中国EC最大手のアリババは2021年6月、傘下の物流企業「菜鳥網絡(Cainiao Network)と自動運転トラックを共同開発する計画を発表した。1年以内に自動配送ロボット1,000台の導入も目指すという。
アリババや米アマゾンに代表されるように、EC企業による自動運転開発・導入の機運が世界的に高まっているようだ。この記事では、自動運転分野におけるEC事業者の取り組みを解説していく。
記事の目次
■アリババグループの取り組み
グループ総出で自動運転開発を促進
アリババグループにおいては、物流事業を手掛けるCainiaoの活躍が著しい。同社はEC需要の増加とともにひっ迫する中国内の配送サービス確立に向け、アリババや大手物流企業が出資して2013年に設立したテクノロジー系企業だ。
Cainiaoは2018年、LiDAR開発を手掛けるRoboSenseとともに無人配送ロボット「G Plus(ジープラス)」の開発を発表した。小売向けに宅配業務やモバイル自動ピックアップ機能、モバイルコーヒー販売カートといったスマートデバイスを装備可能という。
翌2019年には成都市に20万平方メートル規模の自動運転パークの開設を発表し、ジープラスの本格的な実証を進めているようだ。
【参考】自動運転パークについては「アリババ傘下の物流会社・菜鳥網絡、自動運転パークの稼働開始」も参照。
一方、アリババも2018年の技術カンファレンスでレベル4機能を備えたトラックタイプの無人配送車両を発表している。同社でAI(人工知能)開発を進めるAlibaba AI Labsが開発に携わっており、運転席はなく時速40キロほどの速度で走行可能という。
アリババはAI Labsのほか、先端技術の研究開発促進に向け2017年にDAMO Academyを開設しており、ロボット工学の分野では自動運転の研究ラボを設け、マルチセンサーのフュージョンテクノロジーやローカリゼーション、プランニングシステム、スマートコントロール、自動運転シミュレーションプラットフォーム、データプラットフォーム、協調車両インフラシステムなどの研究を進めている。
2020年9月には、デジタルインフラ事業を手掛けるAlibaba Cloudがラストマイル配送用の自律型ロジスティクスロボットを発表した。DAMO Academyが開発したモデルで、歩道走行に適した小型モデルながら一度に50個の荷物を運ぶことができ、1回の充電で航続距離100キロを達成したという。Cainiaoのプラットフォームに導入される見込みだ。
Alibaba Cloudは今後、ロジスティクス関連のロボットをはじめ、空港のサービスロボットや景勝地の観光ガイドロボットなどさまざまなタイプのロボットへの技術活用を目指す方針だ。
他社との協業で自動車業界への参入も
アリババは、自動運転タクシーの開発を手掛けるスタートアップAutoXの資金調達Aラウンドに参加し、金銭面で実用化を支援するほか、傘下のAutoNavi(高徳地図)の配車サービスアプリと連携した自動運転タクシーサービスの実用実証も進めている。
2020年11月には、上海汽車集団(SAIC)などと新EV(電気自動車)ブランド「智己汽車」を設立し、正式に自動車業界にも足を踏み入れている。SAICとはこれまでにもコネクテッド技術開発を手掛けるBanmaの設立など、クラウドサービスや自動運転開発などで協業を進めており、今後、物流分野に留まらず自動運転業界に広く進出を図ることが予想される。
【参考】SAICとの協業については「中国SAICの新EVに秘める実力 自動運転、車内パーソナライズ、OTAが実現!」も参照。
中国SAICの新EVに秘める実力 自動運転、車内パーソナライズ、OTAが実現! https://t.co/Zzr4riLh4o @jidountenlab #SAIC #EV #自動運転 #OTA
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) January 28, 2021
■Amazonの取り組み
宅配ロボットAmazon Scoutの実証進む
米EC大手のアマゾンは、自社開発した小型の宅配ロボット「Amazon Scout(アマゾン・スカウト)」の走行実証を2019年、カリフォルニア州やワシントン州を皮切りに開始した。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年には、ジョージア州やテネシー州にもテストフィールドを拡大している。
宅配ロボットの開発・実用化に力を注ぐ一方、自動運転分野ではクラウドサービス「アマゾンウェブサービス (AWS)」を主力に影響力を増している印象だ。AWSを利用する企業は、トヨタやホンダ、マツダ、ヤハマ、デンソーといった日本企業をはじめ、独フォルクスワーゲンやBMW、米Uber、TuSimple、Embarkといったスタートアップまで広がっている。
クラウドベースの3Dレーシングシミュレーターを使ってAIの機械学習を実践的に学ぶことができる「AWS DeepRacer」といったコンテンツも用意されている。
【参考】関連記事としては「米Amazonの自動運転配達ロボ「Scout」、試験の場を拡大中」も参照。
米Amazonの自動運転配達ロボ「Scout」、試験の場を拡大中 世界規模で過熱する開発競争 https://t.co/PCaXiCKRZF @jidountenlab #Amazon #自動運転 #試験
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 13, 2019
Zoox買収で自動運転分野への本格参入も?
