国の金を引き出すならこの17施策から提案を スマートシティ構想、日本の方向性判明

自動運転やMaaS、AI、次世代自動車…



スマートシティ実現に向け、国土交通省が募集した企業や地方公共団体などからの提案・要望結果が公表された。同省は施策のイメージとして、移動・物流など5分野にわたって計17案を示している。


同省、ひいては国が考えるスマートシティ施策とはどのようなものか。5分野17案をそれぞれ紹介しよう。

■「移動・物流」の5施策

MaaSの導入によるシームレスな移動の実現

鉄道、バス、旅客船、カーシェア、シェアサイクルなどさまざまな移動手段の検索・予約・決済を一括提供するシステムを構築する。

複数のサービスを統合するMaaSでは、ICTを活用することで鉄道やバスなどの経路や時刻表などのデータを検索し組み合わせ、利用者のニーズに合うサービスが提案される。このため、検索対象となる交通機関の運行情報や、駅などの地理的情報のデータがオープン化される必要がある。


欧米では公共交通などのオープンデータ化が進んでおり、国内でも公共交通オープンデータ協議会が設立され、「公共交通分野におけるオープンデータ推進に関する検討会」が検討を進めている。

同検討会が2017年に発表した中間整理では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、積極的にオープンデータ化に取り組むべきであり、データを保有する交通事業者はオープンデータの推進を自らの成長戦略の大きな柱と位置づけ、率先して取り組むことが望まれるとしている。

運賃や料金決済の統一面では、2015年に閣議決定された交通政策基本計画の中で「交通系ICカードの利用エリアの拡大や事業者間での共通利用、エリア間での相互利用の推進策を検討する」としており、ICカードの普及や利便性の向上に取り組んでいる。

データ活用による公共交通の最適化

交通系ICカードなどによって取得される乗降データやバスロケーションデータなどの分析によるルート・便の再設定を行うことで、公共交通の最適化を図ることとしている。

自動運転の実現により、自家用車の保有台数が減少しさまざまな移動サービスが誕生すると、各種移動サービスの核となるのが公共交通だ。都市と地方で最適化の方向性は異なるが、より効率的な運営方法を構築することとともに、ラストワンマイルなど各種移動サービスとの効率的な連携なども求められそうだ。

自動運転などによる新たな移動ツールの導入

自動運転やAIを活用した車両の導入、超小型モビリティによるパーソナル移動の多様化を想定している。

シームレスな移動サービスの構築を指すMaaSは、その定義や用法が多様化しており、新しい柔軟な交通サービスを指す場合もある。自動運転やAI技術の向上によりさまざまな移動サービスの誕生が想定されており、利用者のニーズに柔軟に対応できるICTを活用した新しい移動サービスの実現が、スマートシティにおける移動の核となる可能性は高い。

また、こういった新たな移動サービスやシームレスな移動を実現するため、道路インフラなどの交通環境も一考する必要が出てくるだろう。

【参考】自動運転により変わる交通インフラについては「消えゆく信号…自動運転化で2040年に 米都市調査団体が予測」も参照。

自動配送などによる物流の効率化

自動運転車両や過疎地域などでのドローンによる荷物配送や、発送の無人受付など宅配ボックスの活用による集配の効率化を図ることとしている。

民間では、ロボットベンチャーのZMPが宅配ボックスを搭載した自動運転ロボット「CarriRo Deli(キャリロ デリ)」をすでに商品化しているほか、配送大手のヤマト運輸も次世代物流サービスの実現を目指すためのプロジェクト「ロボネコヤマト」で、自動運転車両を使った配送実験などを実施している。

また、自治体では、長野県伊那市が道の駅「南アルプスむら長谷」における自動運転サービスの実証実験や、河川上空をドローンによる物流の幹線として活用し、市街地と山間部を結ぶ物流ソリューション・サービスの構築を目指す「INAドローン・クア・スカイウェイ事業」などに取り組んでいる。

利便性の高いラストワンマイルの移動サービスの実現

ICTを活用した、電動で時速20キロメートル未満で公道を走る事が可能な4人乗り以上のモビリティ「グリーンスローモビリティ」の導入による地域住民や来訪者の移動手段の確保などを想定している。

グリーンスローモビリティ分野では、ヤマハ発動機が低速自動運転が特徴の移動サービスシステム「パブリックパーソナルモビリティ」(PPM)の開発を進めるほか、自動運転開発企業のティアフォーも低速完全自動運転EV(電気自動車)「Postee(ポスティー)」の開発を進めている。

観光地や広大な商業施設、市街地などで活躍可能なラストワンマイルモビリティとして今後注目を集めそうだ。

【参考】ヤマハのPPMについては「ヤマハ発動機、CES 2019に出展 低速自動運転のPPMなど目玉に」も参照。ティアフォーのポスティーについては「ティアフォーなど開発の低速自動運転EV「Postee」が一般向け初公開」も参照。ラストワンマイルについては「ラストワンマイルとは? 課題解決に向け自動運転技術など活用」も参照。

■「安心なまち」の2施策

歩いて暮らせるまちづくり

コンパクトなまちづくりの推進や人流のビッグデータ解析による、バリア情報の把握や高齢者などへの快適な移動ルートの案内などを構築する。子どもから高齢者まで安心して移動できる、連続したバリアフリー空間が確保された安全なまちづくりを進める。

