物流分野におけるMaaS(Mobility as a Service)や自動運転技術の導入により、変革が訪れようとしている小売業界。ラストワンマイルを中心に「モノの移動」の在り方が大きく変わり、その影響は小売りの販売形態にも波及する。
しかし、MaaSや自動運転といった技術は物流分野にとどまらず、直接小売業界に浸透して「店(販売)の移動」を可能にする。
自動運転×小売はどのような可能性を秘めているのか。また、小売業としてどのような技術が必要となるのか。次世代小売の在り方を解説していく。
記事の目次
■自動運転×小売の可能性
MaaSと異業種を結び付ける取り組みはすでに始まっており、小売も例外ではない。具体的な取り組みについては後述するが、交通に利便性をもたらすことで住民の移動を促進し、既存店舗の集客増を図るものと、販売場所となる店舗そのものを効果的に移動することで販売促進を図るものがある。
こうした取り組みに自動運転が結びつくと、ビジネスの可能性はさらに広がる。
住民の移動を促進し、既存店舗の集客増へ
前者においては、移動コストの低減や回遊性の向上が住民の移動をいっそう促進するほか、既存の郊外型商業施設などが展開している無料巡回バスの導入も容易となり、集客を図りやすくなる。
MONET Technologiesらが2021年2月から東広島市で段階的に実証予定のオンデマンドバスによる買物支援サービスなどがこのイメージだ。MONETは、送迎車両を活用し宅配も同時に行うこととしている。
【参考】MONETの取り組みについては「「Autono-MaaS」で小売プロジェクト始動!MONET、自動運転車で商品配送」も参照。
「Autono-MaaS」で小売プロジェクト始動!MONET、自動運転車で商品配送 https://t.co/vtGSHu0ilI @jidountenlab #Autono-MaaS #MONET #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) December 12, 2020
販売場所となる店舗そのものを効果的に移動
一方、後者においては、自動運転技術を導入することで場所を選ばない無人販売が可能になる。固有の場所にとらわれない、次世代の小売スタイルだ。
導入初期は、移動可能な自動販売機のようなモデルが主流となり、販売可能な商品が限られそうだが、RFIDタグを活用したセルフレジの仕組みなどを導入することで、無人コンビニのようなスタイルの販売が可能になる。
無人コンビニは国内各社も導入や実証に取り組んでいるが、海外では米RobomartやスウェーデンのWheelysらが開発を進める「Moby Mart」など、自動運転技術で移動可能な無人コンビニの展開を見据えた取り組みも行われている。
トヨタが開発を進めるMaaS専用の自動運転EV(電気自動車)「e-Palette(イー・パレット)」も、多目的な活用方法の1つとして小売(リテールショップ)を掲げている。自動運転車を活用した小売は、未来においては特別なものではなくなり、販売形態の1つとしてスタンダードな存在となる可能性があるのだ。
【参考】無人コンビニについては「「無人コンビニ」の開発状況まとめ 自動運転技術で「移動式」も」も参照。
中国でブーム勃発!「無人コンビニ」最前線 AI自動運転技術で「移動式」も https://t.co/PgIO61QkRQ @jidountenlab #無人 #コンビニ #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) May 17, 2019
■自動運転×小売に必要な技術
根幹オペレーションのDXが必須に
大きな可能性を秘める自動運転×小売だが、単純に小売と自動運転を結び付け、やみくもに町中を駆け巡らせても大きな効果は望めない。さまざまな面でデジタルトランスフォーメーション(DX)を図る必要があるのだ。
販売面では、前述したRFIDタグなどを活用し、無人販売を行う仕組みが大前提となる。キャッシュレス決済もスタンダードな存在となるだろう。
