2021年は自動運転関連企業の上場ラッシュ!LiDAR企業も続々

少なくともLiDAR3社が2021年前半に上場か



実証から実用化へと社会実装段階に突入した自動運転技術。これを象徴するかのように、2020年はLiDAR開発大手のVelodyne Lidar(ベロダイン・ライダー)や有力スタートアップのLuminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)などが上場を果たし、事業拡大に向け基盤を整えた。自動運転市場が本格化の兆しを見せ始めている。


この勢いは2021年にますます加速するものと思われる。この記事では、2021年に上場予定のCASE関連企業をはじめ、いわゆる「関係筋の話」で上場がうわさされている企業も含めて紹介する。

■VelodyneやLuminarが使った「SPAC上場」とは?

はじめに触れておくが、2020年に入ってからSPACを介したIPOが急増している。前述したVelodyneやLuminarもこの手法によって上場を果たした。

SPACは特別買収目的会社を指す。SPACは事業を持たない状態で先行して上場し、資金調達を行う。並行してIPOを目指す企業を調査し、協議がまとまればその企業を買収する。その後、買収された側の企業が存続会社となることで、結果的に新会社が上場を果たすことになる。

IPOを目指す企業は、SPACを活用することで上場に向けた各種手続きの省略や期間短縮を図ることが可能になるため人気を集めているようだ。近年、投資家保護の観点からルールが明確となり、2020年に入ってこの手法を活用した上場が急増している。


■InnovizTechnologies:ナスダックへ2021年第1四半期上場目指す

LiDAR開発・製造を手掛けるイスラエルのスタートアップInnovizTechnologies(イノヴィズ・テクノロジーズ)は、米ナスダック市場へ2021年第1四半期のSPAC上場を目指している。SPACはCollective Growth Corpで、イノヴィズの企業価値は約14億ドル(約1,450億円)と試算されている。ティッカーシンボル(日本で言う証券コード)は「INVZ」となる予定。

同社は2016年に設立され、これまでマグナやデルファイ(現Aptiv)、ソフトバンクのアジア部門などから資金調達を行ってきた。同社製LiDARは、BMWが2021年に発売見込みのEV(電気自動車)のフラッグシップモデル「iX」への採用が決まっており、大きな注目を集める1年になりそうだ。

【参考】イノヴィズについては「自動運転の目「LiDAR」を開発するイノヴィズが上場へ」も参照。

■Aeva:ニューヨーク証券取引所へ2021年第1四半期にも上場

世界初の4DLiDAR開発などを手掛ける米スタートアップAeva(エヴァ)は、ニューヨーク証券取引所へ2021年第1四半期のSPAC上場を目指している。SPACはInterPrivateAcquisitionCorpで、Aevaの企業価値は約21億ドル(約2,200億円)とされている。ティッカーシンボルは「AEVA」となる予定。

同社は米Appleの元エンジニアが2017年に創業した。従来のLiDARを性能面で上回るとされる4DLiDARの開発を進めており、これまでポルシェSEから戦略的投資を受けているほか、独アウディとのパートナーシップも明かされている。2021年1月には、デンソーと次世代LiDARを共同開発することも発表されている。

量産化に向けては、独ZFと生産パートナーシップを交わしており、盤石の体制で上場を迎えそうだ。

■Ouster:2021年前半にもニューヨーク証券取引所へ上場

LiDAR開発を手掛ける米スタートアップOuster(オースター)も2020年12月、ニューヨーク証券取引所へのSPAC上場を発表した。SPACはColonnadeAcquisitionCorpで、2021年前半に合併・上場を完了する予定としている。ティッカーシンボルは「OUST」となる予定。

同社は2015年創業。自動車をはじめロボットやスマートインフラストラクチャー向けのLiDAR開発を進めており、自動車向けには超広角モデルや中距離、長距離モデルなどをすでに製品化している。クライアントには、自動運転バスを開発するMay Mobilityや自動運転トラック開発を手掛けるKodiak Roboticsなどがいるそうだ。

■Hesai Technology:スターマーケットへの上場目指す報道あり

LiDAR開発を手掛ける中国スタートアップのHesai Technology(禾賽科技)も、IPOに向けた活動を進めているようだ。中国メディア36Krの日本版「36Kr Japan」が2021年1月に報じた内容によると、近く目論見書を提出し、中国版ナスダックといわれる科創板(スターマーケット)への上場を目指すようだ。

同社は2013年(一説には2012年)に米シリコンバレーで創業し、2014年に上海へ本拠を移した。これまでにボッシュやバイドゥなどから資金を調達しており、従来の構造を持つメカニカルLiDARやソリッドステート式LiDARなどを製品化している。

同社によると、ボッシュやバイドゥをはじめ、中国の上汽集団やWeRide、AutoX、米Lyft、Nuro、仏Navyaらが同社製LiDARを使用しているという。

■Horizon Robotics:スターマーケット上場目指す噂も

AI(人工知能)チップ開発を手掛ける中国スタートアップのHorizon Robotics(地平線機器人)もスターマーケットへの上場が噂される1社だ。

同社は2015年創業。2017年にBPU(Brain Processing Unit)を開発・発表するなど、AIプロセッサの分野で活躍している。過去の資金調達ラウンドではインテル系ベンチャーキャピタルやSKテレコムなどから資金を得ている。

