自動運転普及は人の移動(車)よりモノの移動(配送ロボ)から、その理由は?

安全性の担保や技術ハードル、潜在需要など理由





出典:AMAZONプレスリリース

自動運転技術を活用した移動サービスは、大きく二つに分けることができる。「人の移動」と「モノの移動」だ。これらのサービスの実現においては共通する部分も多いが、技術要件の違いなどから全く異なった性質も見え隠れする。

また、それぞれのサービスを裏付ける需要にも違いが見られ、これらの違いを突き詰めていくと、人の移動よりモノの移動のほうが先に普及する可能性が高いという結論に達する。







自動運転の実現において、なぜモノの移動のほうが早期普及するのか。その理由を解説していこう。

■安全性:モノの移動なら低速走行でも

自動運転において第一に考えなければならないのは、やはり安全性だ。安全性を高めるためには、自動運転車の走行速度をなるべく低く抑えることや、走行する範囲を狭く限定すること、車両サイズを適度に小さくすることなどが近道となる。こうした諸条件を満たすことで、自動運転の実現がぐっと身近なものになる。

人を乗せる場合、低速走行で満足を得られるケースは、ショッピングモール内などの比較的狭い範囲における短距離移動に限定される。タクシーによる数キロメートル以上の移動が低速だった場合、移動サービスとしての効用は大きく失われることになる。移動サービスにおいては、制限速度内でいかに速く安全に移動できるかが問われると言えるだろう。

一方、モノの移動ではどうか。輸送されるモノは、高速だろうと低速だろうと文句は言わない。冷凍物などは例外となるが、輸送時間よりも配達時間を厳守することのほうが優先されるため、タイムスケジュール管理が徹底されていればゆっくりと配達しても問題は起こらない。

つまり、安全性を高めることができる低速走行に向いているのは、人の移動よりもモノの移動ということになる。

では、車両サイズの観点から見るとどうなのか。人の移動の場合、当然だが最低一人は乗るスペースが必要となり、パーソナルモビリティが最小サイズとなる。

モノの移動においては、大量に積み込むことができる乗用車サイズのタイプから、積載容量が小さく歩道などをゆっくり走行する小型タイプまでさまざまな種類の宅配ロボが開発されている。効率性の観点などからも、限りなく小型化できるのはモノの移動を担う宅配ロボであることは明らかだ。

また、万が一事故を起こした際の影響も考慮する必要がある。自動運転車は「絶対に事故を起こさない」ものではなく、手動運転に比べ事故を起こす確率をできる限り低く抑えたものとなるのが現実だからだ。

自動運転の導入当初には、必ずと言えるほど想定外のケースが発生する。事前にどれだけシミュレートや実証を繰り返しても、針の穴ほどの欠陥や盲点が新たに発生するのが世の常だ。このような欠陥は、実用化による多種多様な経験の蓄積や新たな技術開発で逐次補い、事故発生率をより低いものへと抑えていくのである。

つまり、実用化によって初めて得られる知見が不足しがちな導入当初においては事故が発生しやすく、人命が直接関わる人の移動よりも、モノの移動のほうが適していると言わざるを得ないのだ。このため、人の移動に比べモノの移動のほうが先に普及する――という理論だ。

【参考】関連記事としては「ラストワンマイル向けの物流・配送ロボット10選」も参照。

■技術ハードル:モノの移動なら必要な要素技術少なく

人を運ぶ自動運転車両と、モノを運ぶ自動運転車両。それぞれを製造・量産する技術面ではどうだろうか。自動運転タクシーの開発などにおいてスタートアップが手掛けているものもあるが、大半はシステムの開発を手掛けるのにとどまり、自動車メーカーと提携を結ぶか、車両を購入して改造する形となっている。

電動化によって内燃機関が不要となるなど、従来の自動車に比べハードルが下がっている部分もあるが、ボディ剛性や足回りといった全般的な技術は、やはり自動車メーカーにしかなし得ないのが現状だ。

しかし、モノを運ぶことに特化した車両の場合、これらのハードルを大きく引き下げることが可能になる。人が乗ることを前提とした安全基準や乗り心地といった要素をある程度省くことができ、ゴルフカートやデリバリー用の3輪スクーターといった簡易モビリティに必要な要素を付け足す形でも実現可能となる。

1台あたりの製造に必要とされる要素技術が少なく、生産コストも低く抑えられるため、モノの移動を担う自動運転車の量産においては中小企業なども参入しやすく、普及に向けた量産化体制を構築しやすいのだ。

■法整備:配送ロボットは格段に法的根拠を与えやすい?

法律面においてはどうだろうか。現時点では、人の移動もモノの移動も無人による公道走行は原則として認められていないが、今後、法環境を整備しやすいのはどちらなのか、という観点だ。

2019年5月、道路交通法と道路運送車両法の改正案が国会で成立し、自動運転レベル3に対応した改正法が施行される運びとなっている。また、国土交通省が同年6月、「限定地域での無人自動運転移動サービスにおいて旅客自動車運送事業者が安全性・利便性を確保するためのガイドライン」を策定・公表しており、自動運転レベル4の実現に向けた研究や実証なども加速している状況だ。

ラストワンマイル配送を担う自動走行ロボットについては、経済産業省が「自動走行ロボットの社会実装に向けた官民協議会」を2019年6月に立ち上げ、社会実装に向けて安全性の確保や交通弱者への配慮といったユニバーサル性の確保、マップなどのインフラの整備、事故時の法的責任分界点の整理などについて検討を進めている状況だ。

