「究極の貨客混載」は自動運転タクシーで実現する

フードデリバリータクシー登場からの考察



新型コロナウイルスの感染拡大を機に、全国各地のタクシー事業者が有償貨物運送に乗り出した。いわゆる貨客混載の取り組みで、国の特例に伴う時限措置であるものの、見方を変えれば業界に新たな可能性を感じさせる事例であり、将来の自動運転タクシーにつながるサービスとも言えそうだ。







全国各地で広がるタクシーデリバリーなどの取り組み事例を紹介しながら、貨客混載は将来自動運転タクシーの登場で本格化する理由について解説していこう。

■日本における貨客混載
貨客混載は2017年に規制緩和

人とモノの輸送を担う貨客混載は、乗り合いバスで一部貨物を運送する場合を除き、旅客自動車運送事業者と貨物自動車運送事業者は明確に区別され、同一の車両・運転者が同時に両方を掛け持ちすることはできなかった。

しかし、国の過疎対策の一環で人流・物流サービスの持続可能性を確保するため、2017年9月から両事業の許可をそれぞれ取得していれば、乗合バスについては全国で、また貸し切りバスやタクシー、トラックについては過疎地域において、一定の条件のもと事業の掛け持ちを行うことができる措置が講じられた。

これにより、同一の車両・運転者・運行管理者などで人とモノの輸送サービスを提供することが可能になり、タクシーにおいては、旅客が乗車する場所に積載できる貨物の重量として「(車両乗車定員数-乗車人数)×55キロ」、及びトランクなど乗車スペース以外を使って積載する場合は「20キロ×乗車定員」を加えるなど規定されている。

この措置により各地で貨客混載を実証する取り組みが少しずつ産声を上げ始めた。2019年4月には、佐川急便とJR北海道、天塩ハイヤーが北海道稚内駅~幌延駅間約60キロの路線において、駅間の輸送をJR北海道、幌延町における配送を天塩ハイヤーが担う貨客混載事業を本格稼働させている。

緊急事態宣言(新型コロナウイルス)に伴う時限措置

今回の措置は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け飲食業の店内営業自粛が行われている一方、飲料・食料などのテイクアウトやデリバリーなど配送に係るニーズが増加していることを受けて講じたものだ。

自家用自動車の有償運送の例外を規定した道路運送法第78条第3号(公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき)に基づき、緊急事態宣言期間に調整期間を加えた5月13日までの時限措置として、タクシー事業者が国土交通省の許可を受けた上で有償による貨物運送を行うことを特例的に認めることとした。

飲食業界からのデリバリーニーズと、外出自粛によって苦境に立たされているタクシー業界のニーズがマッチしたようで、貨客混載の取り組みは全国各地に一気に広がった。

今後、緊急事態宣言の再度の発令や独自自粛の風潮などにより、期間が延長される可能性もありそうだ。

■日本国内での展開事例
日本交通が都内のタクシーデリバリー第1号に
出典:日本交通プレスリリース

日本交通は2020年4月25日、中国料理の「富麗華(ふれいか)」とステーキハウスの「ウルフギャング・ステーキハウス」のデリバリーを順次開始した。都内では第1号の許可という。

配送エリアは東京23区、武蔵野市、三鷹市で、料理代金のほかデリバリー代が必要。配送手数料は一般には商品金額に対する率で決まるが、タクシーは距離と時間から決まるため、高い商品でも一定の配送コストに収まる利点や、提供可能エリアが広くプロドライバーが配送する安心感などをメリットに挙げている。

福岡西鉄タクシーもウルフギャングと協力

福岡西鉄タクシーは5月2日からウルフギャング・ステーキハウスのデリバリーサービスを開始したようだ。配達エリアは福岡市博多区・中央区で、配送料金は2090円としている。

