自動運転タクシーの社会実装を控え、自動運転車の安全性能確保策に関する検討が進められているが、その論点の一つに「事故原因の究明」がある。
システムの専門性やオペレーションの複雑さなどを背景に既存の仕組みでは対応しきれておらず、運輸安全委員会のように明確な権限を持った専門組織の設立が待たれるところだ。
事故をめぐっては、純粋に再発防止に向け調査をする観点と、刑事・民事的な観点から責任の所在を明確にする調査が考えられるが、運輸安全委員会は前者を目的とする公益性の高い組織だ。事故の責任の所在云々以前に、原因をしっかりと調査して再発を防止する取り組みは必須と言える。
現在進行形で審議を進めている国土交通省所管の自動運転ワーキンググループ(自動運転WG)の議論の中身に迫る。
▼事故調査の対象とする自動運転レベルについて|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001870138.pdf
▼事故原因究明を通じた再発防止について|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001870148.pdf
記事の目次
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■自動運転車の事故調査の現状
自動運転WGが議論、2025年5月に中間とりまとめ
国は自動運転タクシー実装に向け短期集中的に検討を進めるため、国土交通省の交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会の下に「自動運転WG」を設置し、制度構築に向けた議論を進めている。
具体的には、管理受委託に係る運用や特定自動運行時に必要な運行管理の在り方、タクシー手配に係るプラットフォーマーに対する規律の在り方などのビジネスモデルに対する規制緩和をはじめ、自動運転車の製造者が満たすべき安全性能の明確化や事故原因究明を通じた再発防止、被害が生じた場合における補償――などの各観点だ。自動運転WGは2025年5月を目途に中間とりまとめ案を作成する予定としている。
現在はITARDAの自動運転車事故調査委員会が対応
事故調査に関しては、現行法(道路運送車両法)上、自動運行装置の製作者に対する報告徴収及び立入検査や特定自動運行実施者に対する報告及び検査が規定されており、自動運転車に係る交通事故調査に関しては、公益財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA)に自動運転車事故調査委員会が設置されている。
ただ、ITARDAはあくまで民間組織のため、調査に強制力はない。過去、2021年に発生した東京五輪・パラリンピックの選手村における事故調査を実施しているが、事故調査委員会の権限が任意に留まるため、交通事故の被害者など一部関係者から話を聞くことができなかった。自動運転に関するデータも調査時点で消えていたという。
こうした経緯を踏まえ、運輸安全委員会のような仕組みの構築が求められることとなった。
運輸安全委員会は、航空、鉄道、船舶において事故や重大インシデントが発生した際、その原因や事故による被害の原因を究明するための調査を行う国土交通省の外局だ。再発防止や事故被害軽減に資する施策・措置について、関係行政機関や事故を起こした関係者などに勧告・意見を述べ、改善を促す役目も担う。
事故等関係者からの報告を徴することや出頭を求めて質問すること、必要な場所へ立ち入り関係物件の検査や事故等関係者に質問すること、関係物件の提出を求め留置することなど調査に係る処分権限を持ち、虚偽報告や検査拒否・妨害行為などには罰金が科される。

この運輸安全委の所管に自動車は含まれておらず、バスや大型トラックなどの事業用自動車の重大事故 については、ITARDAを事務局に国交省下に2014年に設置された事業用自動車事故調査委員会が調査を行っている。
自動運転車に関しては、従来の「個々のドライバー」という要因がなくなり、代わって自動運転システムの欠陥や不具合などが新たな要因として顔を出し始める。ドライバーレス特有の独特のオペレーション体制なども加わり、従来の枠組みに収まりきらないケースが多々生まれることが想定される。
自動運転システムは横展開が可能なため、特定エリアで発生した一つの事故が他のエリアでも発生する可能性が高く、それゆえ事故原因の特定は非常に重要となるのだ。
■自動運転WGの議論の概要
対象とすべき自動運転レベルや事故内容などを精査中
自動運転WGによると、運輸安全委員会で自動運転車の事故等調査を行うに当たっての論点として、以下が挙げられている。
- ①調査対象とする事故等の範囲と当該事故等の発生を運輸安全委員会が把握する仕組み等のあり方
- ②運輸安全委員会における実効性ある事故等調査の実施
- ③運輸安全委員会の体制等
運輸安全委員会は、航空・鉄道・船舶における事故及び重大インシデントのうち、被害の大きさ(被害が大きくなる可能性の高さ)から社会的影響の大きいものや、多面的・科学的に分析する必要が生じ、調査業務が複雑となる可能性が高いものを対象として調査している。
これを自動運転に当てはめた場合、同委員会において調査すべきと考えられる範囲をどのように考えるかが第一の論点だ。被害の程度や自動運転レベルなどによる線引きが考えられる。

