無人倉庫の鍵は「自動運転ロボット」 世界と日本の最新状況まとめ

EC事業者中心に全行程無人化の動き



労働力不足が顕著な物流・倉庫業において、省力化・無人化を図る動きが加速している。とりわけ、過酷な作業とされるピッキング作業においては自動運転ロボットの活躍が目に見えて増加している。


倉庫無人化の鍵を握る自動運転技術やロボット技術。その開発状況や導入状況などを調べてみた。

■無人倉庫の開発状況

倉庫の無人化・省人化技術の歴史は古く、ベルトコンベアの導入などもその一例と言える。近年はICTや人工知能(AI)、ロボット技術などを駆使した開発が急速に進んでおり、荷物の搬入や搬出、梱包など一連の作業を機械化し、配送につなげる倉庫そのものの無人化技術の導入が始まっている。

特に、倉庫内作業で過酷な肉体労働と言われるピッキング作業(オーダーに応じて該当する荷物を探し集める作業)を無人化・ロボット化する無人搬送車(AGV)の需要が高く、自動運転技術を駆使したロボットの開発が活発化し、導入事例が増加しているようだ。

AGVには、自律して個別の荷物を選別・運搬するタイプや棚ごと運搬するタイプ、棚と一体的なシステムを構築するタイプなどさまざまな種類があり、商品管理システムなどと連動してスマート化・無人化を図っている。


入庫から出庫までの全行程を無人化した倉庫はまだごく一部だが、AGVをはじめとした倉庫全体の一体的なスマート化は進展しており、開発各社も研究を本格化している状況のようだ。

■無人倉庫や自動運転ロボットの開発企業
京東集団(中国):5Gスマート物流モデルセンター=物流拠点

2017年に入庫や検品、梱包、出庫などの全行程をスマート化した「無人倉庫」を立ち上げている中国EC大手の京東集団は2019年3月、物流子会社の京東物流が中国初となる「5Gスマート物流モデルセンター」を上海市嘉定区に建設し、年内に運営開始することを発表した。

5G(第5世代移動通信システム)技術を活用し、AI、IoT、自動運転、ロボットなどのスマート物流技術と設備を融合したスマート物流施設で、人、機械、車、設備を連携させ、自動運転・自動仕分け・自動検査システム・ヒューマンインターフェースで設備全体を管理し、5G技術を使用した物流応用モデルを構築することとしている。

デジタル化された倉庫では、5G技術による自動入庫・出荷の照合、リアルタイムの在庫管理、倉庫とロボットのシームレスな統合、AR作業、荷物追跡が行われる。


【参考】5Gスマート物流モデルセンターについては「京東グループ、中国初の「5Gスマート物流倉庫」建設 自動運転技術やAR眼鏡も導入」も参照。

菜鳥網絡(中国):自動運転パーク=物流拠点

アリババ傘下の物流会社である「菜鳥網絡(Cainiao Network)」が2019年2月、中国・成都市で自動運転パークの稼働を開始した。この施設では無人の物流車が作業の主役で、クラウドサーバーからの指令によって倉庫業務の大部分を担うという。

同社は2018年に中国宅配大手の圓通速遞と浙江省の配送センター内でスーパーロボット仕分けセンターを稼働させているほか、宅配大手の中通快逓に出資するなど物流の総合的なスマート化を推進しており、倉庫内のAGVをはじめ配送に至るまでの全工程の無人化を図るべく開発を強化しているようだ。

【参考】自動運転パークについては「アリババ傘下の物流会社・菜鳥網絡、自動運転パークの稼働開始」も参照。

Amazon(米国):Amazon Robotics=物流拠点

EC(電子商取引)最大手の米Amazonが手掛けるロボットを活用した物流拠点「Amazon Robotics(アマゾン・ロボティクス)」。自走式ロボット「Drive」が可搬式棚を移動させる仕組みで、国内でもアマゾン川崎FC(フルフィルメントセンター)を皮切りに、アマゾン茨木FC、アマゾン川口FC(2019年9月稼働予定)、アマゾン京田辺FC (2019年10月稼働予定)にも最新型のAmazon Roboticsが導入される。

最新型はDriveの重量が従来の145キロから136キロに軽量化され、積載可能重量は340キロから567キロに大幅アップしている。

2019年1月には、搬送ロボット開発などを手掛けるフランス企業のBalyo社への投資と提携を発表しており、開発力の強化を加速していく方針だ。

【参考】アマゾンとBalyo社との提携については「増える米アマゾンと自動運転の接点 倉庫無人化へ仏企業Balyoへ投資」も参照。

AutoStore AS(ノルウェー):AutoStore=ロボット

ノルウェーのAutoStore AS社が手掛ける自動倉庫型ピッキングシステム「AutoStore(オートストア)」。格子状に組まれた立体的なグリッド内にビン(専用コンテナ)が隙間なく格納され、その上を縦横無尽に走行するロボットが作業者の待つポートへ目的のビンを搬送する仕組みだ。

