自動運転と通信(2022年最新版)

高速大容量・低遅延の安定通信がカギに



出典:NTTプレスリリース

自動運転を実現するための要素技術の1つとして「通信技術」が挙げられる。自動運転システムを構成するAI(人工知能)やセンサー類の働きを最大限有効活用するには、高度な通信技術が必要不可欠となる。

この記事では、自動運転における通信技術の必要性や各社の取り組みなどについて解説する。


■自動運転における通信
遠隔監視・操作システム

多くの自動運転車が搭載する機能の1つに、通信技術を活用した遠隔監視・操作システムがある。走行中の自動運転車が現在置かれている状況をリアルタイムで把握し、必要に応じて操作することが可能なシステムだ。遠隔監視のみのシステムもある。

ドライバーを要することなく無人で走行することが可能な自動運転は、基本的に人間による常時監視や車両操作を必要としない。人間が介することなく自律した走行を行うことこそ自動運転の本質だからだ。

とはいえ、現状の自動運転技術が万能ではないことも事実で、システムの不具合や天候の急変、もらい事故など、さまざまな要因で予定通りの走行に支障が生じる可能性がある。移動サービスであれば、車内の乗員の異変などにも対応する必要があるだろう。

こうした際に役立つのが遠隔監視システムや遠隔操作システムだ。自動運転システムや乗員からの要請に応じて、あるいは任意で遠隔地の管制センターに常駐するオペレーターなどが車両の状況を監視し、必要に応じて対応する。


【参考】遠隔監視システムについては「自動運転と遠隔監視」も参照。


車車間通信や路車間通信

自動運転車は、周囲を走行する車両と通信する車車間通信(V2V)や、交通インフラと情報をやり取りする路車間通信(V2I)によってさまざまな情報を補完し、自動運転の安全性を高める。

V2Vでは、例えば前走車のアクセルやブレーキなどの情報を入手することで自車両をいち早く制御することが可能になり、無駄のないスムーズな走行を行うことができる。この技術を用いた代表例として、トラックの隊列走行が挙げられる。V2Vを活用し、有人の先頭車両に後続の無人車両が隊列をなして追従する仕組みだ。

一方のV2Iは、信号機や電柱などに設置したセンサーや通信機器と車両が通信を行うものだ。交差点における信号情報や走行ルートにおける交通情報、対向車や歩行者などのリアルタイムの情報を入手し、自車両の制御に生かす。

すでに実用化されているVICS(道路交通情報通信システム)もV2Iの一種だが、VICSが一方向の通信しかできないのに対し、V2Iは車両から情報を収集する双方向通信を行うことでより有効な情報提供に期待が寄せられる。死角の情報を得ることもできるため、安全性の向上に大きく寄与する技術となる。

クラウドとの通信

膨大なデータを常時生成・収集しながら走行する自動運転車。そのデータをリアルタイム処理するため高性能なコンピューターが搭載されているが、コンピューターの高性能化がデータのさらなる高度化・増加を呼び込むことになり、効率的かつ効果的なデータ処理が求められている。

この課題を解決する一手法がクラウドの活用だ。遅延なくリアルタイムで処理すべきデータは自動運転車でエッジ処理を行い、タイムラグが許されるデータは一度クラウドに送信し、必要に応じて解析結果を自動運転車に送り返す。エッジとクラウドでデータを分散処理・管理する仕組みだ。

また、自動運転車が生成するセンサーデータなどは、自動運転システムのさらなる高度化に向け非常に役立つデータとなる。こうしたデータを逐一クラウド・サーバーに収集するのも重要な意味を持つ。

■通信に関連する課題
移動通信システムの安定化がカギに

移動体である自動運転車は、当然だが移動しながら通信を行う。一種のモバイル機器のようなものだ。このため、通信システムの主力は移動通信システムとなり、スマートフォンなどと同様LTEや第4世代の4G、第5世代の5Gなどが用いられる。

