ソニーの自動運転車「VISION-S」を徹底解剖!センシングとエンタメで本領発揮

新たなモビリティ時代に向けた取り組みとは?



ソニーが次世代に向け開発したコンセプトカー「VISION-S(ビジョン・エス)」の走行デモンストレーションが、このほど本社ビル敷地内で行われた。







非自動車メーカー・非総合部品メーカーとしては異例のプラットフォームから作り込んだプロトタイプで、CES 2020で初披露された際に「ソニーが自動車メーカーに?」――と世間をざわつかせたほどのクオリティを誇る。

そこで今回は、VISION-Sの概要とともに新たなモビリティ時代に向けた同社の取り組みを追ってみよう。

■VISION-S
CES 2020で初公開、オーストリアを経由し日本へ

ソニーは2020年1月、CES 2020でオリジナルのコンセプトカー「VISION-S」を披露した。開発には、カナダの自動車部品メーカー大手マグナ・インターナショナル傘下のマグナ・シュタイヤー(オーストリア)を中心に、独ボッシュや米NVIDIAなど多くの企業が携わり、一から製造を支えたようだ。

VISION-Sの発表に際し、ソニーは「モビリティにおける安心・安全から、快適さやエンタテインメントなども追求する取り組み」として、イメージング・センシング技術をはじめ、各シートに内蔵されたスピーカーで提供する360 Reality Audioや、直感的な操作性を実現するパノラミックスクリーンなどによるエンターテインメントの追求、AIや通信、クラウド技術も活用した車載ソフトウェアの制御により、機能が継続的にアップデートされ進化し続けることを目指すとしている。

CES 2020の後、VISION-Sは2020年度中の公道走行実験を目指した開発を各パートナー企業と進めるため、会場の米ラスベガスからマグナ・シュタイヤーの生産工場があるオーストリアのグラーツへ輸送された。7月には、センシングやオーディオ技術の更なる深化に向け、本拠となる東京に輸送された。

VISION-Sが自動運転時代を見据えた研究開発の基礎に

VISION-Sは、いわゆるモックアップ(模型)ではなく、あまりにも完成度の高いプロトタイプだったため、多くのメディアから「自動車メーカーを目指すのか?」と言う声が飛び交った。しかし、開発担当者は各インタビューなどにおいて「現時点で製造や販売は考えていない」旨を明確に回答している。

それでは、なぜここまで本腰を入れたプロトタイプを製作したのか。その答えは「理解」にあるようだ。

ソニーは今まで、カメラやイメージセンサーといったセンシング分野を主力に自動車製造に携わってきたが、自動運転技術をはじめとしたモビリティの革新が起こりつつある現在、一から車づくりに取り組むことで、自動車の仕組みや課題、社会と車の関係性に至るまでの理解を深め、新たなモビリティにおけるビジネスを創造していく心積もりなのだ。

自動運転技術の社会実装が進めば、各車両はセンサーの宝庫となり、自由度を増す車内はエンターテインメント空間と化す。いずれもソニーが得意としている分野であることは言うまでもなく、大きな飛躍を期待できる事業領域と化すのだ。

その研究開発に向け、「クルマ=移動」の在り方を見つめ直そうと一から自動車製造を手掛け、経験値を積み重ねているのだ。VISION-Sは自動運転時代を見据えた研究開発の原点であり、次世代モビリティ領域に対するソニーの本気度を示す取り組みなのだ。

■VISION-Sの概要
「自動運転レベル2+」相当の技術を搭載

VISION-Sには、同社の車載向けCMOSイメージセンサーを中心に合計33個のセンサーが車の内外に搭載されている。内訳は、前方に3基のSolid State LiDAR(ライダー)、車両全体に13台のカメラ、超音波センサーやレーダー計17台で、周囲360度のセンシングを行っている。

自動運転・ADAS(先進運転支援システム)としては、自動パーキングや自動車線変更など、高度な自動運転レベル2(レベル2+)相当の運転支援を高精度に実現しており、将来はレベル4以上の高度自動運転に対応することも目指すという。