また、無人化の恩恵を最大限発揮するためには、販売のみならず仕入れの段階から可能な限り無人化・デジタル化を図らなければならない。オンライン受発注システム(EOS)をはじめ、受発注から納品までをオンラインでカバーする「EDI(Electronic Data Interchange)」の導入が望まれる。さらには、それら仕入れ・受発注~
生産管理や在庫管理、販売管理システムなどを体系化するとともに取引企業とのやり取りもデジタル化し、商品の売れ行きに応じて自動で発注・納品される仕組みを構築しなければならない。今や多くの企業にとって標準となっているIT化が必然となる。
マーケティングにも変革が求められる
一方、マーケティングにも大きな変革が求められる。固定された場所で販売する従来の手法と異なり、移動先のニーズを随時的確に読み取らなければならないのだ。
自社が取り扱う商品の需要にマッチしたエリアを探すのが常套手段となるが、これは比較的商品展開の狭い尖った商売が前提となる。さまざまなジャンルの商品を扱う小売事業者においては、曜日や時間帯といった基礎的な情報をはじめ、移動先となる各エリアの時間帯別の客層などを把握し、需要に見合った商品を提供してこそビジネス性が向上する。
さらには、その日の天気や近隣イベントなどによる集客なども考慮し、需要に応じた最適な商品構成や販売エリアを選択する必要がある。
常に「いつ、どこに、何を持っていけば売上が増すのか」をはじき出し、そのデータに基づいてきめ細かくタイムリーに仕入れ可能な最新システムを構築・導入してこそ、自動運転×小売は成立する。
ただ単純に自動運転を導入するのではなく、根幹オペレーションをDXすることが必須となるのだ。
■三井不動産が移動商業店舗プロジェクトに着手
こうした「自動運転×小売」におけるDXの一端が、三井不動産の取り組みに表れている。同社は2020年12月に「モビリティ構想」を始動し、街の新たな価値創出を目指して不動産の枠組みを超えた可動型の柔軟なサービスの提供やアクセス向上、不動産×MaaSといったさまざまな取り組みに着手している。
その取り組みの1つに「移動商業店舗」プロジェクトがある。いわゆる移動販売車を活用し、自宅やオフィスなど身近な場所で買い物をできる機会や環境づくり、また思いがけない魅力的なコンテンツ(店舗)と出会える体験価値の創出に取り組む事業で、出店可能なさまざまな場所の小規模スペースを活用し、リアル店舗とECをつなぐシームレスな買い物体験のハブとなることを目指す。
同社は、不動産事業などを通じて性別・年代・家族構成やライフスタイルをはじめ、ロケーションや生活シーンに応じた利用者の多種多様なニーズに深く触れており、この知見を活用することで場所や曜日・時間帯に応じて最適化されたコンテンツをピンポイントで提供可能という。
また、移動商業店舗は投資が軽く、売上が期待できるエリアへ機動的に移動できるため、事業規模によらず低リスクで参入が可能となり、多様な事業者や新たな業態の出店が期待できるとしている。
すでに首都圏や近郊5エリアでトライアルイベントを実施しており、将来的にはホテルなどさまざまな移動式サービスに広げていく考えのようだ。
デベロッパーならではの土地や住民に関する知見を最大限に発揮することで需要・ニーズを的確に把握し、固定された商業施設ではなく流動性の高い商業ゾーンを創出していく事業だ。「自動運転×小売」においても、こうした観点が求められる。
■【まとめ】「自動運転×小売」が現実社会のEC的存在に?
「自動運転×小売」は、従来の小売とECの中間に位置するような存在になるのかもしれない。特定エリアに限定されることなく不特定多数を相手にすることが可能で、そのうえで無人販売に適したオペレーションや需要予測などをデジタル化していくことが求められるからだ。
なお、自動運転技術の導入有無に関わらず、多くの業種でDXが求められるのがこれからの時代だ。なるべく早い段階で日頃の業務を全般的に見直し、DXのメリットをしっかり理解することをお勧めする。
【参考】関連記事としては「【全3回特集・目次】自動運転が巻き起こす小売革命」も参照。