電脳交通はコールセンター活用したデリバリーサービス実証に着手

クラウド型タクシー配車システムの開発を手掛ける電脳交通は、徳島市で5月7日からシステム・コールセンター「電脳デリ」を活用したタクシーのフードデリバリーサービスの実証実験を開始した。

飲食店にデリバリーの注文が入ると、飲食店が電脳デリコールセンターに配達日時やお届け先情報を伝え、協力可能なタクシー事業者の車両に対しシステムを通じて配送指示を送る仕組みだ。

テイクアウトグルメ情報を集めた「お持ち帰りデリ・とくしま」の運営事業者と連携し、参画店舗を募集している。

配送可能エリアは徳島市全域で、料金は定額エリア内が800円均一、定額エリア外はタクシーメーター料金としている。

守山タクシーはデリバリーや「おたすけタクシー」事業も

滋賀県守山市を本拠にする守山タクシーは、外出自粛生活を支援する「おたすけタクシー」事業を展開している。食料品や日用品買い物の代行をはじめ、薬の受取代行、テイクアウトや購入した物品の受取り代行、宅配便、バッテリー上がり時のバックアップなど多岐に渡るサービスを実施中だ。

料金は、買い物場所到着時点や受取場所到着時点などから引き渡し場所のメーター額などメニューによって異なる。飲食店様配達サービスも行っており、5月4日からはドリームフーズが県内で2店舗運営する「ちゃんぽん亭総本家」と協力し、デリバリーサービスを開始している。

配達料金は~1.5キロ500円、~2.5キロ1000円、3.5キロ1500円など。

Mobility Technologiesは出前館と連携

逼迫する出前サービスの配達機能の拡充と需要が減少するタクシーの有効活用を目的に、タクシーアプリ「JapanTaxi」や「MOV」を運営するMobility Technologies(旧JapanTaxi)は日本最大級の出前サービスを展開する出前館と、配達ニーズとタクシー事業者のマッチングに向けた業務提携を締結した。

この業務提携により、配達機能を持たない飲食店に向け出前館が提供する配達代行サービス「シェアリングデリバリー」における配達方法のひとつとして、Mobility Technologiesと提携しているタクシー事業者の中から有償貨物運送許可を取得している日の丸交通、アサヒタクシー、新大阪タクシー、東京・日本交通などの一部車両が配達業務を担う。

エリアは東京、神奈川、大阪の一部エリアで、順次サービスを展開していく予定としている。

なお、Mobility Technologiesはコロナウイルスに対し独自の取り組みを展開している提携タクシー会社一覧も公表している。北海道の函館タクシーや東邦交通、金星自動車から熊本県のつばめタクシーまで28社・協会がデリバリー事業などに着手しているようだ。

Uber Eatsもタクシー会社と連携へ

タクシー配車サービスなどを手掛けるUberの日本法人は、Uber Eats(ウーバーイーツ)とUber Taxiを掛け合わせた取り組みを開始した。

ウーバーイーツは自転車などでフードデリバリーサービスを行うサービスで、「自動車」を用いないため道路運送法や貨物自動車運送事業法の対象外とされている。

一方、Uber Taxiパートナーのフジタクシーグループは独自に地域店を対象にデリバリーサービスの提供を開始しており、改めてUber Eatsと協働し名古屋市内でタクシーを活用したデリバリーサービスに着手したようだ。

会津乗合自動車「おつかいタクシー」

福島県の会津乗合自動車は、買い物代行サービス「おつかいタクシー」を実施している。配送地域はあいづタクシー営業エリアで、料金目安は最初の10分間900円、その後10分を超えてからは10分ごとに700円を加算する。

市原ベイタクシー「べんりタクシー」

千葉県の市原ベイタクシーは、救援事業として以前から「べんりタクシー」事業を行っているようだ。救援タクシー事業は、タクシーの合間など本来業務を妨げない範囲内においてタクシーの機動性を活用し、緊急救援システムや生活支援輸送サービス、便利屋サービスなどを行うことができる事業で、病院への診察申し込みや薬取り、順番取り、買い物代行など、さまざまなサービスメニューがあるようだ。

