本格実用化に向け、日進月歩の成長を続ける自動運転技術。その裏には、さまざまな最新技術やアイデアが盛り込まれている。
こうした技術に触れる一手法が「特許」や「実用新案」だ。開発各社はどのような技術を特許・実用新案として出願しているのか。この記事では、特許庁のデータや資料をもとに、自動運転関連の技術に迫る。
記事の目次
■自動運転関連の特許の概要
2014~2018年の特許出願は6万1,835件、日本勢が最多
まず、特許庁がまとめた「令和2年度(2020年度)特許出願技術動向調査 MaaS(Mobility as a Service)~自動運転関連技術からの分析~」の調査概要について紹介する。
▼令和2年度(2020年度)特許出願技術動向調査 MaaS(Mobility as a Service)~自動運転関連技術からの分析~
https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/2020_03.pdf
同調査では、2014~2018年に日本、米国、欧州(独除く)、独国、中国、韓国に出願された特許文献と、2017~2019年に発行された非特許文献を対象とし、調査対象とした技術範囲は、自動運転関連技術とMaaS関連技術がそれぞれ以下の通りとなっている。
<自動運転関連技術>
- 車載センサ
- ダイナミックマップ
- 通信技術
- 認識技術
- 予測技術
- 判断技術
- 操作技術
- 人工知能
- Human Machine Interface
- 運行設計領域
- 緊急事態対応
- 運行管理
- 遠隔監視
- 遠隔操作
- 運転支援システム
- 走行形態
- 自動運転制御装置
- 自動化レベル
- シーン・場所
- 課題
<MaaS関連技術>
- モビリティサービス(ライドヘイリング、カープーリング等)
- MaaS運行管理/手配
- MaaS実現技術(走行制御、乗客認知等)
- MaaSアプリケーション(地図表示、経路検索、決済等)
- ビッグデータ収集
- ビッグデータ応用
- MaaS応用産業
- 防災・災害情報
- 交通情報
- シーン・場所
- 課題
ちなみにこのほか、自動運転関連技術とMaaS関連技術の両方に関する技術も対象となっている。
出願件数は計6万1,835件で、このうち出願人国籍・地域別で最も多いのは日本国籍の2万1,871件となっている。米国が1万2,951件、欧州国籍が3,360件と続く。
一方、出願先では、米国が1万5,820件で最多となっており、中国の1万4,907件、日本の1万2,379件と続く。日本勢による出願が多い一方、出願先は市場規模などを反映している印象だ。
自動運転関連技術:「車載センサ」が3万件超
自動運転関連技術における技術区分別の出願件数では、多い順に車載センサ3万8,783件、認識技術3万1,130件、判断技術2万8,001件、運転支援システム2万2,533件、HMI2万1,666件、自動運転制御装置1万9,028件、通信技術1万3,877件、人工知能4,902件、遠隔監視・遠隔操作4,087件、運行設計領域2,349件となっている。
多くの分野で日本が最多となっているが、人工知能と遠隔監視・遠隔操作においては米国が最多となっている。
MaaS関連技術:サービス関連では「鉄道」が最多
MaaS関連技術の出願件数は計9,643件で、出願人国籍・地域別では中国の3,283件が最多となっている。日本国籍2,173件、米国籍2,132件の状況だ。
技術区分別では、Mobilityサービス関連では鉄道1,550件、バス1,529件、タクシー1,308件、カープーリング1,073件、車両シェアリング960件、ライドヘイリング616件、車両レンタル371件、ラストマイル264件、駐車場214件と続く。
MaaSアプリケーション関連では、経路検索2,178件、手配1,069件、マルチモーダル919件、予約799件、決済741件、案内表示575件となっている。
MaaS実現技術では、乗客認知982件、乗り継ぎ制御363件、MaaS運行管理・手配では顧客管理1,698件、運行計画作成・手配1,558件、運行管理1,462件となっている。
ビックデータ取得では、行動履歴391件、目的地情報192件、立ち寄り情報141件、ビッグデータ応用では、交通量分析133件、パーソントリップ調査74件、都市計画56件となっている。
MaaS応用産業では、物流365件、観光362件、小売り191件、広告180件、保険59件、医療43件となっている。
MaaS関連は非常に多岐にわたる技術が出願されているものと思われる。また、観光や小売りなど、MaaSに付随するサービス関連の申請も需要を反映するような形で数字を伸ばしている印象だ。
出願人別ではトヨタが首位に
