テスラに乗れなくなる日が来る? ニュージャージーで自動運転を巡る法律バトルが勃発

背景にあるのは「技術へのこだわり」



PARIS, FRANCE – June 16, 2023: Elon Musk, founder, CEO, and chief engineer of SpaceX, CEO of Tesla, CTO and chairman of Twitter, Co-founder of Neuralink and OpenAI, at VIVA Technology (Vivatech)

米EV大手テスラ(Tesla)のロボタクシーに、いずれ乗れなくなるかもしれない。米ニュージャージー州で、カメラだけに頼る自動運転車を公道から事実上締め出す法案が動き出したからだ。標的が事実上テスラ一社に絞られることから、両者の対立は法律バトルの様相を帯び始めている。

発端は、カメラだけで十分だと訴え続けてきたテスラを率いるイーロン・マスク氏の技術思想にある。その哲学に疑問を抱いた州の議員が、米Google系の自動運転開発企業ウェイモ(Waymo)に試乗したうえで、カメラ以外のセンサーを義務付ける法案を起草した。これに対しテスラは、自社の顧客へ議会への反対を呼びかけるという異例の手に出た。技術思想が州法を動かし、利用者がテスラに乗れるかどうかを左右しかねない、前例のない攻防が始まっている。


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■テスラに乗れなくなる? ニュージャージーで勃発した法律バトル

米ニュージャージー州で自動運転車の試験制度を設けるための法案「S1677」。3年間の期間を区切り、企業に一定の衝突報告や、安全運転手を外す前の走行実績を求める枠組みだ。争点は、その安全要件にある。カメラに加えて複数のセンサーを備え、カメラが働かない場面でも障害物を検知できる冗長性を求める内容と報じられている。

この要件が、テスラを直撃する。テスラはカメラと人工知能だけで自動運転を実現する路線を貫いており、レーダーもレーザー光で距離を測るセンサーLiDARも積んでいない。一方、ウェイモはカメラに加えてLiDARやレーダーを併載する。同じロボタクシーでも、ウェイモは要件を満たし、テスラは満たせない。

さらにテスラのロボタクシー、サイバーキャブ(Cybercab)はハンドルもペダルも持たない完全無人設計である。法案は緊急時に人がブレーキやペダル、ハンドルで操作を引き継げることも求めており、サイバーキャブはこの点でも引っかかる。

注意したいのは、これがまだ成立した法律ではない点だ。S1677は州上院の委員会を通過し、予算委員会で審議されている段階にある。それでも人口密度の高いニュージャージーで成立すれば、住民がテスラのロボタクシーに乗れない事態が現実になる。だからこそ、テスラは反対に動いた。


【自動運転ラボの視点】
特定企業の技術を狙い撃つ形の規制は前例が少ない。安全論と競争排除の線引きは曖昧で、ロボタクシー市場の覇権争いが議会に持ち込まれる時代に入ったと言える。

【参考】関連記事としては「テスラの「カメラのみ自動運転」、全米で禁止か」も参照。

テスラの「カメラのみ自動運転」、全米で禁止か

■発端はマスクの「LiDARは松葉杖」という信念

この対立の根っこには、テスラを率いるイーロン・マスク氏の技術思想がある。マスク氏は長年、レーザー光で距離を測るセンサーLiDARを不要だと公言してきた。2019年に開いた自動運転の説明会「Tesla Autonomy Day」では「LiDARに頼る者は破滅する」と言い切り、LiDARを「愚か者の使い」とまで呼んだ。


マスク氏の主張はこうだ。人間は目だけで運転している。ならばカメラと人工知能があれば十分で、高価なLiDARは松葉杖にすぎない。近年はさらに、LiDARやレーダーを積むとカメラと判断が食い違い、かえって安全を損なうとも語る。センサー同士が矛盾したとき、どちらを信じるのかという理屈である。

この信念のもと、テスラはレーダーさえ外し、カメラだけで突き進んできた。ニュージャージーの法案は、まさにその哲学の逆を行く。カメラだけでは足りない、という前提に立つからだ。

■ウェイモに乗った物理学者議員が求めた「センサーの冗長性」

法案を起草したのは、ニュージャージー州のアンドリュー・ズウィッカー上院議員(Andrew Zwicker)である。プリンストン・プラズマ物理研究所に籍を置く物理学者という異色の経歴を持つ。

転機は、ズウィッカー議員が米アリゾナ州フェニックスでウェイモに試乗したことだった。無人のロボタクシーに乗り込み、どれだけ早く慣れるかに驚いたと振り返る。その体験を通じて議員が確信したのは、カメラが失われても別のセンサーが補う冗長性こそ安全の要だ、という考えだった。

物理学者らしく、議員は技術を実際に体験したうえで判断を下したことになる。ズウィッカー議員は、これはテスラ反対ではなく、ニュージャージーの安全を支持するものだと述べ、狙い撃ちではないと強調する。とはいえ、カメラのみのテスラだけが要件から外れる現実は動かない。

■テスラの反撃 顧客に「議会へ反対を伝えてくれ」

黙って締め出されるテスラではなかった。テスラは政策プラットフォーム「Engage Tesla」を通じ、ニュージャージーの顧客に対しS1677と、州下院側の対応法案A3968への反対を議員へ伝えるよう呼びかけた。

呼びかけの論調は、法案が反競争的な優遇であり、高齢者や障害者の移動手段を奪う、というものだと報じられている。自社の顧客を議会対策の担い手に変えるやり方は、企業のロビー活動としては異例だ。マスク氏らしい直接的な対抗手段と言える。

こうして、州議会という土俵の上で、技術思想を巡る攻防が本格化した。一方が安全のためにセンサーを積めと迫り、もう一方がカメラで十分だと顧客を動員して押し返す。自動運転ロボタクシー市場の主導権を賭けた法律バトルである。

■テスラに乗れなくなる日は来るのか

一人の経営者の技術哲学が、反発を呼び、州法を動かそうとしている。前例のない展開だ。

背景には、カメラのみへの根強い懸念もある。米運輸省道路交通安全局NHTSAは、テスラの運転支援機能FSDについて、逆光や霧など視界が悪い条件で障害物をうまく検知・警告できない場面があったと指摘してきた。LiDARやレーダーはこうした弱点を補える。ニュージャージーの議員たちが冗長性にこだわる理由も、ここにある。

S1677は現在、州上院の予算委員会で審議中で、本会議での採決は2026年後半が見込まれている。ニューヨーク州でも同様の法案が検討されていると報じられており、両方が成立すれば、ニューヨーク都市圏でテスラのロボタクシー展開に壁が立ちはだかる。

テスラに乗れなくなる日は、本当に来るのか。答えはまだ出ていない。ただ確かなのは、カメラだけで十分だというマスク氏の信念が、いまや州法という思わぬ相手と向き合っているという事実である。技術思想が法律バトルの火種になった、その象徴がニュージャージーのS1677だと言える。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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