エヌビディア(NVIDIA)の自動運転戦略まとめ 半導体開発や提携の状況は?

プラットフォーマーとしての位置付け確立



出典:エヌビディア社プレスリリース

創業者のジェンスン・フアンCEOが率いる米半導体大手のエヌビディア(NVIDIA)。ゲームやパソコン向けのGPU製品で瞬く間に名を馳せたが、近年は自動運転分野における急伸が著しく、自動運転開発に欠かせない存在になったといっても過言ではないほどだ。

ディープラーニングを活用したAI(人工知能)開発にも力を入れており、プラットフォーマーとしての位置付けも確立されてきた。世界各国の自動車メーカーが続々と採用するエヌビディアの魅力はどういったものなのか。エヌビディアの製品や戦略をまとめてみた。


■エヌビディアの企業概要

グラフィックスチップの開発・製造会社として、1993年にジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)らが米カリフォルニア州で設立した。ゲームやパソコン向けにPCIカードやプロセッサの開発などを手掛け、1999年にはGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)を発明。PCゲーミング市場の成長の起爆剤となり、近代コンピューター グラフィックの定義を一新し、並列コンピューティングに革新をもたらした。

2000年には、グラフィックス技術のパイオニアとして知られる米3dfx Interactive社を買収したほか、米マイクロソフト社の家庭用ゲーム機Xboxにエヌビディアのプロセッサが採用され、大きな弾みとなった。なお、家庭用ゲーム機では、ソニーのPlayStation 3や任天堂のNintendo Switchの開発などにも携わっている。

2001年には総収益が10億ドル(当時のレートで約1200億円)を突破し、翌2002年にはプロセッサの出荷台数が1億台に達した。その後も、アップル社のMacBookや、日本や中国のスーパーコンピューターにエヌビディアのGPUが搭載されるなど多方面で重用され、2010年には独アウディ社がナビゲーションや娯楽用システム向けのGPUにエヌビディアを採用した。

2010年以降は自動運転向けの製品やAI(人工知能)の深層学習(ディープラーニング)に適した製品開発を加速しており、2015年には自動運転車実現の道を切り開く「NVIDIA DRIVE」やディープニューラルネットワークの学習を行うプロセッサ「NVIDIA Geforce GTX TITAN X」を発表している。


2018年会計年度においては、売上高は過去最高の97億1000万ドル(約1兆1000億円)で、前年と比べ41%増となっている。

■エヌビディアの自動運転戦略

自動運転の実現に向け重要となる「脳」の分野において、高速画像処理を可能とするGPUやAIチップ、AIプラットフォームなどを武器に、自動車メーカーらのADAS(先進運転支援システム)開発から完全自動運転開発までトータルでサポートする製品を展開している。

世界の自動車メーカーやティア1のサプライヤー、研究者ら370以上に製品を出荷しており、同社製品の圧倒的な性能は各分野から高く評価されている。エヌビディア製品を採用することが「自社のブランド化につながる」といった風潮さえ感じられるほどだ。

また、エヌビディアは多くの提携や協業を通じて他社とともに自動運転システムの開発を積極的に進めている。PR効果や将来的なビジネスへの進展、市場全体の底上げ効果などが見込まれるが、自社製品に絶対的な自信があるからこそ可能になる手法だ。


自動運転開発に向けたNVIDIA製品

エヌビディアの魅力はGPUだけではない。 AI・ディープラーニングの力を利用し、スマートで安全な自動運転車の導入に向け、データ収集、モデルのトレーニング、シミュレーションによるテストまでエンドツーエンドのソリューションを提供している。

「NVIDIA DRIVE」プラットフォームは、最大16個のカメラセンサーからのデータを同時に処理でき、AI自動運転車の開発に向けた信頼性の高いトレーニングライブラリ構築のために重要なデータを収集できる。「NVIDIA DGX」データセンターシステムは、安全なAI実装への最速手段を提供し、膨大な量のデータを使用して自動運転のためのディープラーニングモデルをシームレスにトレーニングできる。

