テスラもDeNAも「愛車を他人に貸したくない心理」を軽視 Anyca終了のワケは?

個人間シェアは壊滅的?テスラも落とし穴に?



出典:Dunk / flickr (CC BY-SA 2.0 DEED)

個人間カーシェアサービス「Anyca(エニカ)」が、2024年末をもってサービスを終了することが発表された。車庫で眠りがちなマイカーを有効活用する新たなモビリティサービスとしてニッチな支持を集めていたが、なかなか裾野は拡大しなかったようだ。

一般的なカーシェアに比べさまざまな車種を選択可能なため、乗り手側から好評を得る一方、愛車を貸し出すことに抵抗を感じるオーナーは多いと思われる。シェアリングサービスとしての着眼点は秀逸だったが、自家用車に対する価値観をというものを見誤ったように思える。


同様の問題は、テスラのロボタクシー構想で繰り返される可能性がありそうだ。意外と根が深そうな「愛車」に対する価値観は、ロボタクシー構想にどのような影響を及ぼすのか。個人間カーシェアの動向を踏まえながら考察していこう。

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■個人間カーシェアの動向

Anycaが10年間のサービスに幕

Anycaは2015年、ディー・エヌ・エー(DeNA)が将来の中核事業と位置づけるオートモーティブ領域の新事業として開始した個人間カーシェアサービスだ。

「乗ってみたいに出会えるカーシェアアプリ」をテーマに据え、マイカーをシェア(貸し出し)したいオーナーと、必要な時に好みの自動車を使いたいドライバーをマッチングするサービスで、多くの時間駐車場で眠っているクルマの有効活用と、バラエティ豊かなラインアップから乗りたいクルマを選ぶことができる点がポイントだ。

オーナーは、マイカーの未使用時間を活用してお小遣い稼ぎができる。一方のドライバーは、一般的なカーシェアではまずお目にかかれない珍しいクルマに乗ったり、カーシェア事業者が拠点を構えていないようなエリアで借りることができたりするケースもある。単純な移動目的ではなく、「乗ってみたい」という純粋なクルマ目的の需要もあるようだ。


事故に備えた1日単位の自動車保険や個人認証、決済システム、カスタマーサポート、スマートキーシステムなどを開発・構築し、スマートフォンで気軽に利用できるサービスを作り上げた。

2017年には、JR東日本レンタリースが保有する車両を無人で貸し出すサービス実証や、ホンダアクセスとの最新モデル試乗体験キャンペーンを実施するなど、取り組みの幅を広げている。

2018年にはモビリティインテリジェンス開発部をオートモーティブ事業本部内に発足し、AIやクラウド、ITS分野における技術開発にも本腰を入れ始めた。

2019年には、SOMPOホールディングスと合弁DeNA SOMPO Mobilityを立ち上げ、Anyca事業を継承した。


【参考】DeNA SOMPO Mobilityについては「DeNA、個人間カーシェア「Anyca」事業を承継する新会社設立へ」も参照。

2024年10月までに会員登録者数91万人、累計登録台数4万4,000台を突破するなど一定の支持を集めていたが、サービス開始当初に描いていた規模に遠く及ばなかったことなどを理由に、2024年末をもってサービスを終了することを発表した。

▼カーシェア「エニカ」サービス終了に関するお知らせ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000071.000044125.html

出典:DeNA SOMPO Mobilityプレスリリース

「見ず知らずの人に貸すのは理解できない」

Anyca終了のニュースに対し、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」のピッカーからはさまざまなコメントが寄せられている。

  • オーナーとして貸し出しを実際にしていた。若いカップルにぶつけられた。
  • 悲しい。1年に2回は利用していた…。

……といった実際の利用者の声をはじめ、

  • 個人的には貸し手になる気は全く起きない。そもそも見ず知らずの人に自分のクルマを貸すって理解できない。
  • 車オーナーで週末しか乗りませんが平日貸したいとは1mmも思わない。「何かあったらやだな」が勝つ。
  • シェアリングエコノミーは、所有することに興味がない人、所有する維持費を払いたくない人向けのサービス。「Anyca」は~(中略)~所有者はモノに愛着があり、利用者から雑に扱われる等のサービス運営の上でトラブルもあり、なかなか流行らなかったのでは。

