「自動運転×ソニー」最新取り組みまとめ 自ら車両開発も!?

イメージセンサー開発強化、エンタメも武器に進撃



出典:ソニー/みんなのタクシー

米ラスベガスで開催された「CES 2020」で最新のコンセプトカー「VISION-S」を披露したソニー。センシングやエンターテインメントに力を入れるソニーの集大成とも言える仕上がりで、自動運転時代の到来を見据えた最新機能が大きな注目を集めた。

自動車分野においてはイメージセンサーの印象が強いソニーだが、近年同分野の取り組みを加速させており、自動運転をはじめとした将来のモビリティ領域で大きな飛躍を遂げそうだ。ソニーの自動運転関連の取り組みを1つずつ見ていこう。


■イメージセンサー
車載向けに注力 ソフトウェアやセンサーフュージョン技術も強化

スマートフォンやデジタルカメラ、自動車、監視カメラなど、イメージセンサー市場で世界シェア5割を超すリーディングカンパニーのソニーは、2014年発表の世界最高感度を実現した車載カメラ向けCMOSイメージセンサー「IMX224MQV」を皮切りに、将来の自動運転車に向けた車載CMOSイメージセンサーの開発を積極展開している。

2015年には、ToF(Time of Flight)方式の距離画像センサー技術を持つベルギーのSoftkinetic Systems社を買収し、イメージセンサーを撮像して記録する用途に限らず、HMI用途など幅広い情報をセンシングする新しい距離画像センサーの開発を進めていくこととしている。

2017年には、LEDフリッカーの抑制と高画質なHDR撮影を同時に実現する「IMX390CQV」、1/1.7型で業界最高解像度となる有効742万画素RCCCフィルタを採用した積層型CMOSイメージセンサー「IMX324」を商品化したほか、2018年にもHDR機能とLEDフリッカーの抑制機能の同時利用を可能にしたイメージセンサーとして業界最多の有効540万画素を誇る「IMX490」の商品化を発表している。

半導体分野では、2018~2020年度の中期経営計画においてスマートフォン向けのセンシングアプリケーションから事業を展開し、車載センシングなどの新しいアプリケーションを育てていく方針を発表しており、アクティブセンシングにおいては不可欠の半導体レーザー技術も強みとしながら、CMOSイメージセンサー事業に最も大きな研究開発と設備投資を行う計画としている。


ソフトウェアについては、将来的な姿としてエッジAI処理を組み入れ、センサーハードウェアとの融合を図りながらリカーリング収益モデルを追求していく。

また、さまざまなセンシングデバイスの特長を融合させ、霧・逆光・夜間の雨といった画像認識の厳しい環境下でも正確な物体認識を可能とするセンサーフュージョン技術についても研究開発を進めていくこととしている。

■配車サービス
東京都内や横浜、名古屋で「S.RIDE」提供

ソニーは2018年、グリーンキャブ、国際自動車、寿交通、大和自動車、チェッカーキャブのタクシー事業者5社とソニーペイメントサービスとともにタクシー関連サービスを手掛ける「みんなのタクシー」を設立し、配車サービス分野に進出した。

翌2019年4月、総合PR事業を手掛けるベクトルとともに後部座席におけるデジタルサイネージサービス「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH(グロース)」を開始するとともに、配車サービスや決済代行機能を備えるタクシー配車アプリ「S.RIDE(エスライド)」の提供を開始した。

2020年8月時点で東京都個人タクシー協同組合と名鉄タクシーホールディングスとも提携を交わし、東京都内のほか神奈川県横浜市、愛知県名古屋市でもサービスを提供している。

タクシーをデータ収集に役立てる取り組みも視野に

2019年11月には、AIやセンシング技術を活用したモビリティ領域へ貢献する「Future Mobility Project」を発表し、第一弾としてみんなのタクシーを通じタクシー事業者向けに需要予測サービスの提供を開始した。

東京都内のタクシー約1万台の走行データを活用して開発したもので、タブレット上のアプリケーションに需要予測結果を色の濃淡で可視化するヒートマップ形式で表示。ドライバーはこの結果に基づき、効率的な走行ルートの決定を行うことが可能になるという。

また、安全運転支援への取り組みとして、自社製イメージセンサーやLiDARなどの各種センサーを搭載した車両を東京都内や神奈川県内で試験走行し、データ収集を開始することも発表した。

収集したデータは、ドライバーの安全運転支援などのモビリティに関する製品やサービス・ソリューションの企画、開発および品質などの改善・向上、イメージセンサーを含むセンサー製品や関連サービス・ソリューションの企画、開発および品質などの改善・向上に役立てることとし、安心・安全スコアの算出アルゴリズムや、熟練度の高いドライバーとの差分評価技術、安全運転支援ツールの開発を進めていくとしている。

センシング技術や自動運転技術の向上には、公道走行などから得られる大量のデータが非常に役に立つ。センサー開発を手掛けるソニーがみんなのタクシーを通じて多くのタクシー事業者と連携することでこうした取り組みを大きく加速させることが可能になるため、将来的には自動運転開発に関わる広範なビッグデータを提供することなども考えられそうだ。

■自動車保険
スマホを活用したAI自動車保険導入

自動車保険関連では、ソニー損保が専用の小型計測器(ドライブカウンター)で計測した車両の加減速の発生状況(運転特性)を保険料に反映させる国内初の自動車保険「やさしい運転キャッシュバック型」を2014年からトライアルで実施し、2015年に販売開始している。

