自動車用照明機器の開発などを手掛ける小糸製作所が、グローバルOEMメーカーから短距離LiDARの新規受注を獲得したと発表した。
発注先メーカーが気になるところだが、同社は世界の主要メーカーと取引があるため、特定は困難だ。ただし、自動運転レベル4(高度運転自動化)の車両向けとのことで、濃厚だと思われる企業をある程度挙げることはできる。トヨタやGMだ。
同社はパートナー企業の米Ceptonの子会社化も検討しており、今後さらにLiDAR事業に注力していく方針だ。発注先を推測しつつ、小糸製作所のLiDAR戦略に触れていこう。
記事の目次
■小糸製作所のLiDAR事業
レベル4向けに短距離LiDARを受注
同社の発表によれば、自動運転レベル4車両における周辺監視向けとして、同社が米Ceptonと共同開発した短距離LiDARが選定されたという。
CeptonのMMT方式(Micro Motion Technology)を活用したLiDARで、機械的な摩耗部がないため長寿命・高耐久を実現しており、さらに自動車部品に求められる高い信頼性・量産性に優れているとしている。
同社製短距離LiDARのスペックは不明だが、参考までにCeptonの世界最小クラスの短距離LiDAR「Nova」は視野角120×90度で40メートル先まで検知可能となっている。
レベル4自動運転車において、短距離LiDARは主に側方や後方検知に用いられる。低速モデルであれば前方検知にも使えるかもしれないが、「周辺監視向け」として採用されたことを考慮すれば、側方などの用途が有力に思われる。
小糸製作所は世界のOEMと取引
小糸製作所は、自動車用ランプで世界トップシェアを誇るなどグローバルに活躍するサプライヤーで、当然ながら世界の自動車メーカーと取引がある。
主要取引先には、トヨタ、日産、本田技研工業、マツダ、ダイハツ工業、SUBARU、スズキ、三菱自動車工業、いすゞ、日野、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックス、ヤマハ発動機、川崎重工業といった国内勢をはじめ、GM、フォード、ルノー、グループPSA、ダイムラー、吉利汽車、東南汽車、タタモーターズなどの海外勢も名を連ねている。
今回のLiDAR発注先を見極めるのは難しいが、ヒントの1つになり得るのが「レベル4」だ。プレスリリースで出すということは、LiDAR数基程度の契約ではなく、それなりに大型のものであることが予想される。つまり、レベル4車両の量産段階を迎えつつあるメーカーが候補となるのだ。
e-Palette擁するトヨタは?
国内では、e-Palette(イー・パレット)を擁するトヨタだろうか。イー・パレットを活用した実証は増加傾向にあり、自治体が採用する動きも出始めている。
【参考】関連記事としては「トヨタのe-Palette(イーパレット)とは?自動運転EV、東京五輪で事故」も参照。
トヨタ自身、あるいは強大なネットワークを有するMONET Technologiesが自治体などとの取り組みを強化する戦略にゴーサインを出せば、イー・パレットの需要は急増する。イー・パレットには限らないものの、2024年7月から東京都内のお台場エリアで自動運転サービスの実証を開始することも報じられており、自動運転車の量産化に向け水面下で動き出していてもおかしくはないだろう。
ただ、トヨタは米Luminar Technologiesに出資しているほか、グループにはデンソーがいる。2021年発売のレクサス新型「LS」とトヨタの新型「MIRAI」には、デンソーのLiDARが採用されている。高い壁と言えそうだ。
【参考】トヨタの取り組みについては「やはりトヨタが大本命!ついに「自動運転レベル4」、お台場で展開か」も参照。
実はGMが本命?