高速走行時は、先行する車両を安全な車間距離を保ちながら追跡するクルーズコントロール機能をはじめ、車線変更や追い越し操作なども可能としている。自動パーキングでは、地図情報と状況を検知し、人や障害物を確認しながら適切な駐車スペースを見つけ安全に駐車する機能を備えている。

ADVANCED CAMERA MONITORING SYSTEM

サイドミラーにはカメラを採用しており、目視する前に接近する車や歩行者をカメラセンサーが捉えてアラートを発する。室内3カ所に設置された大型モニターは、ドライバーの好みや緊急度に応じて自在に使い分けることができ、例えば中央のルームモニター(ルームミラー)に車両左右の映像を映すことも可能という。

各モニターとも高輝度・高解像度のため視認性が高く、後続車のライトが眩しい時にはHDRなどの信号処理技術で明暗調整を可能にするなど、センシング技術によって従来のミラー以上の見やすさや、ミラーになかった賢さを備えた次世代安全システムを目指すとしている。

DRIVER MONITORING

キャビン内では、センサーが乗員のコンディションをモニタリングする。ドライバーの表情や仕草から、集中状態や疲労の程度を判断し必要に応じてアラートを発するほか、乗員の気分・状態に合わせ温度調整を行うなど、安全はもちろん快適さも追及し、乗員への気配りが行き届いた車内空間を目指すとしている。

エンターテインメント

5Gの普及と自動運転の高度化によって人は操縦から解放され、車内はリビングスペースのような心地よい空間へ進化する将来の自動車を想定し、「疾走するエンターテインメント空間」の創出に向けた開発に力を入れている。

没入感のある立体的な音場を実現する新しい音楽体験「360 Reality Audio」では、オブジェクトベースの空間音響技術を活用し、アーティストと同じ空間にいるような鮮烈な臨場感を実現するという。また、「INDIVIDUAL SEAT SPEAKER」により、シートごとに独自の音場設定を施し、一人ひとりが好きな曲をそれぞれ楽しむこともできる世界を目指すとしている。

また、ダッシュボードには、インパネと融合した「PANORAMIC SCREEN」が車幅いっぱいに広がっており、映画などの動画コンテンツを楽しむことができる。

コネクティビティ

自動車もネットワークの一端となり、ソフトウェアがネット経由で常に進化する時代に向け、従来の「機能がすでに決められている独立したシステム群」から「連携・統合され成長可能な高度なシステム」を構築している。

OTA(Over the Air)技術などを活用した「UPDATABLE SYSTEM」により、車のソフトウェアは繰り返しアップデートされ、新たなモビリティプラットフォームの一部としてクラウドAIと学習連携し、さらなる高知能化・高性能化・高効率化を可能にする。

車がネットワークの世界に接続し、クルマとクルマ、クルマとスマートデバイスなどスムーズに連携する「VISION-S LINK」では、スマートフォンから駐車中のマイカーを今いる位置に呼び出すことや、スマートデバイスで見ていた地図をすぐに車内のパノラミックスクリーンに映し出すことなどを可能にする。

プラットフォーム

新設計のEVプラットフォームは、クーペに限らずセダンやSUV、MPVなどさまざまな車種への展開を可能にする共通プラットフォームで、ピュアEVならではのコンパクトで自由度の高いパワートレインレイアウトによりロングホイールベースを実現し、超薄型バッテリーパックの開発などと合わせワンクラス上の車室内空間を提供する。

世界各国の自動車安全テストでトップクラスのスコア取得を目標に設計されており、センシングがもたらす高度なアクティブセーフティとパッシブセーフティを合わせることで、より安全な移動体験を目指すとしている。

スペック

ボディサイズは全長4895×全幅1900×全高1450ミリで、Eセグメントに相当する。乗車定員は4人で、定格出力200kWのモーターをフロントとリアに1つずつ搭載している。4輪駆動で、加速性能は停車時から時速100キロ到達まで4.8秒、最高速度は時速240キロとなっている。

