自動運転開発企業などから熱い視線が送られている物流分野。とりわけ、労働力不足や小口多頻度化により業務の効率化が必須とされるラストワンマイルには多くの企業が注目し、新たなビジネスモデルの構築に躍起となっている。
特に活躍が目立つのが、宅配ロボの開発を中心とするスタートアップ勢だ。宅配ロボは、自動運転技術の実用化と商用化を図るうえで最適な分野の一つであり、新進気鋭のエンジニアからの注目度も高いようだ。
そこで今回は、ラストワンマイルの課題解決に向けて取り組んでいるスタートアップに着目し、宅配ロボを中心に高度な技術を活用したプラットフォームサービスなども含め、研究開発を進める16社を紹介する。
記事の目次
■【日本】Hakobot
2018年5月に宮崎県を本拠に設立されたベンチャーで、自動配送ロボットの開発を手掛けている。同年7月には、ロケット事業などを手がける実業家の堀江貴文氏が同社アドバイザーに就任したことで話題を集めた。
同年11月、堀江氏主催のイベント「ホリエモン祭 in 名古屋」で自動配送ロボットの初号機がお披露目されたほか、制御盤の設計などを手がける三笠製作所との業務提携も発表されており、開発体制の構築を進めているようだ。
その後、公式発表はされていないようだが、堀江氏が2019年4月、「Starship Technologies」の自動運転ロボットのニュースに関連してニュースアプリNewsPicksやTwitterで「我々のHokobotはこれに加えて移動パトカー的な動きをしようとおもってます」とコメントしている。
【参考】Hakobotについては「Hakobot社の自動運転配送ロボット、「ホリエモン祭in名古屋」でお披露目へ!」も参照。
■【日本】オプティマインド
物流業界においてAIクラウド・プラットフォームサービス事業や最適化コンサルティング・R&D事業などを手がける2015年設立の名古屋大学発テックベンチャー。
AI最適配車クラウドサービス「Loogia」は、「どの車両が、どの訪問先を、どの順に回るべきか」を効率化するためのサービスで、機械学習を用いて配送のための地図を作成し、次にアルゴリズムと地図データに基づき、効率的な配送ルートを提案する。
これまでに、SaaS(Software as a Service)事業を担う「Loogia(ルージア)」の提供販売のほか、PaaS(Platform as a Service)事業として、ルート最適化システムに必要な多くの複雑なモジュールをAPI連携することでさまざまな配送システムの機能の1つとして容易に組み込むことが可能なシステム、AaaS(Algorithm as a Service)事業として、研究成果に基づく最先端のアルゴリズムをAPI連携することで提供するなど、世界トップレベルの最適化アルゴリズムを駆使したクラウドサービスを手掛けている。
【参考】オプティマインドについては「名古屋大界隈、AIや自動運転で日本最強説 スタートアップ続々」も参照。
■【日本】CBcloud
2013年に神奈川県で設立された軽貨物クラウドソーシング事業を手掛ける企業。2016年に東京都に移転し、翌2017年に荷物を送りたい人とドライバーを直接つなぐ軽貨物配送プラットフォーム「軽Town(現PickGo)」をリリースした。
2018年8月には、AIやブロックチェーン技術を活用し、管理者とドライバーの利便性を追求したシンプルな動態管理システム「イチマナ~AI動態管理~」もリリースしている。
2019年2月には登録ドライバーが1万人を突破したことが発表されており、需要の高さがうかがえる。
【参考】CBcloudについては「「物流版ウーバー」の異名…PickGo、登録ドライバー数1万人に」も参照。
■【アメリカ】Starship Technologies
エストニアと米サンフランシスコに本社を構える2014年創業のスタートアップ・スターシップ・テクノロジーズ。2018年4月に英国のミルトン・キーンズで自動運転ロボットによる商品配送を開始したほか、2019年1月には米ジョージメイソン大学でもサービスを開始するなど、同分野の先駆けとして一躍有名になった。
配送用のロボットは、カメラやセンサー、通信機器、バッテリーなどを内蔵し、6輪の車輪で動く小型のボックス型。まだまだ導入が進みそうな勢いだ。