2017年には、ヤフージャパンのスマートフォン向け無料カーナビアプリ「Yahoo!カーナビ」から得られる運転特性データを活用した新しいテレマティクス保険商品や関連サービスの開発に向けた共同研究をヤフーと開始した。

2020年3月には、AIを活用した運転特性連動型自動車保険「GOOD DRIVE(グッドドライブ)」を開発し、販売を開始した。スマートフォンの専用アプリに搭載されるAIアルゴリズムが、スマートフォンの加速度センサーやジャイロセンサー、GPSから得られたデータを元に運転特性データを計測する仕組みで、計測データと事故の相関から事故リスクを推定した上で、事故リスクが低いドライバーには保険料の最大30%がキャッシュバックされる。

■SC-1
新たな移動体験を提供するエンタメカー

ソニーは2017年、AIとロボティクスに関する取り組みの一環として、新たな移動体験を提供するコンセプトカート「SC-1」の試作開発を発表した。乗員による手動操作に加え、クラウドを介した遠隔操作も可能にしている。

CMOSイメージセンサー5台と超音波センサー、LiDARを車両の前後左右に搭載することで360度センシングを可能にしたほか、イメージセンサーの超高感度な特性と内部に設置した高解像度ディスプレイにより、夜間でもヘッドライトなしに視認することができるという。

2019年3月にはNTTドコモと遠隔操作実現に向けた共同実証実験を行うことに合意し、「ドコモ5GオープンラボGUAM」などで5Gを活用して遠隔操作に必要な伝送速度の確認や操作品質評価などを実施した。

同年8月には、改めてヤマハ発動機とSC-1を共同開発したことを発表した。各種走行試験を経て蓄積されたノウハウやフィードバックを基に、乗車可能人員の拡張や交換式バッテリーによる稼働時間の延長、搭載イメージセンサー数の増加による車体前後の視認範囲の拡張、車両デザインの刷新、ベース車両の最適化による乗車フィーリングの向上などを図った。

イメージセンサーで周囲を把握可能なため不要となった窓を高精細ディスプレイに代え、広告配信やさまざまな映像を車両の周囲にいる人に向けて映し出すことができるほか、独自開発した融合現実感(Mixed Reality)技術を搭載しており、乗員がモニターで見る周囲の環境を捉えた映像にCGを重畳することで、車窓をエンターテインメント空間に変えて移動自体をより楽しめるよう工夫が凝らされている。

SC-1を活用したサービスもすでに沖縄県内で開始しており、融合現実感技術が創り出すエンターテインメントコンテンツを楽しむことができる、自動運転時代を先取りしたような取り組みだ。

■VISION-S
自動運転レベル2+相当のADASを搭載

ソニーは2020年1月、最新のコンセプトカー「VISION-S」を米ラスベガスで開催されたCES2020で初披露した。同社が誇るセンシングとエンタメの最先端テクノロジーを結集させた車両で、2020年度中に公道走行実験に着手する予定だ。

開発には、オーストリアのMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)をはじめ多くの自動車部品メーカーがパートナーとして関わり、車体プラットフォームなど一から作り上げた。

自動運転をはじめとした次世代モビリティの研究開発に力を入れるため、あえて一から車両作りを経験し、自動車の構造など基礎をなす技術から見直しを図ったようだ。

目玉のセンシング技術は、自動車の周囲360度を検知し、早期に危険回避の準備を可能にすることで安全性を確保するという安全領域の概念「Safety Cocoon」コンセプトに基づき、13台のカメラとSolid State LiDAR3基、超音波センサーとレーダー17台の計33台のセンサーを車内外に搭載することで全方位センシングを実現している。

安全機能は自動運転レベル2+相当で、高速走行時の追従や追い越しなどのアシスト機能をはじめ、自動パーキング機能、自動車線変更機能などを備えている。

OTA(Over the Air)技術を活用した「UPDATABLE SYSTEM」によってソフトウェアはアップデート可能で、将来はレベル4以上の高度な自動運転に対応することも目指すとしている。

ソフトウェアアップデートでクルマが進化

クルマの各機能は、「UPDATABLE SYSTEM」によってソフトウェアのアップデートを繰り返し、常に最新の状態を保つことが可能になる。また、クラウドAIと学習連携することでさらなる高知能化・高性能化・高効率化が可能になり、乗り続けるほどクルマが進化するという。

「VISION-S LINK」では、車がネットワークの世界に接続し、クルマとクルマ、クルマとスマートデバイスなどスムーズに連携する。スマートフォンから駐車中のマイカーを呼び出す機能や、スマートデバイスに表示した地図を車内のパノラミックスクリーンに映し出すことなどもできる。

エンターテインメント分野では、「疾走するエンタテイメント空間」の創出をコンセプトに掲げている。5Gの普及や自動運転の高度化によって車内がリビングスペースのような心地よい空間に進化する将来の自動車を想定し、全身を取り囲むような臨場感あふれる音場「360 Reality Audio」や、インパネと融合して車幅いっぱいに広がるディスプレイ「PANORAMIC SCREEN」などを搭載し、音楽や映画などを大迫力で楽しめるという。

■【まとめ】ソニーのお家芸が自動運転分野で本領発揮

センシング、エンターテインメントともに自動運転時代に大規模市場化が見込まれる分野で、ソニーにとっては専売特許ともいえるお家芸を最大限に発揮するチャンスの場だ。

テープレコーダーやビデオカセット、コンパクトディスク(CD)、家庭用ゲーム機の開発など各時代において一世風靡してきたソニー。自動運転分野でも新たな風を巻き起こすことができるか、要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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