自動運転、しかも無料!タクシー無料化は4つの収益源で実現

広告収入、データ販売、貨客混載……



出典:Waymo公式サイト

米国や中国で実質的な商用化が始まっている自動運転タクシー。ドライバーを必要としない無人化のインパクトは、イノベーションの観点で大きく取り沙汰されることが多いが、もう1つ注目すべき点がある。移動コストの低下だ。

ドライバーにかかる人件費をカットすることで、従来の移動サービスは劇的に収益性を増す。場合によっては、無料化への道も開かれていくのだ。


この記事では、自動運転タクシー無料化の可能性を探っていく。

■自動運転タクシーにかかるコスト

自動運転タクシーにかかるコストに関しては、米調査会社のARK Investmentが2019年に発表した「BIG IDEAS 2019」が興味深い。このレポートによると、消費者が1マイル当たりの移動に支払うコストは、従来のタクシーが3.5ドルであるのに対し、自動運転タクシーは約13分の1の0.26ドルになるという。

米EV(電気自動車)大手テスラも同様の試算を発表しており、ライドシェアに自動運転を導入することで、1マイル当たりの運営コストは10分の1以下の0.18ドルに下がるとしている。

一方、コンサルティング大手のアーサー・ディ・リトル・ジャパンが作成した「モビリティサービスの事業性分析(詳細版)」では、ロボタクシー事業における車両関連コストが仮に従来の10倍程度になっても、ドライバーの人件費がゼロになれば収益性が向上し、営業収益は従来の1%から26%に大幅に改善すると試算している。


従来のタクシー事業における人件費率は相当高く、仮に自動運転の導入によってイニシャルコストが大幅に上がってもペイできるということだ。

上記のように、10分の1の運賃で運営が成り立つと仮定した場合、あと一歩努力すれば「無料化」を実現できるのではないだろうか。

下記では、この「あと一歩」の可能性を追求してみた。

【参考】自動運転タクシーのコストについては「自動運転技術が東京〜大阪間「1万円タクシー」を実現する」も参照。アーサー・ディ・リトル・ジャパンの調査については「【資料解説】タクシー、自動運転化で「営業収益が25%向上」」も参照。


■無料化への道その1
広告収入で乗車料金を無料化

タクシーにおける広告の歴史は古く、車内ステッカーやアドケースを活用した広告媒体は誰もが一度は目にしているのではないだろうか。このほかにも、行灯広告やボディステッカー・ボディラッピングなど、走る広告塔としても活用されている。

近年は、キャッシュレス決済用途でデジタルサイネージを搭載するタクシーが増加しており、このサイネージを活用した映像広告がシェアを拡大しつつある。

スマートフォンアプリを活用したタクシー配車サービス大手は軒並みデジタルサイネージ広告を事業化しており、配車サービスの導入とともに浸透しているようだ。

自動運転タクシーもこうした広告媒体を引き継ぐことが可能だ。配車アプリやキャッシュレス決済などデジタル化が前提となっている可能性が高く、デジタルサイネージやスマートフォンを活用したさまざまな広告手法が生み出されることも考えられる。

デジタル化の観点では、例えば車内カメラによる画像認識で乗員の年齢や性別などを識別し、ターゲットごとにより高い効果が望めそうな広告を配信することもできるだろう。また、走行エリアや目的地別といったターゲティングを行うこともできる。

個人情報やプライバシーへの配慮は必要だが、将来的にはAI(人工知能)を活用し、エリアや目的地、乗員の種別などを自動で解析して広告配信するサービスなども出てきそうだ。

配車サービスで無料化に取り組む事例も

ネット大手のDeNAは2018年12月、新たな移動体験を実現する取り組み「PROJECT MOV」の一環として、乗客の利用料金が無料となる「0円タクシー」を運行した。契約スポンサーと配車アプリ「MOV(現在はGOに統合)」の広告宣伝費によって乗車料金を無料にする、画期的なフリービジネスモデルだ。

また、「移動を無料に」をコンセプトに据えた企業も登場している。2018年設立のnommocは、移動サービスを「移動する新しい広告媒体」と位置付け、広告効果を最大限引き出すことで乗車料金を無料にする取り組みに力を注いでいる。

こうしたビジネスモデルが現行のタクシーで可能であれば、自動運転タクシーに導入した際は無料どころかお釣りが発生するかもしれない。進化を遂げる広告ビジネスは、自動運転時代にも存分にその効用を発揮しそうだ。

【参考】デジタルストレージについては「注目の新広告枠…タクシー内テレビの仁義なきシェア戦い」も参照。無料タクシーについては「あの「無料タクシー」の仕組みを暴く!広告モデルで実現、YouTubeと一緒?」も参照。

■無料化への道その2
走行で得られる各種データを販売

自動運転車は、カメラやLiDARといった車載センサーが取得したデータを基に障害物や道路の状況などを検知・解析し、無人走行を実現する。走行中の自動運転車は、常時膨大な量のデータを生成しているのだ。

