自動運転と遠隔監視技術(2022年最新版)

有事対応や効率的なオペレーションに必須



出典:経済産業省・国土交通省プレスリリース(福井県永平寺町における無人自動運転移動サービスの試験運行での遠隔監視・操作室の様子)

自動運転システムの実証・実用化が世界各地で進められている。人間のドライバーに代わりコンピューターが車両を制御する無人化技術で、AI(人工知能)やセンサー類を中心とした自動運転システムに大きな注目が集まっている。

その一方、表舞台にはなかなか出てこないものの、安全性の向上に大きく寄与するシステムも存在する。遠隔監視システムだ。


この記事では2022年7月時点の情報をもとに、自動運転技術の実用化において必要不可欠と言える遠隔監視システムに焦点を当て、その概要に迫っていく。

■自動運転における遠隔監視システム
現場の状況をリアルタイムで通信し、事故やトラブルに即座に対応

遠隔監視システムは、その名の通り遠隔から特定の車両内外の状況を監視するシステムだ。従来ドライバーが担っていた車両の制御をコンピューターが代替する自動運転システムは、移動や輸送といったサービス用途においては完全無人化が要求される。コンピューターによる高度な安全運転とともに、ドライバーレスによる省人化・コスト減効果で事業に継続性を持たせるためだ。

しかし、自動運転システムは現状万能ではなく、事故や故障を100%回避できるものではない。もらい事故をはじめとする予期せぬ事態に遭遇することも考えられる。こうした際、車内にオペレーターがいない自動運転車の管理者サイドは、直ちに対応できないばかりか現場で何が起こったのかを把握することもできない。

こうした際に活躍するのが遠隔監視システムだ。車載カメラなどの映像を遠隔地の管制センターに送信することで、現在自動運転車が置かれている状況や車内の様子などをリアルタイムで知ることができる。


各システムの作動状況なども把握することが可能で、有事の際以外においても、自動運転車が立ち往生した際の原因究明などを行うことができる。

多くの場合、遠隔監視とともに遠隔操作機能も備えており、遠隔地から現場の状況を把握し、必要に応じて車両を遠隔制御することができる。

効率的なオペレーション体制構築にも寄与

こうした遠隔監視システムのもう1つの利点は、1人が複数台の自動運転車両を管理可能にする点だ。効率的かつ効果的な遠隔監視システムを構築することで、1人のオペレーターが同時に複数の自動運転車を管理することが可能になるのだ。

遠隔監視とは言え、1人が1台を管理する状態では「無人化」のメリットが大きくそがれることになる。安全性を担保しつつ、いかに効率的なオペレーション体制を確立するかが自動運転事業のカギを握るが、その要素技術となるのが遠隔監視システムと言える。


将来、自動運転タクシーなどは数十台、数百台規模で運行される可能性が高いが、そうした際により多くの車両を同時に監視可能なシステムの構築が必須となるのだ。

レベル3における遠隔監視システム

自動運転レベル3は、多くの場合ドライバーが車内に常駐し、必要に応じて車両を手動制御する。ドライバー常駐の自動運転システムにおいても遠隔監視システムは有効で、自動運転時の車両の挙動を監視・記録することで、安全確保に向けた冗長性を高めることができるほか、記録したデータをもとに各種検証を行うこともできる。

自動運転技術の実証実験を思い浮かべると理解しやすい。実証の多くはセーフティドライバーが同乗する実質自動運転レベル2~3のものが多いが、基本的に遠隔監視システムを搭載し、実証の様子を随時把握可能にしているケースが多い。そのデータを後日の検証に役立てているのも言うまでもないことだろう。

遠隔技術による車内ドライバーレスのレベル3も登場

遠隔監視・操作システムを活用することで、車内のドライバーを無人化するレベル3システムも実用化されている。遠隔地のオペレーターがドライバーに相当するタスクを担い、必要に応じて運行状況を監視・車両制御する仕組みだ。

レベル3は、自動運転システム作動時においては周囲の状況を常時監視する必要がなくなる。ただ、システムから要請があった際などに直ちに監視を行い、必要に応じて手動制御を行わなければならない。車内のドライバーであれ遠隔地のドライバーであれ、要請があった際にすぐに対応可能な状態で、かつ正常に車両を制御可能であればOKということだ。