MaaSの導入により、ドアtoドアの移動の実現や、安全な歩行空間や公共交通などを一体化させたストレスのない移動サービスの構築なども役に立ちそうだ。

AIなどの活用による安心なまちづくり

AIなどを活用し、まちや建物の中で倒れた人の迅速な検知を図る。AIによる映像解析技術などを活用することで、カメラに映し出された人の動きをAIが自動で解析し、アラートを発することなどが想定される。

■「防災・気象」の5施策

災害リスクの見える化

都市空間データと災害データの重ね合わせによる災害リスクの可視化、及びそれを踏まえた避難シミュレーションや防災対策の実現などを図り、包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市や人間居住を実現する。

3次元データを活用したインフラの整備・維持管理の効率化

ICTの全面的な活用などの施策を建設現場に導入することにより、建設生産システム全体の生産性向上を図る取り組み「i-Construction」における3次元データなどを活用したインフラ整備の効率化や、整備時の3次元データの活用や構造物センサーによる常時監視とアセットマネジメントによる維持管理投資の最適化、3次元設計データなどの活用による船舶検査・測度の高度化・効率化を図る。

気象データの利活用・連携

基盤的気象データのオープン化・高度化、異業種・産学官での連携などによる幅広い分野における新規ビジネスの創出を図る。新たな気象データの提供や、使いやすい形式でのデータ提供などが可能となる。

簡易型河川監視カメラの設置

ICTなどの活用による切迫性のある河川情報の提供を図る。屋外に容易に設置可能で、電源・通信ともにワイヤレスで運用可能なカメラを開発することで、河川管理の画像情報が乏しい中小河川なども含めさらに画像情報を充実させることが可能となる。

災害時の水資源最適化

ICTなどを活用し、雨水や地下水といった水資源の利用を最適化する。例えば、地形データや気象データなどさまざまなデータを解析し、立体的な地下水マップを作成する。また、河川などの表流水に地下水も含めた一体型の水循環構造を可視化することで、地下水の適正管理や効率的な水取得が可能になる。

■「観光」の2施策

インバウンド需要への対応

人流ビッグデータを活用した来訪者属性に応じた観光地づくりを想定している。来訪者の観光行動を把握することで、ニーズに即したサービス展開などを観光地づくりに生かす考え方だ。

観光流動の最適化

乗り捨て型のカーシェア、駐車場予約システムなどによる観光周遊の促進、観光渋滞の緩和を想定している。

淡路市は二人乗りの超小型電動車両の実証実験やEVレンタカーの導入などを行っているほか、自動運転サービスの実証実験なども実施しており、2018年には市内の「夢舞台サスティナブル・パーク」内の1.9キロメートルの区間で自動運転をモニター体験できる機会を設けた。

また、観光戦略の一環として米ライドシェア大手のウーバー・テクノロジーズによる配車アプリ導入に向けた実証実験も行っている。

地域の実情に合わせた形でどのような移動サービスを導入できるか模索している自治体も多いが、将来、さまざまなモビリティサービスやプラットフォームの誕生が想定されるため、早めに検討や実証実験に着手している自治体は大きなアドバンテージを持つことになる。

【参考】淡路市をはじめとした自動運転実証に積極的な自治体については「自動運転実証の誘致に意欲的な自治体10選」も参照。

■「エネルギー・環境」の3施策

再生可能エネルギーによる持続可能なまち

断熱性能の向上や高効率な設備システムの導入などにより大幅な省エネルギーを実現し、また再生可能エネルギーを導入することで年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した住宅「ゼロエネルギー住宅」などの推進を想定している。

下水道の最適管理

ICTの活用による下水道事業の質・効率性の向上や情報の見える化を図ることとしており、国土交通省は下水道事業の持続と進化に取り組む「i-Gesuido」を推進している。

グリーンインフラの活用によるSDGs(国連の開発目標)の推進

都市データと気象データなどを駆使し、自然が有する多様な機能や仕組みを活用した「グリーンインフラ」の計画・整備による地域全体の低炭素化や暑熱緩和、安全・安心なまちづくりなどを想定している。

■【まとめ】国を挙げてスマートシティ推進 自動運転も重要な役割担う

「移動・物流」関連では、2018年に閣議決定された「未来投資戦略2018」においても、公共交通全体のスマート化に向け「MaaSなどの施策連携により、利用者ニーズに即した新しいモビリティサービスのモデル都市、地域をつくる」としている。

また、次世代モビリティシステムの構築に向けた新たな取り組みとして「地域の公共交通と物流について、オープンデータを利用した情報提供や経路検索の充実、スマートフォンアプリによる配車・決済などのICT、自動走行など新技術の活用、見守りサービスや買い物支援の導入、過疎地域での貨客混載、MaaSの実現など多様な分野との施策連携により、都市と地域の利用者ニーズに即した新しいモビリティサービスのモデルを構築する」ことを目指すこととしている。

スマートシティ構築において、自動運転技術やMaaSをはじめとした新たなサービスが果たす役割は非常に大きく、またインフラ整備も要する重要な事業となる。

大げさな例だが、中国ではスマートシティ・自動運転シティ構想として、新都市を一から建設するほどの大規模開発を実践している。

現代日本で新都市建設は現実味がないが、老朽化したインフラを多く抱え、過疎化が止まらない地方都市などモデル地域となり得る環境を持った自治体は意外と多いのではないか。緩やかな疲弊に慣れてしまう前に、先進都市へのいち早い転換を打開策とした総合計画を打ち立て、積極的に参画する民間を取り込んでいくのも一つの手だろう。

【参考】国土交通省のスマートシティ実現に向けた取り組みについては「スマートシティ実現へ、Maasや自動運転のアイデア続々 国土交通省が募集」も参照。


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