議論が早期にスタートしたという点では人の移動がリードしているが、モノの移動においては、公道を走行するケースだけにとどまらない。ロボットの仕様によっては、通常の車両のほか自転車のような軽車両や、新たな分類が規定される可能性もある。小型の配送ロボットなどは歩道走行に向いており、従来の枠組みに収めることは著しく社会実装を阻害する可能性が高いためだ。

軽車両に該当する場合や新たな分類が規定された場合、満たすべき要件のハードルが格段に下がる。イメージとしては、現状道路運送車両法上の原動機付自転車に該当する電動キックボードを、安全性を考慮しながら利用しやすい分類に落とし込むのに近い。

つまり、小型の配送ロボットは、カテゴリーを明確にすることで道路を走行する自動運転車両に比べ格段に法的根拠を与えやすいモビリティとなるのだ。

なお、道路走行においては、人の移動もモノの移動も基本的な要件は同一となるはずだ。車両そのものが備えるべき安全基準などは異なるものの、手動運転車などと混在する条件下において、人かモノかといった運ぶものの違いによって線引きする必要がないためだ。

■広い参入者層:参入のしやすさに大きな差

技術ハードルの項と重複するが、モノの移動を担う自動運転車やロボットのほうが製造におけるハードルが低いことと、宅配事業者だけでなくさまざまな小売事業者なども直接参入することが可能になるため、車両・ロボットの開発やサービスの提供に際し、新興ベンチャーらにとっても大きなビジネスチャンスとなり得る。

実際、世界各地で行われている宅配ロボットの開発やサービス実証は、米Starship Technologies(スターシップテクノロジーズ)や米Nuro、米Udelvなど、スタートアップの活躍が顕著だ。また、EC大手の米Amazonなども独自開発を進めており、小売業界からの関心も非常に高い。

また、無人移動店舗といった活用方法も実用化に向け実証が進められており、さまざまな利用方法が検討されている。

モノの移動においては、こうした多様なビジネスチャンスと参入のしやすさがベンチャーをはじめとした新規参入者を生んでおり、さまざまな発想の導入や競争などによってイノベーションが加速しやすい環境が出来上がっているのだ。

■顕在需要と潜在需要:右肩上がりが続きそうな宅配需要

自動運転技術を用いた人の移動とモノの移動は、その背景にある需要が異なる。

自動運転における人の移動は、自動運転タクシーや自動運転バスなどを中心に実用化が始まることが予想されており、次第にカーシェアやライドシェアといった用途などにも広がっていくものと思われる。ドライバー不足を背景に、都市部ではより効果的・効率的なサービスを提供し、地方における過疎地域においては、公共交通インフラの維持などが主目的となる。

一方、モノの移動においては、深刻なドライバー不足と、相反するかのように右肩上がりが続きそうな宅配需要が背景となっている。現在は、インターネット通販に代表される戸別宅配需要が伸びているが、宅配ロボットの導入によって多くの小売業が宅配事業に着手する可能性がある。

ドライバーが不要となることで必然的に配送料金は低下し、利便性がいっそう向上する。これまで近場で購入できなかったモノや一定金額以上のまとまった買い物で利用されていた通信販売が、比較的安価な買い物でも利用しやすくなるのだ。

配送料の低下は、スーパーやコンビニなどの実店舗に足を運んで買い物していたこれまでの消費者行動を激変させ、日常的な食料品などもインターネット経由で注文し配送してもらう機会が増加する。

小売業界はこうした動きを見越して、宅配ロボット事業に早期着手するだろう。必要なくなった実店舗は、商品をストックする配送ステーションに様変わりする。

モノの移動にはビジネス要件を満たす相当な需要が眠っているため、民間の意欲を損なうことがないよう政府も可能な限り早期対応していくものと思われる。

もちろん、人の移動においてもMaaS(Mobility as a Service)の観点から移動サービスを利用する人は増加することが考えられるが、これは自動運転による移動サービスに限るものではなく、すべての地域において需要に裏付けされたサービス展開が行われるものでもない。モノの移動に比べると、そこに内在する需要の背景が異なるのだ。

■【まとめ】宅配ロボットの知見が自動運転技術の進化に貢献

取ってつけたような理由もあったが、参入障壁が低く、かつサービスが多岐にわたり、確かな需要に裏付けされたモノの移動のほうが先に普及する――という大筋には納得してもらえるものと思う。

市場調査大手の富士キメラ総研で自動車領域を担当する佐藤弘明氏も、自動運転ラボの対談取材において、自動運転車を使った人の移動サービスよりもモノの移動が先行する旨語っている。物流や配送などのサービスで自動運転化がまず先行し、その後に人の移動サービスという流れになるという。心強い味方だ。

自動運転タクシーやバス、ラストワンマイルを担う自動運転宅配車や宅配ロボットは、ほぼ同時期に実用化が進み始める可能性が高いが、小型の宅配ロボに対して新たな区分が設定され法的な位置づけが明確になれば、量産効率と需要の高さを背景に普及に一気に弾みが付く。

そこで得られた知見が道路を走行する自動運転宅配車やタクシーなどにも還元され、技術の進化を加速する。その結果、自動運転社会がどんどん広がっていくのだ。

自動運転技術を開発する既存メーカーや新興企業のみならず、今後は小売業界の動向にもチェックが必要となりそうだ。

【参考】富士キメラ総研の佐藤氏との対談については「【対談】どうなる2020年以降の自動運転市場!?富士キメラ総研と自動運転ラボが未来予測」も参照。







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