自動運転タクシー、日本で「iPhoneのように」一気に普及か ”流されやすい国民性”が後押し

ブーム形成なら社会実装で米中を猛追?



米国・中国で社会実装が進む自動運転タクシー。やっと実用化に向けた計画が持ち上がったばかりの日本との差は開く一方だ。


技術や資金面の問題もあるが、社会受容性・機運がなかなか高まらないことも要因の一つに挙げられる。仮に数十台規模で公道実証に乗り出せば、邪魔者扱いする声が高まる懸念がある。こうした声がひとたび支配的になれば、盛り返すのは非常に難しくなる。

しかし、日本人の資質と言うべきか、一度受け入れて普及し始めると、一方方向に一気に加速することがある。日本人は「流されやすい」国民性があるため、沸点を超えブーム化した時の爆発力はものすごいものがある。

変な言い方だが「自動運転のブーム化」が起きれば、先行する米中に日本が追いつく可能性が出てくる。ただし、日本の2024年現在の実証内容は米中の2016~2018年頃の取り組みに相当し、6年ほど差が開いている状況と言え、全く楽観視できない状況であることは確かだ。

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■米国の自動運転タクシー事情

米国はWaymoの独壇場に

米国では、自動運転タクシーのパイオニアとして知られるWaymoが2018年末に商用サービス「Waymo One」をアリゾナ州フェニックスで開始した。当初はセーフティドライバー付きだったが徐々に精度を高め、無人サービスを実現している。


Waymoは現在、フェニックスのほかカリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルスでもサービス展開しており、2025年初頭をめどにテキサス州オースティンとジョージア州アトランタにも拡大する計画だ。運行は週あたり10万回を超えたという。

ライバル筆頭のGM系Cruiseは事故の影響で無人商用サービスを停止中だが、フェニックスとテキサス州ヒューストン、ダラスでセーフティドライバー付きの実証などを再開している。

このほか、アマゾン傘下のZooxや韓国ヒョンデ系のMotionalなども自動運転タクシーの実用化を目指している。中国系のWeRideやPony.aiにも動きが出てくるかもしれない。近々では、EV大手テスラが自動運転タクシーのモデルを発表し、新たな道を切り拓こうとしている。

現状はWaymoの独壇場で、頭二つ三つ飛び抜けた状況がしばらく続きそうだ。ライバル勢がどのようにWaymoを追いかけていくのか、各社の取り組みと戦略に注目したい。


「Waymoに乗ってみた」動画も増加

サービスの拡大とともに、最近は「Waymoに乗ってみた」系の動画も多くアップされるようになった。こうした動画では、良いところ・悪いところ含めリアルユーザーの感想とともに生の技術に触れることができる。

その中から、Waymoの進化がうかがえる一本を紹介する。テスラの大ファンという「僕テス BOKUTES」チャンネルの「【無人】アメリカの完全自動運転タクシーが未来すぎた」という動画だ。動画は、Waymoに配車リクエストを送るところから始まる。

行き先と乗車したい場所を指定してリクエストを出すと、現在地から少しだけ離れた場所にピックアップポイントが示された。Waymoもピンポイントでどこでも停まることができるわけではなく、停車場所を若干選ぶようだ。

なお、配車依頼時に識別用イニシャルを打ち込んでおくと、車両のルーフ上にあるLED板にそれが表示されるという。自分が呼んだ車両かどうかを識別するためのアイデアだ。

動画の3分台には、Waymo車の前方を対向車が左折(日本の場合右折に相当)するシーンがあり、Waymo車はほんの少しだけ速度を落とした。4分あたりには、前走車が交差点で左折待ちを行っているが、直進したいWaymo車は無理に車線変更せずその後ろで待機する状況が収められている。

投稿者は「Waymo車は安心感を優先し、激しい挙動をしないよう設計されている」と分析し、「加減速の感じがマジで人。ロボットが運転しているとは思えない」と評価している。