また、多くの自動運転車が利用する高精度3次元地図は、こうした走行車両のデータを基に作製される。一度完成すれば終わりではなく、定期的に情報を更新し、常に最新の状態に保つことが肝要になる。

さらに、車両のプローブ情報を基に、リアルタイムの道路交通情報を生成し、効率的かつ安全なルーティングに役立てる試みなども進められている。

このように、走行する車両が生成するデータには価値があるのだ。データ収集用の専用車両のほか、近年は一般乗用車などが生成するデータにも注目が集まっており、こうしたデータビジネスが本格化の兆しを見せている。

ただ、自家用車の場合、データの取り扱いについて逐一オーナーの承認を得なければならず、自動車メーカーや販売業者以外の第三者はなかなか手を出しづらい。

しかし、タクシーの場合、タクシー事業者と契約を結べば、一定エリア内を不規則に走行する複数のタクシーからさまざまなデータを得ることができる。走行距離・走行時間とも多く、豊富なデータが常に生成されている。

既存のタクシーをはじめ、自動運転タクシーはこうしたデータに自ら付加価値を付け、データソリューションとして販売することも将来的には可能になるかもしれない。走り続ければ続けるだけ収益を生む、貴重な収入源となる。

ドラレコ映像の活用も

プローブ情報をめぐっては、ヤフーが2018年、ドライブレコーダーの動画データをAIで解析し、ガソリンスタンドのガソリン価格や駐車場の満空情報といった道路沿いの視覚情報をテキスト化する実証実験を開始している。

また、タクシー配車サービスを手掛けるMobility Technologiesは、タクシーにまつわるデータを「JapanTaxi Data Platform」として集積・分析し、現在と未来の生活をより良くするための研究やソリューション提供を行なっている。

すでに日本交通の一部タクシー車両を活用し、位置情報や営業ステータスなどに基づいた渋滞分析や交通需要予測をはじめ、ドラレコのデータから道路状態や走行車両検知などを行う研究開発を進めている。

トヨタグループのウーブン・プラネット・グループは、ドラレコから高精度3次元地図を生成・更新する技術開発を進めている。

■無料化への道その3
貨客混載や空き時間を有効活用

自動運転タクシーは、人の移動に限らず、モノの輸送にも利用できる。オンデマンドで人を乗せ、目的地に移動するシステムは、オンデマンドでモノを乗せ、目的地に運ぶシステムと基本的に同一だからだ。

海外では、中国の自動運転スタートアップPony.aiなどが自動運転車を配送用途に活用する取り組みを進めている。韓国ヒュンダイと米Aptivの合弁会社であるMotionalも米Uberと手を組み、配送向けに改造した自動運転タクシーで2022年中にUber Eatsの宅配を行う計画を発表している。

宅配予定時間に余裕があれば、貨客混載も可能かもしれない。客を運びつつ、最適ルートで荷物も目的地に運ぶことができれば、収益性は間違いなく向上する。

また、タクシー利用者が少ない時間帯などをAIが判断し、その時間を配送で有効活用するケースなども考えられる。

国内では、旅客自動車運送事業者と貨物自動車運送事業者は明確に区別されており、基本的に両者を兼用することはできない。

しかし、過疎対策の一環として条件付きで規制が緩和されたほか、コロナ禍のデリバリー需要に対する特例措置として貨客混載が認められたケースなどもある。こうした実績をもとに、将来自動運転タクシーによる貨客混載が認められる可能性も十分考えられるだろう。

【参考】自動運転デリバリーについては「自動運転車で配送!トヨタ出資のPony.ai、米カリフォルニア州で導入 新型コロナ対策」も参照。自動運転車による貨客混載については「「究極の貨客混載」は自動運転タクシーで実現する」も参照。

■無料化への道その4
利用者以外の受益者が料金を負担

自動運転タクシーの乗車料金は、受益者である利用者が負担するのは言うまでもないことだが、見方を変えれば移動サービスの受益者はほかにも存在する。地域でビジネスを行う事業者たちだ。

自動運転タクシーの実用化により人の往来が増えれば、飲食店や小売りをはじめとした商店街などにも好影響を及ぼす。つまり、地域の事業者たち自らが乗車料金相当額を負担し、自動運転タクシーを運営するのだ。無料化により増加した自動運転タクシーの利用者を、各店の顧客に変えていくビジネスモデルだ。

分かりやすい例は、無料のシャトルバスを運行している郊外型の大型スーパーやショッピングセンターだ。買い物の足を無料で提供し、自店の売り上げに結び付けている。

■【まとめ】移動サービスに対価を求める時代は、自動運転の実用化で終結する

現実問題として無料化への道は険しいことに違いないが、広告費や多目的利用による収益に加え、地域活性化を見据えて商店街組織などが本気でビジネスモデルを構築していけば、決して不可能な道ではなくなるはずだ。

移動サービスとその対価(乗車料金)という従来のビジネスモデルから脱却し、より広い視野で移動サービスを見つめ直すことで、自動運転時代の新たなビジネスが次々と誕生することになりそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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