【参考】スターシップ・テクノロジーズについては「米スターシップ・テクノロジーズ、イギリスで自動運転ロボットによる商品配送スタート」も参照。
■【アメリカ】Nuro
2017年創業の米スタートアップで、配送用の自動運転車「R1」の開発を進めている。2018年6月、米スーパー大手のクローガーと協力し、R1などで無人配達を行うプロジェクトに着手することを発表した。
2019年2月には、ソフトバンクビジョンファンド(SVF)から9.4億ドルの資金調達を行ったことが報じられたほか、同年6月には、ビザ宅配大手の米ドミノ・ピザと提携し、自動運転車両を使ったピザの無人配達事業を米テキサス州ヒューストンで開始することも発表されており、大型車体タイプにおける実用化例として大きな注目が集まっている。
【参考】Nuroについては「米Nuroの自動運転モビリティ、2019年内にドミノピザの配達開始へ」も参照。
■【アメリカ】Kiwi
2017年に米バークレーで設立されたスタートアップのkiwi。同社が開発した宅配ロボ「KiwiBot(キウイボット)」は現在、カリフォルニア大学バークレー校などで活躍しており、同大では100台ものロボットが学生らに食事をデリバリーしているという。
■【アメリカ】Robby Technologies
カリフォルニア州シリコンバレーに本社を置くスタートアップのロビー・テクノロジーズは、2016年に第1号となるラストマイル向け宅配ロボ「Robby1」を開発し、3000マイル(約4800キロメートル)以上の実証を同州で行っている。
現在は「Robby2」の実証を進めており、搭載した赤外線カメラやLEDなどによって夜でも稼働することができるほか、急な丘や縁石なども乗り越えられるという。1回の充電で20マイル(約32キロメートル)以上走行可能。
実証実験関連では、PepsiCo(ペプシ)との提携のもと、Robby2をベースに改良したデリバリーロボ「Snackbot」の実証がカリフォルニア州のパシフィック大学構内で行われたようだ。
■【アメリカ】Boxbot
EV(電気自動車)開発の米テスラとライドシェア大手の米ウーバー出身のエンジニアが2016年に米カリフォルニア州で設立したスタートアップで、自動運転技術とロボット工学を活用した物流・配送におけるラストワンマイルを実現する技術・サービスの開発を手掛けている。
同社が2018年に実施した総額750万ドル(約8億3000万円)の資金調達ラウンドに、トヨタ自動車子会社で米国においてAI(人工知能)開発を行う「Toyota AI Ventures」も参加し、出資している。
自動運転可能な貨物用EVの荷台部分はロッカーのように区画分けされたボックスが並んでおり、パスワードを入力することで一つひとつの区画を開くことができる仕組みのようだ。
【参考】トヨタのBoxbotへの出資については「トヨタの自動運転領域における投資まとめ」も参照。
■【アメリカ】AutoX
自動運転車の開発に力を入れる米カリフォルニア州に本拠を置くスタートアップのAutoXも、物流分野への進出を図っている。デリバリーサービス向けの取り組みを加速しており、食料品の配送を手掛けるGrabMarket (グラブマーケット)と提携し、2018年8月にカリフォルニア州で食料品配送実証を開始することを明らかにしている。
LiDAR(ライダー)を使わず、一般車両を改造することで低コストな自動運転レベル4を実現する技術を主としており、ラストワンマイルを担う低コストな商用車として今後注目が集まりそうだ。
■【アメリカ】ShipChain
荷物の追跡といった物流におけるトラッキングをブロックチェーン技術を活用して効率的に行う手法を開発する米スタートアップ。物流の各プロセスを管理することで、コストや時間などの最適化を図ることができるようになる。
■【アメリカ】Marble
米カリフォルニア州を拠点にロボット開発を手掛けるスタートアップ。2015年の創業後、レストラン検索サービスやデリバリーサービスなどを手掛ける「Yelp Eat24」と2017年に提携し、同年4月からフード宅配サービスの実証などを行っている。
2018年には、資金調達Aラウンドで中国テンセントなどから1000万ドル(約11億円)を調達している。2019年5月には日本初上陸を果たし、三菱地所と立命館大学が同大びわこ・くさつキャンパスで実証実験を行っている。
