自動運転系IPO、ついにトヨタ出資のMomentaも?2〜3億ドル調達か

自家用車市場も見据えたビジネス展開で勝負



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

中国の自動運転スタートアップMomentaが、米国で新規株式公開(IPO)に向けた申請手続きを進めているという。米ブルームバーグが報じている。

Momentaはトヨタが出資する有力スタートアップの1社として知られており、米調査会社のCBインサイツによれば、時価総額は10億ドル(約1,550億円)でユニコーン企業に数えられている。上場を機にどのような戦略でビジネス展開を図っていくのか。同社の動向に迫る。


■Momenta上場に関する報道の概要

米国市場上場を計画、310~460億円調達

出典:Momenta公式サイト

ブルームバーグの報道によると、2024年5月、事情に詳しい関係者筋の話としてMomentaが極秘に米国でIPOを申請したという。

早ければ2024年中に上場が実現し、2~3億ドル(約310~460億円)を調達できる可能性があるとしている。ただし、関係者らによると協議は進行中であり、発言権を持つ中国企業が米国におけるIPOに反対する決定を下す可能性もあるとしている。

米国市場上場には懸念も

最終的にどのような道をたどるのか予測を付けにくいところだ。同社は2023年にも米国、もしくは香港市場への上場を検討している旨報じられていた。

米国市場への上場を目指す中国企業は少なくないが、近年は思い通りにいかないケースが多い印象だ。米中間の経済摩擦を背景に、何らかの圧力や制限がかかっている可能性がある。


過去、2021年6月にニューヨーク証券取引所に上場した配車サービス大手のDidi Chuxing(滴滴出行)は、上場後間を置かず中国当局からセキュリティ法に基づく審査が入り、アプリの新規ユーザー登録の停止を余儀なくされた上、上場廃止を求められた。最終的にDiDiは同取引所から2022年6月に撤退することとなった。

同時期に米国上場を予定していたPony.aiも計画を凍結したとの報道が流れている。WeRideも2023年12月に米国市場への上場が報じられたが、その後も公式発表はなく、情勢は不透明だ。

ただ、中国内の経済状況も思わしくなく、2022年に中国当局がこれまでの規制強化策を緩和する方向を示し、米規制当局との連携にも言及するなど、海外上場そのものを厳しく規制する気はないようだ。

情報流出の懸念があるものは依然として厳しい措置が取られているようだが、2023年には国外における証券発行や上場に関する管理試行弁法が施行され、国外上場時の規制が承認制から届出制に変更されるなど規制が緩和されている。


米中間の経済摩擦は続いているため不透明な状況は変わらないものの、海外上場の道そのものは残されている。引き続きMomentaの動向に注目したい。

【参考】中国当局の動向については「中国政府が「国外上場」支持、自動運転業界でIPOラッシュか」も参照。

【参考】中国企業の動向については「自動運転、「第2次上場ブーム」待機組に超有力ベンチャーずらり」も参照。

■Momentaの概要

反復アルゴリズムで高効率な開発を実現

Momentaは2016年、自動運転開発スタートアップとして北京で産声を上げた。創業者のXudong Cao氏はマイクロソフトで研究員として技術を積み、センスタイムを経てMomenta設立に至った。

Flywheel(フライホイール)式と称するデータ駆動型アプローチと反復アルゴリズムによるアプローチにより、ルールベースのアルゴリズムと比較し低コストで高効率の自動運転開発を実現しているのが特徴だ。

「Closed Loop Automation(CLA)」により、フィルタリングやラベル付けにおける膨大なデータを迅速かつ効率的に処理することができ、より多くのアプリケーションや運転シナリオに対してアルゴリズムを展開できるようになるという。

オブジェクトベースのストレージシステムと分散データベースを採用し、自動運転に必要なビッグデータの保存や管理、分析を行うとともに、データ収集やデータフィルタリング、モデルトレーニングを進めてクローズドデータループを実現する。

ビッグデータとAI(人工知能)アルゴリズム間のフィードバックループを実現し、より正確で信頼性の高いアルゴリズムモデルを生み出す仕組みだ。

こうした技術をベースに、自動運転レベル4を実現するソリューション「MSD(Momenta Self Driving)」や、量産車に対応したエンドツーエンドの自動運転ソフトウェア「Mpilot」などの開発を進めている。

出典:Momenta公式サイト

ビジネス展開本格化のフェーズへ

同社は以下の3つの開発段階を完了したとしている。

  • ①ビッグデータ、ビッグコンピューティング、モデル最適化プラットフォームの確立
  • ②基盤となるプラットフォームに基づいた知覚、HDマップ、経路計画および経路計画アルゴリズムの開発
  • ③さまざまなレベルの安全で信頼性の高い量産対応の自動運転ソフトウェアの発売

開発を継続しながら、ビジネス展開を本格化させるフェーズに達したようだ。こうした背景からも、上場への意欲が伝わってくる。

量産車向けソリューション「Mpilot」

量産自家用車向けの高度自動運転ソフトウェアソリューションMpilotは、高速道路や駐車場、都市部を含むシナリオをカバーし、ほぼ継続的な自動運転体験を実現するという。

