自動運転、トヨタとホンダの「レベル別」現状比較

レベル2+はトヨタ、レベル3はホンダに軍配?



自動運転レベル4を実現する改正道路交通法が2023年4月までに施行される。本格的な自動運転時代がいよいよ幕を開けることになる。


自動運転技術の実用化に各社が熱を入れるが、自動車メーカーとしてしのぎを削るトヨタホンダはそれぞれどのような戦略で自動運転時代を迎えようとしているのか。

トヨタとホンダのこれまでの取り組みなどを比較し、自動運転分野における開発競争の行方に迫っていこう。

■事業規模におけるトヨタvsホンダ

まず両社の事業規模を比較してみよう。2022年3月期(2021年4月~2022年3月)におけるトヨタの業績は、営業収益31兆3,795億円で営業利益2兆9,956億円、連結販売台数は823万台となっている。

一方のホンダは、売上収益14兆5,526億円で営業利益8,712億円、グループ販売台数は四輪事業407万4,000台、二輪事業1,702万7,000台となっている。


世界トップを争うトヨタと比較するのは酷かもしれないが、ホンダも世界7~8位の規模を誇っている。事業規模そのものの優劣はいかんともしがたいが、どちらも規模が大き過ぎるため、開発面における優劣には直結しなさそうだ。

ADAS分野におけるトヨタvsホンダ

レベル1~2のADAS(先進運転支援システム)では、トヨタが「Toyota Safety Sense」、ホンダが「Honda SENSING」の標準搭載化をそれぞれ進めており、甲乙つけがたい状況だ。アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストなどの各機能は、もはやスタンダード化している。

では、ブレーキ・アクセルワークの縦制御とステアリング操作による横制御を高度化し、一定条件下でハンドルから手を離すことができる「ハンズオフ」機能はどうか。ハンズオフは高度なレベル2に相当し、「レベル2+」「レベル2.5」などと呼ばれることもある技術だ。

トヨタは2021年、新型MIRAIとレクサスの新型「LS」にADAS「Advanced Drive」を搭載し、ハンズオフ機能の実装を開始した。その後、2022年には新型ノア・ヴォクシー、新型クラウンに「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」を設定するなど、搭載車種の拡大を図っている印象だ。


対するホンダは、2021年発売の新型「レジェンド」に搭載した「Honda SENSING Elite」でハンズオフ機能を実現している。同システムには、後述するレベル3システム「トラフィックジャムパイロット」も備わっているが、それ故搭載車種はレジェンドのみにとどまっており、結果としてハンズオフ機能の搭載車種の拡大も見られない。

レベル2+においては、現段階ではトヨタに軍配が上がりそうだ。

【参考】ハンズオフ機能については「「手放し運転」が可能な車種一覧(2022年最新版) ハンズオフ機能とは?」も参照。

■レベル3におけるトヨタvsホンダ

ここからが正式に自動運転の領域となる。レベル3は、一定条件下で自動運転を実現する。例えば、好天時の高速道路において時速80キロ以下で走行している場合――といったイメージだ。

自動運転システム作動中は、ドライバーは周囲の監視義務を免れる。前方から目を離し、スマートフォンなどを操作することが可能となる。ただし、自動運転システムから手動運転要請が行われた際は、速やかに手動運転を行わなければならない。

このレベル3を世界で初めて自家用車に実装したのがホンダだ。前述した2021年発売の新型「レジェンド」で、レベル3システム「トラフィックジャムパイロット」を実現した。

トヨタをはじめとする国内勢はまだ追随する動きを見せておらず、レベル3においてはホンダの独り勝ち状態となっている。

【参考】レベル3については「自動運転レベル3でできること(2022年最新版)」も参照。

レベル4におけるトヨタvsホンダ

レベル4は、一定条件下でドライバー無人の走行を実現する自動運転技術だ。万が一の際も、ドライバーに依存することなく安全に路肩へ停車するなど、無人で走行を完結することが求められる技術だ。

トヨタはe-Palette軸に実証加速
東京モーターショーでe-Paletteについて語るトヨタの豊田章男社長=出典:トヨタプレスリリース

トヨタが開発を進めるレベル4の代表格は「e-Palette(イー・パレット)」だ。モビリティサービス専用の自動運転車で、移動サービスや小売りなど、さまざまな用途に利用可能な柔軟性の高い車内空間が特徴だ。

