
中国発のロボタクシーが、日本を含む左側通行国への進出に本格的に動き出した。米自動車技術会SAEが定める自動運転レベル4クラスの無人走行を手掛ける中国の自動運転開発企業WeRide(ウィーライド)と、Geely系の新エネルギー商用車大手Geely Farizon(ジーリー・ファリズン)、香港の交通事業者Kwoon Chung(クーンチョン)の3社が、右ハンドル専用の自動運転ロボタクシーを共同開発すると発表した。
2026年6月22日、香港で開かれた自動車・サプライチェーンの国際見本市で3社が戦略的協力協定を締結した。既存の量産ロボタクシーGXRを土台に、右側に運転席を置く仕様の車両をゼロから開発する。まず香港で世界初の商用サービスを始め、その後シンガポール・英国・日本・オーストラリアといった左側通行国への展開を視野に入れる。
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■右ハンドル自動運転車の開発、狙いは日本市場?
中国勢が右ハンドルの自動運転車開発に踏み出した。その視野には、左側通行の日本市場も入っている。WeRide、Geely Farizon、Kwoon Chungの3社は2026年6月22日、香港で開催された国際自動車・サプライチェーン見本市の場で戦略的協力協定を結び、右ハンドル市場に専用設計したロボタクシーを共同開発すると明らかにした。
車両は、両社がすでに量産しているロボタクシーGXRをベースにする。ただし左ハンドル車の単なる改造ではなく、車両レイアウトから自動運転ソフト、運転者と車両のやり取りを担うHMI(ヒューマンマシンインターフェース)まで、右側通行ならぬ左側通行=右ハンドルの交通ルールに合わせてゼロから設計し直すという。市場にまだ右ハンドル専用のロボタクシーが存在しないなか、量産を前提にした専用設計は業界初となる。
そして展開候補として名前が挙がったのが、シンガポール・英国・日本・オーストラリアだ。いずれも車両が道路の左側を走る右ハンドルの国である。日本はこの4つの候補市場の1つに位置づけられた。単独の本命として名指しされたわけではないが、左側通行という条件を満たす日本が、中国勢の次の展開先候補にはっきりと入った意味は大きい。日本の自動運転タクシー市場にとって、海外勢の参入が一段と現実味を帯びてきたと言える。
右ハンドル専用車の登場は、日本参入の技術的ハードルを下げる一手だ。ただし日本は4つの候補の1つにすぎず、本命と断じるのは早い。制度と世論の土台づくりが今後の焦点になるだろう。
【参考】関連記事としては「自動運転、トヨタが中国企業で「巨額利益」 5年前に投資」も参照。
■3社が組むワケ 自動運転・車両・運行の役割分担
今回の座組の特徴は、開発・製造・運行という3つの機能をそれぞれの専門企業で固めた点にある。自動運転の頭脳を担うのがWeRide、車両づくりを担うのがGeely Farizon、そして実際のサービス運行を担うのがKwoon Chungだ。
WeRideは自動運転技術の開発を主導する。Geely Farizonは中国を代表する新エネルギー商用車ブランドとして、量産車両の設計と製造を受け持つ。香港で公共交通を長年手掛けてきたKwoon Chungは、実際の街なかでの運行ノウハウを提供する。技術・製造・運行の強みを一気通貫でそろえた点が、単なる技術提携との違いである。
自動運転車は、優れたソフトウェアだけでは商用サービスにならない。安定して量産できる車両と、乗客を運ぶ現場の運行体制がそろって初めて成り立つ。3社連合は、その3要素を一つの枠組みに収めた形だと言える。
■香港が世界初 商用右ハンドルロボタクシーの実装拠点
最初の実装地に選ばれたのは香港だ。3社は香港を、世界で初めて商用の右ハンドルロボタクシーサービスを展開する場に位置づけている。密度の高い道路網、複雑な都市交通、発達した公共交通を併せ持つ香港は、右ハンドル環境として世界でも代表的な実証の舞台になるという。国際的な交通環境と整った規制の枠組みも、選定の後押しになった。
香港ではすでに布石が打たれている。Kwoon Chungの子会社であるKwoon Chung Smart Mobility(クーンチョン・スマートモビリティ)は、左ハンドル版のロボタクシーGXRを香港に導入済みで、パイロット段階の自動運転免許も取得している。市内の公道ではすでに走行試験が進む。この土台の上に、3社は右ハンドル向けの製品開発と公道検証、運行トライアルを重ねていく。
香港で確立した運行モデルを、そのまま他の右ハンドル市場へ横展開する。それが3社の描く筋書きだ。都市ごとに一から作り直すのではなく、拡張・複製が利く型を先に作る発想である。
【参考】関連記事としては「トヨタ出資のロボタクシー「May Mobility」 中国で10万台規模で展開へ」も参照。
■北京・広州での無人運行がすでに成功
右ハンドル版の開発は、思いつきの新規事業ではない。WeRideとGeely Farizonがこれまで積み上げてきた実績の延長線上にある。両社は2024年10月、Geely FarizonのSVプラットフォームを土台にした量産ロボタクシーGXRを共同で投入した。
このGXRは、投入から4カ月以内に北京で完全無人の商用運行を実現し、2025年8月には広州へと運行地域を広げた。2026年3月には、両社が量産GXRの改良版を投入する追加合意にも至っている。今回の右ハンドル版は、この左ハンドルでの実績を右側運転席仕様へ広げる取り組みと位置づけられる。
WeRideの世界展開も加速している。同社の自動運転車はこれまでに40都市超で走行し、ロボタクシーGXRは広州・北京・アブダビ・ドバイの4都市で完全無人の商用運行を達成した。自動運転の許可を得ている市場は、中国・UAE・シンガポール・フランス・スイス・サウジアラビア・ベルギー・米国の8つにのぼる。もっとも、この8市場に日本は含まれていない。日本での展開はこれからという段階にある。会社側は車両を2026年末までに2,600台へ、2030年までに数万台規模へと広げる計画を掲げており、右ハンドル戦略はその世界展開を押し上げる一手となる。
【参考】関連記事としては「中国、自動運転車の事故「全額メーカー負担」も参照。
■中国の右ハンドル自動運転車が日本に来る日も近い
右ハンドル専用の自動運転車という一手は、日本にとって他人事ではない。左側通行という条件を満たす日本は、中国勢がゼロから設計するロボタクシーの、明確な展開候補の1つに数えられた。車両が日本の交通環境に最初から合わせて作られるようになれば、海外勢が日本で走らせる際の技術的なハードルは着実に下がっていく。
もっとも、日本はあくまで4つの候補市場の1つであり、いま最優先の本命だと断じる材料はない。WeRideが許可を得ている8市場にも日本は入っておらず、制度面の整備や公道での実証はこれからだ。日本の自動運転タクシー市場・ロボタクシー市場が海外勢に開かれるかどうかは、車両技術だけでなく、規制と社会的な受け入れの土台がどう整うかにかかっている。
それでも、右ハンドルという壁を正面から崩しにきた今回の動きは、日本のロボタクシー市場に一つの問いを突きつけた。海外勢がいつでも入ってこられる備えができたとき、国内勢はどう応えるのか。右ハンドル自動運転車の開発は、その問いを前倒しで日本に投げかけたと言える。