■将来タクシーが「人」も「モノ」も運ぶ未来を想起

コロナウイルスを機とした今回は、飲食店などのデリバリーニーズと需要減が著しいタクシー事業の思惑が一致し一気に温度が上がった形となっているが、このマッチングには潜在的需要を感じる。

ウーバーイーツが体現するように料理デリバリーには平時から一定の需要があり、運用には地図情報をベースとしたタクシー配車アプリと似通ったシステムが採用されている。

旅客運送と貨物運送の法制度上の壁は徐々に低くなっており、将来、両事業の壁が取っ払われることも想定される。タクシーが当たり前のように人もモノも運ぶ時代がやってくる可能性は十分考えられそうだ。

また、将来的には自動運転タクシーの実用化・普及も想定される。よりシステマチックに稼働する自動運転タクシーは、「タクシーは人を運ぶもの」という概念を根底から変えていく存在になるかもしれない。

■既に自動運転タクシーは実用化が一部で始まっている

自動運転タクシーは、米Waymo(ウェイモ)が2018年末に商用サービスを開始し、着実にサービスを向上させている。セーフティドライバー不在の運行を可能にしたほか、自動車パーツの配送サービスの取り組みに着手したことも明らかにされている。

2020年1月には、米物流大手UPSとの小荷物配送におけるパートナーシップ事業を締結したことを発表し、実証を開始している。自動運転タクシーのパイオニアであるウェイモは、すでに貨客混載の道を歩み始めているのだ。

また、2019年9月に米カリフォルニア州でロボタクシーの実証を開始した中国スタートアップのPony.aiも、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてEC企業と手を組み、ロボタクシー車両を活用した配送サービスに着手している。

自動運転タクシーにおいては今後、貨客混載をスタンダードとした開発が進められる可能性も高そうだ。

■両方の注文をさばきルートも最適化できれば「究極の貨客混載」を実現

自動運転タクシーは基本的に配車システム経由で人やモノの輸送依頼を受けることになる。自動運転システムとしては、運ぶものが人かモノかといった区別はさほど重要ではない。運ぶものが自ら乗り降りするか、あるいは差出人・受取人が目的地にいるかどうかの違いに過ぎないのだ。

つまり、システムとしてはA地点からB地点への移動を担うことに変わりはなく、人の移動とモノの移動、双方の需要を取り込みながらルート最適化技術を駆使して効率の良い運行を行うだけなのだ。

また、自動運転の導入によりタクシーの利用料金が低下することも好材料だ。米調査会社のアーク・インベストメントのレポートによると、自動運転タクシーの消費者コストは10分の1に下がることが見込まれるという。

現在のタクシーデリバリーサービスの配送料金は、基本的にタクシー利用料金に準拠したものとなっており、仕方のないところだがデリバリーとしての割安感は感じられない。

しかし、自動運転タクシーならこの料金面のネックを解消できるため、需要が爆発的に増加する可能性が極めて高い。法規制の緩和も必要となるが、自動運転タクシーの本質は貨客混載にあるといっても過言ではなさそうだ。

■【まとめ】貨客混載スタンダード化への試金石 改革推進を

自動運転タクシーが普及し、貨客混載がスタンダードとなる未来。今回のタクシー各社の取り組みは、こうした時代に向けた試金石となる。

自動運転タクシーの普及にはまだまだ時間を要するが、ドライバーが運転を担う現在のタクシー事業においてさまざまな実証を重ねることで、将来の新サービス導入が容易になる。社会受容性も高まるだろう。

自粛要請で苦境に立たされているタクシー業界。ありがちな言葉だが、ピンチをチャンスに変えるべくさまざまな取り組みを推進し、業界全体の改革を推し進めてほしい。

【参考】関連記事としては「自動運転タクシーの実現はいつから? 料金やサービスは?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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