自動運転領域におけるウーバーの「金」と「投資」を完全解説 トヨタ自動車やソフトバンク、グーグルも出資

IPO目前、赤字脱却はいつになるのか



出典:ウーバー社プレスキット

2019年中のIPO(新規株式公開)を目指す米ライドシェア大手のUber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)。最近では、ソフトバンクグループとトヨタ自動車などがウーバーの自動運転部門に10億ドル(約1100億円)を出資するといった報道が流れるなど、投資にまつわる話題が多い企業の一つだ。

IPOを前に、同社の投資にまつわる話題を改めておさらいし、その背景や同社の戦略に近づいてみた。


■VCの米ベンチマークなど「物言う投資家」多かった過去

早くからウーバーに出資してきた大型株主として、「Lowercase Capital」「Benchmark Capital」「Google Ventures」などが挙げられる。

グーグル傘下のグーグルベンチャーズは2013年にウーバーに2億5000万ドル(約240億円)を出資しているが、その後、グーグルの自動運転部門Waymo(ウェイモ)が分社化され、自動運転開発を本格化させる中、グーグル社を退職した一人のエンジニア、アンソニー・レバンドウスキー氏が自律運転トラック企業のオットー社を立ち上げ、間を置かずして同社をウーバーが6億ドル超で買収した。

ウェイモは、自社開発した自動運転関連の企業秘密1万4000点以上をレバンドウスキー氏が不正に持ち出したとして、2017年2月にウェイモの自動運転テクノロジーの差し止めや技術文書の返還などを求め、ウーバーと傘下となったオットー社を提訴した。

訴訟は2018年2月に、ウーバーが自社株の0.34パーセント(約2億4500万ドル=255億円と言われている)をウェイモ社に譲渡する形で和解となったが、訴訟中の2017年10月には、グーグルベンチャーズがウーバーと競合するLyftへ10億ドル(約1100億円)出資したことが明らかになっている。


また、ベンチマーク社などが2017年、共同創業者で元CEO(最高経営責任者)のトラビス・カラニック氏を提訴するなど、物言う投資家が多いようだ。同年8月には、エクスペディア社CEOのダラ・コスロシャヒ氏が新CEOに指名された。

■サウジ政府系ファンド「PIF」、2016年に3800億円出資

サウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が2016年に35億ドル(約3800億円)を出資している。この投資を機に、PIFのマネジングディレクターの一人がウーバーの取締役会メンバーに加わったようだ。

背景には、ウーバーがアフリカや中東地域に積極進出していることなどが挙げられそうだ。なお、PIFはその後、2017年に設立されたソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の主要投資家にも名を連ねている。

■ソフトバンクグループ、9000億円出資で筆頭株主に

2017年にソフトバンクグループをはじめとした投資家集団とウーバーや主要投資家らとの交渉が明らかにされ、長期折衝の末約80億ドル(約9600億円)の出資が決まり、2018年1月に株式取得が完了した。


ウーバーの評価額(時価総額)は当時680億ドル(約7兆5000億円)超とされていたが、これを480億ドル(約5兆3000億円)と評価し、株式約15%を取得して筆頭株主の座に就いた。

なお、ソフトバンクグループは中国のDiDiやインドのOLA、シンガポールのGrabなど世界の有力ライドシェア企業に投資しており、ウーバーとの交渉の背景にはこうしたバックボーンが大きく影響したものと思われる。

【参考】ソフトバンクのライドシェア事業については「【速報】ソフトバンクが株主総会 ライドシェア事業「取扱7兆円規模」 アマゾン超えへ」も参照。

■トヨタ、550億円出資で協業強化 自動運転開発へ

トヨタ自動車は2016年5月、ウーバーとライドシェア領域における協業を検討する旨の覚書を締結し、戦略的出資を行うこととした。2018年8月には5億ドル(約550億円)を出資し、両社の持つ技術を搭載したライドシェア専用車両をウーバーのライドシェアネットワークに導入することとしている。

具体的には、トヨタのガーディアンシステムをウーバーの自動運転キットと融合させたライドシェア専用車両を開発するとしており、トヨタのミニバン「シエナ」が、最初の自動運転モビリティサービス「Autono-MaaS」専用車両として2021年に導入される予定となっている。

■トヨタ・ソフトバンクによる巨額出資、MaaS分野で協業か

ソフトバンクグループとトヨタ自動車などが、ウーバーの自動運転部門に10億ドル(約1100億円)以上を出資することを検討していると米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版が2019年3月14日に報じた。

