韓国のロボタクシー市場が、静かに、しかし激しい競争局面に入った。米Google系の自動運転開発企業Waymo(ウェイモ)やライドシェア大手Uber(ウーバー)といった外資に主導権を委ねる日本とは対照的に、韓国では大手IT企業のKakao Mobility(カカオモビリティ)、国産メーカーの現代自動車、複数のスタートアップが三つ巴の競争を繰り広げている。
象徴的なのが深夜のソウルだ。夜11時、江南エリアの路上に安全監視員を乗せたKia(起亜)のEV6が現れ、誰もハンドルを握らないまま街を走る。利用者は通常のタクシーアプリで車を呼び、料金もほぼ通常のタクシー並み。車体には「Seoul Autonomous Vehicle」と記されている。高齢化と深夜の供給不足という、日本とそっくりの課題を抱える韓国が、国産主導という異なる解を選んだ事実が浮かび上がる。
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■ソウルで「静かに」始まった自動運転、日本を追い抜くのか
韓国の自動運転が、派手な実証イベントとしてではなく、日常の風景として始まっている。深夜11時、ソウル江南のメボン駅付近に一台のKia EV6が滑り込んでくる。運転席には安全監視員が座るが、ハンドルに手は添えているだけ。車は世界有数の過密な街路網を、自らの判断でさばいていく。
利用者から見れば、体験は驚くほど普通だ。いつも使うタクシーアプリで配車し、料金もほぼ通常のタクシー並み。違うのは、運転を機械がこなしているという一点だけである。ソウル市内では現在、27台の自動運転車が6つのゾーンで運行し、累計の乗客は10万人を超えた。自動運転は、もはや未来の話ではなく、市民の足になりつつある。
この「静かさ」こそが韓国の現在を表している。日本がWaymoやUberといった外資の参入を待つ構造にあるのに対し、韓国では同じ高齢化・運転手不足という土台の上で、すでに自国の車が街を走っている。日本を追い抜くのか。その問いの答えは、この淡々とした日常の積み重ねの中にある。
韓国の自動運転は派手な発表ではなく日常運行で前進している。日本と同じ課題を抱えながら国産勢が街を走らせる事実は重い。実装の速さがそのまま競争力になる局面に入ったと言える。
【参考】関連記事としては「自動運転タクシー、韓国ヒョンデも「米国でUberで配車」 Googleに続き」も参照。
■Kakao・現代・スタートアップ、三つ巴の競争構図
韓国の自動運転タクシー市場が面白いのは、戦う三者がまったく異なる世界から来ている点にある。それぞれが固有の武器を持ち、固有の弱点を抱える。
一つ目は大手IT企業のKakao Mobilityだ。配車アプリのKakao Tは国内のほぼ全てのスマートフォンに入っており、人々がタクシーを呼ぶ際の事実上の標準になっている。配車を握る者が顧客と価格、 tender そしてデータを握る。これがKakaoの強みだ。
二つ目は国産メーカーの現代自動車グループ。車両を自ら作り、自動運転ハードを組み込み、走行データを市販車にも還元できる垂直統合が武器だ。社内のソフト部門が独自の自動運転技術を開発し、Waymoとの差を詰めることを最優先課題に掲げる。ただし最も攻めた無人運行の多くは米国で進んでおり、足元のソウルにはむしろ空白が生まれている。
三つ目が、最初に市場へ出たスタートアップ群だ。韓国初のロボタクシーを走らせたのはKakaoでも現代でもなく、2017年設立の自動運転企業SWMだった。機動力と実走行データという強みを持つ一方、資金力の薄さという共通の弱点を抱える。三者の競争は、この異なる強みのぶつかり合いとして展開している。
【参考】関連記事としては「日本の負け確定?韓国初の「自動運転夜間タクシー」登場」も参照。
■日本と同じ「高齢化・ドライバー不足」という背景
なぜ韓国はこれほど急ぐのか。答えは街そのものにある。タクシー業界の高齢化が進み、深夜の供給は慢性的に不足し、乗車拒否も市民の不満として残る。ソウル市は自動運転をガジェットではなく、これらの課題を解決する手段として位置づけてきた。市の交通当局が、自動運転車をバス運転手不足と同じ文脈で語るのはそのためだ。
この構図は日本とそっくりだ。日本ではタクシー運転手の約6割が60歳以上を占め、特に70代前半の層が厚い。担い手の高齢化と若年層の流入不足は、日韓が共有する課題と言える。韓国でも運輸従事者の高齢化と新規流入の減少が進み、地域によっては運転手不足からバスの減便や運休が起きている。
つまり日韓は、同じ人口構造の壁に同じタイミングでぶつかっている。違うのは、その壁への向き合い方だ。日本が外資のサービス参入に活路を見いだそうとする一方、韓国は自動運転を自国の産業政策として育てようとしている。背景の課題が同じだからこそ、解き方の違いが際立つ。
■外資依存の日本、国産主導の韓国という対照
日本の自動運転タクシー市場は、海外勢の存在感が大きい。WaymoやUber、配送特化のNuro(ニューロ)など、外資の技術とサービスに期待が集まる構図だ。これに対し韓国は、現代自動車という国産の完成車メーカーが市場を牽引する。同じ課題を抱えながら、産業としての担い手が大きく異なる。
国産主導を象徴するのが、現代自動車とNvidiaの提携深化だ。2026年1月、両社の協業拡大観測を受けて現代自動車の株価は一時約15%急騰し、過去最高値を付けた。AIと自動運転を軸に、国産メーカーが世界の最前線と組んで競争力を高めようとしている。車両からソフト、データまでを自国で囲い込む戦略だ。
ただし、国産主導が永遠の優位を約束するわけではない。Waymoはすでに韓国市場への参入を検討しており、国土交通部が立ち上げた協議体では規制改革が議論されている。Waymoは韓国の高精度地図へのアクセスも確保したとされる。規制が緩めば、国産勢が待ち望む環境は、同時に巨大外資を呼び込む扉にもなりうる。
【参考】関連記事としては「Waymoついにロンドンで自動運転テスト、日本は遅れ続けるのか」も参照。
■高齢化でも「勝てるワケ」、韓国が日本に示すもの
では、高齢化とドライバー不足という逆風の中で、韓国が「勝てるワケ」はどこにあるのか。一つは、官民が同じ方向を向いている点だ。韓国政府はソウルを「フィジカルAI」、すなわちAIを画面の中ではなく道路や建物、車両に組み込む実験都市と位置づける。オ・セフン市長は、ソウルを世界で3番目に運転者なしの自動運転レベル4タクシーを走らせる都市にすると表明した。
もう一つ重要なのが、現在地を正確に捉えることだ。今ソウル江南で走るサービスは、安全監視員が同乗する自動運転レベル3にあたる。これに対し、2026年10月にサンアム地区で予定されるのは、運転者のいない自動運転レベル4への飛躍だ。さらに韓国勢には「データの差」という弱点もある。世界の先行勢が膨大な走行距離を積む一方、韓国企業の蓄積はまだ追う立場にある。
それでも韓国は、製造の力と密な都市インフラ、そして粘り強い政策支援で技術差を詰めてきた実績を持つ。サンアムでの無人運行は、その手法が自動運転でも通用するかを占う最初の試金石になる。日本が学べるのは、外資任せにせず国産と官民の足並みで前に進む姿勢だろう。韓国が日本を追い抜くと断じるのはまだ早い。だが「同じ条件でここまで来た」という事実は、日本にとって決して小さくない問いを投げかけている。