「NVIDIA DRIVE Constellation」は、自動運転車のトレーニングと検証に不可欠なシミュレーションをハードウェアインザループテストで実現。また、「NVIDIA DRIVE AGX」の利用により、自動運転車はハイレベルな認識とパフォーマンスでデータ処理と意思決定を行い、よりスマートで安全な運転を行うことができるという。

アウディとのパートナーシップ

独Audi(アウディ)とは10年にわたる協業で革新的技術を生み出しており、世界初の自動運転レベル3を搭載した「Audi A8」にもエヌビディアのテクノロジーが詰め込まれている。

2017年には両社のパートナーシップを本格化させ、2020年の路上走行実現に向け最先端のAI搭載自動車の共同開発を進めることを発表した。自動運転車向けAIプラットフォーム「NVIDIA DRIVE PX」に焦点を合わせ、トレーニング済みのAIニューラルネットワークを利用して周辺環境を把握し、安全な進路を事前決定できるような開発を行っていくという。

ボルボとのパートナーシップ

スウェーデンのVolvo(ボルボ)は、本拠地ヨーテボリで実施している大規模実証試験「Drive Meプロジェクト」において「NVIDIA DRIVE」を利用しているほか、2018年10月には、新型車にエヌビディアの「DRIVE AGX Xavier」テクノロジーを実装し、高度なAI対応コア・コンピューターの開発を進めていくことで協力関係を強化すると発表している。

VWとのパートナーシップ

独フォルクス・ワーゲン(VW)とは、AIの開発強化に向け2017年に戦略的提携を結んでおり、「NVIDIA DRIVE IX」プラットフォームを利用し、AIとディープラーニングにより新世代の自動車開発を進めるビジョンを発表している。また、VWグループが自動運転におけるネットワーク・通信の標準化に向け2018年に立ち上げた業界団体「NAV Alliance(NAVアライアンス)」に、独自動車部品大手のボッシュやコンチネンタルなどとともに参加している。

ダイムラーとのパートナーシップ

メルセデス・ベンツを擁する独Daimler AG(ダイムラー)とは、2017年にAI・ディープラーニングを活用した自動運転開発に向け提携を交わしているほか、2018年にはダイムラーとボッシュが共同で進めている自動運転レベル4相当の完全自動運転車の開発において、エヌビディアのAIプラットフォーム「Drive Pegasus」を採用することが発表されている。

日本勢とのパートナーシップ

日本勢では、トヨタ自動車が市場導入予定の高度な自動運転システムに「NVIDIA DRIVE PX AI カーコンピューティングプラットフォーム」を搭載することが発表されており、車載センサーで生成される大量のデータを活用し、自動運転の幅広い状況への対処機能を強化することを目的に、両社のエンジニアリングチームが高度なソフトウェアの開発に着手している。

ティア1サプライヤーとのパートナーシップ

ティア1サプライヤーでは、独大手のボッシュと2017年に提携を結び、「Drive PX」をベースにディープラーニングを用いてソフトウェアとハードウェアを開発することが発表されている。また、2018年には独コンチネンタルと、「NVIDIA DRIVE プラットフォーム」上に構築されたAI自動運転システムを共同開発することを発表しており、自動運転レベル2の機能から、ステアリングホイールやペダルがない自動運転レベル5の完全自動運転機能に至るまで、AIコンピュータシステムの生産が可能になるという。

このほか、2017年に独ZFとセンサー開発などを手掛ける独HELLAと戦略的パートナーシップを締結しており、「NVIDIA DRIVE PX AI プラットフォーム」を使用して乗用車に対する最高のNCAP安全評価を獲得するとともに、商用車や建築車両・農業車両などのオフハイウェイ用途にも対応することを目指すこととしている。

この提携により、ZFとHELLAは自動運転機能に適した先進の画像処理テクノロジーと、レーダーやセンサーのテクノロジーを統合する最新の運転支援システムをはじめ、拡張性の高いシステムを実現するソフトウェアの開発が可能になる。

スタートアップなどとのパートナーシップ

スタートアップ関連では、自動運転シャトルバスを手掛ける仏NAVYAや自動運転EVタクシーの開発などを進める米Zoox、オブジェクト認識技術やHDマッピング開発などを手掛ける中国のMomenta、米カリフォルニア州と中国広東省に拠点を置く完全自動運転車の開発を進めるPony.ai、日本勢では 自動運転用オープンソースソフトウエアの開発を行うティアフォーなど、革新性や独創性を持った企業に投資や協業などを行っている。

