トランプ氏、自動運転車の「事故報告義務」撤廃へ テスラに”恩返し”か

テスラに有利な施策が次々と……



出典:トランプ氏公式X(https://x.com/realDonaldTrump/status/1852569802725900547/photo/1)/イーロン・マスク氏公式X(https://x.com/elonmusk/status/1855152953944162426/photo/1)

トランプ次期大統領の政権移行チームが、自動運転に関する新たな規制緩和案を検討していることが判明した。自動運転やADAS(レベル2)における事故報告義務化を撤廃する内容だ。

この案が通れば、開発事業者の省力化を図ることができる一方、自動運転事故に関わる情報の透明性が失われ、安全性が損なわれる恐れがある。


次期政権下で自動運転施策がいろいろと動き出しそうだが、その背後にはイーロン・マスク氏の存在が見え隠れする。マスク氏の意向を反映する形で施策が打ち出されている感が強いのだ。

次期政権の自動運転施策に、トランプ氏とマスク氏の関係がどのように影響を及ぼしているのか。真相に迫る。

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■トランプ次期政権の自動運転施策

事故報告義務を撤廃?

出典:トランプ氏公式X(https://x.com/realDonaldTrump/status/1852569802725900547/photo/1)

ロイター通信によると、現在米道路交通安全局(NHTSA)が実施している自動運転車などへの事故報告義務について、自動車関連政策を検討する政権移行チームが「過剰なデータ収集」と批判し、撤廃を勧告する内容の文書を入手したという。


NHTSAは2021年6月、特定のメーカーやオペレーターに、自動運転システムまたは 自動運転レベル 2のADAS(先進運転支援システム)を搭載した車両が関与する特定の衝突事故を報告する一般命令を発行した。翌7月から事故情報の報告が義務付けられている。

自動運転システムやレベル2 ADASの製造業者と搭載車両が、自動車の安全性に不当なリスクをもたらす欠陥がないことを保証する法定義務を果たしているかどうかを公平に評価する目的だ。

NHTSA は収集したデータを使用し、さらなる調査を通じて何らかの安全上の欠陥を発見した場合、該当する車両を公道から排除するか、必要に応じて修正するよう措置を講じる――といったものだ。

この安全面を考慮したNHTSAの取り組みに対し、「過剰なデータ収集」を理由に連邦政府が撤廃する――というのは通常考えられない。余計な手間から解放される開発各社の取り組みは加速するかもしれないが、その代償として事故・安全性に関する情報が不透明なものになるためだ。


こうした方針の裏には、やはり特別な事情があるのでは?――と考えても無理のないことだろう。

事故報告撤廃でテスラは恩恵を受ける?

このクラッシュレポートの詳細は後述するが、レベル3以上の自動運転システム搭載車両とレベル2搭載車両に分けて集計されており、レベル2搭載車両のカテゴリではテスラ車による事故報告件数が圧倒的に多い。

テスラとしては、レベル2使用中のオーナーが事故を起こすたびにNHTSAに詳細なレポートを求められるため、膨大な手間を要する。また、こうした集計データは自社イメージを損なう。

このため、テスラが次期政権に裏から手をまわし、報告義務の緩和を求めたのではないか――とする見方もあるようだ。

トランプ氏に急接近したマスク氏がさっそく暗躍?

出典:Dunk / flickr (CC BY-SA 2.0 DEED)

テスラCEOのイーロン・マスク氏は、もともと民主党を支持していたが、富裕層への増税などに嫌気が指したのか、2022年に共和党支持を表明した。今回の選挙戦でも多額の資金を投じてトランプ氏を支援し、同氏に急速に接近した。

選挙後、大統領への返り咲きが決まったトランプ氏は、新設する政府効率化省のトップにマスク氏を据える構想を発表するなど、マスク氏を重用する姿勢を鮮明にしている。

さらには、今回の件とは別の自動運転に関する規制緩和策も報じられている。これまで自動運転車に対する規制は各州が独自に定めていたが、連邦政府としてガイドラインなどを策定し、統一されたルールで運用できるようにする内容だ。