日米欧独中韓への自動運転関連技術の出願件数において、出願人別ではトヨタ自動車が4,247件で首位に立ち、米FORD GLOBAL TECHNOLOGIES(フォード)3,067件、デンソー2,648件、本田技研工業2,460件、独ROBERT BOSCH(ボッシュ)2,207件、HYUNDAI MOTOR(ヒョンデ)1,887件、GM GLOBAL TECHNOLOGY OPERATIONS1,433件、日産自動車1,214件、BAYERISCHE MOTOREN WERKE(BMW)850件、三菱電機847件と続く。
一方、MaaS関連技術ではトヨタ自動車647件、中国DIDI CHINA TECHNOLOGY436件、米FORD GLOBAL TECHNOLOGIES290件、米UBER TECHNOLOGIES289件、米GM GLOBAL TECHNOLOGY OPERATIONS(ゼネラルモーターズ)173件の順となっている。
トヨタを筆頭に日本勢活躍がする一方、MaaS関連ではDiDiやUberといった配車プラットフォーマーが上位に食い込んでいる。
論文発表では日本は低迷
調査では、研究者所属機関国籍・地域別の論文発表動向にも言及している。多い順に欧州国籍(独除く)が1,944件、米国籍1,619件、中国籍1,281件、独国籍778件、韓国籍357件、日本籍351件となっており、特許出願に比べ日本国籍の論文発表が相対的に少ないことがよく分かる。
■開発各社の特許技術
トヨタやホンダ、Waymoなど各社が出願
経済産業省所管の独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」において、単純にキーワード「自動運転」で特許・実用新案を検索すると、1万3,104件ヒットする。このうち、2022年に公知された437件の中から主だったものを紹介していく。
多数の特許・実用新案を出願しているトヨタは、目標軌跡の実現が求められる状況において自動運転への不要な介入を抑える車両制御システムや、自動運転車のオペレーター以外のいたずらや誤りにより車両制御・操作が行われることを防止する自動運転システム、オペレーターの意図に反した自動運転車両の加速を抑制する技術、自動運転車両を歩道側に寄せる場合に車両を不要に停止させてしまうことを抑制する技術、乗客の感覚に合った動きで車両を停車させることができる自動運転技術、自動運転車両の走行中に車載装置の異常判定を行う技術、目標の駐車枠に追従車両を駐車させることができる車両制御システムなど、非常に細やかで多岐にわたる技術を出願している。
【参考】トヨタの特許については「「トヨタ 自動運転」と特許検索してみると?」も参照。
「トヨタ 自動運転」と特許検索してみると? https://t.co/PW2rbNYUB2 @jidountenlab #自動運転 #トヨタ #特許
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 1, 2022
ホンダは、高精度地図情報のデータが壊れている場合や誤った地図データが格納されている場合、また地図情報量が大きくなる地点で処理負荷が増大し適切な自動運転をすることができない場合などに、適切な条件で自動運転の制御レベルを変更可能な車両制御装置や車両制御方法、プログラムに関する技術を出願している。
スバルは、自動運転走行中に走行環境情報を取得する前方認識センサーの故障により自動運転モードを手動運転モードへ遷移させる際の待機時間中、ドライバーが誤ってアクセルペダルを踏み込んでも急加速を抑制可能にする技術を出願している。
海外勢における日本への出願としては、Waymoが無人運転車両と乗客との間でピックアップを手配するフライバイピックアップに関する技術や、調整可能な分解能とフェイルセーフ動作を備えたLiDARシステム、アクティブセンサーシステムを容易にするシステムなどを出願しているようだ。
また、米Aurora Innovationも「追加車両の決定されたヨーパラメータに基づいた自律走行車制御」と題した特許を出願している。
自動運転分野における技術やサービスの多くはグローバル展開されるため、特許協力条約(Patent Cooperation Treaty/PCT)に基づく国際出願などにより、今後新興勢をはじめとするさまざまな企業による出願が日本や世界各国であふれることになりそうだ。
【参考】Waymoの特許については「Waymoの自動運転特許を調べてみた!当初はGoogleとして出願」も参照。
Waymoの自動運転特許を調べてみた!当初はGoogleとして出願 https://t.co/6VRkPs8WgV @jidountenlab #Waymo #自動運転 #特許
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 7, 2022
米Appleも数々の特許を出願
