トヨタはこのほど、ソフトウェアとコネクテッド分野に関する説明会「トヨタのクルマづくりへのこだわりと未来への挑戦」を実施した。
Chief Product Integration Officerの山本圭司氏がプレゼンテーションを行い、この中で「シエナAutono-MaaS」の存在に改めて触れ、ロボタクシー用途として北米で開発が進められていることを明かした。
この記事では、プレゼンの内容とともに、自動運転化された「シエナAutono-MaaS」開発の背景に迫っていく。
記事の目次
■水面下で開発が進む「シエナAutono-MaaS」
プレゼンターを務めた山本氏は、トヨタコネクティッド代表取締役社長の肩書きを持っており、トヨタグループにおけるコネクテッド戦略の代表格だ。
山本氏は、電子化が進む自動車の開発の歴史を踏まえた上で、CASE時代におけるコネクテッドやソフトウェアに関する取り組みや考え方を紹介した。
この中でモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)に触れた山本氏は、「東京オリンピック・パラリンピックの選手村に導入したe-Paletteで目指したことは、クルマと情報の融合、街と協調するモビリティ」とし、クルマを遠隔監視し周辺環境や乗客数に応じてジャストインタイムで運行を行う運行管理システムなど、すべてがMSPF上で実現されていることに言及した。
その上で、「これらの取り組みはロボタクシー用途として米国で開発中のシエナAutono-MaaSにも応用される」と話し、改めて自動運転シエナの開発が進んでいることを明らかにしたのだ。
トヨタのAutono-MaaS専用車両と言えば「e-Palette」を思い浮かべる人が多いと思うが、第1弾目となるAutono-MaaS専用車両は実は「シエナ」なのだ。
日本ではなじみの薄いシエナはどういった車両なのか。次項でシエナの自動運転化に向けた背景を解説していく。
■シエナの自動運転化に向けた取り組み
Uberとの協業の中で「シエナAutono-MaaS」開発がスタート
シエナは北米で製造されている海外専売車で、アルファードを一回り大きくしつつも全高を抑えたスマートな5ドアミニバンだ。最大8人乗りで、タクシー用途をはじめ、小型のシャトルバスとしても活用できそうなモデルだ。
シエナの自動運転化は、トヨタと米配車サービス大手Uber Technologiesとの協業に端を発する。両社は2016年5月、ライドシェア領域における協業を検討開始し、未来創生ファンドから戦略的出資を行った。
2018年8月には協業を拡大し、自動運転技術を活用したライドシェアサービスの開発を促進し、市場投入を目指すことが発表された。
トヨタが開発を進める自動運転技術「ガーディアン」をUberの自動運転キットと融合させ、自動運転化した専用車両をライドシェアネットワークに導入していく計画だ。この専用車両として選定されたのがシエナで、「最初の自動運転モビリティサービス『Autono-MaaS』専用車両」に位置付けられた。なお、当初計画では2021年にライドシェアネットワークに導入する予定としていた。
協業はさらに拡大し、2019年4月には自動運転ライドシェア車両の開発と実用化を加速するため、デンソーとソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)とともにUberの自動運転開発部門「Advanced Technologies Group(Uber-ATG)」へ合計10億ドル(約1,120億円)出資することが発表された。
揺れるUberの自動運転開発をAurora Innovationが継承
世界最大級の配車ネットワークに向けた自動運転開発への期待が高まる一方、Uberの自動運転開発は波乱万丈な道をたどっている。
同社は2015年、カーネギーメロン大学の協力のもとエンジニアの大量採用を開始し、自動運転開発を本格化させた。
2016年に自動運転トラック開発を進めるOttoを買収したが、これが大きなダメージとなる。グーグルの自動運転開発プロジェクト出身でOtto創業者のアンソニー・レバンドウスキー氏が、グーグル側から機密情報不正持ち出しの嫌疑をかけられたのだ。
民事、刑事訴訟の末、Uberはグーグル系Waymoに自社株の0.34パーセント(約255億円相当)を譲渡することで和解したほか、レバンドウスキー氏には罰金と懲役3年の地裁判決が言い渡されている。