通路が不要で、内寸長さ60×幅40×高さ20~31センチメートルのコンテナを最大16~24段まで上方へ格納することが可能なため、倉庫内スペースを最大限活用することができる。平置き棚の2~3倍の収納力を持つという。

作業者は歩き回ることなく、定点でピッキング・補充できるほか、入庫と出庫を繰り返すうちに、高頻度品が上層部に集約され、入出庫にかかる時間も自然に短縮することができる。ビンの入出庫を行うロボットは、X、Y方向に自在に走行し、充電ステーションで自らバッテリーを充電して稼働する。

日本では、産業用機器などの製造・販売を行う株式会社オカムラが同社と販売契約を結び、2014年から取り扱っている。2016年にニトリグループの物流企業ホームロジスティクスが初導入し、1日当たり50人の省人化、作業効率(生産性)3.75倍向上、在庫面積40%削減を見込むという。このほか、ヘルスケア関連製品を取り扱うジョンソン・エンド・ジョンソンなどもオートストアを導入している。

2019年2月には、オートストアの新シリーズ「Black Line(ブラックライン)」の取り扱いも開始している。新型ロボットはバッテリーを自動交換する方式を採用したことで充電時間が不要となり、24時間フルに稼働することができる。また、より大きいビンを入出庫できる高性能ロボット「B1」や、作業者のビン到着待ち時間を短くしたワークステーション「リレーポート」、全方向にすれ違いが可能でロボットの混雑緩和に有効なグリッドなどをラインアップしている。

GreyOrange(シンガポール):Butler=ロボット

インド発、シンガポールに本社を構えるスタートアップのGreyOrange社が開発した物流ロボットシステム「Butler(バトラー)」。物流センターの床面を移動するロボットが可搬式の棚の下に潜り込み、作業者の元に棚ごと商品を届ける仕組みで、専用の可搬式棚(MSU)、ピッキングおよび棚入れを行うワークステーション(PPS)、ロボットが自律的に充電を行うオートチャージャー(ACDS)、システム全体を制御するソフトウェア(WCS)の5点で構成されている。

WCSは、オーダー内容や出荷頻度をAIがリアルタイムに解析し、ピッキング作業の順序を組み換えて最短時間で作業を完了するほか、MSUの配置場所を出荷頻度に応じて決定するなど、商品の最適配置を実現する。

ロボット本体は97×67×38センチで、専用ラックを含み500キロまで積載可能。

国内では、テクノロジーを活用した物流ソリューション事業を展開するGROUND株式会社が販売権を握っている。同社は、楽天やアスクルで物流事業を手掛けた経験を持つ宮田啓友氏が代表を務める、いわば物流プラットフォーマーだ。これまでに、ホームロジスティクスや機械工具卸売商社のトラスコ中山などが導入している。

ZMP(日本・東京都):CarriRo=ロボット

ロボットベンチャーのZMPが手掛ける物流支援ロボット「CarriRo(キャリロ)」。ジョイスティックで操作が可能なドライブモードや、ビーコン(発信機)を自動追従するカルガモモードを有した台車型物流支援ロボットで、2016年8月から国内出荷を行っている。

自律移動モデルの「CarriRo AD」は、同社が自動運転事業で培った画像認識技術を応用し、「CarriRo Visual Tracking(特許出願中)」という方式で自律移動を実現している。

新型の開発にも積極的で、従来の2倍となる最大積載200キロかつ牽引600キロを可能とし、最大可搬重量800キロを実現した「CarriRo AD+」や、デジタルピッキングシステム(DPS)と連携する機能を搭載した「CarriRo DPS」など、新型が次々と発表されている。

2019年4月には、出版大手の凸版印刷と同社が共同開発を進める無人物流システムが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の物流実証実験で提供されていたことなども判明している。

【参考】関連記事としては「凸版印刷とZMPの無人物流システム、NEDOの実証実験で活躍」も参照。

Doog(日本・茨城県):THOUZER=ロボット

2017年設立のロボットベンチャー株式会社Doogも移動ロボットの開発に力を入れており、自動追従・自動ライン走行が可能な運搬ロボット「THOUZER(サウザー)」を製品化している。

荷物を載せた状態で、作業者だけでなく台車やサウザー同士の追従もできる。ライン走行では、再帰反射素材のテープなどを床に敷設し、レーザーセンサーによってラインに沿って自動走行する仕組みで、屋外を含む建屋間での運用も可能という。

