実は・・・。テスラの自動運転タクシー、先行組から「6年遅れ」の水準

Googleに比べて「全然すごくない」状況



出典:Tesla公式サイト

テスラがついに自動運転タクシー(ロボタクシー)の運行を開始した。テキサス州オースティンの一部エリアで、10台規模のフリートでローンチしたようだ。

何かと話題になりやすいテスラだけに、ネット上ではさっそく開発力を称える声や驚きの声が上がっている。


しかし、落ち着いて考えてみると、何がすごいのだろうか。結論から言えば、現状においては全く大したことはない。詳細は後述するが、自動運転タクシーとしてはもはや後発組で、現状において目新しさはないのだ。

テスラの自動運転タクシーはすごいのか、すごくないのか。他社の動向を交えつつ解説していこう。

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■テスラのロボタクシー事業の概要

モデルYベースのロボタクシーでサービスイン

テスラは2025年6月22日、本社を構えるオースティンの地でロボタクシーサービスを開始した。車両はロボタクシー向けに開発したCybercabではなく、自動運転システムを搭載した新型モデルYだ。

ロボタクシー車両には、フロントドアなどに控えめに「ROBOTAXI」のロゴが入っているが、LiDARを搭載していないため、ぱっと見でロボタクシーなのか一般車両なのか判別できないほど日常的な道路風景に溶け込んでいる。


当面は10台ほどのフリートで、助手席にセーフティドライバーが同乗する形でサービスを提供する。営業時間は午前6時から午前12時までとしている。

正確な運行エリアは不明で、オースティン市内全域ではなく一部と思われる。乗客は、アーリーアクセス・ライダー・プログラムのメンバーに限られており、Teslaアカウントを持つ一部市民への招待制で徐々に拡大していく方法だ。運賃は距離にかかわらず一律4.20ドル(約610円)としている。

内容は薄いが、ロボタクシーの特設サイト(ページ)も用意されたので興味のある方は一度ご覧いただきたい。

▼特設サイト
https://www.tesla.com/robotaxi


出典:Tesla公式サイト

ネット上には早くも体験動画がアップ

テスラCEOのイーロン・マスク氏は6月23日付けで、Xに「Tesla_AIソフトウェア&チップ設計チームの皆さん、Robotaxiのローンチ成功おめでとうございます!10年にわたる努力の集大成。AIチップチームとソフトウェアチームは、どちらもテスラ社内でゼロから構築された」と投稿した。

テスラAIのアカウントも同日、「自動運転への私たちのアプローチは、拡張性も可能にする。テスラの自動運転は、承認された場所であればどこにでも導入できる。高価な専用機器や、サービスエリアの詳細なマッピングは必要ありません。ただ機能するだけ」と投稿している。

ロボタクシーサービスを体験した乗客の反応も出始めているので、いくつか紹介しておく。いずれも動画付きで、テスラのロボタクシーを称賛する内容だ。

■自動運転タクシー各社のサービス状況

テスラの現状は2018年のWaymoの水準

助手席にセーフティドライバーが乗っているものの運転席は無人で、ハンドルが自動で右へ左へと回る様子は新たな時代の到来を感じさせる。初めて自動運転タクシーを見た人は、「テスラすごい!!」となるだろう。

しかし、自動運転業界の先行組からみれば、テスラの現在地は疾うの昔(とうのむかし)に通過した過去の水準に過ぎない。

自動運転タクシーを世界で初めて商用化したグーグル系企業の米Waymoは、2018年12月にアリゾナ州フェニックスでサービスを開始した。現在のテスラのサービス水準は、この6年半前のWaymoの水準に等しい。

当時のWaymoは、運転席にセーフティドライバーが同乗し、乗客を限定する形でローンチした。今のテスラとほぼ同様だ。そこから対象利用者を徐々に拡大し、実績を積み重ねて安全性を高めていった。2019年末に一部でドライバーレス、つまり車内無人の運行を開始し、本格的なレベル4サービスの展開へとつなげていったのだ。

Waymoは現在、フェニックスのほかカリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルス、テキサス州オースティンで無人運行サービスを提供している。テスラと同エリアのオースティンでは、2024年10月にサービスインした。

フェニックスだけでも東京23区(622平方キロ)を上回る約815平方キロをカバーしており、4エリア合計では1200平方キロに及ぶ。

このほか、シリコンバレーエリアやジョージア州アトランタ、2026年にフロリダ州マイアミとワシントン D.C.でもサービスを開始する計画を発表している。日本でも2025年に走行実証を開始しており、海外進出も時間の問題だ。

