無人航空機の世界でも、日本の研究が国際社会の発展に役立っているようだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業のもと、日本無線と三菱総合研究所が取りまとめた無人航空機の衝突回避技術に関する国際標準化機構(ISO)の技術報告書「ISO/TR 23267」が2024年4月に公開された。
無人航空機の衝突回避に関しては、2023年10月にも日本発の提案が国際規格の改定版に採択されており、国際標準に基づく開発促進や空の安全確保への貢献に期待が寄せられている。
国際標準に関し、NEDOや日本企業はどのような研究を進めてきたのか。その一連の取り組みに迫る。
▼日本発の無人航空機の衝突回避に関する技術報告書がISOより公開|NEDO
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101740.html
記事の目次
■無人航空機に関する日本の取り組み
日本無線と三菱総合研究所が技術報告書を策定
日本無線と三菱総合研究所が取りまとめた技術報告書「ISO/TR 23267:Experiment results on test methods for detection and avoidance(DAA)systems for unmanned aircraft systems」は、無人航空機用衝突回避システムに関する規格「ISO/DIS 15964 Detection and avoidance system for unmanned aircraft systems」の要求事項の根拠に位置付けられるもので、新たな国際標準の速やかな規格開発に資するものとなっている。
▼ISO/TR 23267:2024
https://www.iso.org/standard/87386.html
▼ISO/DIS 15964
https://www.iso.org/standard/84450.html
NEDOの事業「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」の成果をもとに取りまとめたものだ。
具体的には、無人航空機の衝突回避6ステップで使用されるハードウェアとソフトウェアを提示し、これを裏付ける根拠として各種実証実験の結果などをAnnex(別紙)で示しつつ、引用先をBibliographyに明記し、レーダーと光学センサー(カメラ)を備えた機体による衝突回避システムの手順について説明している。
また、衝突回避のモデリングとシミュレーション、機器単体の定量的評価試験、ハードウェア・ソフトウェアを試作搭載した飛行試験へとステップアップするテスト方法を解説することで、要求事項の根拠となる衝突回避「CONOPS(Concept of Operations:運用構想)」の6ステップ(後述)における各種センサー機器の役割や探知・認識距離なども明示している。
この「ISO/TR 23267」公開により、世界各国の無人航空機に関する製造者や販売者、購入者、顧客、業界団体、ユーザー、規制当局といった各ステークホルダーが個別に進めてきた衝突回避システムに対し、共通概念を提供することが可能となった。
現在開発が進められているハードウェア・ソフトウェアの国際規格(ISO/DIS 15964)の要求事項の根拠と位置付けられることで早期の国際標準化を推進し、将来に向けた国際的な無人航空機の社会実装への貢献が期待されるとしている。
2017年度から6カ年事業で無人航空機に関わる研究を推進
NEDOは2017年度から6カ年にわたる事業として「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」を実施し、ロボットやドローン機体の性能評価基準等の開発や無人航空機の運航管理システム及び衝突回避技術の開発、ロボット・ドローンに関する国際標準化の推進、空飛ぶクルマの先導調査研究などを進めてきた。
2018年には、無人航空機に搭載した衝突回避システムの探知性能試験を世界で初めて実施した。SUBARU、日本無線、日本アビオニクス、三菱電機、自律制御システム研究所が福島ロボットテストフィールドにおいて、あらかじめ設計した経路に従って中型の無人航空機が空中静止した有人ヘリコプターを避け時速40キロで飛行する模擬的な衝突回避試験を行った。
無人航空機には各種センサーや準天頂衛星システム対応受信機などを搭載し、飛行中に適切に対象物を探知できるか、飛行中の無人航空機を高精度に測位できるかなど、衝突回避システムの動作を確認することができたという。
2019年には、前年に引き続き同メンバーが三河湾海上で緊急時における自律回避実証を実施した。無人航空機が緊急時においても自律的に危険を回避する技術実証で、飛行中に故障や燃料残量の減少、悪天候を検知した際、無人航空機が自らの判断で経路を変更し、事前に設定した緊急着陸地点まで飛行する内容だ。
また、同年には相対速度時速100キロでの無人航空機の衝突回避試験も実施している。これも世界初の取り組みで、カメラやレーダーなどを搭載した中型の無人航空機が時速40キロ程度で飛行し、正面から時速60キロ程度で前進飛行してくる有人ヘリコプターを探知し、自律的に衝突を回避する飛行試験だ。
日本発の国際規格改定版が採択
こうした事業成果をもとに、SUBARUと日本無線、ACSLが2021年から進めてきた無人航空機の衝突回避に関する運航手順を含めた国際規格の改定版が2023年10月、ISOから「ISO21384-3 Unmanned aircraft systems―Part3: Operational procedures」(無人航空機システム―第3部 運航手順)として正式に採択・発行された。
ドローンと呼ばれる小型の無人航空機や一回り大きい中型の無人航空機などの利用は広がりを見せているが、一方で無人航空機とドクターヘリなど有人航空機とのニアミス実例が報告されるなど、他の航空機との衝突回避が安全利用における喫緊の課題となっていた。
また、無人航空機の社会実装に向け、目視外飛行や第三者上空飛行を実現する上でも衝突回避は欠かせない技術であることから、同技術の開発は各国で進められてきたものの、その手順や手段は国際的に統一されておらず、特定メーカーの機体同士や限定されたサービスの中だけでしか回避できず、空の安全が十分に確保できない可能性があったという。
無人航空機の運航手順を規格化したISO21384-3の初版は2019年11月に発行されたが、他の航空機や無人航空機同士の衝突回避手順については規定されていなかった。
今回の改定により、衝突回避の「CONOPS」を新たに追加し、「対象物の探知」「ターゲットの認識」「回避機動」「回避結果の確認」「元ルートへの復帰」「元ルートでの飛行」の6ステップからなる基本的な手順が規定された。
この6ステップに従い、統一された回避行動をとることが国際規格となったのだ。スバルは衝突回避システムの飛行実証及びCONOPSに関する規格案作成、日本無線は衝突回避システムの評価試験と飛行実証、ACSLは衝突回避システムの機体実装と飛行実証をそれぞれ担った。
現在、この6ステップの衝突回避手順を具現化する衝突回避システムとして「ISO/DIS 15964」の規格開発が進められているという。
■【まとめ】技術の向上とともに共通ルールの策定なども必須
自動運転分野同様、無人航空機分野においても日本が国際標準の策定などに貢献していることが分かった。農業や測量をはじめ、物流など多方面での活躍が見込まれる無人航空機。実用化が進むにつれ衝突の危険性が高まるため、技術の向上とともに共通ルールの策定なども早期に進めなければならない。
空飛ぶクルマを含め、よりパーソナルなエアモビリティが普及するだろう未来に向け、こうした議論の重要性は増すばかりだ。
【参考】関連記事としては「快挙!日本発の「自動バレー駐車システム」、国際標準に」も参照。