では、ホンダ×GM勢はどうだろうか。ホンダはGM、Cruiseとともに開発した自動運転モビリティ「Origin(オリジン)」を日本国内に導入し、2026年初頭にも東京都内で自動運転タクシーサービスを開始する計画を発表している。
最大500台までオリジンを投入する計画で、仮にこの量産計画を射止めていれば大型契約となる。
何より、小糸製作所が出資するCeptonは2021年7月、GMと思われる自動車メーカーと契約を交わしている。デトロイトに本拠を置くOEMと、複数モデルに渡る次世代ADAS(先進運転支援システム)に採用され、2023年から導入される内容だ。
デトロイトを本拠とするOEMと言えばGMだ。フォードは隣町のディアボーン、クライスラーはデトロイト都市圏のオーバーンヒルズを本拠としている。当時の契約はADAS向けだが、実績としては十分だろう。
2022年3月には、GMとSAEインターナショナルが共催する4カ年の自動運転コンペティションプログラム「AutoDrive Challenge II」の公式スポンサー及び独占的LiDARサプライヤーに選定されたことも発表している。
GMがOrigin以外の自動運転車の量産化を進めている可能性もあり、意外とこちらが本命なのかもしれない。
【参考】ホンダやGMの取り組みについては「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。
■小糸製作所の自動運転戦略
Cepton子会社化を検討中
小糸製作所は、グループのライティングテクノロジーや製品設計・量産化の技術・ノウハウをベースに、外部協業企業の先進LiDAR技術を組み合わせた製品開発を推進している。外部協業企業としては、2017年にCeptonと中距離用LiDARの共同開発を開始している。
2020年2月に同社へ5,000万ドルを出資(当時のレートで約55億円)しているほか、2022年2月に同額を追加出資、2022年10月にも転換型無議決権優先株式を1億ドル取得する計画を発表するなど、関係強化を積極的に図ってきた。
2023年12月には、Cepton子会社化に向けた株式取得に関する交渉を開始することを取締役会で決議したと発表した。Ceptonは発行済株式の100%を取得するという拘束力のない意思表示を受け、協議を進めているという。
Ceptonは米ナスダック市場に上場済みで、2024年4月12日時点の株価は2.93ドル、時価総額4,664万ドル(約71億円)となっている。
成立すればLiDAR業界にとっては大きな話題となりそうだ。LiDAR開発は海外勢が明らかに優勢だが、乱立する開発企業の淘汰も進んでいる。追い上げる日本勢としては、OEMと良好な関係をすでに築いている小糸製作所のようなネットワークや実績が大きな武器となるかもしれない。
【参考】Ceptonについては「小糸製作所、米Ceptonに追加出資!自動運転向けLiDAR、2023年量産化が目標」も参照。
【参考】LiDARについては「LiDAR(ライダー)とは?(2024年最新版)自動運転向けセンサー」も参照。
LiDAR(ライダー)とは?(2024年最新版)自動運転向けセンサー https://t.co/3BTMshoj0E @jidountenlab
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 19, 2024
ライティングからセンシングへ
自動車照明器のリーディングカンパニーとしてドライバーをサポートするライティング技術を培ってきた同社は、EV化や自動運転化など業界が変貌を遂げる中、ドライバーのみならずADASや自動運転のセンサー、ひいては交通に参加するすべてのための「光」を提供し、「光」で誰もが安全・安心・快適に過ごすことができるモビリティ社会の実現を目指している。
LiDARのように、ドライバーと車両システムに向けたセンシング関連技術の開発・製品化が現在地だ。さらには、周囲とのコミュニケーションを可能にするライティング技術の開発も進めている。
LiDARは、Ceptonとともに短距離、中距離、長距離向けの各LiDARを開発している。Ceptonは2024年1月、世界最小という小型LiDAR「Ultra」を発表した。
Ultraは150×90×24ミリとコンパクトデジカメ並みのサイズで、最大300メートル、視野角120×25度を実現したという。基本性能の向上とともに、こうした小型化も今後シェア獲得には重要となりそうだ。
センサライティングモジュールに注目
今後注目を集めそうなのが、次世代モビリティ向けの「センサライティングモジュール」だ。
車両の四隅に設置されるランプにセンサーを統合したモジュールで、最小限のセンサーで車両の周囲360度を監視するだけでなく、歩行者や他の車両とのコミュニケーションも可能にするという。
発車や転回の際にライティングで車両の挙動を路面に表示して周囲に伝達するほか、カメラやLiDARを組み込むことで車両デザインを損なうことなく360度センシングを実現することができる。
また、これらの技術をサイドモジュールに応用した案もあるようだ。カメラとランプ、ディスプレイを一体化したサイドモジュールを自動運転サービスカーなどに搭載することで、特定の利用者を認識したり、ライティングにより利用者とコミュニケーションを図ったりすることができる。
■【まとめ】国内開発勢として小糸製作所の動向に注目
国内LiDAR開発勢では、今のところデンソー以外に大型契約を結んだ例はないものと思われる。今後、Cepton買収により小糸製作所が頭一つ抜け出すか注目するとともに、実用性あふれるセンサライティングモジュールの開発動向からも目が離せないところだ。
自動運転車の量産化や乗用車への搭載が本格化すれば、LiDAR市場は大きく活気づく。開発各社のシェア争いも今後どんどん過熱していきそうだ。
【参考】関連記事としては「小糸製作所、「クルマの意図」の視覚化に挑戦 自動運転時代見据え」も参照。