自動運転を導入する未来都市、国内外の巨大プロジェクトまとめ

中国や東南アジア、中東などでもプロジェクトが続発



中国のネットサービス大手テンセントがこのほど、深センの埋め立て地を活用した未来都市を建設する計画を明らかにした。米メディアのCNNなどが報じている。


自動運転ラボは2019年12月、テンセントが深センの土地を購入したという報道を機に「自動運転特区」構想を予想したが、この構想が現実のものとなった格好だ。

いわゆるスマートシティの一種に分類されるが、注目すべきは既存のまちを再開発するのではなく、一から開発を進める点だ。

既存の道路交通網に自動運転車がお邪魔するのではなく、自動運転の導入を前提とした交通インフラが整備可能となり、一般車両との混在回避や社会受容性の醸成などが容易となるため、自動運転技術の社会実装を優位に進めることができる。

今回は、まち全体や特定エリアを一から建設し、将来自動運転シティとなり得るような事例をまとめていく。


■中国
深セン:Net City

テンセントが深セン臨海部の埋め立て地を購入し、建設計画を立ち上げたのが「Net City(ネット・シティ)」だ。2平方キロメートルほどのエリアに自社向けの各種施設や住居などを設置するほか、公共施設なども建設する予定。

深セン都市部とは橋やフェリー、地下鉄などで結び、自動車の進入も可能とするが、一部区間は自動運転車などの走行専用に道路設計を進めるようだ。

【参考】テンセントの取り組みについては「「島」ごと自動運転特区に?そうすれば実験場にもショーケースにもなる」も参照。

雄安新区など国家プロジェクトも

中国ではこのほかにも、習近平国家主席肝いりの国家プロジェクトとして、北京や上海といった主要6都市近郊でスマートシティを一から構築する大規模プロジェクトが各地で進められている。

北京郊外の雄安新区では、将来的に2000平方キロメートルを開発する計画で、自動運転専用道路の整備など、自動運転社会を前提とした設計で開発が進められているようだ。

【参考】中国の取り組みについては「日本は中国を見習うべきか…自動運転の環境整備、躊躇一切なし」も参照。

■日本
静岡県裾野市のWoven City

トヨタが静岡県裾野市で2021年初頭にも着工する予定のコネクテッドシティ「Woven City(ウーブン・シティ)」が国内では注目の的となっている。

2020年末に閉鎖予定の東富士工場の跡地約70万平方メートルを活用し、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市を一から構築する計画で、住民2000人規模の都市を設計する。

まちを通る道は、MaaS向け自動運転車のe-Palette(イー・パレット)など完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する車両専用道と、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道、歩行者専用の道の3つに分類され、これらが網の目のように織り込まれた街区を形成する。

住民は、室内用ロボットなどの新技術を検証できるほか、さまざまなセンサーのデータを活用するAIにより生活の質を向上することができるという。

現在、参画希望者向けの「専用サイト」も公開している。

パナソニックも神奈川県内でスマートタウン計画進行中

国内では、パナソニックがいち早くスマートシティ建設に向けた取り組みを進めている。同社は2011年、神奈川県藤沢市の藤沢工場跡地にスマートタウンを建設するプロジェクト「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」を発表し、くらしのエコアイディアを生かしたサービスやエネルギー機器を導入した新しい街区開発に着手した。

2016年には、横浜市港北区の綱島において同様にパナソニック事業所跡地を活用した「Tsunashima サスティナブル・スマートタウン」構想、2019年には、大阪府吹田市で「Suita サスティナブル・スマートタウン」構想をそれぞれ発表している。

綱島ではホンダも名を連ねており、月会費無料のカーシェアサービス「EveryGo(エブリゴー)」を展開している。2019年6月には、燃料電池車「CLARITY FUEL CELL」も導入したようだ。

現時点で自動運転を導入する具体的な計画はない模様だが、神奈川県、藤沢市、横浜市など自治体も自動運転の導入に前向きであるため、シェアサービスなどの発展系として自動運転技術が導入される可能性も十分考えられるだろう。

■欧州
オーストリア:ウィーン

オーストリアの首都ウィーンでは、欧州最大規模の都市開発計画「Seestadt Aspern」が進行中だ。ウィーンにおけるスマートシティプロジェクトの一環で、郊外の飛行場跡地を活用して一からインフラ整備などを進めている。

二酸化炭素排出量削減に向け、駐車スペースを制限することで自家用車の所有を抑制し、公共交通や自転車などの利用を促進している。

自動運転技術の実用化にも積極的で、ラストワンマイルの移動確保に向け、2019年に仏Navya(ナビア)の自動運転シャトルを導入し、駅と市街地間などを低速で運行する実証を進めている。