前述したように、自動運転車は膨大な量のデータを送受信し続けるため、高速大容量の通信システムが必須となる。また、リアルタイム処理が求められる点も多いため、低遅延性も重要視される。高速で低遅延、多数同時接続を可能にする最新の5Gを活用する例が増加しているのはこのためだ。

一方、5Gにも短所がある。通信距離だ。特定の基地局がカバーする通信可能エリアは4Gと比べ狭くなっているのだ。比較的狭い範囲を走行する自動運転車であれば問題ないが、広域にわたって走行するケースでは複数の基地局をまたぐこととなり、大なり小なり通信が不安定となる恐れが生じる。

トンネルの中など通信状況が低下する場面も避けては通れず、いかに全走行ルートを通じて安定した通信を確保するかが1つの課題となる。

なお、柔軟に構築可能な「ローカル5G」を自動運転実証に導入する動きもあり、今後の展開に要注目だ。また、次世代となる6Gに関する研究開発もすでに始まっている。本格実用化は2030年代になりそうだが、その頃には通信速度やインターネットコンテンツなど、さまざまな面でスタンダードが激変していることが予想される。その頃までに自動運転技術がどれほど高度化し、データ通信の在り方がどのように確立されているか、こちらも長い目で注目し続けたいポイントだ。

【参考】6Gについては「自動運転と「6G」、進化はさらに」も参照。

サイバーセキュリティ対策も必須に

コンピューター化の進展が著しい近代において、自動車はかつての機械からコンピューターへと徐々に変貌を遂げつつある。AIが制御する自動運転車はコンピューターそのものとなり、ソフトウェアありきの存在となるのだ。

膨大なソフトウェアで構成され、常時通信を行う自動運転車は、新たな脅威に立ち向かわなければならなくなる。ハッキングやウイルスなどだ。仮に自動運転車が乗っ取られた場合、各種情報のみならず車両の制御系統も奪われることになる。鉄の塊であるクルマの制御を奪われた場合、それは人命に関わる大問題となり得るのだ。

自動運転システムに冗長性が求められるのと同様、セキュリティ対策においても2重3重に多重防御システムを組み、万が一の際にはネットワークから切り離して安全運行・停止できるよう万全の体制を構築しなければならない。

■通信キャリア各社の取り組み
NTT:信号機不要の交通社会を実験
出典:NTTプレスリリース

通信事業を手掛けるキャリア各社も自動運転実現に向けさまざまな取り組みを進めており、各地で行われている実証などに積極参加するほか、通信技術や新サービスの研究開発などにも力を入れている。

NTTは2020年3月、トヨタとの業務資本提携に合意し、スマートシティの実現に向け共同で取り組む方針を示している。トヨタの実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」における各種取り組みをはじめ、スマートシティプラットフォームを共同構築して展開していく構えだ。

2022年5月には、信号機のない街を自動運転車が相互通信しながら走行する「シグナルフリーモビリティ」の実験について発表している。車群から収集したデータをデジタルツインでリアルタイム解析し、車同士が衝突することなく全体の移動時間を短縮する交通の全体最適化を予測する技術だ。

V2I、V2V技術の1つの完成形と言える取り組みで、今後の実証の行方が気になるところだ。

【参考】NTTの取り組みについては「自動運転車、信号機なしで走行!NTTが技術確立」も参照。

KDDI:コネクテッドサポートセンター開設など

KDDIはティアフォーなどと手を組み、コネクテッドサポートセンターの開設や自動運転タクシーの実証、BRT(バス高速輸送システム)における自動運転バスの実証などに参加している。5G通信ネットワークの構築や4G LTE通信ネットワークの整備、遠隔監視装置の通信環境の提供、配車・遠隔監視などの運行管理システムの開発などを担っている。

2020年10月には、6G時代を見据えトヨタとの資本提携関係を強化すると発表している。2022年2月には、自動運転車の位置情報に連動して変化するARコンテンツをスマートグラス上に表示する実証を行うと発表した。5GやXRの知見を活用し、新たな車内エンタメ体験の有効性を検証するという。

