上場のティアフォー、「テスラ式自動運転」も開発

ハイブリッド型で次のフェーズへ



日本を代表する自動運転開発スタートアップのティアフォーが2026年7月22日、ついに上場企業の仲間入りを果たした。


設立から10年余り。自動運転開発企業の中では古参に位置し、Waymoなどと同様ルールベースの自動運転開発に力を注いできた。一方、近年はテスラ型のエンドツーエンド(E2E)モデルの開発にも本腰を入れ、両者の特性を併せ持つハイブリッド型と言える「自動運転レベル4+」の開発にも着手している。

ティアフォーの自動運転技術はどのように進化しているのか、その中身に迫る。

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■ティアフォーの概要

オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」

出典:ティアフォー公式サイト

ティアフォーは2015年12月、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」を活用した自動運転車両の開発・ビジネス化を目的に設立された。

Autowareは、ティアフォー創業者の加藤真平氏が当時所属していた名古屋大学の研究室で開発されたソフトウェアだ。ソースコードは一般公開されており、誰もが自由に利用・改良・再配布できる。


自動運転ソフトウェアを広く利用できる環境を提供することで社会全体の開発を加速し、自動運転社会の早期実現を図る狙いがある。

立ち位置としては、ティアフォーもAutowareの一利用者となる。Autowareの中立性を確保するため、その管理・運用は一般社団法人「The Autoware Foundation」に任せ、自社は一利用者として開発・実用化を先導する役目を担う――といった感じだ。

Autoware Foundationによると、Autowareは20を超える国で30車種以上に統合されている。参画・関連する企業は500社を超えているという。

Autowareはルールベース?

Autowareは、明確に定義されたインターフェースと API を備えたモジュール型アーキテクチャとして、知覚や位置特定、計画、制御など自動運転に必要なすべての機能で構成されている。


乗用車タイプをはじめ、バスやタクシー、トラック、工場内の搬送車、配送ロボットなど、さまざまなモビリティに対応できる柔軟なソフトウェアスタックを備えている点が特徴だ。

現在、Autowareに実装されている自動運転車の行動計画(Planning)モジュールは、主にルールベースのアルゴリズムに基づいて構築されているという。

2010年代の主流はルールベース

2010年代、自動運転開発の中心はルールベースであり、現在実用化されているWaymoや百度などの先行勢の自動運転技術もルールベースに従ったものだ。

「赤信号では必ず停車する」「制限速度を超える速度で走行しない」「路肩を走行する自転車がいるときは、その動きを注視し〇メートル以上離れて走行する」「自車両の前に隣接車線から急に他車が割り込んできた際、なるべく急ブレーキではなくゆっくり減速して車間距離を確保する」といった具合に、シチュエーションに応じた自車両の制御方法を一つひとつ細かに設定していくのだ。

「こういった時にはこうする」という走行ルールを一つひとつ教え込むことで、自律走行能力を高めていくアプローチだ。必要となる交通ルールを教え込んでいくため確実性が高い一方、自動運転の脳は自分で考えて応用を利かせることはなく、初めて走行する道路や複雑な要素が絡み合ったシチュエーションなどへの対応は困難となる。

それゆえ、走行ルートやエリアを事前に確定するなど、想定外のシチュエーションを可能な限り排除したODD(運行設計領域)を設定する。さらに、高精度3次元地図やLiDARをはじめとした各種センサーを併用し、安全性・確実性をより高めたうえで実用化する。これがルールベースだ。

新規エリアに進出する際は、一からマッピングして高精度3次元地図を作製し、何度も繰り返し走行を重ねて想定外の事象を一つひとつ解決していく。基本的な交通ルールに対する学習はそのまま利用できるが、走行する場所や時間帯などが異なれば新たなシチュエーションが発生する。こうした想定外を一つずつ解決していく作業が都度必要となるのだ。

