バーチャルキーがカーシェア市場の未来を握る 開発企業まとめ

トヨタ自動車など大手のほか参入続々



国内でもカーシェアリングの人気が高まり、クルマの概念が所有から利用へと転換する兆しが見え始めている。一台の車両を複数のユーザーが利用する仕組みは、今後も増加の一途をたどるだろう。


こうしたサービスに対し、急速に需要を伸ばしているのが「バーチャルキー」だ。デジタルキー・仮想キーなど呼び名はいろいろあるが、シェアリングサービス人気の高まりを受けて開発が加速している。

バーチャルキーの導入は、利便性の高い「鍵」としての機能に収まらず、ドライバーの識別をスマートフォンという情報端末を用いて行うことで各種情報の収集も容易になり、車両のインフォテインメントシステムやターゲット広告などに活用することも可能になるだろう。

個人向けの乗用車に導入する動きも進んでおり、身近なものになりつつあるバーチャルキー。開発を手掛ける各社の状況に迫ってみた。

■【日本】トヨタ自動車:スマートキーボックス(SKB)の開発を発表

トヨタは2016年、モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)の一機能として、カーシェアなどにおいて安全にドアロックの開閉やエンジン始動を実現する為のデバイス「スマートキーボックス(SKB)」の開発を発表した。


SKBは車両の改造が不必要で、所有者が端末を車内に設置するだけで、利用者がスマートフォンで鍵の開閉、エンジン始動ができるようになる。

車両の利用者がスマートフォン上のアプリを操作すると、トヨタスマートセンターからSKB端末にアクセスするための暗号キーが送られてくる。利用者がそのスマートフォンを車両に近づけると、SKB端末との間で暗号キーが認証され、通常のスマートキーと同様に鍵の開閉などの操作を行うことができる。操作可能な時刻や期間は、利用者の予約内容に応じてセンターで設定・管理できる。

SKBの実用化に際し、米国で個人間カーシェアビジネスを手がけるベンチャー「Getaround(ゲッタラウンド)」社と共同で実証プログラムを2017年1月から行っているほか、2017年7月には、SKBの機能をはじめ事業者向けの車両管理や利用者の認証、決済サービスといった機能を有するカーシェア事業用アプリの実証事業を米ハワイ州のトヨタ販売店Servco社と実施している。

国内では、トヨタが直営するカーシェア事業「TOYOTA SHARE」において各車両に搭載し、実用化している。


■【日本】デンソー:米国のキーベンチャー「InfiniteKey」社を買収

国内自動車部品大手のデンソーも開発を加速しているようだ。同社は2017年10月、スマートフォンを車両の鍵として用いるスマートキー・スマートエントリーに関する特許技術を持つ米国のベンチャー「InfiniteKey」社を買収しており、高いセキュリティ性と利便性を兼ね備えたスマートキー活用の事業展開を加速することとしている。

InfiniteKeyは、スマートフォンを車両の鍵として利用する「Phone-as-a-Key(PaaK)」の先進技術を開発したソフトウェア会社で、省電力な無線規格「BLE(Bluetooth Low Energy)」を用い、スマートキーシステムに求められる位置特定技術を省電力、高セキュリティで実現するという。

■【日本】ジゴワッツ×イード:自動車向けスマートロックシステムでパートナー募集

IoT製品向けの認証システムやEV(電気自動車)用普通充電器の開発などを手掛ける株式会社ジゴワッツと、自動車特化型アクセラレーター「iid 5G Mobility」でスタートアップ支援を行う株式会社イードは2019年3月、自動車向けスマートロックシステム「バーチャルキー」のアーリーアクセス開発パートナーの募集を開始した。

システムは、ジゴワッツの「key.bo/t」認証テクノロジーを利用した認証サーバーとスマートフォンアプリ、Bluetooth LE通信機を内蔵したバーチャルキー専用車載器によって構成されている。車両側における大規模な工事が不要なのが特徴だ。

カーシェアリングやレンタカーサービスの事業者やシステム提供者を対象にしており、既存の車両の貸出し管理システムから、APIを通じて利用者や利用可能期限を設定した鍵を発行するといったスマートロックの機能を容易に開発することができるとしている。

第一弾として、クルマのサービス化を推進するためのプラットフォーム「Kuruma Base(クルマベース)」を手掛ける株式会社スマートバリューが参加を表明している。

