自動運転と移動販売(2022年最新版)

RobomartやMobyMart、Neolixなど海外事例が続々



自動運転技術の確立とともに大きく道が拓けていくモビリティビジネス。開発の中心となっている移動サービスやデリバリーサービスなどとともに、今後注目が集まるのが自動運転技術を活用した無人移動販売だ。

この記事では、無人移動販売の事例などについて解説していく。


■無人移動販売の事例
Robomartがストアヘイリングサービスを開始
出典:Robomartプレスリリース

2017年創業の米Robomartは、モビリティを活用した移動販売形式の「ストアヘイリング」に着目し、自動運転車を活用した完全自動の非接触型ショッピングサービスの構築を進めている。注文者のもとに店舗ごと配送する発想だ。

2019年にスーパーマーケットチェーンのStop & Shopとパートナーシップを結び、実証を進めていくことが発表されたほか、RFIDタグを扱うAvery Dennisonや駐車場をはじめとしたオープンスペースプラットフォーマーのREEF Technologyなどと提携し、サービス化を図っている。

現在、カリフォルニア州ウェストハリウッドなどでスナック類を販売する「Snacks Robomart」と医薬品や衛生用品などを販売する「Pharmacy Robomart」をドライバーが運転する車両でサービスを提供している。

スマートフォンで車両を呼び、アプリでドアを開けて商品を選ぶ。購入商品・金額はRFIDにより自動計算・精算される。車両を呼び出す手数料は2ドルに設定されているようだ。


自動運転車両の開発も進んでいるようで、近い将来完全無人のストアヘイリングサービスが実用化される可能性は高そうだ。

▼Robomart公式サイト
https://robomart.co/

Neolixはロボットフリートでコンビニ展開
出典:Neolix公式サイト

自動走行ロボットの開発を手掛ける中国のNeolix(新石器)は、コロナ禍による非接触配送などで注目を集め、大躍進を遂げつつあるようだ。


同車は2021年5月に北京市から公道走行免許を取得し、150台以上のロボットでコンビニエンスストアサービスを展開する計画を発表している。報道によると、すでに飲食や小売りなど100社以上と提携し、北京や上海などでデリバリーや小売りサービスを実施しているという。北京2022オリンピック競技大会の会場近辺でも導入されている。

余談だが、移動販売中のNeolixのロボット同士がやり取りする動画がYouTubeにアップされている。停車して販売中の白いロボットの後方から赤いロボットが近付き、「車の前から離れてください」とアナウンスを発すると、白いロボットが「販売中です。お待ちください」と応答する内容だ。

自動運転車にコミュニケーション能力が求められる未来を予感させる動画だ。

▼Neolix公式サイト
http://www.neolix.ai/

【参考】Neolixの取り組みについては「自動運転コンビニ、中国Neolixが150台超展開へ!北京が免許交付」も参照。

車輪付きのフルサービスコンビニ「Moby Mart」
出典:Wheelys公式YouTube動画

スウェーデンのWheelysや中国の合肥大学などが共同開発を進める自動運転モバイルストア「Moby Mart」もその取り組みに注目が集まる。

店舗は大型バスほどのサイズで、モビリティとは思えない近未来的なデザインだが、よく見ると車輪がついている。車輪付きのフルサービスコンビニを低速自動運転で動かすようなイメージだ。

カフェチェーンを展開するWheelysは2016年、スタッフレスストアシステムの開発を手掛けるNäraffärを買収するなど無人販売領域に力を入れており、Moby Martのベータテストも2017年に上海で開始している。

その後の展開は情報不足のため不明だが、Wheelysは当時複数のシステムについて特許を出願しており、開発の火はまだ消えていないものと思われる。

三越伊勢丹などの移動型コンシェルジュショップ

国内では、三越伊勢丹と三井物産、リアルゲイトが2021年7月、自動運転車「SC-1」とトレーラーハウス型モビリティ空間を活用した移動型コンシェルジュショップの実証を行っている。

SC-1は、ソニーとヤマハ発動機が開発したエンターテインメントモデルで、実証ではソニーの映像技術を利用して買取・引取サービスなどの接客サービスを提供する予定としている。

実証において自動運転機能を活用する場面はなかったものと思われるが、無人車両においてモニターを通じた接客サービスを提供する手法も可能性が広がっていきそうだ。

【参考】三越伊勢丹らの取り組みについては「確実にやってくる移動型店舗ブーム!自動運転×ビッグデータで収益最大化」も参照。

■移動販売に適した自動運転モデル

中国AutoXのように、自動運転タクシーを活用してデリバリー実証や移動販売の実証を行う企業なども存在する。ただ、自家用車タイプの場合販売スペースが限られるため、移動販売においてはバスタイプなど比較的大きなボディサイズが望まれるところだ。

