中国、自動運転車の事故「全額メーカー負担」

EVメーカーのBYDが発表



EVメーカーの中国BYDが、都市部NOA機能に対する補償制度の導入を発表した。レベル2+、またはレベル2++に相当するADASを正しく利用している際に発生した事故に対し、BYDが経済的損失を補償する内容だ。


自社ADASへのこうした補償は世界初だ。自動運転技術への自信と責任を明確に示す好例として、自動運転の責任論に一石を投じることになるかもしれない。BYDの取り組みについて解説していく。

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■BYDの取り組みの概要

「天神之眼 5.0」正規利用時の事故を補償

出典:BYDプレスリリース

BYDは2026年5月、インテリジェンス戦略発表会でADAS向け補償制度の導入や新たな車載AIチップの開発などについて発表した。

中国市場において、最新ADAS「天神之眼 5.0」を搭載しているクルマ、または同システムへアップグレードした車が対象で、ユーザーが法令およびシステム利用条件を遵守したうえで、都市部NOA機能を利用している際に事故が発生し、ユーザー側に法的責任が認められた場合はBYDが発生した経済的損失を補償する。

事故発生時、ユーザーは自身が契約する保険会社ではなくBYDのアフターサービスに連絡する。保険会社の代わりにBYDが対応・事故処理を行うため、保険等級に影響せず、保険料が引き上げられることなく済ませることができる。


BYDは、2025年にレベル4相当のスマート駐車システムを導入した際にも、同システムを利用して発生した損失・損傷に対し補償することを約束するとしていた。これと同様の補償サービスを都市部NOAにも拡大する――ということだ。

どのようなケースが該当するか?

BYDの最新の都市部NOA(ナビゲート・オン・オートパイロット)は、テスラのFSDのようにドアtoドアの行程においてレベル2走行を可能にしている。上位モデルは高速道路、都市部でレベル2++に相当するハンズオフ運転を可能にすると言われている。

あくまでADAS=運転支援システムのため、走行・運転に対する全責任は原則ドライバーが負うことになり、自動運転に満たない技術水準のため、検知ミスや誤判断をいつ起こすかわからない。

しかし、ハンズオフが可能な水準は従来のADASと比較すると格段に優秀なため、ドライバーとしては過信しがちで、常時監視義務など正しい使用方法を守らず事故に至るケースが米国や中国で続発している。こうしたケースは補償から外れる。


一方、正しい使用方法を遵守しているのであれば、万が一システムが誤検知や誤判断を行っても、本来的にドライバー自身が事故を未然に防ぐよう制御するため、かんたんには事故は起こらないはずだ。

つまり、補償対象となる事故は、明らかにシステムがミスを犯したケースや、ドライバーの手動介入が間に合わないような急制御による事故、もらい事故の類ということになる。

例えば、道路上に障害物がないのにもかかわらず、何かを検知したシステムが急ブレーキをかけた結果後続車両に追突されたケースや、同様に理由不明な状況でハンドルを急旋回して側壁に衝突したなどのケースが該当する。

死角から急に飛び出してきた野生動物との衝突なども対象となるのかもしれない。正しく認知していても、物理的に制御が間に合わないケースだ。

停車中に一方的に追突された場合など、過失ゼロの事故は除かれるものと思われるが、優先道路を走行中、信号のない交差点で脇道から一時停止無視した車が突っ込んできた場合など、不条理に過失1~2を求められた場合なども補償対象となるのだろうか。

レベル4以降にも波及する?

どこまで補償対象となるのか詳細が気になるところだ。中国と日本では過失の考え方が異なる面もあると思われるが、上記を開発者である自動車メーカーが補償するのであれば、これは相当な覚悟と自信がなければできないもので、レベル4以降の自動運転に通じる考え方と言える。

レベル4の場合、自車の過失が高い事故は原則起こさない性能が求められることになる。過失1程度の実質もらい事故も、極力回避しなければならないが、すべてを完全に回避するのは至難の業だ。

現在の保険設計上、過失1程度の事故に対応するには、信号のない交差点や駐車場出口などを通過する際、常に徐行対応しなければならない。徐行して相手が一時停止したことを確認してから交差点に進入しても、その後相手が改めて突っ込んできたら過失1となることが多い。理不尽だが、これが道路交通の現実だ。

つまり、レベル4でも事故を100%回避するのは至難の業であり、事故は必ず発生すると言える。その際、自身の過失分を誰が負うのか――が争点となっている。

ソフトウェアの不具合などに起因する場合は、開発者が責任を負うのが筋だ。また、車両の日常的なメンテナンス面で不備が認められた場合は、運行管理者が責任を負うのが筋と思われる。自身の過失が明確であるためだ。

では、前述した過失1のケースはどうだろうか。自動運転システムに不具合はなく、熟練ドライバー並みの性能を発揮しても、こうした事故を100%回避することは困難なはずだ。事実上、システム開発事業者に過失はなく、運行管理者にも過失はない。

こうした際に、システム開発事業者が率先して責任を負ってくれるのであれば、運行管理者ら関係者は非常に心強いのではないだろうか。万が一の際に責任を負うことがなく、自動運転システムに対する開発者の自信と責任を感じられるためだ。

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自動運転分野における信頼性向上に寄与?

こうした自動運転に関する責任を、ADASであるレベル2++で導入する意義は大きい。自動運転サービスにおける運行管理者ではなく、自家用車ユーザーに広く訴求することで、自動運転分野における知名度と信頼性を一気に高めることができる。

自社のシステムの完成度が低ければ、とてつもないコストとなって返ってくるかもしれず、やっぱり中止する――と方針を曲げればブランドは地に落ちる。BYDのこのサービスは、相当な覚悟のもと提供されることになりそうだ。

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■【まとめ】各社の動きや責任論の議論の行方に注目

BYDのこうした戦略に対し、テスラやXpengといったライバル勢がどのように動き出すかにも注目が集まるところだ。指をくわえて静観するわけにもいかず、追随することになるのか。

この流れは、レベル4サービスにも及ぶ可能性がある。自社システムへの自信と責任を示す形で、こうした動きが拡大していくのか。あるいは、提携する保険事業者が新たな一手を生み出すのか。ただし、自動車メーカーとして車両も製造しているBYDに対し、Waymoら先行勢は自動運転システムのみを開発しているため、勝手が異なる。

いずれにしろ、BYDの取り組みが自動運転の責任論に一石を投じる格好となった。BYDの取り組みに対し、各社がどのように動くか。そして、責任に関する議論がどのように展開されていくのか、要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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