自動運転と中国の一帯一路、無人トラックが超広域物流で活躍

技術開発を中国政府が後押し、自動運航船も



中国主導のもと、ユーラシア大陸で進められている「一帯一路」。大陸を網羅する陸路・海路を整備し、人の移動やモノの輸送を高効率化し広域経済圏を形成する一大プロジェクトだ。


陸路の総延長は1万キロを軽く超える規模となる。島国の日本からすると、途方もない移動距離に感じるが、こうした遠距離移動と相性が良いのが自動運転技術だ。将来、無人化技術が陸路・海路ともに導入され、より効率的な移動を実現していく可能性が高い。

この記事では、一帯一路の概要とともに、中国で開発が進められている自動運転技術について解説していく。

■一帯一路の概要
陸路と海路で中国と欧州を結び広域経済圏を形成

一帯一路は、習近平国家主席が肝いりの政策として2013年に発表した巨大経済圏構想で、中国から欧州、ひいてはアフリカに至るまでを陸路と海路で結び、広域経済圏を形成する一大プロジェクトだ。正式名称は「シルクロード経済ベルトと21世紀海洋シルクロード」で、現代版シルクロードと称されることもある。

当初、陸路は中国西安から中東・ロシアを経由してイタリアのベネチアまでを結ぶ1本のルートだったが、現在は欧州・ユーラシア大陸を東西に貫く2本のルートと、そこから東アジアや東南アジアなどに伸びるルートなどが追加され、計6本の陸路が設定されているようだ。


一方の海路は、南シナ海~ベンガル海~アラビア海~紅海~地中海のルートをメインに、北極海航路なども検討されている。

出典:首相官邸(※クリックorタップすると拡大できます)
中国~欧州間の物流需要の担い手に

もともと中国~欧州間は経済的利点から陸路における物流需要などが高く、同様の構想は以前からたびたび持ち上がっており、2011年には中国国営の中国国家鉄路集団とドイツ鉄道、ロシア鉄道が欧州と中国を結ぶ貨物列車「トランス=ユーラシア・ロジスティクス(中欧班列)」が運行を開始している。

同列車は一帯一路でも中核的存在に位置付けられ、運行本数は2011年の17本から2013年に80本、2016年に約1,700本、2018年に約6,300本、2020年に1万2,400本、2021年には約1万5,000本と大きな伸びを見せている。

中国の各都市と欧州の各都市をおおむね2~3週間かけて走行している。島国の日本からすると、とんでもない日数に思われるかもしれないが、海上輸送の場合は2カ月ほどを要するため利便性は高い。


日本は第三国市場協力の立場

日本との関連性の観点では、日本と欧州間で輸送を行う際も海上輸送は2カ月を要するため、一度中国に海路・空路で輸送し、そこから陸路で輸送するケースは少なくないようだ。

物流の観点から見ると一帯一路は日本にとってもメリットがあり、日本政府も第三国市場協力という形で協調路線をとっている。

物流の効率化に自動運転技術が貢献

かつて日本がけん引していた造船市場は様変わりし、1990年代に韓国、2000年代に中国が台頭し、現在では中国・韓国がシェア1位を競い合う状況が続いている。リーマンショック後に世界の造船需要は激減したものの、コロナ禍を契機に再びコンテナ船の需要が伸びているようだ。

経済の影響を受けるものの物流需要がなくなることはない。今後は、より高効率な輸送をいかに実現するかが重要となりそうだ。

その手段の1つが、自動運転技術だ。海路を自動運航船、陸路を自動運転トラックなどが運行することで、長距離輸送における無人化や省力化を実現することができる。なお、陸路の中心は鉄道だが、将来道路網も整備され、自動運転トラックなどが活躍する日が来るはずだ。

中国は国策のもと自動運転技術の開発を進めており、近年における技術の進化は目覚ましいものがある。以下、中国系企業の取り組みを見ていこう。

■中国の自動運転トラック開発企業
Plus:一帯一路を見越したような取り組み多数

Plusは中国における自動運転トラック開発の代表格で、さまざまな車体プラットフォームに対応可能な自動運転システム「PlusDrive」の開発を進めている。

第一汽車集団と共同開発した自動運転トラック「J7L3」は中国内15万キロの高速道路をすべてカバーしており、すでに2021年に生産を開始している。

過去、青島港や3000キロ超に及ぶ蘇州~敦煌間における自動運転実証などを行っているほか、2021年12月にはCNHインダストリアル傘下のIVECOと共同で欧州におけるパイロットプログラムを実施すると発表している。

港湾からシルクロード、果ては欧州での実証と続いており、一帯一路を見越したような取り組みを進めている印象だ。

▼Plus公式サイト
https://plus.ai/

TuSimple:米国で高い実績

TuSimpleはPlusと並ぶ代表格の一角だ。米サンディエゴに本拠を構え、米国内での活躍が目立つが、2021年4月に米ナスダック市場への上場を果たし、アリゾナ州の高速道路でドライバー不在の無人自動運転の実証に成功するなど、高水準の技術を有している。