また、「自動運転の良いところは、どの車に乗ってもクオリティが同じで安全で穏やかな運転をしてくれるところ。タクシーだと人によって荒い運転をする人もいるし、気を遣うこともある」という。こうした点も自動運転タクシーのメリットだ。

7分あたりには、Waymo車が信号のない交差点を左折する様子が収められている。対向車が途切れるタイミングを見計らって左折することになるが、対向側の最後のクルマが横を通過するかしないかといったタイミングでWaymo車はゆっくりと動き始め、スムーズに左折した。まるで人間のドライバーのようだ。

日本の自動運転システムでは、完全に対向車が通り過ぎてから周囲の安全を確認し、一呼吸置いてから左折(右折)し始めるイメージが強い。Waymoはこうした域をすでに脱し、より人間らしい運転レベルに近づいていることがよくわかる。

■中国の自動運転タクシー事情

中国では各社が火花、IPOきっかけに競争激化も

中国では、Baidu(百度)を筆頭にWeRideやPony.ai、AutoX、Didi Chuxing(滴滴出行)といった新興勢が主要各都市で火花を散らしている。EVメーカーXpengも自動運転タクシーへの参入を表明し、広州市から公道走行ライセンスを取得している。
先頭を走るBaiduは北京や深セン、武漢、重慶など5都市で無人運行を実現しており、セーフティドライバー付きを含めると10数都市でサービス展開しているという。WeRideは広州、Pony.aiは広州と北京、AutoXは北京、上海、深セン、広州など、各社とも都市単位でサービス提供エリアの拡大を図っている。

WeRideは海外展開にも積極的で、2024年10月、米ナスダック市場への上場を果たした。Pony.aiも近く上場する見込みで、開発競争はさらに加速していく可能性が高そうだ。

中国の自動運転動画は報道主体

情報統制されているかプラットフォームの問題かは不明だが、米国と違い中国の自動運転タクシーに乗ってみた系の一般利用者の投稿はYouTube上ではほぼ見当たらない。代わりに、報道各社の乗ってみた系動画が次々とアップされている状況だ。

2023年7月にアップされた「TBS NEWS DIG Powered by JNN」の動画では、記者がPony.aiの自動運転タクシーを体験する様子が収められている。

後部座席のモニターにはLiDARが認識した周囲の状況が映し出されており、右側を走行する自転車や交差点を小走りする歩行者などもしっかりと認識している様子が見て取れる。記者は「安全運転を心がけているドライバーのクルマに乗っているような印象」と感想を語っている。

特筆すべきは、道路インフラだ。いずれの動画を見ても整備が行き届いた道路を走行している印象が強い。
走行エリアによるものと思われ、繁華街などは雑然としているのかもしれないが、場所によっては自転車やバイク専用道路が仕切られているなど道路インフラがしっかりと整備されているのだ。

自動運転サービスを意識して──というわけではないだろうが、こうしたインフラ面のスマート化も推進しているものと思われる。インフラ協調型の自動運転技術確立に向けた動きも出ており、インフラ面含めた技術の進化はまだまだ続きそうだ。

■日本の自動運転タクシーの動向

各社がロードマップを発表、やっとスタート地点に

日本では、ホンダ日産、ティアフォーに動きが出始めている。ホンダは提携関係にあるGM・Cruise勢と協力し、2026年初頭に東京都内で自動運転タクシーサービスを開始する予定だ。

当初計画では、3社が共同開発した自動運転専用モビリティ「クルーズ・オリジン」を導入し、東京都内のお台場エリアでサービスを開始する。その後、中央区や港区、千代田区へと順次拡大を図っていく。500台規模のフリートを構築していくという。

日産は、ドライバーレス自動運転モビリティサービスを2027年度をめどに地方を含む3~4市町村においてサービス提供開始を目指す構えだ。厳密には自動運転タクシーではなくオンデマンドシャトルサービス型式となりそうだが、ODD(運行設計領域)内に乗降スポットを複数設置し、各スポット間を移動できるサービスになりそうだ。