本体サイズは60×94センチで、積載重量は最大120キロ。航続距離は最大20キロメートル、走行速度は最高時速7.5キロメートルとなっている。

パナソニック(日本・大阪府):STR-100=ロボット

パナソニックは2019年2月、物流業界へ導入可能な自動運転搬送ロボット「STR-100」の発売を開始した。カゴ台車の下に潜り込んで搬送するロボットで、無軌道での高精度な自律走行や、対象カゴ台車への進入・把持の自動化、最大100台までの同時稼動を実現する群制御などが特徴。

高さ13センチほどの低床型ボディだが、最大搬送質量800キロと高出力を実現している。

【参考】STR-100については「パナソニック、物流向け自動運転搬送ロボットを発売」も参照。

オムロン(日本・京都府):LDシリーズ=ロボット

電気機器メーカーのオムロンが手掛ける、自らマップを作って動き回る自動搬送モバイルロボット。マップ上のゴールを設定・指示するだけで、独自のルート検索アルゴリズムによって最も効率的なルートを自動で選択して走行する。ルート検索はリアルタイムで実行しており、障害物が出現しても自動で別ルート検索し、ゴールまで確実に走行することができる。

倉庫などの通路上の荷物が頻繁に変化するような環境では、天井照明とモバイルロボットの位置を照合することでより高精度な位置認識が可能となるオプション「Acuity Localization」も用意されている。最大100台のモバイルロボットの現在位置、空き状況を、専用コントローラーが常に把握し、最適な配送を管理することが可能だ。

最大積載重量60キロのLD-60や同90キロのLD-90など、いくつかのプラットフォームがある。

日立製作所(日本・東京都):Racrew=ロボット

日立が開発したRacrew(ラックル)は、専用棚の下に潜り込んで棚ごと自動搬送するAGVだ。固定マーカ追跡方式で移動し、商品の格納形態に合わせてカスタマイズ可能な専用ラックやパレット(架台)を作業者のもとへ直接搬送する。

同社のAGV制御のノウハウに加え、多数のRacrewを運用する専用最適化アルゴリズムの構築により、同時に制御できるRacrewは数百台まで可能という。また、障害が発生した場合も、回避する搬送ルートを適宜リルートし、常に最適な搬送ルートを走行することでピッキング作業効率化に寄与する。

Rapyuta Robotics(日本・東京都):rapyuta.io=プラットフォーム

チューリッヒ工科大学からスピンオフした大学発ベンチャーRapyuta Roboticsが開発を進める、次世代クラウドロボティクス・プラットフォーム「rapyuta.io」。

同社は2019年2月、日本郵便とサムライインキュベートが実施するオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM 2018」の成果発表会で、日本郵便の物流拠点における郵便局内作業自動化を目的とした実証実験の成果を発表し、最優秀賞を獲得している。

実証実験は、郵便局内で「カゴ台車から荷物を小包区分機の供給ラインに取り降ろす」作業をロボットアームにより自動化するもの。また、これに加え、その前段階となる「トラックから取り降ろしたカゴ台車を各作業場所に運搬する」工程においても、rapyuta.ioプラットフォームを活用し、AGVとロボットアームが協調するシステムの実用化に向けて実証実験を重ねたという。

■【まとめ】物流全工程の無人化が到達点、国内では関連事業者間の連携が鍵に

ECをはじめ物流、ベンチャー、機械メーカーなど各社が倉庫の無人化に向けさまざまなソリューション開発を進めており、とりわけAGVの研究開発は顕著に進展しているようだ。

専用棚と一体となって稼働するモデルや汎用タイプなどいろいろあるが、開発の到達点は全行程の無人化にあるはずだ。無人倉庫から、自動運転による無人配送までの全工程を確立することで、省人化やコスト低減、効率性、正確性といったさまざまな面でメリットが最大化される。

京東集団や菜鳥網絡をはじめ、アマゾンなども倉庫・配送双方の無人化開発を進めている。これらの企業はいずれもEC事業者であり、高いテクノロジーとともに、自らが大量の商品を扱い、倉庫を抱える通販事業者だ。だからこそ一貫した開発と整備を実現できる環境にあると言えるだろう。

国内では、通販事業者や配送事業者、テクノロジー企業などの連携が不可欠の状況だが、開発が進展するにつれ、こうした事業者間の連携も促進されていくものと思われる。物流の未来は、ロボットがつないでいくのだ。

【参考】関連記事としては「ラストワンマイル向けの物流・配送ロボット10選」も参照。


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