海外では、米Appleが自動運転車の挙動を周囲のドライバーや歩行者にカウントダウン付きで知らせる技術「Countdown Indicator」をはじめ、ジェスチャーで自動車を走行させる技術やiPhoneなどでドアの解錠やエンジン始動を行うバーチャルキー技術、隊列走行時にバッテリー電力を譲り合う技術「PELOTON」、シートを通じて乗員に情報伝達する技術「Haptic feedback for dynamic seating system」など、自動車関連の技術を多数出願している。
近々では、音声アシスタント「Siri」で車両を操作する技術が米国特許商標庁に提出されたことが報じられている。報道によると、自動運転EV「Apple Car」に音声などの入力を自動運転コマンドに変換するオンボードAIが搭載され、運転操作権限者が音声によって目的地までの車両経路を指示することができるという。
アップルの自動運転分野への参入はいまだ全貌が明らかになっていないが、数々の出願を踏まえると、車両製造段階からの本格的な参入を計画していることが見て取れる。
【参考】Appleの取り組みについては「Apple、自動車ビジネスを本格展開へ iOS活用、自動運転車開発も」も参照。
Apple、自動車ビジネスを本格展開へ iOS活用、自動運転車開発も https://t.co/81d3oX1twu @jidountenlab #Apple #自動車 #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 3, 2021
特許めぐる訴訟も
自動運転分野では、独自技術に関する企業間の争いも頻発しているようだ。エンジニア争奪戦が繰り広げられている米国などでは、籍を置いていた企業の極秘技術をエンジニアが他社に持ち出すケースなども散見される。
有名な訴訟としては、Waymoが特許侵害でUberを提訴した一件が挙げられる。Waymo(グーグル)の元エンジニア・アンソニー・レバンドウスキー氏が自動運転トラック開発スタートアップOttoを設立し、その後同社をUberが買収したが、同氏が営業秘密の漏洩や特許侵害を行ったとしてWaymoが訴えた件だ。
最終的にレバンドウスキー氏には罰金と懲役3年の地裁判決が言い渡されたほか、Uberは和解金として、自社投資ラウンドにおける株式配当をWaymoに提供することが報じられている。配当金は約2億4,500万ドル(約260億円 )に上るという。
コネクテッド関連では、フィンランドの通信機器大手ノキアと独ダイムラー(現メルセデス・ベンツ)間の訴訟が有名だ。ダイムラーは欧州電気通信標準化機構(「ETSI」)が開発した各種無線通信規格を活用したコネクテッドカーを製造していたが、ノキアは自社の特許技術が同規格に必要不可欠なものであると主張し、ダイムラーにライセンス契約を迫った。
権利侵害訴訟の末、ダイムラーに損害賠償責任が認められ、最終的にダイムラーが特許使用料を支払う形で両社は和解している。
■自動運転に関する商標
J-PlatPatで自動運転に関する商標を検索すると、名古屋大学を運営する国立大学法人東海国立大学機構による「ゆっくり自動運転」や、アロママッサージ事業などを手掛けるハンド・エイドによる「自動運転ホテル」、日産自動車による「Seamless Autonomous Mobility」、損害保険ジャパンによる「自動運転リスクアセスメント」や「SOMPO自動運転見守り」、自動車技術会による「自動運転AIチャレンジ」、見本市を主催するRX Japanによる「自動運転EXPO」などがヒットする。
中には、個人名で「自動運転車」や「日本自動運転協会」「robotaxi」などを登録する動きもある。いわゆる商標ビジネスかどうかは定かではないものの、固有の自動運転システムやサービスが続々と実用化される将来に向け、商標の早期取得も一段と重要性を増すことになりそうだ。
【参考】自動運転に関する商標については「「自動運転タクシー」や「自動運転車」、既に商標登録済み」も参照。
「自動運転タクシー」や「自動運転車」、既に商標登録済み https://t.co/v4bAns303s @jidountenlab #自動運転 #商標 #自動運転タクシー
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 11, 2021
■【まとめ】技術が結集し、高度な自動運転システムが実現
出願された一つひとつの技術は非常に細かなものだが、その一つひとつが結集することで、高度かつ効果的な自動運転システムやサービスが実現する。
今後も続々と最新技術が出願されるものと思われるが、出願件数は各社の研究開発への意欲の表れでもある。開発各社がどのような領域に力を入れているのか、特許の面からアプローチしてみるのも興味深いところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転に必須の7技術まとめ」も参照。