この施策が実現すれば、これまで各州個別に対応していた公道走行申請・認可などの負担が軽減されることになり、広域展開を目指す開発事業者にとっては大きなプラスとなる。

テスラが目指すFSD(Full Self-Driving)による自家用車の自動運転化も大きな恩恵を受けることは間違いない。テスラは基本的に走行可能エリアなどのODD(運行設計領域)を設定しない自動運転レベル5を目指しているため、州をまたぐ自律走行も必然になる。そのためには、すべての州から認可を受けなければならないからだ。

【参考】トランプ次期政権の動向については「トランプ氏、自動運転車の「規制緩和」示唆 テスラに恩返しか」も参照。

テスラに有益な自動運転施策が続く?

そして今回の事故報告義務化の撤廃案だ。事故報告が著しく多いテスラはある意味NHTSAに睨まれていると言っても良い。2024年10月には、FSD作動中に起こった4件の事故をもとにNHTSAが調査を開始している。

いずれもFSD -Beta または FSD -Supervised作動中のテスラ車が、道路の見通しの悪いエリアに進入した後に衝突事故を起こしたもので、歩行者と衝突する死亡事故も発生していた。

そこでNHTSAは、太陽のまぶしさや霧、空気中の粉塵などにより道路の視認性が低下している環境下にFSDが対応できるのかどうかや、FSD関連の他の事故、FSDのアップデートのタイミングや目的、追加された機能、安全性評価などについて、予備調査を開始した。

こうした調査の結果、テスラにどのような措置命令や指導が入るのかはわからないが、テスラにとっては大きな負担やプレッシャーがのしかかる。

もちろん、報告義務が撤廃されても通常の事故報告の情報などをもとにこうした措置が行われるものと思われるが、事故が発生するたびに詳細な事故状況を把握し、そのすべてを報告するのは大きな負担なのだろう。

その意味で、新政権による報告義務の撤廃なテスラの業務において大きなプラスになることは間違いない。

連邦政府による自動運転ガイドラインの策定、そして事故報告の撤廃と、早々に自動運転関連の施策を発表する次期政権。そして、その双方が明らかにテスラが恩恵を受ける内容となれば、「トランプ氏がマスク氏に忖度した」「マスク氏の要望を受けトランプ氏が早々に動いた」と言われても仕方がないだろう。

なお、これらの施策にマスク氏が関与したという報告は今のところない。

【参考】NHTSAによるFSD調査については「テスラの自動運転機能、「危険判定」なら株価が再暴落か 米で調査開始」も参照。

過去にも事故報告に反対する動きがあった?

このNHTSAの事故報告義務に反対する動きは以前からあったようだ。自動運転車に関する米ロビー団体「Self-Driving Coalition for Safer Streets」(2022年にAutonomous Vehicle Industry Association /AVIAに改称)の顧問弁護士が、膨大な報告書の作成を強いられることで負担が増し、イノベーションの妨げになる点を指摘している。

ただし、「我らとNHTSAは同じ目標を共有しており、明確な国家報告基準は自動運転車に対する一般の理解を深める重要な手段となり得る。しかし、安全に運転するために人間の介入を必要としない自動運転車と、注意深いドライバーを必要とするテスラのような運転支援技術とは区別が必要」とも述べている。

事故情報を共有すること自体には賛成だが、それにより過度に事務負担が増すことを懸念するとともに、レベル2のADASと自動運転を明確に区別する必要性を訴えているようだ。

【参考】報告義務に対する反発については「自動運転車の全事故報告ルール、企業側「イノベーションの妨げ」と反発」も参照。

■NHTSAのクラッシュデータの概要

レベル3以上とレベル2をそれぞれ集計

NHTSAの事故報告は、レベル3以上の自動運転においては、一般命令で指定された団体は、衝突の 30 秒以内に 自動運転システムが使用されており、衝突によって物的損害または負傷が発生した場合にその事故を報告しなければならない。

レベル2においては、一般命令で指定された事業体は、衝突の 30 秒以内の任意の時点でレベル 2システム が使用されており、衝突に歩行者などの交通弱者が関与しているか、死亡事故、車両の牽引、エアバッグの展開、事故当時者のいずれかが病院に搬送された場合に事故報告しなければならない。