……といった声も。やはり「愛車」を貸し出すのには抵抗があるようだ。また、

  • PtoPのカーシェアは画期的だが、会員規模が遠く及ばずに撤退とのこと。さまざまなハードルはあると思うが、スモールビジネスを展開する企業などが事業継承できるとベスト。
  • このサービスは良いなと思うものの多くはニッチ。スケールせず消えていくものも多い。キャズム越えのための思い切った投資ができるか否かで勝負が決まるように思う。

……など、ニッチな市場ゆえの課題と可能性を指摘する意見もあった。中には、

  • 期待したほどスケールしなかった。やはり個人の車両を貸し出すとトラブルが耐えないことが予想される。そういった意味では、TeslaのCybercabも「個人で持って、使わない時間は、ロボタクシーとしてお金を稼がせることができる」というのも、同じ課題を持つ。

……と、テスラのロボタクシーに言及するピッカーもみられた。この件に関しては後述する。

同業他社も軒並みサービスを停止

個人間カーシェア事業者を調べてみたところ、CaFoReが2021年12月、IDOMのGO2GOが2022年6月からそれぞれシステムメンテナンスを理由にサービスを停止しているようだ。

NTTドコモもdカーシェアサービスの中でマイカーシェアサービスを展開していたが、2021年8月でサービスを終了した。キャンピングカーの個人間シェアを手掛けるCarstayはサービスを継続している。

やはり、Anycaに限らず個人間カーシェア事業は苦戦していたようだ。各社ともサービス停止・終了要因を明らかにしていないが、市場が伸び悩む要因があったことは間違いなく、その一つとして「愛車」問題が関わっていたものと推測される。

クルマの取り扱い方は、ドライバー・ユーザーで大きく異なる。「車内土禁」を徹底するきれい好きもいれば、平気でスナック菓子をポロポロこぼすユーザーもいる。ゴーイングマイウェイで自分勝手なドライビングを行う人もいれば、慎重になり過ぎてかえって周りにストレスを与える人もいる。カバンや衣服がボディに当たるのをまったく気にしない人もいる。

運転操作も全般的な取り扱い方も十人十色なのだ。愛車の資産価値を大きく損ねる可能性を考慮すると、見ず知らずの他人に貸し出すことを躊躇するのは当然の感覚でもある。

【参考】個人間カーシェアについては「個人間カーシェアの主要4サービス・アプリまとめ MaaSサービスの一種」も参照。

■テスラのロボタクシー構想

「愛車」の資産価値がリスクと見合わない?

出典:Tesla公式サイト

個人間カーシェアのトラブル事例を見ると、傷や汚れなどのぱっと見でわからないダメージをはじめ、事故を起こされることも珍しくないようだ。中には、オービスを光らせた上バックレた例や盗難された例もあるようだ。

「愛車」として特に愛着を持たず、あくまで買い物や通勤などの「足」として割り切って所有している方や、すでに小傷だらけであと数年乗って廃車にする予定のマイカー所有者であっても、車内を著しく汚される利用や、ましてや後日警察から通知が来るような利用の仕方は許容範囲を超えるだろう。見ず知らずの第三者に貸すリスクは、いつどのような形で降りかかってくるかわからない。

基本的には保険対応されるだろうし、こうしたドライバーは全体のごくわずかであるとは言え、内在するリスクを考慮するとリターンが見合わない――と考えるオーナーは少なくないはずだ。

愛車問題は将来テスラのロボタクシーで再燃?

この問題は、数年後に再び大きな話題となる可能性がある。テスラのロボタクシー構想だ。

同社CEOを務めるイーロン・マスク氏によると、テスラは将来自家用車を自動運転化し、使っていない時間帯に配車サービスプラットフォーム「TESLA NETWORK(テスラネットワーク)」に登録することで、愛車をロボタクシーとして無人稼働させることができる――といった事業展開を考えているようだ。

ドライバーが入れ替わるカーシェアと異なり、オーナーが実質所有するコンピュータが運転操作を行うため厳密には自動運転ライドシェアサービスという扱いになりそうだが、運用スキームは同一と言える。

この発想そのものは秀逸で、多くの時間駐車場で待機しているだけの自家用車を、自動運転技術によって無人タクシーとして稼働し、収益を得る。高額になりがちな自動運転車の所有コストをこの収益で穴埋め、あるいはそれ以上稼ぐことができるかもしれない。

テスラもプラットフォームによる手数料収入が得られるほか、各種オプションサービスの提供による新たなビジネスも考えているかもしれない。車両そのものの買い替えサイクルも短くなり、販売増につながる可能性もある。

