ZnQyWhZJH9 @jidountenlab #カーシェア #乗り捨て #実証実験
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 5, 2019
■スマートバリュー:「Kuruma Base」の提供開始
コネクテッド関連事業を展開している大阪市のスマートバリューは、2019年5月から独自プラットフォーム「Kuruma Base」の提供を開始することを報道発表している。このKuruma Baseは自動車のコネクテッド化やサービス化を支援するプラットフォームで、C2C(個人間)を含むカーシェアサービス事業者や盗難防止サービス事業者を主な提供対象としている。
カーシェアに関して言えば、Kuruma Baseをカーシェアサービスプラットフォームとして提供することも可能で、スマホからの車両ドアの解錠・ロック操作や各利用者を対象としたポイント制度の導入などにも利用できるという。
そのほかKuruma Baseでは、高度なカーナビゲーションシステムの構築や電気自動車(EV)のバッテリー管理、自動車の故障情報の検知、遠隔での自動車の制御などもできるようになるという。
【参考】関連記事としては「スマートバリュー、車両のサービス化推進プラットフォーム「Kuruma Base」を2019年5月から提供」も参照。
クルマをサービス化!期待の「Kuruma Base」、来年5月提供開始 スマートバリュー社、自動車IoTサービスで実績 https://t.co/g1abvp4Zax @jidountenlab #スマートバリュー #つながるクルマ #プラットフォーム
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) December 14, 2018
■【まとめ】カーシェアがMaaSの核に
小規模カーシェアが各地で誕生する中、アースカーのようにフランチャイズ方式も念頭に入れたサービス展開や、運営委託までを担う導入のしやすさを武器にしたユーピーアールなどの取り組みは、導入を考える自治体や観光地、企業などにとって大きな選択肢となり得る。
次世代の自動車産業において標準的な考え方となる「CASE」のうち、コネクテッドとシェアリングの領域で最初に普及するのはカーシェア領域と言われている。自家用車の概念を所有から利用に変える象徴的な存在であり、MaaSを構成する各移動手段の中でも、カーシェアが最も応用力が高いためだ。
大都市を中心に全国展開が進む大規模型と、狭い範囲で住民らを対象とする小規模型のカーシェア。将来、それぞれがMaaSに組み込まれ、移動手段の核となる日が訪れる可能性は高そうだ。
【参考】関連記事としては「MaaS(マース)の基礎知識と完成像を徹底解説&まとめ」も参照。
MaaSの基礎知識と完成像を徹底解説&まとめ 自動車・バス・タクシー・カーシェア…予約から決済…「統合」がキーワード https://t.co/7X5ZoY9hSJ @jidountenlab #MaaS #解説 #まとめ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) July 1, 2019