2020年6月には、自動運転開発を手掛ける米スタートアップZooxの買収を発表した。同社が進める自動運転ライドシェアサービスの実用化を後押しするとしており、新たな事業展開など今後の動向に注目が集まるところだ。
【参考】Zooxについては「ZooxのエバンスCEOが語ったこととは?Amazon傘下の自動運転スタートアップ」も参照。
ZooxのエバンスCEOが語ったこととは?Amazon傘下の自動運転スタートアップ https://t.co/1NBLQJf1aP @jidountenlab #Zoox #自動運転 #CEO #Amazon
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 26, 2021
■京東集団の取り組み
ロジスティクスのスマート化に早期着手
中国EC大手の京東集団(JD.com)は早くから自社物流網の整備を図っており、物流倉庫におけるファクトリーオートメーション化をはじめドローン配達や自動運転車の開発など最新技術を駆使したスマート化を推し進めている。
2018年には中国長沙市などで同国初となる無人配送車スマート配送ステーションを設立している。2019年には、物流事業を手掛ける子会社の京東物流が自社物流サービスで培ってきたスマート物流ソリューションを外部企業に提供するビジネスに着手するなど、拡大路線を歩み始めた。
自動運転関連では、2017年に自動運転小型トラックを発表したのを皮切りに開発を促進している印象で、2018年にはレベル4相当の技術を備えた大型トラックや、スタートアップ・Go Further AIの協力のもと開発した自動配送ロボット「超影1000C」を発表している。2019年にも全長約3.5メートルの新たなレベル4車両を発表している。
日本でも楽天との提携のもと、楽天が国内で構築する無人配送ソリューションに京東のドローンや配送ロボットを導入することに合意しており、2019年5月に楽天が千葉大学構内で実施した配送実証実験などで宅配ロボットが活用されている。
【参考】京東集団の取り組みについては「「自動運転×物流」のJDロジスティクス、香港で上場へ スマート物流システムを開発」も参照。
「自動運転×物流」のJDロジスティクス、香港で上場へ スマート物流システムを開発 https://t.co/vfQ0l0VPpW @jidountenlab #自動運転 #物流 #JDロジスティクス #上場
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) May 12, 2021
■楽天の取り組み
ドローンや配送ロボットを活用した取り組み加速
国内EC最大手の楽天は、ドローン配送事業から着手している。2016年にドローンの研究開発などを手掛ける自律制御システム研究所に出資し、自律型ドローンによる配送事業をスタートし、2017年に福島県南相馬市で約半年間に渡ってドローンを活用した商品配送実証を行った。
2018年には、ドローンと配送ロボットを組み合わせた配送実験を千葉県幕張周辺で初めて実施した。三井不動産レジデンシャルがモデルルームの建設を進めるエリアで、専用ドローンが建物前まで配送した荷物を配送ロボットに積載し、注文者が待つモデルルームの部屋まで届ける内容だ。
ドローン中心の取り組みが目立つが、2019年5月に千葉大学構内で配送ロボットを使用した屋外実証を実施したのを皮切りに、配送ロボット単体の取り組みも目立つようになってきた。同年9月からは西友の協力のもと、神奈川県横須賀市でうみかぜ公園を舞台に一般利用者を対象に商品を配送する実証を行った。
2020年8月には東急リゾーツ&ステイのリゾート先での商品配送サービス実証や、新たに包括連携協定を結んだ横須賀市で2021年3月から公道走行による商品配送サービス実証なども実施している。配送ロボットはパナソニック製が新たに導入された。
【参考】楽天の取り組みについては「楽天の自動運転・MaaS・配送事業まとめ ライドシェア企業へ出資も」「重たい米もOK!楽天&西友、パナ製自動配送ロボで国内初サービス」も参照。
重たい米もOK!楽天&西友、パナ製自動配送ロボで国内初サービス https://t.co/C9GMYJfk6E @jidountenlab #楽天 #西友 #パナソニック #自動搬送ロボット
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 9, 2021
■【まとめ】EC足掛かりにIT企業としての本領を発揮?
中国ではアリババや京東集団以外にも、ECサイト「Suning.com」を手掛けるSuning Holdings傘下の物流企業Suning Logisticsが百度のアポロ計画に参加し、早ければ2020年までに無人配送車両の量産を行うことを2018年に発表している。なお、その後の経過は不明だ。
また、サウジアラビアを本拠とする中東最大のECプラットフォームnoon.comを運営するNoon AD Holdingsも、2019年に中国スタートアップNeolixと戦略的パートナーシップを結び、同社が開発した自動配送車5,000台を発注したと報じられている。
EC需要による宅配事業のひっ迫は世界的に進んでおり、宅配業務の外部委託に限界が訪れている点や、新型コロナウイルスによるコンタクトレス配送需要の増加などを契機に、EC事業者自らが自動運転開発や導入を率先して進めている印象だ。
また、クラウドサービスなどIT企業としての側面を十二分に発揮した取り組みも見逃せない。自社ECを生かした自動運転配送事業を足掛かりに、自動運転分野への関わりをより広く深いものへと変えていく可能性が考えられる。EC事業者の今後の動向に要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転の宅配ロボット(デリバリーロボット)取組事例まとめ!」も参照。