また、独シーメンス系のSiemens Mobility(シーメンス・モビリティ)が開発した路車間通信システム(V2I)の検証なども進めているようだ。

■東南アジア・南アジア
フィリピン:ニュークラークシティー

フィリピンでは、首都マニラの過密を緩和しようと近郊に新たなスマートシティ「ニュークラークシティ」を建設する計画が進められている。

経済成長とともに首都に人口が流入し、世界トップクラスの交通渋滞が慢性化しているマニラでは、100キロ余り離れた旧クラーク米空軍跡地を利用し、同国初のスマートシティを建設する運びとなった。マスタープランの作成から開発まで、多くの日本企業が関わっているようだ。自動運転技術の導入も見込んでいる。

現在第一フェーズとして競技場の建設などが進められており、2019年7月には、開発を進める基地転換庁(BCDA)と、低速自動運転車の開発を手掛ける米COAST Autonomous(コースト・オートノマス)が提携を交わし、同年11~12月に開催された東南アジア競技大会の期間中、自動運転シャトルで選手らの送迎を行ったようだ。

インド:アマラバティ

インドでは、アンドラプラデシュ州の新州都として開発が進められている「アマラバティ」で自動運転が導入される可能性がありそうだ。

州の分離に伴う新州都の建設で、農地や未開地を中心とした217平方キロメートルにスマートシティを建設する計画だ。2017年には、トヨタの現地法人が同州政府とEV導入に関する合意書を交わしている。

自動運転導入に関する具体的な計画はないものの、インドは自動車や歩行者が入り乱れる世界有数の交通難所であり、同国で自動運転を実現すれば世界各国で通用するという見方もある。

同国財閥で自動車製造を手掛けるマヒンドラ・グループも自動運転開発を進めており、交通課題解決に向け、国家主導で自動運転技術の実装に着手する可能性も十分考えられそうだ。

中東

中東では、自動運転技術の導入に積極的な都市としてドバイが有名だが、新たなスマートシティ建設計画もあちこちで立ち上がっているようだ。

豊富な石油資源を武器とする地域において真逆の取り組みとも思えるが、資源の枯渇など未来を見据えた政策転換の象徴的存在で、電気との相性が良い自動運転車の導入も今後本格化する可能性が高そうだ。

サウジアラビア:ネオム

サウジアラビアでは、未来都市「ネオム(NEOM)」建設プロジェクトが進められているようだ。2017年に同国のムハンマド皇太子が発表したもので、総投資額は5000億ドル(約56兆円)規模に達するという。ムハンマド皇太子と縁のあるソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)も投資予定とされている。

同国北西部の面積2万6500キロ平方メートルの地区を開発して人工都市を造る計画で、エネルギーやバイオテクノロジーなど9つの重点分野の一つにモビリティが掲げられている。

自動運転車をはじめ、空飛ぶクルマや各種ロボットなどを想定した最先端都市を構想しており、世界最大級のマネーが動く一大プロジェクトとして、今後の動向に注目が集まりそうだ。

アブダビ:マスダールシティ

アラブ首長国連邦を構成するアブダビでは、首都近郊の砂漠地帯で人工都市「マスダールシティ」の建設計画が2006年から進められている。

再生可能エネルギーを利用した持続可能なゼロ・カーボン都市を目指すプロジェクトで、従来のガソリン車などは都市内に進入できず、移動には大量公共輸送機関や軌道上を無人で走行する個人用高速輸送システム(PRT)を利用するなど、交通分野の取り組みも徹底されている。

当初計画より大幅に遅れているが、2018年には都市内の移動に仏Navyaの自動運転バスの導入が発表されるなど、EV×自動運転モビリティへの注目度が高まっているようだ。

■【まとめ】最先端都市目指し大規模プロジェクトを

トロントにおけるグーグル系の取り組みは頓挫した一方、国策として力を入れている中国はしっかりと未来都市の建設を実現しそうだ。トヨタのウーブン・シティをはじめ、日本勢もうかうかしていられない状況だ。

一から都市を開発するには、基本的に未開地をはじめ島や埋立地、工場の大規模跡地など開発余地が必要となるため、国土面積が狭く人口密度の高い日本は不利な点を抱えているのも否めない。

しかし、高度経済成長時代のインフラが軒並み老朽化しているため、トヨタのように跡地を有効活用する例が今後続発する可能性もありそうだ。

こうした未来都市には、首都を超える随一の最先端技術が結集する。「国内最先端」の称号を目指し、自治体レベルで大規模プロジェクトが立ち上がることに期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転も前進!成立した「スーパーシティ法」とは?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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