■ソニーの自動車分野での取り組み
車載向けイメージセンサーの開発

ソニーグループとしては早くから自動車保険の分野で自動車業界とかかわりを持っているが、製造分野ではイメージセンサーに力を入れている。

2014年に車載向けイメージセンサーの商品化を発表してから注力領域の1つと位置付け、高機能化を図ってきた。2015年にTime of Flight(ToF)方式距離画像センサー技術を有するベルギーのSoftkinetic Systemsを買収し、2017年にはLEDフリッカーの抑制と高画質なHDR撮影を同時に実現する車載カメラ向け高感度CMOSイメージセンサーを業界で初めて商品化した。

2018年のCES2020では、高度な自動運転の実現に向け、イメージセンサー技術による「車の眼」の進化を提案した。自動車の周囲360度の状況検知によって早い段階から危険回避行動を支援することで、車の周囲により安全性を高めた領域を作り出すという安全性能のビジョンを「Safety Cocoon(セーフティコクーン)」と名付け、大々的に発表した。

VISION-Sには、こうした技術の結晶は積み込まれているのだ。

なお、ソニーは将来に向け、カメラ画像とLiDARデータ、ミリ波レーダのRawデータを融合するセンサー・フュージョン技術の開発も進めているという。

タクシー配車サービスにも着手

ソニーは2018年、東京都内のタクシー事業者らとともに合弁「みんなのタクシー」を設立し、タクシー配車サービス事業に参入した。配車アプリ「S.RIDE」やデジタルサイネージサービスなどが主力だが、事業を通じて「東京の移動をもっと快適にするプロジェクト」など音楽による新たな移動体験を提供するサービスも行っており、移動に新たな価値を提供する取り組みはすでに始まっているようだ。

また、もう1つの観点が走行データなどを入手するための「箱」としての活用だ。みんなのタクシーの西浦賢治社長は、米半導体メモリー大手ウエスタンデジタルのラッセル・ルーベン氏との対談の中で、走行中のタクシーから走行データやセンシングデータなどを取得し、外部環境の把握やセンシング技術の向上に役立てる旨発言している。

まちなかを絶えず走行するタクシーから得られるデータは膨大だ。センシング技術をはじめ、自動運転開発においてはこうしたデータそのものが大きな価値を持つため、将来の新たなビジネスがここから誕生する可能性などもありそうだ。

■非自動車メーカーによるコンセプトカー

ソニーは2017年にもニューコンセプトカート「SC-1」を発表している。乗員の操作による運転に加え遠隔操作も可能としているほか、イメージセンサーで周囲を捉えていることから不要となった窓の代わりに高精細ディスプレイを配置するなど、エンタメを意識した作りになっている。

非自動車メーカーや非総合部品メーカー以外がコンセプトカーを発表する例としては、樹脂や合成ゴム、半導体デバイスなどで自動車業界に関わる旭化成が2017年、EVメーカーのGLMと共同開発した「AKXY」を発表している。また、樹脂素材などで関わりを持つSEKISUIもコンセプトカーを展示会などに出展している。

ただ、こうしたコンセプトカーは当然自社製品のアピールが主目的となるため、走行不可能なモックアップであったり、プラットフォームなど自社製品以外の部分は他社任せであったりするのが一般的だ。

多くの部品メーカーの協力を仰いでいるとは言え、VISION-Sはソニー自身が細部に至るまで開発に携わっており、極めて異例のコンセプトカーと言える。

■【まとめ】次世代モビリティでカリスマ性を発揮

以上のように、VISION-Sは自動運転時代を見据えたソニーの「本気度」の象徴と言える存在だ。

センシングやエンタメ分野などは自動運転時代に間違いなく急伸する分野であり、それだけでも自動運転分野におけるソニーの存在感が増すことは予想に難くないが、配車サービスやペイメントサービス、自動車保険など、さまざまな事業が多角的に結びつくことでさらに新たなビジネスが想像される可能性も高い。

次世代モビリティにおけるソニーの活躍に期待だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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