2022年も残りわずかとなった。この1年、自動運転市場で報じられたさまざまなニュースを振り返ってみると、自動運転技術を活用した移動サービスのローンチなどに関するトピックが多かった一方、インフレに伴う景気後退への懸念から、自動運転部門の縮小に舵を切る企業もあった。
こうした流れを汲んだ2023年は、自動運転業界にとってどのような1年となるのだろうか。大きく、アメリカ・中国・日本に分け、展望を示そう。
記事の目次
■アメリカ
早くも自動運転タクシーが普及へ
アメリカでは2022年、インフレに伴う金利引き上げの影響で、景気後退の懸念が高まった。ドル高によってグローバルに事業を展開する企業の収益悪化もあり、Amazonなど自動運転プロジェクトに資金を投じている企業が、関連プロジェクトの縮小に踏み切るケースもあった。
2023年もこうした流れが継続することになるのか、注目だ。特にGoogleが子会社のWaymoを通じて展開している自動運転タクシーの事業を縮小させることはあるのか、同じように自動運転タクシーを展開しているGM Cruiseも事業拡大の方針を転換することはあるのか、業界の関心が集まりそうだ。
ただし現在のところ、両社にそうした兆候はなく、むしろサービスを拡大する方針にある。Waymoはアリゾナ州フェニックス、GM Cruiseはサンフランシスコを起点に事業を開始し、展開都市を徐々に増やしていく計画だ。2023年、現在の計画通りに進めば、アメリカでロボタクシーの普及が本格的に始まる第一歩となるかもしれない。
【参考】関連記事としては「実は役立たず?米Amazon、自動配送ロボの公開テスト中止」も参照。
遂にテスラで自動運転レベル3実装?
米電気自動車(EV)大手のテスラは現在、有料オプション「FSD」を展開している。このFSDは「Full Self-Driving」の略で、日本語に訳すと「完全自動運転」となるが、いまのところ提供できている技術は、運転支援機能、自動運転レベルにするならレベル2.0〜2.5程度にとどまる。
一方、イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)はこれまで過去に何度も、「来年には完全自動運転が実現」といった趣旨のことを口にしたり、Twitterで表明したりしてきた。しかし前述の通り、現在までにまだ実現はしていない。
だが、FSDの機能はバージョンアップで着実に技術力が高まっていることを考えると、完全自動運転とはいかなくても、レベル3(※ホンダが市販車への搭載を実現したレベル)の実装は十分にあり得そうだ。この点には注目しておきたい。
【参考】関連記事としては「テスラの自動運転事業、Twitter買収のせいで遅れも」も参照。
■日本
トヨタと日産もレベル3市販車発売?
知っての通り、日本には世界的に存在感が強い自動車メーカーが複数存在する。トヨタを筆頭に、ホンダ、そして日産・・・。すでにホンダは自動運転レベル3の市販車を展開しており、トヨタと日産もホンダに続くのか、注目を集めている。
これまでの動きをみると、トヨタは自動運転シャトルの開発、日産は自動運転タクシーの展開に力を入れているようにも見えるが、それぞれの取り組みはレベル3の市販車の展開と相容れないものではない(当然、プロジェクトを複数同時に進めればコストは増えるが・・・)。
トヨタとホンダが水面下でレベル3の市販車の開発を進め、2023年のいずれかのタイミングで発売開始を発表する可能性は十分にある。トヨタはe-Palette、日産は最新ADASのプロパイロット2.0の開発を通じ、すでにそれぞれ自動運転に関する技術力を高めていることは確実だ。
【参考】関連記事としては「自動運転、トヨタとホンダの「レベル別」現状比較」も参照。
レベル4解禁で「バス無人化」が本格化
道路交通法の改正により、2023年、日本では「自動運転レベル4」(高度運転自動化)が一部解禁される。「一部」というのは、自家用車向けのレベル4が解禁されるのではなく、移動サービス、すなわちバスやシャトルなどの自動運転レベル4での運行が解禁される形だからだ。
レベル4は、特定エリア内において人間の介在(※遠隔監視を除く)を一切前提としない技術レベルのことを指す。そのため、原則としてセーフティドライバーの同乗は不要となる。現在、日本国内で自動運転移動サービスが商用展開されている例は複数あるが、実証実験での展開を除き、基本的には人間が「念のため」すぐにサポートをできるようになっている。
レベル4の解禁により安全要員がいない無人バスや無人シャトルの展開が始まれば、本格的に自動運転社会の幕が開けたという見方もできる。
【参考】関連記事としては「解禁!自動運転レベル4、道交法改正に伴う「法令改正案」概要」も参照。
■中国:真っ先に「自動運転先進国」に?
自動運転技術の開発では、まずアメリカがリードした。しかし今、中国がアメリカの背中をとらえており、各企業の技術開発とサービス展開の早さ、そして中国政府の強力な振興施策に注目すると、見方によってはすでにアメリカを追い抜いたと言えるかもしれない。
そんな中国では2023年、自動運転タクシーの展開が一層加速するはずだ。中央政府、そして地方政府が各社のサービス展開を法律・規制の面から後押ししていることが大きい。サービス展開が可能なエリアを拡大し、開発企業に対する運行許可の発布も加速させる可能性が高そうだ。
中国では2022年、レベル4の技術を搭載した自家用車向けの市販車が2023年にも発売開始されるというニュースが報じられた。発売を計画しているのは、ネット検索大手・百度だ。この計画の実現には中国政府によるレベル4解禁のアクションが不可欠だが、もし実現すれば世界初のこととなる。
2023年のさまざまな動きを契機に、中国は「自動運転先進国」と呼ばれるようになるかもしれない。
■自動運転業界は「黎明期の後半」へ
アメリカ、日本、中国にフォーカスして2023年の自動運転市場の展望を展開してきた。
このほか、有望ベンチャーが多数存在しているイスラエル、Uberの自動運転タクシーでベース車両として選ばれた現代自動車(Hyundai)有する韓国、そしてもちろん欧州勢にも引き続き注目していくべきだ。
特に欧州においてはフランスの自動運転シャトルの開発企業、NavyaやEasyMileの存在感は世界的に強く、日本においてもNavyaの自動運転シャトルが展開されるなど、グローバルに両社の知名度は高まっている。
いまは自動運転の「黎明期」と言えるが、これまでは「研究」がメインだった一方、すでに「実用化」が始まっており、もはや「黎明期の後半」に差し掛かっていると言える。
2023年も世界的な景気後退の懸念が消えなければ、経済界・ベンチャー界隈では守りのムードが漂い続けるかもしれないが、この大きなビジネスチャンスを逃すのは大きな機会損失だということを、強調しておきたい。
【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでる?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)