■【日本】ヨコオ:クラウドから安全に車の鍵の開閉を制御

MaaS向け事業への取り組みを推進している車載アンテナメーカーの株式会社ヨコオは2019年7月、クラウドから安全に車の鍵の開閉を制御するシステムの開発を発表した。

鍵の遠隔開閉制御は、制御サーバーと車載器が相互に認証を行うことで高い安全性を担保しており、同社の車載アンテナ技術を活用することで、電波の届きにくい弱電界地区でも確実な通信を可能にした。

また、従来の鍵開閉システムと異なり、CAN(Controller Area Network/車載ネットワークの標準規格)にアクセスすることなく鍵の開閉を行うことができ、車両への施工容易性も向上しているという。

システムは、連携して開発を行ってきたニッポンレンタカーサービスの「セルフレンタカー」に搭載され、トライアル運用がスタートしている。

■【日本】ビットキー:モビリティ・MaaS領域で「bitkey platform」活用

キーテクノロジースタートアップのビットキーも、モビリティ分野への進出を模索しているようだ。同社は2019年8月、「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」がモビリティイノベーションに向け企業間連携を推進するために設立した「MONETコンソーシアム」に加盟し、モビリティ・MaaS領域において、同社の技術「bitkey platform」を活用した安全で便利な新たなサービス創造を目指すこととしている。

「bitkey platform」は、電子実行鍵の管理に向けた独自開発プラットフォームで、これまでに同社は住宅やオフィス向けのスマートロックなどを商品化している。

【参考】ビットキーの取り組みについては「車の鍵を電子化!MaaS領域で新事業!ビットキー、MONETコンソーシアムに加盟」も参照。

■【日本】東海理化:データ・テック社と共同開発契約を締結

トヨタ系列の部品メーカー・東海理化は2014年、NFCフォーラムにおいて大日本印刷(DNP)と共同でスマートフォンを利用することで車両の解錠・施錠を可能にするシステムのプロトタイプを発表。以後、開発を続け、東京モーターショー2017などでもバーチャルキーを使ったシェアリングサービスの展示などを披露している。

2019年5月には、事業領域の更なる拡大を狙い、クラウド基盤を活用したモビリティサービス展開に実績を持つデータ・テック社と共同開発契約を締結した。東海理化のキー認証・デジタルキー配信技術と、データ・テックの車両運行管理・安全運転診断技術を組み合わせた新たな車両運行管理システムの提供などを目指すほか、デジタルキー技術を武器に、駐車場や自転車、ホームドア、各種シェアリングサービスへの事業領域の拡大に注力していくこととしている。

■【中国】BYD(比亜迪)×華為技術(ファーウェイ):車両の電子キーで協力

中国では、EV開発やIT部品製造事業などを手掛けるBYDが2019年8月、通信大手のファーウェイのスマートフォンを車両の電子キーに利用するサービス分野で協力することを発表したようだ。

BYDのクラウドサービスアプリを活用し、スマートフォンのセキュリティチップとNFC(近距離無線通信)を利用してキー操作を可能にする技術だ。

■【ドイツ】ダイムラー(メルセデス・ベンツ):「デジタル車両キー」を発表

コネクテッド分野の開発に力を入れる独メルセデス・ベンツは2018年2月、スペインで開催された通信関連の国際見本市において、スマートフォンを車両のキー代わりに使用できる「デジタル車両キー」を発表した。ドイツ向けの一部新型車両に導入するようだ。

NFC(近距離無線通信)を介して車両と通信するシステムで、同社のセキュリティ基準を満たすNFCインターフェースを搭載していないスマートフォンについては、専用のマイクロチップを内蔵したステッカーをスマートフォンに貼ることでサービスを利用することができるという。

■【ドイツ】BMW:新型車両の一部にデジタルキーシステム

独BMWは2018年9月、欧州仕様の新型車両の一部にデジタルキーシステムを導入することを発表している。

スマートフォンに「BMW Connected」アプリをインストールすることで、NFC(近距離無線通信)を介して車両と通信し解錠・施錠でき、スマートフォンをワイヤレス充電トレイや専用トレイに置くことで、エンジンを始動できる。