ソフトバンクは隊列走行に向けた5G通信技術を確立

ソフトバンクはホンダ技術研究所やSUBARUなどと5Gを活用した共同研究を進めるほか、国のトラック隊列走行実証事業においても5Gの新たな無線方式「5G-NR」を活用し、時速約80キロで走行する3台のトラックを車間距離10メートルで制御する通信技術を確立している。

BRTにおける自動運転バスの技術実証にも参加しており、2021年10月には西日本旅客鉄道(JR西日本)とともに自動運転と隊列走行技術を用いたBRTの実証実験に着手している。

【参考】ソフトバンクの取り組みについては「強みの「通信」で隊列走行も成功!(ソフトバンク×自動運転・MaaS 特集)」も参照。

■通信・コネクテッド関連の団体
5G Automotive Association(5GAA)

自動車分野において5G技術の標準化を図る国際団体で、AUDIやBMW、Daimler(現メルセデス・ベンツ)など8社が2016年に設立した。

5Gによる協調型高度道路交通システム(C-ITS)やV2Xの提供に向け、ステムアーキテクチャやソリューション開発、業界仕様・標準化に向けた各種活動を行っている。

AECC(Automotive Edge Computing Consortium)

コネクテッドカーの実現に必要となる基盤づくりに向けトヨタやデンソー、NTT、インテルなどが立ち上げた共同事業体で、2018年に正式に事業を開始している。

ワイヤレス接続や分散コンピューティング、エッジコンピューティング、クラウドアーキテクチャなどの車両テクノロジー要件に関する技術や規制上の問題解決に向け、研究開発を進めているようだ。

エッジコンピューティング、エッジサーバーを活用する分散コンピューティングの考え方など、自動運転時代に見合った内容となっている。

Japan Automotive ISAC(J-Auto-ISAC)

国内では、コネクテッド時代を見据えサイバーセキュリティリスクの情報共有や分析、サイバーセキュリティ強化を図っていくJ-Auto-ISACが2021年4月に設立されている。

2022年7月時点で会員企業は100社を超えている。セキュリティ対策においては、業界を通じた横の連携も非常に重要となるため、同法人の存在感はどんどん増していくことになりそうだ。

【参考】J-Auto-ISACについては「「つながるクルマ」サイバー攻撃対策で、新団体J-Auto-ISAC設立」も参照。

■一般乗用車のコネクテッド化で通信網強化?

現在、一般乗用車においてコネクテッドカーの普及が大きく進んでいる。車載通信機を搭載し、車両の走行状況などを適時サーバーに送信したり、周辺の交通情報や目的地に関する情報などを受信したりすることが可能になった。

発展系として、一般乗用車におけるV2VやV2Iの開発・実用化なども進んでおり、新たなADAS(先進運転支援システム)として高い期待が寄せられている。

こうしたコネクテッド基盤の確立は、自動運転車にも大いに役立つものとなる。通信網が広域に整備されるとともに、データ送受信に関わるさまざまな技術の確立・高度化につながっていくのだ。

一般的なコネクテッドカーと自動運転車ではデータ通信量に大きな差があるのも事実だが、自家用車からセンサーデータの取得を行う取り組みが徐々に浸透し始めるなど、有効活用に向けた動きが活発化している。自家用車における通信技術やサービスの動向にも注目していきたいところだ。

■【まとめ】通信技術の進化が自動運転実用化に大きく貢献

通信技術が自動運転に必須となるほか、従来の自家用車などもIoT機器と化し、各車が通信を行うことがスタンダードとなっていくことがわかった。

これまで4Gや5Gといった移動通信システム・サービスの主体は携帯電話・スマートフォンだったが、今後はその対象に自動車(自動運転車)も加わり、存在感を増していくものと思われる。場合によっては、衛星通信の活用なども進んでいく可能性がありそうだ。

自動運転技術を支える要素技術として通信技術は必要不可欠であり、その進化・確立が自動運転の実用化に大きく貢献する。引き続き各社の取り組みに注目していきたい。

【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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