米国で実績を積み上げ、満を持して中国で事業展開を本格化させる可能性があり、今後の動向に要注目だ。

▼TuSimple公式サイト
https://www.tusimple.com/

相次ぐスタートアップの参入

このほかにも、スタートアップが続々と頭角を現し始めている。2018年設立のInceptio Technologyは、2020年4月に1億ドル(約115億円)、同年11月に1億2,000万ドル(約138億円)、2021年8月に2億7,000万ドル(約311億円)と次々と資金調達を成功し、自動運転システム「Xuanyuan」の開発を加速している。

▼Inceptio Technology公式サイト
https://en.inceptio.ai/

2017年設立のTrunk Techは、2021年7月に北京市から商用車の自動運転走行ライセンスを取得したことを発表し、自動運転システム「Trunk Master」の開発を進めている。同年11月には、新たな資金調達ラウンドで数億元(数十億円~)を取得したと発表している。

▼Trunk Tech公式サイト
https://www.trunk.tech/

2017年設立のFABU Technologyは、ADASやレベル2~4に対応したフルスタックのソフトウェア・ハードウェアプラットフォームの開発を進めている。2021年9月までに1億元(約18億円)の資金調達ラウンドを実施したことを発表した。

▼FABU Technology公式サイト
http://www.fabu.ai/en/

自動運転トラックやシャトルの開発を手掛ける2016年設立のWestwellは、2021年11月に複数用途に利用可能な自動運転プラットフォーム「Qomolo One」を発表したほか、バッテリー交換式の無人EVトラック「Q-Truck」の量産化なども進めているようだ。

▼Westwell公式サイト
https://www.westwell-lab.com/index.html

2020年設立のSENIOR(斯年智駕)は、港湾のスマート化を目的にドライバーレスソリューションやオペレーションの開発を進めている。このほか、2021年7月設立の千掛科技や、同年11月設立のQingtianTruck Technologyも相次いで資金調達を発表するなど、新規参入と投資はまだまだ続いているようだ。

▼SENIOR公式サイト
http://www.senior.auto/

自動運転タクシー系企業も続々参入

Pony.aiやWeRide、AutoXといった自動運転タクシーで先行するスタートアップも、それぞれ自動運転トラックの開発を進めている。Pony.aiはトラック事業のブランド「PonyTron」を2021年に立ち上げ、中国物流大手のSinotransと設立した合弁のもと、2022年初頭にもインテリジェントなフリートの運用を開始するとしている。

中国系の自動運転開発企業の多くはスタートアップで、さまざまな車体プラットフォームに搭載可能なシステム開発が主流となっている。その意味では、自家用車で培った技術をトラックに応用していくのも自然な流れと言えそうだ。

▼Pony.ai公式サイト
https://pony.ai/
▼WeRide公式サイト
https://www.weride.ai/
▼AutoX公式サイト
https://www.autox.ai/ja/index.html

■自動運航船に関する取り組み

人民日報によると、山東省青島市の海域で2021年9月、自動運航コンテナ船の海上試験が行われたようだ。青島港はスマート化を推し進めており、無人ターミナル実現に向けた取り組みを加速させている。実証で使用された船には、自動運航や遠隔操縦、航路のプランニング、障害物回避、自動停泊、自動出港などさまざまな機能が搭載されているようだ。

民間では、2010年設立のZhuhai Yunzhou Intelligence Technology(雲州智能)が無人船の産業ソリューションの研究開発に焦点を当てており、これまでに環境監視無人船や海洋調査無人船、セキュリティレスキュー無人船などを発表している。2015年には、揚子江水路整備プロジェクトの一環で、水中地形図の作製なども行ったようだ。

2019年には、珠海市政府などとともに進めてきた小型無人貨物船プロジェクトで開発した「筋斗雲0号」の初航行を実施している。自動運航用に1000メートル以上に渡るケーブルを敷設したそうだ。

比較的小型のボートが開発主体と思われるが、テクノロジー企業ならではの発想で将来大型の外航船などに応用可能な技術を実現する可能性も考えられる。

▼Zhuhai Yunzhou Intelligence Technology公式サイト
http://www.yunzhou-tech.com/

■【まとめ】自動運航船が造船シェア奪還のカギに?

自動運航船関連では、中国に対抗しようと韓国造船大手のサムスン重工業も自動運航船の開発に力を入れているほか、日本も2025年をめどに一定レベルの自動運航船を実現する計画を推し進めている。自動運航船が、次代の造船シェア奪還のカギを握る可能性は高そうだ。

自動運転トラック関連では、中国企業の躍進が著しい。一帯一路を契機に長距離用途の自動運転トラック開発や実用化がますます加速することも考えられるため、今後の動向に引き続き注目していきたいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事