レベル3も含むべき?
①の観点について、自動運転WGの委員からは以下のような意見が出されている。
- 事故調査はレベル3の車両も対象にすべき。自動運転車の普及加速という観点から事故調査の重要性がうたわれており、また運輸安全委員会設置法では、事故防止や事故発生時の被害軽減に貢献することが目的とされているため、あえて事業用に限定する必要はない。
- 自動運転事故調査委員会では、レベル3以上の車両を対象に議論していた。事故の大半は人間との関係性に起因して発生している。レベル4は一見人間は関与しないと考えられがちだが、特定自動運行管理者・特定自動運行主任者、整備の状況などが関係する。
- 現実問題、レベル3以上の車を全部運輸安全委員会が調査しても、結果としてほとんどは人に起因する事故になるだろう。そのような段階まで運輸安全委員会が関わる必要があるかどうか。 ・死亡事故やそれに匹敵するような重大インシデントを調査の対象としているが、被害の頻度が多い事例も調査の対象に含めるべき
- 既存の調査対象である3つのモードにおける重大インシデントに比べ、自動車におけるインシデントの形態が多岐に渡ると想定しており、自動車は交通参加者の多さが特徴であるため、重大インシデントを慎重に定義いただきたい
- 報告の段階では、通常時は警察や保険会社が関与し責任が割り振られると理解している。その後、自動運転車の無人走行の段階が第一当事者に該当するかをスクリーニングステップとして、重大インシデントに該当する事例かを判断する。インシデントの定義が厳密でない場合、データの収集にも影響が出てくるため慎重に検討いただきたい。
事故調査の範囲にレベル3も含むべきとする意見が多くみられるようだ。ただ、レベル3は手動運転と自動運転が混在するため、「レベル3搭載車」の事故を一括りで扱うと大変なことになる。委員が指摘しているように、その大半は手動運転中に起こることが予想される。
作動状態記録装置などの調査で事故が手動運転中か自動運転中に起こったかを判別するのは容易に感じる。実務上、警察などの調査により自動運転が関係している可能性があれば、運輸安全委員会へ――という流れはできないのだろうか。
インシデントの定義は?
インシデントの対象についても、明確にしていかなければならないようだ。国土交通省によると、死亡・重傷のものや、死亡・重傷事故に繋がるおそれのある軽傷の人身事故、死亡・重傷事故に繋がるおそれのある物損事故、自動運転車が道交法違反をした場合(重大インシデント)を対象に運輸安全委員会による事故調査を行うと考えている。
軽微で頻発性のない事故・インシデントについては、運輸安全委員会外の調査による再発防止効果について検討が必要としている。
「ガードレールに擦った」など、軽微なものまで運輸安全委員会が出動するのは、さすがに非効率と言える。開発サイドや運営サイドへの負担も大きい。
しかし、こうした軽微な事故要因が、実は重大な欠陥に基づく可能性もある。また、軽微な事案を繰り返し起こしているものはそのうち重大事故を起こす可能性も考えられる。できるならば、こうした軽微な案件についても統計的に情報を取りまとめておきたいところだ。
どのように線引きし、どのような強制力をもって調査を進めるべきなのか。結論が気になるところだ。
細かい課題も山積
このほかの論点としては、運輸安全委員会が事故などの発生をどのように認知するのかといったものや、走行記録などのデータを含む調査に必要な物件の提供をどのように受けるか、海外企業を含む関係者の口述をどのように得るか、調査対象となる関係者・関係物件にはどのようなものまで含めていくべきか――といったものが検討されているようだ。
運輸安全委員会の調査対象とならないものについても、必要に応じて国土交通大臣が適確に行政処分などを行うため、大臣が事故発生に係る報告を受け、それを運輸安全委員会に通報する仕組みが必要ではないか――とする意見や、自動運転車の事故調査において必須となる走行記録データなどを確実に入手するため、記録するデータ種別や記録装置の耐久性などどのような内容を求めるか、円滑なデータ抽出などデータ提供に係る関係者の協力を得るためどのような仕組みが必要か――といった論点もあるようだ。
また、自動運転車の事故等調査では自動運転システムの設計思想をヒアリングすることが重要なため、自動運転システム設計者が海外企業の場合においても適切に事故等調査への協力を得るためにどのような仕組みが必要か考えなければならないようだ。
海外企業の場合、何をもって安全とするか、システム設計の根本が異なることも考えられる。開発における責任権限を持つ者が国内に不在であることも想定される。事故調査以前に、どういったポリシーに基づいて設計されているのか、事故時の体制はどのようなものかを許可時点で把握し、場合によっては是正を求める必要が出てくるかもしれない。

■海外の動向
報告義務を課す米国、トランプ政権でどうなる?
米国では、運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)がリコール実施判断に向け車両や装置の欠陥調査を実施し、国家運輸安全委員会(NTSB)が自動運転事故が起きた場合の原因究明を目的とした調査を実施している。NTSBは、調査結果を基に法的拘束力の無い安全勧告を実施する。これに加え、各州の規制当局がクラッシュレポートの提出を求めるケースもある。
リコール実施における法的拘束力を持つNHTSAは、レベル2以上のADASと自動運転システム搭載車両に対する事故報告義務を2021年から開発各社に課している。統計的な情報として有意である一方、開発事業者の負担も大きく、Waymoやテスラなど規制の緩和・撤廃を求める動きも出ている。
イーロン・マスク氏が急接近したトランプ政権が、こうした事故報告義務の緩和・撤廃を検討している旨も報じられている。良し悪しは別として、改革のメスが入る可能性は十分考えられそうだ。
ドイツでは、2021年に施行された自動運転法により、自動運転に関わる技術装置・保存義務対象データの要件や、事故発生時の各主体の義務を規定している。
中国では、自動運転車・一般車両の区別なく、公安部(警察)が主体となって自動車全般を対象に調査しているようだ。

【参考】NHTSAによる事故報告義務については「自動運転の事故「24時間以内に報告を」 米NHTSAが発表」も参照。
【参考】トランプ政権の動向については「トランプ氏、自動運転車の「事故報告義務」撤廃へ テスラに”恩返し”か」も参照。
■【まとめ】5月発表の中間とりまとめ案に注目
自動運転WGではこのほか、自動運転における損害賠償責任や自動運転サービスの管理受委託運用、プラットフォーマーに対する規律の在り方など、多方面に及ぶ議論が進められている。自賠法上の損害賠償責任の在り方なども気になるところだ。
ガイドライン・指針の策定で済む課題もあるが、安全性に関するものは法的根拠をもとに一定の強制力をもたないと有名無実化しかねない。5月にどのよう案が取りまとめられるのか、要注目だ。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説」でまとめて発信しています。
【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標・ロードマップ一覧|実用化の現状解説」も参照。