これが世界トップのサービス水準だ。複数エリアで推定1,000台超の無人車両をすでに運行しており、1週間あたり配車数20万回、160万キロメートルに及ぶサービスを提供している。

米国、早くも自動運転タクシーの「普及期に移行」か Googleが急速にエリア拡大

ZooxやMobileye、フォルクスワーゲン子会社も着々と準備

米国では、すでに事業を停止してしまったが、自動車メーカーGM傘下のCruiseが自動運転タクシーサービスを展開していた。2022年にサンフランシスコでサービスを開始し、以後、矢継ぎ早にフェニックスやオースティンに拡大していった。

独走するWaymoのライバルとして期待されたが、2023年10月にカリフォルニア州で人身事故を起こし、その対応の不備も重なって当局から自動運転走行と旅客運送許可を停止された。

最終的には、親会社のGMが2024年12月までに事業停止を決定し、Cruiseは事実上解散した。パートナーシップを結んでいたホンダも、2026年初頭に3社で東京都内で自動運転タクシーサービスを開始する計画を発表していたが、流れてしまったようだ。こうした事例もあることに留意したい。

このほか、アマゾン傘下Zooxも着々と準備を進めており、2025年後半にネバダ州ラスベガスとサンフランシスコでロボタクシーサービスを開始する予定だ。

運転席を備えない自動運転専用のオリジナル車両を導入し、2市のほかワシントン州シアトル、オースティン、マイアミ、アトランタでも運行する計画を発表している。Waymoやテスラの新たなライバルだ。

イスラエル企業Mobileyeも丸紅と手を組み、早ければ2026年にもテキサス州ダラスで配車サービス大手Lyftのプラットフォーム上で自動運転タクシーサービスを開始するという。

独フォルクスワーゲンはUber Technologiesとパートナーシップを結び、今後10年にわたり米国の各都市で自動運転EV「ID. Buzz」を使った商業用ロボタクシーサービスを開始する計画を発表した。まずは2026年末までにカリフォルニア州ロサンゼルスでサービスインし、2027年に無人化を図っていくという。

Amazon、自動運転タクシーを「数週間以内」に展開へ Googleのライバルに

中国では複数社が無人サービスを実現済み

米国をライバル視する中国では、Waymoに追い付け追い越せとばかりに開発が急加速した。2020年ごろから自動運転タクシーの商用化が始まり、北京や上海、深センなど各地で無人サービスが実現している。

同国では、IT大手百度(バイドゥ)を筆頭に、WeRide、Pony.ai、AutoXなどがすでに無人サービスを展開している。百度は、「Luobokuaipao/Apollo Go」という名称で自動運転タクシーサービスを商用化しており、現在北京、上海、広州、深セン、重慶、武漢、成都、長沙、合肥、陽泉、烏鎮の11都市でサービス化しているようだ。全都市かは不明だが、基本的に無人運行を実現している。

トヨタとパートナーシップを結ぶPony.aiは、北京、上海、広州、深センの4都市で無人運行ライセンスを取得している。2025年5月にはドバイ道路交通局(RTA)と覚書を締結し、2025年中に監視付きの自動運転実証を開始し、2026年に完全無人の自動運転サービスの運用を開始する予定としている。

WeRideは、広州、北京、南京、蘇州のほか、モンゴル自治区オルドス、アラブ首長国連邦の首都アブダビ、スイスのチューリッヒで自動運転タクシーを運行しているようだ。

上位組は量産体制を確立し、すでにグローバル路線を歩み始めている点がポイントだ。

【参考】自動運転タクシー開発各社・各国の動向については「自動運転タクシーとは?アメリカ・日本・中国の開発状況は?」も参照。

自動運転タクシーとは?アメリカ・日本・中国の開発状況は?