一つの事故で複数報告されるケースもある。一つの事故において、複数の当事者からレポートされることもあるため、報告数と事故の総数は必ずしも一致するわけではない。

レベル2事故報告はテスラがぶっちぎり

レベル2の事故は、2021年(7~12月)226件、2022年543件、2023年550件、2024年(~11月)659件の計1,978件報告されている。

2024年10月15日までの集計分において、メーカー別ではテスラ1,676件、ホンダ112件、スバル41件、GM32件、フォード25件、トヨタ24件、BMW16件――の順に多い。

テスラがぶっちぎりで多いことがわかる。レベル2搭載車両の市販状況を考慮しても明らかに多過ぎるのだ。憶測だが、テスラのレベル2は走行エリアを限定していないことが要因となっている可能性が考えられる。

他社の多くは自動車専用道路(高速道路)限定でレベル2の作動を可能にしているが、テスラのレベル2は一般市街地でも作動できる。このため、複雑な道路環境下における事故が多く発生し、事故件数が著しく伸びている可能性が高い。

また、ごく一部と思いたいが、レベル2を自動運転と勘違いして緩慢な運転を行うドライバーの割合が、テスラは他社に比べ多い可能性もある。普段から自動運転化を過剰気味にピーアールしているため、システムの性能を誤認しているドライバーの割合が多い可能性があるのだ。

ただ、レベル2はあくまで運転支援システムであり、事故の責任は原則ドライバーにある。ドライバーは常時周囲の状況を監視し、事故を未然に防ぐ義務を負っているのだ。本質的に、レベル2システムの性能がどうであれ事故の原因はドライバーにあるはずだ。

非常に性能の高いレベル2であっても、事故回避を保証するものではない。その意味では、レベル2システムに対する過度の調査はナンセンスでもある。

運転を支援するレベル2として、どこまでの性能が求められるのか。そのラインを明確にすべきなのかもしれない。

【参考】自動運転レベル2については「自動運転レベル2の要件や定義、機能を解説」も参照。

レベル3以上はWaymoが圧倒的

出典:Waymoプレスリリース

レベル3以上の自動運転による事故は、2021年(7~12月)71件、2022年165件、2023年291件、2024年(~11月)398件の計925件報告されている。

内訳は、Waymo561件、Cruise153件、GM147件、Transdev126件、Zoox65件、May Mobility22件、Argo AI20件、フォードとPACCARが各17件、Aurora Innovation5件――といった状況だ。

稼働台数がダントツで多いWaymoがやはり頭一つ以上抜けている。CruiseとGMは報告が重複している可能性がありそうだ。

CruiseやArgo AIは開発競争から脱落したが、代わってZooxやMay Mobilityが勢力を拡大していくものと思われる。

トップをひた走るWaymoは、アリゾナ州フェニックスを皮切りに、カリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルスとサービス提供エリアを拡大している。この拡大とともに事故件数も増加しているが、フリートの増加や複雑な環境下の走行エリア拡大を踏まえれば、走行距離当たりの事故は特に増加していないものと思われる。

2025年にテキサス州オースティンとジョージア州アトランタ、2026年にフロリダ州マイアミに拡大する計画も発表している。単純な事故報告件数は、レベル2におけるテスラのようにWaymoがぶっちぎりとなる可能性が考えられる。

その意味では、今回の事故報告撤廃案はWaymoにとっても歓迎と言えるかもしれない。

【参考】Waymoの取り組みについては「Google、自動運転タクシーを「洪水多発のマイアミ」でも展開へ」も参照。

■【まとめ】公平かつ透明な施策の実行を

NHTSAによる事故報告の義務化は、改善の余地はあるかもしれないがさすがに撤廃は……といった印象だ。公正なクラッシュデータが非公開となれば、都合の良い解釈で自社自動運転システムの安全性をうたう開発事業者が必ず出てくる。

現時点ではあくまで案のため最終的にどのような結果を迎えるかはわからないが、自動運転開発をリードする先進国として、公平かつ透明な施策の実行を願いたいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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