もちろん、現行の道路交通法ではドライバーレスで一般公道を走行できないため、遠隔監視によるレベル3走行は専用区間などに限られる。

レベル4でも遠隔監視は必須

ドライバーレスを前提とするレベル4においても、遠隔監視システムは必須の要素技術となる。レベル4はドライバーによる車両の制御が不要で、本質的に監視義務もなくなる。監視義務がないのであれば、遠隔監視システムもいらないのでは?――となりそうだが、事はそれほど甘くない。

移動サービスにおいては、不特定多数の乗客が存在する車内の状況も随時監視する必要があるほか、自動運転車両がもらい事故などを受けた際や、何らかの理由で走行を停止した際などに迅速に状況を把握する必要が生じる。

自動運転車と言えど、事故やトラブルを完全に回避できるものではないため、有事に備え遠隔監視システムが必要となるのだ。特に初期のレベル4においては、実用化後も検証を重ね、さらなる機能の向上を図ることがスタンダードとなる。こうした面においても、遠隔監視システムは存在意義を発揮するのだ。

■遠隔型自動運転システムの例
遠隔レベル3を実現した「ZEN drive Pilot」

遠隔監視・操作システムによるレベル3を国内で初めて実用化したのが、福井県永平寺町に導入されている「ZEN drive Pilot」だ。

同町では、経済産業省・国土交通省の事業のもと自動運転サービスの実装が進められており、事業委託者の産業技術総合研究所のもと、ヤマハ発動機や日立製作所、慶應義塾大学SFC研究所、豊田通商、永平寺町、同町内のまちづくり会社ZENコネクトが研究開発と実証を進めてきた。

2021年3月に遠隔監視・操作型の自動運行装置として国内初となる認可を受け、同月からえちぜん鉄道の廃線跡地を活用した「永平寺参ろーど」の一部区間でレベル3走行を行っている。

車両はヤマハ発動機のゴルフカーをベースにしたもので、最大時速12キロで走行する。あらかじめ道路に敷設した電磁誘導線や位置情報などを記録したRFIDタグを活用し、GPSを交えながら走行経路と自車位置を認識する。また、搭載したカメラやLiDARなどで周辺の監視を行う。

出典:経済産業省

現在主流のLiDARや高精度3次元地図などを活用した自動運転システムに比べればアナログ的だが、その分早期実用化を図ることができる。もちろん、サイバーセキュリティ対策や作動状態記録装置など、レベル3に求められる諸要件をしっかりと満たしている。

遠隔監視・操作システムは車内外を監視でき、遠隔監視・操作室にいる1人のドライバーが3台の車両を監視・操作することができるという。全ての車両が作動継続困難な場合を除き、常時監視が不要となり、遠隔ドライバーの負担は軽減される。また、遠隔ドライバーの状態を検知するシステムも実装されている。

なお、同様のシステムは沖縄県北谷町の観光地でも導入されている。こちらは1人の遠隔ドライバーが2台を運行している。

■遠隔監視システムに求められる要件
NECは通信予測制御技術を活用した遠隔監視ソリューションを開発

遠隔監視システムにおいて課題となるのが、大容量・低遅延を実現する通信技術だ。遠隔監視システムにはリアルタイム性が求められるが、カメラなど複数のセンサーが生成する膨大な量のデータを、随時移動を続ける自動運転車から正確に受け続けなければならない。

通信予測制御技術を活用した車両の遠隔監視ソリューションを手掛けるNECによると、無線通信は同じ周波数を使う利用者の数や車両の移動に伴う電波状況の変動により、リアルタイムに伝送できない課題があり、AIを活用した通信予測制御技術の開発に取り組んでいるという。

通信帯域の変化を予測する通信予測とルールベースのAIによって、複数のカメラから重要な通信を判定し送信データ量や画質を自動最適化することが可能という。

ティアフォーも通信安定化を重視

一方、自動運転ソフトウェア「Autoware」でおなじみのティアフォーは、過去に発表した技術ブログの中で遠隔監視・操縦システムを紹介している。

システムの機能要件として「複数のカメラ映像を低遅延で配信できること」「車両(Autoware)の状態を監視できること」「遠隔から低遅延で操縦できること」「通信状況が悪い、または切れた場合に車両側で安全に停止できること」「複数台の車両映像を複数人で監視できること」「映像を録画できること」を挙げている。

▼ティアフォーにおける自動運転車両の遠隔監視・操縦システムのご紹介|TIER IV Tech Blog
https://tech.tier4.jp/entry/2019/01/22/170032