開発用の実験車両としては、海外研究拠点のToyota research Institute(TRI)が開発を進める「TRI-P4」もある。トヨタが開発中の自動運転システム「ガーディアン(高度安全運転支援システム)」と「ショーファー(自動運転システム)」の実験車両だ。

イー・パレットは、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックの選手村で送迎用に導入されたのを皮切りに、2022年に東京臨海副都心・お台場エリアでも実証が行われるなど、徐々に実装に向けた取り組みを加速している印象だ。

2020年代前半に米国をはじめとしたさまざまな地域でサービス実証を目指す方針だが、今のところ具体化した計画は明かされていない。

他社との協業やWoven Cityにも注目

他社との協業では、米Aurora Innovationや米May Mobility、中国Pony.aiといった新興勢と手を組んでいる。ただ、自動運転システムは他社製がメインで、トヨタは車両の提供にとどまっている印象が強い。

また、トヨタが静岡県裾野市に建設中の実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」にも注目だ。自動運転をはじめとしたさまざまな先進技術の実証を行うリアルな都市空間で、稼働とともに各種取り組みが一気に加速する可能性が高そうだ。

【参考】イー・パレットについては「トヨタの自動運転EV「e-Palette」が東京臨海副都心を走る!2022年2月17日から」も参照。

ホンダは2020年代半ばのサービス実現に向け実証開始
出典:Cruise公式サイト

レベル4開発に向けたホンダの取り組みの目玉は、米ゼネラル・モーターズ(GM)と傘下のCruiseとのパートナーシップだ。3社は2018年に資本・業務提携関係を交わし、自動運転開発を進めている。

3社は2020年、ハンドルなどの手動制御装置を備えないサービス専用自動運転車「Cruise・Origin(クルーズ・オリジン)」を発表したほか、Cruiseはシボレー・ボルトをベースにした自動運転車両「クルーズAV」を使用し、2022年に米カリフォルニア州で無人自動運転タクシーサービスを開始している。

ホンダも2021年に3社による共同開発の一環として日本における技術実証を行うことを発表し、同年9月に栃木県宇都宮市・芳賀町で技術実証に着手した。第1段階として、同県内の試験コースで高精度3次元地図作成車両によるマッピングを行い、その後公道走行などを通じて日本仕様の自動運転システムの構築を進めている。2020年代半ばにも自動運転モビリティサービスの国内展開を実現する構えだ。

また、ホンダモビリティソリューションズは2022年4月、タクシー事業を展開する帝都自動車交通と国際自動車と提携し、東京都心部における自動運転モビリティサービスの提供に向け協業していくことを発表した。クルーズ・オリジンの導入に向け、関連法令やサービス設計などを進めていくこととしている。

なお、カリフォルニア州で行われているCruiseの自動運転タクシーはややトラブル含みで、現状荒削りの印象が強い。日本での導入に向け、どこまでブラッシュアップできるかがカギを握りそうだ。

【参考】ホンダの取り組みについては「ホンダ、東京で「レベル4自動運転」の実証実施へ」も参照。

自動運転マイクロモビリティの実証にも着手

ホンダは2022年11月、自動運転機能などを搭載したマイクロモビリティの実証を茨城県常総市内の複数エリアで開始することを発表した。

独自の協調人工知能「Honda CI」を活用した「Honda CIマイクロモビリティ」として、1人から数人の乗員数を想定した搭乗型マイクロモビリティ「CiKoMa(サイコマ)」や、ユーザーの特徴を記憶し追従するマイクロモビリティロボット「WaPOCHI(ワポチ)」の技術実証を進める。高精度地図に依存せず環境を認識しながら自律走行可能な「地図レス協調運転技術」などを搭載しているという。

■【まとめ】競争の行方は二転三転……

レベル4においては、トヨタ、ホンダ双方とも取り組みを進めているが、ホンダはサービス実装に向けた取り組みを具体化している点で一歩リードしていると言える。トヨタは全方位を見据えどっしりと構えている印象だ。

ただ、技術開発力そのものに大きな差異があるとは言えず、今後の戦略次第で競争の行方は二転三転することが予想される。

他社を交え、今後どのような競争が繰り広げられていくのか、要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転、一番進んでるメーカーは?(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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