加藤真平氏=撮影:自動運転ラボ

特定ルートのみ無人走行できれば良い自動運転バスに適した手法と言えるが、応用力の乏しさから、複数エリアへの展開時には大きな労力を必要とする。もちろん、新規エリアでの展開を重ねるごとに自動運転の精度は高まり、新規エリア進出時の労力も徐々に減少していく。

Waymoの自動運転タクシーが好例だ。2018年末にフェニックスでサービスを開始し、2拠点目となるサンフランシスコで正式にサービスインを開始したのは2022年だ。2023年にはロサンゼルス、2025年にオースティンとアトランタ、2026年にマイアミ、ダラス、ヒューストン、サンアントニオ、オーランド……と、明らかに展開が加速している。

地道な開発で成果を上げてきたルールベース。これが現在実用化されている自動運転技術だ。開発期間に比例し相当な進化を遂げているが、どこでも自動運転が可能なレベル5に達するためには、すべての車道において事前準備が必要となるため非現実的だ。

このため、ルールベースは「レベル4」のための技術と言える。

2020年代に入ってE2Eが台頭

一方、LLM(大規模言語モデル)や生成AIの登場で近年注目が高まっているのがE2Eアプローチだ。センサーが映し出す現実世界の変化をAIが直接学習し、どうすれば安全に走行し続けることができるかを自ら試行錯誤していくような仕組みだ。

人間が一つずつルールを教え込む必要がなく、AIが導き出した判断が正しかったかどうかを答えてあげればよいイメージだ。AIは、センサーからの現実世界の情報取得・認知から判断、制御までを統合的に学習し、一気通貫のシステムとして自動運転を実現する。

AI自らが学びを深めていくため、応用力のある自動運転システムを構築することができる点がポイントだ。初めて遭遇したシチュエーションにおいても、類似した経験をもとに類推し、一定の判断を下すことができる。

こうしたAI主導のシステムは、2010年代においては「現在の技術では無理」「遠い将来技術」とされていた。テスラなどが果敢に開発に挑んでいたが、Waymoの高名なエンジニアですらその取り組みに懐疑的だった。

しかし、LLMの登場などによってAI開発環境が一変し、E2Eモデルの開発に道が拓けた。言語能力を身に付けたAIは、その能力をテキストに留まらず画像や音声、動画などに拡大し、マルチモーダルな生成能力を身に付け始めた。

センサーに映し出された画像に何が映り、それが何を示しているかを説明可能になったことで、E2Eの実現が夢ではなくなったのだ。

先行するテスラは自社ADAS「FSD」を大幅進化させ、「レベル2++」に相当するどこでもハンズオフ運転を実用化している。ロボタクシー事業にも着手し、一部ではドライバーレスの走行を行っている。

中国新興勢のファーウェイなどもE2E技術を駆使し、テスラ同等と言われるレベル2++を実用化している。

Waymoなどルールベースで先行している各社もE2E開発に乗り出しており、今後はこのE2E技術を中心に自動運転業界は動いていくものと思われる。

ティアフォーは「ハイブリッド型」のレベル4+を提唱

ティアフォーに話を戻す。ルールベースの開発を進めていた同社も、E2E開発にしっかりと乗り出している。

ティアフォーは2024年10月、東京大学大学院系の松尾研究所とレベル4のODD拡大に向け生成AI開発を開始したと発表した。

プロジェクトでは、大量の走行データを学習して実世界の運転行動の常識を模倣できる大規模世界モデルを構築することで、事前に定義したルールが適用できない状況においても周囲の環境情報から適切な運転行動を生成可能なE2Eを実現するとしている。

確実な安全性担保のため、詳細なルールが記述できる従来のロボット工学的なアプローチと、複雑な場面での可用性担保のためのE2Eを統合したハイブリッドフレームワークの設計に取り組む内容だ。

出典:ティアフォープレスリリース

ティアフォーはこれを「レベル4+」と位置付ける。人間の役割はレベル4に準拠しながら、システム機能にはレベル5の概念を一部取り入れた新しい概念で、E2Eモデルにより、周囲の物体の動きの予測から自車の走行経路の生成に至る一連の処理に拡散モデルに基づく機械学習を適用することで、障害物の回避や交差点での右左折など複雑なシナリオにおいても規範的で人間らしい運転行動を模倣することを可能にする。