映像配信においては、低遅延性やビットレートの可変性、高汎用性を重視し、さらにセンター集約型でN対Mの映像送受信に適した「WebRTC SFU」を採用しているという。

制御情報通信でも、映像配信同様レイテンシの小ささと複数台の車両を扱えるスケーラビリティ、データ量の小ささやQoS管理を理由に「MQTT」を採用している。

ティアフォーも複数のカメラ、複数の車両からの通信安定化を考慮していることがよく分かる内容だ。

BOLDLYは運行プラットフォーム「Dispatcher」で遠隔監視を実現

BOLDLYは自動運転車の運行を管理するプラットフォーム「Dispatcher」に、遠隔監視を含む運行管理や安全管理、効率的運用管理を可能にする各種機能を搭載している。

Dispatcherは、車両への走行指示や状態監視、緊急時対応、走行可否判断といった機能を備えている。車内外のカメラ映像を含む車両情報を安全で高速なプロトコルでコンパクト化し、4G LTEでも大きな遅延なくリアルタイムに遠隔監視をすることができるという。

複数車種の自動運転車に対応しており、異なる種類の自動運転車を同時運行する際も同一のUIでオペレーションできる点も魅力だ。

アイサンと東海理化が遠隔監視操作システム開発に着手

アイサンテクノロジーと東海理化は2022年6月、複数台の自動運転車を遠隔監視・操作するシステムを共同開発する契約を交わしたと発表した。

遠隔監視者が車両制御を適切に判断でき、かつ負担を感じない映像表示装置とその撮影装置の開発を行うとともに、車両周辺映像を活用した地図更新情報を習得できる技術開発を行うとしている。

開発に際し、アイサンテクノロジーは映像を活用した地図更新に関わる技術検討や実証実験による地図更新トライアル、地図更新に必要なセンシング情報の要件定義などを進める。東海理化は、試作品の提供や自動運転車両の走行状況を遠隔監視するシステムの構築、 映像取得・表示の内容とレイアウトの検討、地図更新要件に適合する機械学習を用いた画像センシング技術検討などを進めていくという。

■【まとめ】遠隔監視システムが自動運転フリート実現の要に

ティアフォーなどと同様、Waymoなど自動運転システムを開発するほぼ全ての企業は遠隔監視システムを導入している。万が一の際を考慮すれば、完全自動運転となるレベル5が実現しても遠隔監視システムはそのまま搭載される可能性が高い。それほど重要な技術なのだ。

将来的には、1人のオペレーターが数10台規模、あるいは100台超のフリートを管理する運営が求められる可能性が高い。こうした際に遠隔監視システムの重要性が大きく増すものと思われる。

膨大な量のデータを移動車両と送受信し続ける通信技術をはじめ、送受信しやすいようデータを最適化する技術開発などが今後の焦点になりそうだ。

■関連FAQ
    自動運転車に遠隔監視機能は必須?

    自動運転レベルがどんなに高度化したとしても、車両そのものに予期せぬトラブルが発生した場合には、人間が対応しなければならない。そのため、遠隔監視システムは必須だと考えられる。

    自動運転車の遠隔監視システムとはどのような仕組み?

    遠隔監視システムによって細かな機能は異なるが、自動運転車の走行場所の監視や、運転席からの映像ならびに車両周辺の映像の監視、ソフトウェアやシステムの稼働状況の監視、などが挙げられる。「遠隔操作システム」も遠隔監視システムに含まれるケースも多い。

    自動運転レベル2で遠隔監視システムは必要?

    自動運転レベル2はADAS(先進運転支援システム)水準を指し、ドライバーが全ての運転操作の責任を持つ。そのため、遠隔監視システムはレベル2の車両には基本的には導入されていない。ただし、車両にトラブルがあった際の自動通報システムなど、即座に遠隔からサポートを受けられる準備が整っている車両もある。

    日本で代表的な遠隔監視システムは?

    ソフトバンク子会社であるBOLDLY(ボードリー)の「Dispatcher」などが挙げられる。福井県永平寺町に導入されている「ZEN drive Pilot」でも、遠隔監視・操作システムが導入されている。

    Dispatcherの主な機能は?

    遠隔監視を含む運行管理や安全管理、効率的運用管理を可能にする各種機能を搭載している。BOLDLYが3つの特徴として挙げているのは「リアルタイム」「効率化」「安心感」だ。詳しくは「Dispatcher|BOLDLY|ソフトバンク」も参照。

(初稿公開日:2022年7月12日/最終更新日:2022年7月22日)

【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事