マスク氏によると、自家用車は週168時間中実際に稼働しているのは10時間ほどという。わずか6%だ。残りの94%を有効活用することで社会的な無駄をなくし、かつ自社とオーナーそれぞれに利益をもたらそう――という新たなビジネスモデルだ。

日本でも同様の結果がうかがえる。独立行政法人「製品評価技術基盤機構」による生活・行動パターン情報の調査結果(調査年度:2014年度)によると、自家用車の平均運転時間は平日1.6時間、休日1.7時間という結果になっている。稼働率は7%ほどだ。

こうした実態を踏まえると、個人間カーシェアに商機を見出すのも無理はなく、むしろ必然とも言えるだろう。高価な買い物であるマイカーを宝の持ち腐れにするのは忍びない。社会的には有効活用して然るべき――といった考えは正しいと言える。

しかし、「愛車ゆえの特有の価値」は無視できない。商用車のように消耗品的な考え方はなじまず、マイカーとしての資産価値をしっかりと維持できることが多くの人にとって大前提となるのではないだろうか。

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Uberトップも指摘

同様の指摘は、米Uber Technologiesのダラ・コスロシャヒCEOも発している。コスロシャヒ氏は、ポッドキャスト番組でテスラのロボタクシー構想について「テスラ車のオーナーは自分のクルマをロボタクシーとして使用することを望んでいるのか」と疑問を呈した。テスラオーナーは富裕層中心のため、「愛車」志向が高く、小銭稼ぎを必要としない人が多いのかもしれない。

また、コスロシャヒ氏は、オーナーによる乗車時間帯とロボタクシーサービスの需要時間帯が被る可能性にも言及している。通勤などの用途で考えれば確かに重要のピーク時間は被りそうだ。買い物など、別の用途の需要とマッチングさせることが重要となりそうだ。

【参考】ダラ・コスロシャヒ氏の見解については「マスク氏のロボタクシー計画、Uber社長が「根本的欠陥」を指摘」も参照。

マスク氏のロボタクシー計画、Uber社長が「根本的欠陥」を指摘

オーナーカーを活用したロボタクシーはまだまだ先の話?

自動運転オーナーカーによるロボタクシー構想を打ち出したマスク氏だが、2024年10月開催のロボタクシー発表会では、やや様相が異なるプレゼンを行っている。

発表会は、ロボタクシー向けのモデル「Cybercab(サイバーキャブ)」お披露目会兼パーティに留まり、具体的な構想を示す説明はなかった。

サイバーキャブは2人乗りで運転席などの手動制御装置を備えず、価格を3万ドル(約450万円)に抑え2026年にも生産開始・販売する――といった内容だ。

しかし、このモデルは現状オーナーカー向けの仕様となっていないことは明らかだ。手動制御装置を備えない完全自動運転モデルでは走行可能エリアが限定されるため、自由な移動を望むオーナーの需要に応えられないためだ。2026年ごろにテスラがレベル5を達成できる見込みは限りなく低い。

出典:Tesla公式サイト

つまり、サイバーキャブは商用車向けのモデルであり、テスラ自ら、あるいはサービス事業者が自動運転タクシーサービスを提供する形になるものと思われる。

恐らく、並行してFSDの機能を高めてオーナーカーの自動運転化を図り、サイバーキャブで蓄積したノウハウも合わせて当初のオーナーカーによるロボタクシー構想につなげていく算段ではないかと思われる。しばらく先の未来の話となりそうだ。

■【まとめ】将来は自家用車に対する価値観が変わる?

現状、マイカーを他人に貸し出すサービスはなじみにくいことが分かった。こうした愛車に対する思いをマスク氏はどのように考えているのだろうか。甘く見ているようであれば、大ゴケする可能性もある。

ただ、自動運転技術の浸透とともに自家用車の価値・位置づけが徐々に変化していく可能性も高い。将来、本当にハンドルなしの自家用車が実現すれば、「運転を楽しむ」などの要素がマイカーから徐々に喪失し、個性を失っていくことが予想される。

代わって、移動しながら車内で楽しめるコンテンツ・サービスが台頭してくる可能性が高い。こうした時代が到来すれば、マイカーをロボタクシーとして利用することも不自然ではなくなり、選択肢の一つになるかもしれない。

果たして、マスク氏が見定める自動運転社会はどのようなものなのか。今後の動向に引き続き注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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