研究機関などとのパートナーシップ

研究機関関連では、マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学など自動運転研究を行っている大学と共同研究などを行っており、日本では金沢大学と提携しているようだ。

センサー・マップ関連企業などとのパートナーシップ

センサー関連では米Velodyne Lidarをはじめ米オンセミコンダクター、米クアナジー、パイオニア、パナソニックなどと手を結んでいるほか、マップ関連では中国の百度(バイドゥ)やオランダのHERE、ゼンリンなどと提携している。

■エヌビディアの最近の自動運転関連ニュース
NVIDIA DRIVEプラットフォームはレベル5を実現

「NVIDIA DRIVEプラットフォームは自動運転レベル5を実現する」——。エヌビディアの日本法人で技術顧問を務める馬路徹氏は、2018年9月に東京で開催した「GTC Japan 2018」で力強く述べた。

自動運転車の開発プラットフォーム「NVIDIA DRIVE」は、いすゞ自動車が次世代型の自動運転トラックの開発に導入することを決めているほか、トヨタ自動車やSUBARUなどの採用も明らかになっている。

GTC Japan 2018ではこのほか、フアンCEOが基調講演で、初の自律動作マシンプロセッサ「XAVIER」について言及し、「XAVIERは自律AIシステム用に設計された初めてのチップで、わずか30Wで毎秒100兆回以上のオペレーションを行う」と説明した。

オムロン、パイオニアが自社LiDARをエヌビディア対応に

オムロンの車載電装部品事業を担うオムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社は2018年9月に、自社の「3D-LiDAR」をエヌビディア製の自動運転車開発プラットフォーム「NVIDIA DRIVE」に対応させたと発表した。

今回の対応によって、自動運転車開発に取り組む企業はNVIDIA DRIVEとオムロンの3D-LiDARの両方を使用したアプリケーション開発が可能になる。

また、日本の電機メーカー大手のパイオニア株式会社も、同社開発の走行空間センサー「3D-LiDAR」が、エヌビディアの自動運転用ソフトウェア開発キット「NVIDIA DriveWorks」に対応する製品となったことを2018年4月に発表している。

エヌビディア製品との連携の重要性がセンサー開発会社にとってどれほど大事かを垣間見ることができる。

2018年第4四半期の見通し厳しく、エヌビディア株が一時急落

エヌビディアが2018年11月に発表した2018年第3四半期(8~10月)決算によると、純利益が12億3000万ドル(約1400億円)と前年同期比47%の増加となった。売上高は31億8100万ドル(約3600億円)で同21%の増加。自動車プラットフォームなどから収益が上がっており、全体としては好調だが、仮想通貨ブームが落ち着いた影響でゲーム事業において過剰在庫を抱えているようだ。

第4四半期(2018年11月~2019年1月)の見通しは、売上高が27億ドル(約3060億円)プラスマイナス2%を想定しており、前年同期比では5~9%の減少となる。

予想を下回る結果を受け、11月15日の決算発表時点の同社株価202ドルは翌日には164ドルまで急落し、11月19日は144ドルを記録した。その後緩やかに回復基調にあるものの、GPU市場を席巻する一大企業に対する期待の裏返しなのか、投資家の目は非常にシビアなようだ。

■パートナーシップ拡大戦略で自動運転開発市場を席捲

GPUやAIプラットフォームなどに特化した高い専門性を武器に、関連企業と広くパートナーシップを結ぶ戦略が功を奏しており、自動運転開発分野におけるカバー率は相当高まっている。

自社単独では自動運転車を作り上げることはできずとも、世界の名だたる自動車メーカーらと協業することで、新たな自動運転車の誕生の影には高確率でエヌビディアがいる――といった状況が出来上がりつつあるが、それはエヌビディア製品への信頼の証であり、自動運転開発における同社の貢献度は相当なものだ。

ゲームやパソコンなどの高機能化も進んでおりまだまだ頭打ちの状況ではないが、絶好調の自動運転分野へのいっそうの事業シフトも近い将来あり得る話だ。


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