一方、従来のルールベース型の設計と組み合わせることで、高い無人走行性能と解釈性・柔軟性の両立を実現するハイブリッド型の自動運転システムとなる。

特定条件下におけるレベル4を起点としながら、実運用から得られるデータを活用してAIモデルを継続的に改善し、ユースケースを拡張していく考え方だ。

2026年3月には、データ中心なAIを活用したレベル4向けソフトウェアスタックを開発し、Autowareのリポジトリを通じて公開したことを発表した。

ソフトウェア構成として、認識AIと経路生成AIを組み合わせたハイブリッド系と、すべての運転行動をひとつのAIで行うE2E系を選択可能にしている。

東京大学、カーネギーメロン大学、ミュンヘン工科大学それぞれと連携し、環境固有の追加データセットを用いた試験走行に着手し、さらなる技術の向上と普及を図っていく構えだ。

バス、タクシー、トラックなど全方位で自動運転化を推進

ティアフォー製の自動運転バス「Minibus 2.0」=出典:ティアフォープレスリリース

現在、ティアフォーの技術を活用した自動運転サービスは、GLP ALFALINK相模原敷地内通路(2023年10月)、長野県塩尻市(2024年10月)、石川県小松市(2025年3月)の国内3カ所でレベル4認可を受けている。塩尻市では、レベル4サービスに必要な特定自動運転許可を2025年1月に取得している。

いずれも自動運転バスサービスで、オリジナル設計のMinibusを主力に全国各地で実証が進められている。

ロボタクシー関連では、2020年11月に、 損害保険ジャパンやKDDI、アイサンテクノロジーなどとともに東京都西新宿エリアで5Gを活用した公道実証を開始している。E2E技術の導入が最も期待される領域で、WaymoやWayveなどの海外技術が国内市場に流入する中、国産自動運転システムがどこまで対抗できるか、試金石ともなる競争領域だ。

自動運転トラックの開発にも2024年に着手しており、独スタートアップdriveblocksの技術のもと、長距離・広域の高速道路環境に対応できる高精度地図を必要としない認識技術を確立するとしている。

上場後も先行投資フェーズは続く

これまでの資金調達は、2020年のシリーズAで175億円、2022年のシリーズBで121億円、同年のグリーンイノベーション基金で253億円規模、2024年のシリーズB追加ラウンドで85億円――となっている。

2026年7月22日には、国内の自動運転開発スタートアップとして初めて東京証券取引所グロース市場への上場を果たした。

事業・開発は順調に進捗しているが、先行投資の局面はまだまだ続き、業績は今しばらく赤字が続くものと思われる。

自動運転市場は黎明期にあり、技術開発・社会実装に一定の期間を要する特性を有するため、ティアフォー自身も黒字化に至るまでには一定の期間を要する可能性があると認識しており、規律ある研究開発投資の継続と事業規模の拡大のバランスを取りながら事業運営を行うことで、経常損益の赤字幅の改善、黒字化に向け取り組んでいくとしている。

■【まとめ】ハイブリッド型がスタンダードに?

おそらく、Waymoなどの先行勢も、これまで培ってきたルールベースの技術にE2E技術を掛け合わせていくハイブリッド型の自動運転システムの開発・導入を進めているものと思われる。E2Eがいくら優秀であるとは言え、いきなり切り替えることは難しい。確立済みの既存技術(ルールベース)のもと、徐々に育て上げて高度化を図っていく――といった手法が先行勢のスタンダードとなりそうだ。

テスラに代表される純粋なE2E系技術がどのタイミングで真の自動運転を実現するか注視する必要があるが、ハイブリッド型で安全にレベル4実装を進めていくティアフォー型の戦略には優位性がある。

ティアフォーは今後自動運転バスや自動運転タクシーをどのように進化させ、実装に結び付けていくのか。上場後の取り組みに引き続き注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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