2020年10月に独コンチネンタルと中国市場を中心にADASや自動運転アプリケーションの分野で協力していくことを発表したほか、12月には資金調達Cラウンドで1億5,000万ドル(約155億円)を調達したことなどが報じられている。同ラウンドでは総額7億ドル(約720億円)を目指すようだ。

こうした状況を踏まえると上場はもう少し先の話となりそうだが、企業価値はすでに30~40億ドル規模のユニコーンに成長しており、IPOの際は大型上場として大きな話題となりそうだ。

【参考】Horizon Roboticsについては「自動運転向けAIチップ開発のHorizon、2021年中に上場へ」も参照。

■TuSimple:米国上場の報道も

自動運転トラックを開発する中国スタートアップのTuSimpleも、早ければ2021年初頭にも米国で上場を目指すと中国メディアが報じている。

これまでに独フォルクスワーゲンのトラック部門や米物流大手のUPSなどから出資を受けており、北米を中心に積極的に実証やルートのマッピングを進めている。

計画では2024年までに北米全域をマッピングして自動運転サービスを全国展開する予定で、2021年に一部区間で無人配送サービスを実現する予定としている。

自動運転トラックの開発はWaymoやKodiak Roboticsなどプレイヤーが出揃い始めており、今後実用化をめぐる開発競争が一気に加速する可能性が高そうだ。

■SenseTime:2020年の計画延期 2021年上場なるか

画像認識技術開発などを手掛ける香港のSenseTime(センスタイム)は2020年から上場の計画が持ち上がっており、改めて2021年の動きに期待が持たれる。

センスタイムをめぐっては、日経系メディアが2020年3月、同年中に香港市場で上場予定だった計画を延期したと報じたほか、8月にはブルームバーグが関係者の話として香港と中国で同時IPOを検討していると報じた。あくまで暫定的な計画であり、変更される可能性もあるとしている。

タイミングを見計らい、水面下で協議を進めている可能性が高そうだ。

【参考】SenseTimeについては「中国センスタイム、自動運転向けのセンシング技術を紹介」も参照。

■Didi Chuxing :2021年前半にも香港市場で?報道相次ぐ

配車サービス大手の中国Didi Chuxing(滴滴出行)も、ついに上場に向けた本格検討に着手したようだ。複数のメディアが関係筋の話として報じている。

報道によると、IPOに向け複数の投資銀行と協議を重ねているという。ニューヨーク証券取引所への上場を当初計画していたが、米中関係の緊迫から香港市場に変更し、2021年前半の上場を目指す方針としている。

日本でもタクシー配車サービスでなじみが深い同社。ソフトバンクやトヨタなどとも関係が深く、また企業評価額も8兆円規模に達していることから、実現すればビッグニュースとなることは間違いなさそうだ。

■Grab:2021年内米国上場をロイターが報道

東南アジアを中心に配車サービスを手掛けるシンガポールのGrabにも動きがありそうだ。ロイターが2021年1月、関係筋の話として2021年内にも米国での上場を目指すと報じている。実現すれば、東南アジアの企業として過去最大となる20億ドル(約2,070億円)規模の上場となる見込みだ。

同社もDiDi同様ソフトバンクやトヨタと関係が深い。世界の配車サービス大手では米Uber、Lyftが2019年に上場を果たしており、DiDi、Grabの動向にも注目が集まる。

■Faraday Future:上場資金でEV量産化へ

ロイターによると、米カリフォルニアに本拠を構える2014年創業の中国発EVスタートアップFaraday FutureもSPAC上場に向け協議を進めているようだ。同社CEO(最高経営責任者)がロイターのインタビューに答えた。

合併先のSPACはProperty Solutions Acquisitionが予定されていることにも触れており、具体的に協議が進んでいるものと思われる。

同社が2016年に公開したEVコンセプトカーは「テスラ・キラー」と呼ばれるほど注目を集めたが、度重なる資金難で一時経営そのものが危ぶまれていた。

上場による資金調達で本格的な量産化に着手できるか、正念場の1年となりそうだ。

■Lucid Motors:EV量産体制整い、2021年上場で勝負の年に

EV開発を手掛ける米Lucid MotorsにもIPOの動きが見られるようだ。36Kr Japanが2020年10月に報じた記事によると、プレIPOに向けた資金調達を模索しており、完了次第2021年内にも上場を目指すという。

同社は2007年創業(創業時の社名はAtieva)で、創業者のピーター・ローリンソン氏をはじめテスラ出身者が多く在籍していることでも有名だ。資金面から量産計画は延期されていたが、2018年にサウジアラビアの公共投資基金から資金調達した後は軌道に乗り、2020年12月に生産工場が完成した。

2021年中に販売・サービス拠点を北米20カ所に展開する予定で、量産モデル第1号となる「Lucid Air」で古巣のテスラに挑む構えだ。

■【まとめ】2021年も各社の動向に注目

11社を紹介したが、このほかにもAIチップ開発を手掛ける英Graphcoreなど上場のうわさが後を絶たない企業は少なくない。

各企業は上場に向けた手続きを終了し、目論見書を提出する段階に至るまで、安易に公表できない面がある。故に「関係者筋の話」が大勢を占める結果となるが、火のないところに煙は立たない。予定が延期される可能性は考えられるが、上場に向けた意向があるからこそ話題となるのだ。

Innoviz、Aeva、Ousterは順当にいけば2021年内に上場を果たすことになるが、それ以外の企業の動向にも引き続き注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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