ティアフォーは東京都内お台場の複数拠点間でサービス実証を行い、2024年11月から交通事業者と共同で事業化を目指す方針を発表している。段階的に区画や拠点数を拡張し、2025年に都内3カ所、2027年には都内全域を網羅し、既存の交通事業と共存可能な自動運転タクシー事業を推進する方針だ。

【参考】自動運転タクシーの動向については「自動運転タクシーとは?アメリカ・日本・中国の開発状況は?(2024年最新版)」も参照。

自動運転タクシーとは?アメリカ・日本・中国の開発状況は?(2024年最新版)

現在の日本は米中の2016~2018年頃のフェーズ?遅れは6年以上か

国内でもやっと計画が具体化してきたが、本格的な実証はこれからだ。おそらくだが、各社とも予定するODD内における有人走行を重ねている段階と思われる。

自動運転タクシー実用化に向けては、まず自動運転システムそのものを一定水準まで鍛え上げる必要がある。ODD内においてほぼ手動介入することがなくなれば、運転席無人の実証に移行する。あるいはセーフティドライバー同乗のままサービス実証に着手し、知見を積み重ねていく。

その後、手動介入をはじめ特段のトラブルが発生しないことを確認できれば、晴れて無人商用サービスを開始する――といった流れだ。サービス開始後も、改良・改善を常に重ねていかなければならない。

Waymoや百度などはこのサービス開始後の段階に到達している。新規エリアでは再び有人走行から開始するが、自動運転システムの精度そのものが向上していれば、サービスに至るまでのフェーズは短期間で済む。

日本の場合、最初の一歩となる有人実証が恐らく長期間に及ぶ。海外勢で言えば2016~2018年頃のフェーズに相当する。そう考えると、米中と日本の差は本当に大きいものと感じる。約6年以上の遅れと言えるからだ。

逆転の一手はブーム化?

では、日本はもう米中に追い付くことはできないのか?──と言えばそんなことはない。経験値では明らかに劣るものの、技術的にはそこまでの差はないはずだ。

現状、日本ではまだ自動運転の社会受容性は大きく高まっていない。交通安全が絶対的な存在であり、ちょっとした事故も許されないような風潮が感じられる。その一方、慎重に走行し過ぎると邪魔者扱いされることもある。

日本人は流されやすく、SNSのごく少数の意見に思考停止した個人が積み重なり、是非を問うこともなくその声を大きくしていくことがままある。得体のしれない炎上で受容性を下げないためには、開発サイドとしては万全を期さなければならない。

しかし、この流されやすい資質を逆手にとることができれば、状況が一変するかもしれない。流れを変える一手は、ドライバー不足対策や安全性云々ではない。単純に「自動運転面白い」――といった感じの、ブームのような風潮だ。余計な思考を伴わない無邪気な感想に世論がついていくことはままあることだ。

たまごっちブーム然り、右に倣えでiPhoneが普及したのも然り。絶対的な肯定材料がなくとも、一度波が起きると多くの人がベクトルを揃えるのだ。

根拠がなくとも自動運転に好意的な風潮が生まれれば、公道実証も勢いに乗る。サービス開始後も、「乗ってみた」系が何らかの理由でバズれば得意技「右に倣え」が発動し、皆が乗りたがるのだ。こうした流れができれば一気にフリートが拡大し、先行する米中を猛追することができるのではないだろうか。

■【まとめ】まずは自動運転のブーム化を

米中の自動運転タクシーは商用化レベルに達しているとは言え、まだまだ課題は多く残されている。自動運転技術そのものはもちろん、乗降ポイントなどインフラ面の整備も今後重要性を増していく可能性が高い。

こうした細やかな課題を一つひとつピックアップするのも日本の得意技だ。米中勢が見落としている観点を浮き彫りにし、質の向上を図っていくことができるはずだ。

まずは「自動運転のブーム化」だ。政治的なにおいは厳禁で、正論ではない何らかの観点があってこそ大衆的ブームとなる。……この何らかの火付けが当面の課題だろうか。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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