オープンソリューションとして設計されており、OEMが簡単かつ低コストで導入でき、ユースケースに合わせたカスタマイズも可能としている。相互データ共有と高速イテレーション・アップグレードもサポートしている。

2023年4月には、Mpilot Proのリリースを発表している。NVIDIA DRIVE Orinを採用し、LiDARやHDマップを使用することなく基本的なADASとAPA(自動駐車支援)、高度なハイウェイナビゲーションパイロット、アーバンナビゲーションパイロット、アーバンアンドハイウェイクルーズパイロット、パーキングナビゲーションパイロットの各機能を実現したとしている。

2万~4万6,000ユーロ(約340~780万円)の中級車をターゲットとしているようだ。

ロボタクシーをはじめとしたレベル4ソリューションが本格的に利益を生み出すにはまだまだ時間を要するが、こうした量産車向けのソリューションを展開することで開発初期~中期の経営安定化を図ることができそうだ。

資金調達額は12億ドル規模

Momentaは2017年、シリーズB1ラウンドで4,600万ドルを調達したと発表した。NIOキャピタルが主導し、メルセデス・ベンツなどが参加している。2018年のキャピタルラウンドでは、新たにテンセントなども参加し、総額1億2,000万ドルを調達した。

2021年のシリーズCラウンドは、リードインベスターをトヨタ、ボッシュ、SAIC(上海汽車)が担い、総額5億ドルを調達した。その後のC+ラウンドにはゼネラルモーターズ(GM)も加わり、シリーズ総額は10億ドルに達したという。

これまでの資金調達総額は12億ドル(約1,860億円)と推計されている。

【参考】Momentaの資金調達については「中国の自動運転企業Momenta、トヨタなどから5億ドル資金調達」も参照。

上海を中心に自動運転公道実証に注力

Momentaは2018年10月、上海で公道実証許可を取得したと発表した。レベル4自動運転ソリューション「M4U」の開発を加速するとしている。

同社のロボタクシー「Momenta GO」は、2020年に試験運用を開始している。「Flywheel L4」MSDをコアテクノロジーとして搭載している。

トヨタとマッピング領域で提携

2020年3月には、中国でHDマッピング関連の自動運転技術を提供するためトヨタと戦略的提携を締結したと発表した。ビジョンベースのテクノロジーを通じて生成されたHDマップを、トヨタの自動地図作成プラットフォーム(AMP)でアップデートする技術を確立し、AMPの商用化を目指す方針としている。

MomentaのHDマップはカメラベースで構成されており、カメラとGPS、IMUで構成される低コストのセンサーユニットで、10センチレベルの相対精度でマップを自動的に生成するという。

HDマップには交通標識やポール、車線境界線、信号機、道路標示などの豊富なジオメトリ機能が含まれているほか、道路・車線レベルのトポロジーも生成される。さまざまなデバイスに対応した汎用性を備えており、大規模で高効率の商用アプリケーションとして利用できる。

トヨタの協業によって両社の強みを最大限に生かし、量産乗用車とモビリティサービスの完全自動運転の両方を追求していくとしている。

【参考】トヨタとの提携については「中国モメンタ、自動運転向け高精度地図で日本のトヨタと提携」も参照。

SAICやGMも提携深める

Momentaに出資しているSAICはロボタクシーパイロットSAIC Mobility Robotaxisを発表し、2021年12月に上海と蘇州でサービス実証を開始した。

2022年6月に発表した100日間に及ぶトライアルのアンケート結果では、利用者の98%が満足と回答し、80%がリピーターになったという。

また、SAICはアリババなどとの合弁EV(電気自動車)ブランドIM MotorsにMomentaの技術実装を進めている。2023年4月に「IM AD インテリジェント運転システム」を発表し、モデル「L7」を皮切りに実装を開始している。高速道路におけるレベル2、もしくはレベル2+相当の技術を実現しているようだ。

同じくMomentaに出資しているGMは、Momentaとともに中国での次世代自動運転技術の展開を進めている。2023年8月には、GMの中国法人が上海で自動運転公道実証のライセンスを取得したことが発表されている。

BYDと合弁DiPi Intelligent Mobility設立

Momentaと中国EVメーカーBYDは2021年12月、自動運転開発を手掛ける合弁DiPi Intelligent Mobilityを設立したと発表した。

BYD の堅牢なインテリジェントテクノロジーにMomentaの自動運転機能を組み合わせ、乗用車向けのインテリジェント運転ソリューションの大規模実装を加速していくとしている。

■【まとめ】自家用車市場をターゲットに足場を固める?

Momentaも自動運転タクシーの自社開発も進めているが、WeRideやPony.aiなど他社ほど積極的ではなく、量産車向けソリューションに力を入れている印象が強い。

路線としては、グーグル系Waymoなどではなく、インテル傘下のモービルアイに近いのかもしれない。純粋なレベル4開発はまだまだ利益を生み出すフェーズに達しておらず、体力(資金力)が試されるのは周知のところだ。それゆえ、自家用車市場をターゲットに足元を固める戦略は有用と言える。

もちろん、新興勢力が既存の大手自動車メーカーに採用されるのは容易ではないが、EV新興メーカーであれば話が通じやすい。

Momentaの上場計画はどうなるのか。また、同社は今後どのような戦略でシェアを広げていくのか。トヨタとの関係含め、引き続き注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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