ソフトバンクとトヨタはそれぞれウーバーに出資を行っているほか、両社は2018年にMaaS(Mobility as a Service)を目的とした新会社MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)を設立している。自動運転技術を活用した新しい移動サービスの開発に向け、ウーバーをパートナーの一つに選んだ可能性が高そうだ。

なお、出資時期は3〜4月ごろとみられており、ウーバーのIPOに合わせたものという見方も強い。

【参考】ソフトバンク・トヨタによる新たな出資については「ソフトバンクとトヨタ、ウーバーの自動運転部門に1100億円の出資検討か」も参照。

■IPOでfacebook超えも…時価総額13兆円なるか

2018年ごろからささやかれ始めているIPOが、いよいよ現実のものになりそうだ。以前の報道では、早ければ2019年3月ごろまでに実施する見通しとされていたが、近々の報道では4月に手続きを開始する予定であることを複数の関係筋が明らかにしたようだ。なお、ウーバーは正式なコメントを避けている。評価額については、企業価値が最大1200億ドル(約13兆2000億円)と評価されることを目指すこととしている。

ライバルの米Lyftはすでに手続きを進めており、IPOによって最大21億ドル(約2300億円)を調達し、時価総額200億ドル(約2兆2000億円)を目指す構えのようだ。

中国のDiDiも2018年5月までに、早ければ2018年度中にも香港市場での上場を目指していることが報じられている。上場時の時価総額は700億~800億ドル(約7兆7000億~8兆8000億円)に達する可能性がある。

いずれも世界に名だたるユニコーン企業で、2019年の株式市場はライドシェア関連株が大きな注目を集めそうだ。

■赤字体質からの脱却はできるのか?

2009年設立のウーバーは、基本的に赤字企業だ。創業以来の累積赤字は1兆円を超すとも言われている。スタートアップとして出資ありきの経営手法そのものに異論はないが、10年が経過しても黒字化のビジョンをはっきりと示すことができていない現状に対する異論はあるだろう。

この間、自動運転開発を含め世界戦略や新規サービスの導入などいち早く推し進めてきたが、事業撤退を余儀なくされたケースも多く、中国市場では2016年に撤退し、ライバルのDiDiに事業買収されている。2018年には東南アジアから撤退し、同様にグラブに事業譲渡している。

一方、日本では2013年に日本法人を立ち上げ、ライドシェアの導入を視野に入れながら配車サービスや料理デリバリーサービスなどを手掛けてきた。プラットフォームサービスが中心のため日本では黒字を達成しているようだ。

ダラ・コスロシャヒCEOは2018年夏のある会合の席で、「黒字化するよりもキャッシュフローをプラスにすることに集中している」と述べており、IPOを目前に控えつつも黒字化が絶対条件ではないことを示唆している。

■自動運転開発でのトヨタとの協業や、空飛ぶタクシーなど先行投資続く

IPOの準備を進める過程で、収支などに関するさまざまな数字が明らかになってきているようだ。スタートアップやWeb関連のニュースメディア「TechCrunch」が2019年3月15日付で配信した記事によると、自動運転技術の開発に毎月2000万ドル(約2200億円)を費やしていたという。

2018年3月に公道試験中に死亡事故を起こし、テスト走行を中止していたが、同年11月には再開させる見通しであることも報じられている。

トヨタなどとも自動運転分野で協業を進めているほか、空飛ぶタクシーの開発も進めており、先行投資はまだまだ続きそうだ。

【参考】ウーバーの試験走行再開については「ウーバー、自動運転車両の試験走行を近く再開 死亡事故発生で2018年3月から中止」も参照。

■【まとめ】IPOで経営体質改善なるか

過熱するライドシェアの分野では、ソフトバンクが取りまとめ役となることで無駄を省き、黒字化を見込める段階にきている感もあるが、自動運転開発分野をはじめ、ウーバーはまだまだ先行投資を必要としているようだ。

ダラ・コスロシャヒCEOが重視する「キャッシュフローをプラスにすること」は、出資頼みであるならば企業として成長し続けることが前提となる。IPOにより出資がひと段落すると仮定すれば、売り上げや利益をしっかりと計上できる体制が求められることになる。

スタートアップからの卒業により、真の意味で経営手腕を問われることになるウーバー。米電気自動車(EV)大手のテスラのように、赤字のまま一定の支持を得られるか、体質改善に取り組むのか。いずれにしろ、激動の一年になることは間違いない。

【参考】ウーバーのIPOについては「ライドシェア最大手ウーバー、2019年1〜3月にも上場か Facebook超えも」も参照。


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