自動車メーカーではこのほか、米EV大手のテスラなども実用化しているようだ。

【参考】BMWの取り組みについては「BMWの自動運転技術や戦略は? ADAS搭載車種や価格も紹介」も参照。

■【ドイツ】コンチネンタル:「リモートクラウドキー(RCK)」を開発

自動車部品大手の独コンチネンタルは、クラウド管理による車両向けリモートキーレスアクセスサービス「リモートクラウドキー(RCK)」を開発している。

RCKにおける車両共有アクセスプラットフォームは柔軟なAPIを備えており、カーシェアヤレンタカー、フリート管理企業などが求めるビジネスモデルに応じたワークフローとの統合を実現するフレキシビリティを持つ。
後付け可能で、新規車両・既存車両の両方に対し、他のコンポーネントやワイヤリングハーネスを改造することなく装着できる。

また、OEMや車両モデルごとに固有のバージョンを構築する必要もなく、車種やモデルに特有の個々のコマンドはクラウド内でコンピューター処理され、スマートフォンやキーデバイスが車両通信用デバイスとして使用される。一般的に使用されているアクセスプロトコルのほぼすべてに対応しており、追加プロトコルへの対応も継続して行うという。

セキュリティ面では、車両通信用に車両のネイティブRFプロトコルを利用してアクセスを可能にし、フィジカルキーと同等の安全な車両の施錠・開錠を実現している。

■【ドイツ】ボッシュ:「パーフェクトキーレス」技術を発表

自動車部品大手の独ボッシュは、「パーフェクトキーレス」技術を発表している。近接センサーとコントロールユニットを備えた車両で利用することができ、アプリをダウンロードしたスマートフォンが車両とネットワーク接続し、デジタルロックに適合するワンオフセキュリティキーを生成する仕組みだ。

近接センサーにより、スマートフォンを取り出すことなくドアの開閉などを行うことができるほか、アプリを使用することで家族や友人などにクルマへのアクセス権を供与することもできる。

【参考】ボッシュの取り組みについては「独ボッシュ、日本市場で「自動駐車」事業に注力 既に実証実験を開始」も参照。

■【フランス】ヴァレオ:注目のバーチャルキーシステム「Valeo InBlue」

自動車部品大手の仏ヴァレオは、バーチャルキーシステム「Valeo InBlue」を発表している。Bluetoothを介し、スマートフォンやスマートウォッチを使用して車の解錠・施錠やエンジンの始動、アプリケーションの利用、車のさまざまなデータへのアクセスなどを可能にしている。

「Valeo InBlue」は、同社のクラウドベースのプラットフォームから提供されるセキュリティが確保されたバーチャルキーを、スマートフォンディベロップメントキット(SDK)に接続する装置を車に搭載することで利用することができる。

2016年9月には、高度なデジタルセキュリティ技術を持つオランダのジェムアルト社とパートナーシップを結び、セキュリティ面の強化も図っているようだ。

■バーチャルキーの標準規格制定へ

各社が独自開発を進めるバーチャルキー・デジタルキー技術だが、スマートフォンが備える規格などにサービスが左右される側面を持ち、場合によっては、車両やスマートフォンの買い替えなどによって使用不可に陥ることも懸念される。

このため、スマートフォンと自動車の連携通信技術を推進する業界横断型の国際団体「Car Connectivity Consortium(CCC)」は2018年6月、デジタルキー開発における標準規格を発表した。この規格に準拠することで互換性が飛躍的に高まるほか、アプリ開発やセキュリティ開発などの促進も期待される。

■【まとめ】1年間で搭載車両倍増

矢野経済研究所が2019年7月に発表したバーチャルキーの世界市場調査によると、新車におけるバーチャルキー搭載車輌台数は2017年に1063万台だったのに対し、2018年は2069万台とほぼ倍増している。2020年予測では3000万台を突破し、2022年には5000万台を超えるという。

コネクテッド技術やインフォテイメントシステムの進化により、スマートフォンと連動する機能そのものが増加しており、こうした流れと一体となってバーチャルキーの普及も促進されていく可能性が高い。

セキュリティ面が当面の課題となり、コネクテッド分野におけるセキュリティ開発企業のいっそうの活躍にも期待したいところだ。

【参考】矢野経済研究所の調査については「カーシェア市場拡大の肝は、無人化を実現するバーチャルキーだ」も参照。


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