ここでは、移動販売に適した自動運転モデルを紹介していく。

トヨタe-Palette
出典:トヨタ公式YouTube動画

トヨタが開発を進めるモビリティサービス専用EV(電気自動車)「e-Palette(イー・パレット)」は、最大20人ほどが乗車できるシャトルバスをはじめ、ライドシェアリング仕様やホテル仕様、リテールショップ仕様など、サービスパートナーの用途に応じた設備を搭載することが可能だ。

イーパレットは技術見本市「CES 2018」での初期発表時、荷室ユニット数に応じて全長が異なる計3サイズが用意されているとされており、車体プラットフォームとしてはサイズ面でも柔軟に対応可能になりそうだ。移動販売用途で考えれば、利用者が乗車して車内で商品を見渡せる小型コンビニクラスの販売ができそうだ。

日本経済新聞の過去の報道によると、トヨタはセブン-イレブン・ジャパンと自動運転車による移動コンビニ事業の可能性について協議を始めたことが2018年に報じられている。

今のところ、イーパレットは東京2020オリンピック・パラリンピックの選手村で移動用途での実用実証が行われたほかは、主だった取り組みは行われていないが、今後移動サービスをはじめさまざまな活用方法を模索する実証が大きく前進するものと思われる。今後の取り組みに要注目だ。

Zooxの取り組み

米Amazon子会社の自動運転開発企業Zooxにも注目だ。同社は2020年末、自社開発したオリジナルのロボタクシーを発表しているが、そこで培った技術を移動販売に応用する形式だ。

同社は当面人の移動に焦点を当てたビジネス展開を進めていく計画だが、親会社であるアマゾンの存在を考慮すると、将来的には商品配送をはじめ、無人コンビニ「Amazon Go」の自動運転バージョンの開発が行われても不思議ではない。アマゾンが単純な出資ではなく同社を買収した思惑を深読みすると、こうした新たな展開が水面下で進んでいる可能性も否定できないはずだ。

▼Zoox公式サイト
https://zoox.com/

上下分離型・モジュール方式の自動運転車にも注目
出典:日野自動車プレスリリース

自動運転機能を搭載した車体プラットフォームに、モジュール方式で居室・荷室空間を乗せる自動運転開発にも注目したい。

自動運転や動力を備えたシャーシモジュールの上に、用途に応じた設計された専用のサービスモジュールを着脱することで、柔軟にさまざまなサービス展開を可能にする試みだ。こうした車体を活用すれば、無人移動販売専用モデルも容易に構築することができる。

国内では、日野がEV車体プラットフォーム開発を手掛けるイスラエル企業REE Automotiveと提携し、モジュール構造の次世代商用モビリティの開発に取り組んでいる。

サービスモジュールは、ニーズに合わせさまざまな提案を可能とするほか、シャーシモジュールは自動運転にも対応するという。

海外では、独フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツなどが同様にモジュール方式の自動運転コンセプトモデルを発表している。

自動運転サービスが多用化する将来、上下分離型の自動運転ビジネスが大きく花を咲かせることになりそうだ。

【参考】関連記事としては「日野とREE、上下分離型の自動運転コンセプトを具現化へ!」も参照。

■無人移動販売に求められる技術

自動運転車による無人移動販売の要素技術は、大きく三つに分けられる。自動運転技術、無人販売技術、移動販売技術だ。

自動運転関連では、自動運転技術はもちろん移動販売に適した荷室空間の設計が求められる。限られた空間をどのように有効活用するか、揺れや衝撃をどれだけ緩和できるか、また冷蔵や冷凍、保温など販売する商品に合わせた機能をどこまで搭載できるかなどが求められる。

無人販売技術では、Amazon Goのような無人販売技術をどのように応用できるかがカギになりそうだ。RFIDなどで個々の商品を管理するほか、誰が商品を買ったのかを確実に識別する技術が必要になりそうだ。

移動販売技術では、いつどこで何を売ればビジネスが成立するかといったマーケティングの観点が重要になる。低コストに抑えられる無人移動販売でも、闇雲に走行して販売していては当然赤字に陥るからだ。

オンデマンド方式のほか、蓄積した過去のデータから多くの需要を見込める機会をピンポイントで見出す技術が重要となる。

これらの技術は一般的に分離しているため、すべての技術を有する単一の事業者はまずいない。さまざまな企業が専門技術を持ち寄り、パートナーシップを組むことがビジネス化への第一歩となりそうだ。

■【まとめ】自動運転環境の確立とともに無人移動販売実証も加速

自動運転技術の高度化と公道走行環境の整備が大きく進展し始めており、今後自動運転モビリティを活用した移動販売実証も加速していくものと思われる。

自動運転開発企業と小売企業などのパートナーシップとともに、どういった販売形態でビジネス化を進めていくのか、さまざまな観点から要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転時代のサービス」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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