自動運転トラック、新東名高速で「高精度地図なし」実証 ティアフォー

レベル5に準じる自動運転システムを開発か



ティアフォーの創業者CEO兼CTOの加藤真平氏=撮影:自動運転ラボ

ティアフォーが、高速道路におけるトラック向けの自動運転システム開発に乗り出した。2024年度から新東名高速道路で実証に着手する。

これだけでも話題性十分だが、取り組みにはさらなる注目ポイントが眠っている。独スタートアップの技術を活用することで、高精度地図を必要としない認識技術を導入する計画という。


これは自動運転レベル5寄りの技術開発と言えるのではないだろうか。ティアフォーがついにレベル5開発に着手するのか。その動向に迫る。

■ティアフォーのトラック向け自動運転システム

パートナープログラムの成果やを盛り込みリファレンスデザインを提供

ティアフォーは、高速道路におけるトラック向けの自動運転システムの基本機能を開発し、2024年度から新東名高速道路で実証を開始する。開発成果はリファレンスデザインとして商用車メーカーに提供し、早期導入を支援していく。

また、自動運転支援道やデータ連携基盤を含むインフラの活用にも注力し、物流業界におけるデジタル化の推進を図っていくとしている。

リファレンスデザインには、自動運転ソフトウェアAutowareの基本機能に加え、「TIER IV Autoware Partner Program」における協業の成果も含む。


同プログラムは、自動運転の社会実装に取り組むパートナー企業に対し、Autowareを活用した研修・教育講座を提供して修了認定を実施するもので、2024年4月に開始したばかりだ。

driveblocksの技術でマップやGPSなしのシステム構築へ

2024年度に開始する実証では、独スタートアップdriveblocksの技術を活用し、長距離・広域の高速道路環境に対応できる高精度地図を必要としない認識技術を導入する予定としている。

詳細は後述するが、すでに欧州のブレンナー峠など走行難易度の高い環境で実証済みで、新東名高速道路を想定したテストコース及びシミュレーション環境を活用した検証が進められている。

この技術を統合することで、高速道路の工事や新設区間など、高精度地図や最新データが未整備・未反映な場合においても、冗長性と安全性の高い自動運転の実現が可能になるという。

実証に向け、両社は高速道路の一般的なシナリオに加え、衛星測位システムが利用できないトンネルや低照度の環境など、さまざまなシナリオ下において時速100キロで走行する際の正確な認識機能の動作検証や、走行車線のモデル作成を行い、リファレンスデザインとして提供する。

また、ティアフォーは、高速道路トラックが合流車両や障害物などの周囲を認識し、安全に走行できるよう物体検出機能の向上にも注力する。


▼driveblocksの機能モジュールの実証結果

▼国内での実証状況:前方カメラから検出された車線マーキング(左)と検出された道路の鳥瞰図(右)

TIER IV Autoware Partner Program

「TIER IV Autoware Partner Program」は、自動運転の社会実装に取り組むパートナー企業に対し、Autowareを活用した研修・教育講座を提供して修了認定を実施するプログラムだ。認定を受けたパートナーは、ティアフォーとの共同事業の推進をはじめ、ティアフォーのプロダクトを活用した独自事業の展開を加速することが可能になる。

スマートロボティクス、プロキシマテクノロジー、富士ソフト、4th.ai、日立産業制御ソリューションズがパートナーとしてプログラムに参画しているようだ。

自動運転実用化に向けた裾野を拡大していく取り組みとして、今後の動向に要注目だ。

■driveblocksの概要

自動運転レースで培った技術をもとに設立

出典:Driveblocks公式サイト

Driveblocksは、ミュンヘン工科大学の研究プロジェクト「Autonomous Racing」をきっかけに2021年に設立された自動運転開発スタートアップだ。プロジェクトでは、自動運転レーシングカーでサーキット内を走行してタイムを競う「Roborace」に参加し、自動運転技術を磨いた。

2021年には、米インディアナ州で開催されたIndy Autonomous Challengeに同大のチーム「TUM Autonomous Motorsport」が参加し、世界各国の大学チームを破って優勝を飾った。CES2022で開催されたIndy Autonomous Challengeでは、時速265キロを達成して2位に入賞したという。これらの開発メンバーが設立したのがDriveblocksだ。