■自動運転業界におけるテスラの現在地

もはやテスラは後発組

このように、世界的に見ればテスラの自動運転タクシーは後発組に分類されるのだ。決して先進的ではない。

今後テスラが歩む道のりは、まずドライバーレス、車内無人化を図ることだ。セーフティドライバーは、車両が想定外の挙動を行った場合など万が一の際に即座に対応するために存在する。しかし、このドライバーがいる状況はレベル4とは言えない。

まずはこれを車内から排除し、完全な遠隔監視・操作へと移行していく必要がある。通常、この作業には数年を要する。遠隔監視システムへの移行後は、この監視の頻度を極力抑え、一人のオペレーターが複数台の車両を担当できるレベルにもっていかなければならない。

遠隔監視であっても、一人が常時一台の車両を監視している状況はナンセンスと言える。各車両の運転席を遠隔監視センターに移しただけに過ぎないためだ。常時監視が必要なく、アラートが発された時のみ車両の状況を確認する技術水準まで向上させて初めてドライバーレスの効果が発揮されると言えるだろう。

なお、この遠隔監視に関しては、先行する各社の状況も不透明で、中には「常時監視しているのでは?」と疑われる例もあるようだ。

この作業と並行して、運行可能なエリアの拡大も図っていかなければならない。新たなエリアでは、またセーフティドライバー付きの状態から作業を積み重ねていく必要がある。

こうした過程を経て、やっとWaymoに追いすがることができるのだ。一定の社会的基盤が揃っていることなど踏まえても、普通に考えれば5〜6年は遅れていると言えるだろう。テスラによる現状の自動運転タクシーは、この程度のものなのだ。

今後のポイントは、どのタイミングで車内無人化を実現するかだが、無理に無人化して事故を起こせば、Cruiseの二の舞になりかねない。トランプ大統領と袂を分かった現在、マスク氏のごり押しが通用するとも限らない。今後の動向を見守りたいところだ。

■テスラのポテンシャル

数年後には評価が一変するかも?

ただ、テスラがすごくないのは、あくまで現状においてだ。数年後にはその評価が一変しているかもしれない。

テスラの自動運転開発は他社と異なり、一般車両に搭載された「FSD(Full Self-Driving)」をベースとしている。不特定多数のオーナー車両からの走行データを収集・解析し、特定エリアにこだわらずさまざまな道路交通環境に対応可能な自動運転システムを開発している。

一方、先行する各社の大半は、運行エリア内において複数台の実証用自動運転車両を短期集中的に反復走行し、そのエリアに限定する形で精度の高い自動運転システムを構築している。

つまり、先行勢が特定エリアに限定した自動運転開発を進めているのに対し、テスラはより汎用性が高いシステム開発を進めているのだ。技術が一定水準に達すれば、テスラの方が横展開を有利に進めることができる。

ロボタクシーに向けては、テスラもLiDAR搭載車両で実証を行うなど特別な対応を行っていたようだが、サービス車両にはLiDARは見当たらない。あくまで現行通りのカメラ主体のシステムで自動運転化しているのだ。

自家用車の自動運転化で業界に大変革が起こる?

このFSDの進化は、自家用車の自動運転化を意味する。今回のロボタクシー用のシステムが従来のFSDとどのくらい差別化したものかは不明だが、将来ロボタクシーと同等のシステムを自家用車に導入することができる。これは自動車業界に革命をもたらすレベルの進化となる。

マスク氏は、その上で自家用車をロボタクシーとして稼働可能にする構想をしたためている。マイカーを使用していない時、オーナーが望めばテスラのプラットフォーム上でロボタクシーとして稼働させ、運賃収入を得ることができる構想だ。

将来、FSDが一定水準に達すれば、さまざまなエリアで自動運転走行が可能になる。その際、テスラオーナーのマイカーもフリートに追加することができ、移動サービスに大変革が起こる。

現時点では「絵に描いた餅」のような感じで専門家らにこき下ろされることも多いが、今回のオースティンのロボタクシーが成功すれば、状況は大きく変わり始める。現時点では並のサービスだが、ポテンシャルは非常に高いのだ。

テスラの自動運転(Autopilot, FSD)とロボタクシー計画を徹底解説

■【まとめ】オースティンを舞台にミラクルはある?

まとめると、現時点においてテスラは特段すごい存在ではないということだ。先行勢から5年ほど遅れたレベルと言える。

今後の評価は、オースティンでのロボタクシー事業の成否で大きく変わる。無人運行に移行し、比較的短期間でWaymoなどと同等の水準まで精度を上げた場合、評価はうなぎ上りとなることは間違いない。一方、強引に事業展開を進め頻繁に事故を起こすようであれば、投資家の熱も冷め始めるだろう。

マスク氏は、オースティンを舞台にミラクルを起こすことができるのか。今後の動向に要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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