マッピングすることで屋内外で自律走行が可能となり、ボックス内に荷物を入れて目的地まで自動運搬することができるという。
■【アメリカ】Udelv
2016年に米カリフォルニア州で創業した、配送向け自動運転車の開発スタートアップ。2018年1月から公道におけるラストワンマイルの自動運転配送サービス実証実験を開始し、これまでにサンフランシスコ・ベイエリアの提携小売店の顧客向けに1000回以上の自動運転配送サービスを実施している。
今後オクラホマ州やテキサス州などへサービスエリアを拡大していく予定で、2018年12月には、丸紅株式会社が傘下企業を通じて出資しており、アフターマーケット向け自動車部品卸販売事業における実証実験も計画しているという。
【参考】Udelvについては「丸紅、自動運転配送の米スタートアップudelv社に出資」も参照。
■【アメリカ】Agility Robotics
米オレゴン州立大学発のスタートアップで、ロボット開発を手掛けている。同社が開発を進める二足歩行ロボットをラストワンマイルに活用する実証も発表されており、米自動車大手のフォードが自動運転車から配達先の自宅などへの配送工程を担うロボットとして活用する実験を行うようだ。
【参考】Agility Roboticsについては「自動運転車から玄関口への配送、フォードは二足歩行ロボで ラストワンマイルで試験」も参照。
■【中国】Neolix
自動運転レベル4技術を搭載した物流ロボットの開発を手掛ける中国のスタートアップ。百度(バイドゥ)が進めるApollo計画にも参加している。
物流ロボットはすでに製品化しており、これまでに150台以上の無人機が納入されているという。2019年6月には、物流ロボットの大量生産を開始することが報じられており、5年以内に年間販売10万台を目指す構えだ。ロボットは、中国の電子商取引大手の京東商城(JD.com)や中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などに納品される予定のようだ。
【参考】Neolixについては「レベル4級の自動運転物流ロボ、中国Neolix社が大量生産へ」も参照。
■【中国】Ninebot
2012年設立の中国スタートアップで、2015年にセグウェイの製造を手掛けていたSegway社を買収するなど、ロボット事業を本格化させている。
CES2019では、容量70リットルまで運ぶことが可能で、数段設けられた引き出しから商品を出し入れする仕様の宅配ロボ「Loomo Delivery」の新作を出展した。
■【エストニア】Cleveron
ロボット技術などを駆使し、ラストワンマイル配送の自動化を目指すエストニアのスタートアップ。
小包の保管や集配、返却業務を自動化するように設計された大型ロボットポストのようなピックアップソリューションをはじめ、2018年に発表したロボット宅配システム「robot courier」では、自動運転ロボットカーが無人で荷物を配送し、自宅に設置された専用郵便受けにロボットアームで投函するなど、受け取りまでを無人化したシステムを開発しているようだ。
同社はこのほか、ドローンを活用したドリンク配送デモサービスなども実施している。
■【まとめ】宅配ロボ開発から完全無人宅配システムの構築へ 物流版MaaSの実現へ
ラストワンマイルの未来は宅配ロボが担うといっても過言ではないほど、世界各地で開発が進められている状況だ。Cleveronの取り組みのように、自宅の宅配ボックスもロボット化することで配送から受け取りまでの工程をすべて無人化することも可能になる。
また、今後はプラットフォーム化の動きも活発化し、物流におけるMaaS(Mobility as a Service)のような取り組みも本格化するのではないかと推測する。さまざまな運送媒体がシームレスにつながり、荷物が効率的に運ばれる仕組みだ。
こうした物流版MaaSを、トラックの隊列走行や無人配送車、宅配ロボなどが担う時代が近い将来到来するのだ。
【参考】関連記事としては「自動運転社会の到来で激変する9つの業界」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)