2018年3月には、Uberの公道実証用の自動運転車が歩行者をはねる死亡事故を引き起こした。この影響により、Uberは公道実証を約9カ月間中止している。
2020年には、新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し、第3四半期(1~9月)までに3億ドル(約310億ドル)超の純損失を計上した。上場企業として経営再建に迫られたUberは、水面下で不採算部門の売却交渉を進めた。
対象となったのがUber-ATG とエアモビリティ開発を手掛けるUber Freightで、同年12月、Uber-ATGは米Aurora Innovation、Uber Freightは米Joby Aviationにそれぞれ売却されることが発表された。
【参考】Aurora Innovationについては「Aurora Innovation、自動運転の年表!トヨタやボルボとの協業も具体化」も参照。
Uber-ATGを引き継ぐ形となったAuroraは2021年2月、トヨタとデンソーとの長期に渡る戦略的コラボレーションを発表した。トヨタのシエナにAurora の自動運転システム「Aurora Driver」を統合し、ライドシェアネットワークに導入する計画で、Uberとトヨタ間の協業をそのまま踏襲したような格好となっている。
計画では、2021年末までに自動運転シエナのフリートを構築し、実証を開始する予定としている。まもなく、AuroraバージョンのAutono-MaaSシエナが水面から顔を出すことになりそうだ。
なお、余談となるが2019年2月に発表された「トヨタのコネクティッド&MaaS戦略」によると、シエナはBEV(純電気自動車)ではなくHEV(ハイブリッド車)のまま中長距離のライドシェアに導入する見込みとなっている。
BEVがスタンダードとなる自動運転業界において、あえてHEVを導入する意図にも注目したい。
【参考】関連記事としては「トヨタ×オーロラ、提携の真意は?自動運転ラボの下山哲平に聞く」も参照。
トヨタ×オーロラ、提携の真意は?自動運転ラボの下山哲平に聞く https://t.co/Xj54F03BDg @jidountenlab #Aurora #トヨタ #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 20, 2021
■プレゼンではEV関連やソフトウェア開発体制にも言及
プレゼンではこのほか、クルマの省エネ化・省資源化の観点から、国内HEVは走行時間の半分、PHEV(プラグインハイブリッド車)では80%でエンジンが停止しているといったコネクテッドデータを披露し、走る場所や時間などを考慮してリアルタイムでHEV制御を変える「ジオフェンス技術」の実用化により、さらに環境に優しいクルマへと進化させることができるとした。
また、ソフトウェアの観点では、Woven Planetやトヨタコネクティッド、海外の開発拠点と連携し、グローバルで3,000人規模のソフトウェアの開発体制を構築し、全世界でソフトウェアの開発を進めていることに言及した。
グループ全体では18,000人規模で、ソフトウェアの内製開発を担うチーム強化などもしっかり図っていくとしている。
■【まとめ】北米における実用化から一気に世界展開も?
トヨタの自動運転車両としてはe-Paletteのサービス実証が進められているが、トヨタ製自動運転車として最初に量産化が始まるのは「シエナAutono-MaaS」になりそうだ。
まもなく北米で本格的な実証が始まり、その後Uberの配車ネットワークへの導入が進められていくものと思われるが、Uberのネットワークは世界各地に張り巡らされているため、世界展開を一気に推し進めていく可能性も考えられそうだ。
日本ではライドシェア規制が厳しいものの、「自動運転タクシー」というカテゴリで考えれば話は別だ。将来、自動運転化されたシエナが逆輸入される日が訪れる可能性もありそうだ。
▼トヨタ自動車公式サイト
https://global.toyota/
▼トヨタコネクティッド公式サイト
https://www.toyotaconnected.co.jp/
【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略とは?2021年も大変革へ前進、e-PalleteやWoven Cityに注目」も参照。