高精度マップや測位システムに依存せず

同社が開発する「Mapless Autonomy Platform(マップレス・オートノミー・プラットフォーム)」を使用すると、車両は高精度地図に依存することなく物体を確実に検出して周囲を認識し、自律走行できるようになる。GPS 情報にアクセスする必要もなく、鉱山内やトンネル内などでも利用できる。

さまざまな観点から複数の LiDARとカメラのデータを高度に確率的融合することで、運転可能なスペースと潜在的な走行通路を特定していく。センサー技術の組み合わせにより、全天候型の認識も可能にする。

センサーデータを使用して物体と環境特徴をリアルタイムで検出・分類するパーセプション技術と、IMU(慣性計測装置)や車輪速度、視覚的なオドメトリからのデータを利用し、車両の位置と速度を正確に推定する仕組みだ。

プラットフォームはモジュール式で、知覚機能とセンサーフュージョン機能を車両や既存のソフトウェア スタック、ハードウェアコンポーネントと統合することができる。オープンアーキテクチャ設計により、さまざまなタイプの車両にカスタマイズ可能なソリューションを統合し、冗長性や安全性を高めることができるとしている。

2023年9月に資金調達シードラウンドで220万ユーロ(約3億6,000万円)を獲得している。Rethink VenturesとBayern Kapitalがラウンドを主導しており、モビリティ系企業からの出資はまだないようだ。

パートナーシップ関連では、電気駆動システム開発を手掛ける独Pepper Motion やフェイルセーフドライブバイワイヤシステムを開発する独Schaeffler ByWire、Autoware Foundation にも名を連ねるApex.AI、LiDAR開発企業の米Seyond(旧Innovusion)などと関係を構築している。

レベル5相当の技術に?

いわゆる自動運転レベル5に通じる技術だ。高精度3次元地図やGPS、インフラ協調など他の要素に依存することなく、自前のシステムのみで自律走行を可能にする。理論上、手動運転が可能な環境下であれば、いつでもどこでも走行可能になるレベルだ。

厳密には、driveblocksは活用例としてターミナルや鉱山、農業、物流などの分野を挙げており、現時点では一定の走行環境を必要とする可能性が高いが、将来的にレベル5に拡張されていくものと思われる。

世界では、米EV大手テスラがレベル5開発の代表格に挙げられるが、技術的にはまだまだ未完だ。国内ではTuringが野心的にレベル5開発に挑んでおり、「2030年に完全自動運転EV10,000台生産」を目標に掲げている。

レベル5は、現段階の技術では到底不可能とする識者も多く、その開発勢は少数派だ。そこにティアフォーが参戦するのは非常に興味深い。

国内における自動運転トラックの開発動向

高速道路を走行する自動運転トラックは、国内ではT2やTuSimpleが開発を進めている。Preferred NetworksのAI技術をもとに三井物産が設立したT2は、レベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービスの実現を目標に掲げており、2025年度に関東~関西間で事業開始する計画だ。その後、2030年ごろを目途に全国にエリアを拡大していく。

【参考】T2の取り組みについては「12億、35億…からの7億!自動運転企業T2、資金調達すごい勢い」も参照。

米中を股にかける自動運転トラック開発企業のTuSimpleは、日本法人TuSimple JAPANが東名・新東名高速道路における自動運転トラックの走行実証を2023年1月に開始した。

同年10月には、日本初の東京~名古屋間のレベル4相当の自動運転トラックの実証に成功したことを発表している。

2024年からは、レベル4の無人自動運転トラック走行実証に向けた準備と並行し、東京側の物流センターから名古屋側の物流センターまでの自動運転トラックの実証、東京~大阪間における自動運転トラック走行実証に着手する予定としている。その後、台数も増加し、事業化に向けた実証を重ねたうえで本格的な実運用開始も検討していく方針だ。

【参考】TuSimpleの取り組みについては「米TuSimple、自動運転トラックでアジアシフト?日中で実証実施」も参照。

■【まとめ】勢い増すティアフォー、業界を活性化

自動運転バスなどの量産化に目途をつけ、各社との協業のもとサービス実装を本格化させているティアフォー。その勢いは止まらず、ついには自動運転トラックの開発にも着手した格好だ。

国内自動運転スタートアップの代表格であるティアフォーの動きは、業界に良い刺激をもたらす。競合する各社とも開発を加速し、サービスが早期実現することに期待したい。

【参考】関連記事としては「英半導体大手Arm、自動運転分野でティアフォーと協業」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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